長江さんの新刊『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』読了

去る2月28日に発売された「放送禁止」「出版禁止」シリーズでお馴染み長江俊和氏の新刊『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』を一気読みしました。今回は扱ってる題材が題材なだけに、いつも出してる新潮社ではなく、横溝ものを多数出版している講談社から発刊されております。

内容はこんな感じ。

ある朝、大学へと急ぐ青年が何者かに拉致される。程なくして解放されるが、記憶が曖昧だ。ふと抱えていた私物バックがやけに重いことに気づく。中を確かめると、在ったはずのノートや携帯の類は一切なく、代わりに女の生首と、手書きの原稿が入っていた。事態が飲み込めない青年は手がかりを求めて原稿を読み漁る。それは、横溝正史と思しき人物が、自らを探偵小説の世界へ引き入れた恩師・江戸川乱歩との出会いから交流の日々を綴った回顧録であった。その中で二人は、美しき一人の女性が被害者となった「首なし殺人事件」に巻き込まれていた。しかも原稿に挟まっていた1枚の写真、そこに写っていた被害者の容貌は、バックの中で微かに腐敗臭を放つ女の生首とそっくりなのである。これは夢なのか現実なのか。青年の身に一体何が起こっているのか。稀代の探偵小説家、乱歩と正史が時空をこえたこの難事件に立ち向かう。。。


今回は出版禁止シリーズをはじめとするいつもの小説と比べるとソフトな仕上がりになっており、謎解きの話し運びがやや性急かなという気もします。10代の頃に乱歩にハマって横溝に行った身としては、横溝正史江戸川乱歩の作品に編集者として携わっていたというのは知っていたものの、二人が物語上とはいえ仲良く交流してる様を見せつけられると不思議な感じがしますね。


これまでの長江作品と比較すると、谷崎潤一郎の「途上」および江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」をベースに構築された『放送禁止7 ワケあり人情食堂』が本作にいちばん近い気がします。

読む上での注意点があるとするならば、最後にきっちり謎解きがあるので、謎解きモードに入ったなと思ったら、読み進める前に気になるところを読み返し、自身で謎解きを済ませておくと「あー、先に謎解かれちゃったよ」と落胆せずに済むかと思います。


それから、横溝正史の小説を何冊も読んだことのある人が読むと、横溝が書いたとされる原稿の「文体」に違和感が拭えず、モヤモヤを通り越してイライラすると思います(苦笑)。フォントにすら文句つけたくなるぐらいに。私は京極夏彦百鬼夜行シリーズがめちゃめちゃ好きなんですが、世界観はもちろん昭和初期文学特有のあの「文体」や「話し言葉」が心地よいからなんですよ。それぐらい当時の文体は現代のそれとは異なる特徴というか、リズムがある。


そのモヤモヤやイライラが最終的に晴れるのかどうかは、、、、、、ま、読んでのお楽しみとしておきます(笑)。



読後に読みたくなると思うので↓以下に関連リンクを張っておきます。

乱歩の小説は著作権がかなり切れているため、青空文庫に行けばメジャーどころは概ね載ってます。

特に小説の中で何度も出てくる『陰獣』(青空文庫こちら)は、冒頭の章からすでに「あーなるほどね!」てなるので、読後間髪入れずに読んでみてください(『陰獣』とセットで読むというのが、著者の望みでもある気がします)。


紙で欲しい方/集めたい方は春陽堂の装丁をおすすめします(春陽堂の乱歩シリーズは装丁がどれもステキで、30年経っても超えるものが出てこない)。


1928年(昭和3年)に『陰獣』が執筆・掲載された際には、横溝正史も編集者として深く関わっているので、そのあたりをまとめたWikipediaも併せてどうぞ。
陰獣 - Wikipedia



 (追記:『陰獣』読み終わったので改めて本書を読み直してみたが、第一章と第二章の直前に書かれた補足事項のせいでうまくつながらない。この世界でこの事件ってどういう位置付けなんだろ。昭和7年に起きた名古屋の首なし事件は実在する事件だが・・・首なし娘事件 - Wikipedia




ちなみに、同じ2月28日、新潮文庫からも『出版禁止 ろろるの村滞在記』(『出版禁止 いやしの村滞在記』の文庫版。文庫化にあたり改題)が発売されております。ざっと立ち読みした感じだと(立ち読みかい!)、改題に当たり、本文にも若干の修正が加わっているようです。「ろろる」が何を意味するのかは、放送禁止シリーズ好きには同じみというか、とある文字を書けば一発でわかるのですが呪われるのでやめておきます(笑)。

こちらの謎解きについては単行本発売時に完了してるので併せてどうぞ。

装丁も変わりましたね(花の絵じゃなくなった)。文庫の裏表確認しましたが、特に仕掛けは施されてないようです(見落としてなければの話ですが・・・)。「仕掛けって何?」て方は↓こちらの単行本をお買い求めください。