CX『ボクらの時代』トーク、香川照之×小泉今日子×本木雅弘【後編】

年末在庫一掃セールということで、2週に渡って放送された同世代3人のトークの【後編】を消去する前にUPしておきます(【前編】は↓こちら)。


尚、自分の気に入ったところ(主に芝居の話)を抜粋してるだけなので、これが放送内容の全てではないです。

本木「NHKのやつなんだけれども、(香川さんは)正岡子規の役をやっていて、子規の言葉の中で『「悟る」ということは、いついかなるときでも平気で“死ねる”ことだと思っていたが、それは間違いで、いつ如何なる時でも平気で“生きられる”ということなんだ』みたいな、ね。」
小泉「へえー。」
香川「平気で生きる、ってすごいよね。」
小泉「でもこの年になるとそれがわかってくる。」
香川「わかるよね。特に小泉さんは平気で…」
本木「もう全然わかってそう。ほんとにそうなの?」
小泉「ワタシもその“悟る”っていうことは“死ぬ”ってことに近いことだとほんとにずっと思ってきたんだけど、ここ1,2年で『(やっぱり)“生きる”じゃない?』って思い始めて。でもそれは年をとったからで、いいことだなあって思った。思考がチェンジしたのは。」
本木「小泉さんが40歳を過ぎて、誰かに『もう人生折り返し地点じゃない?』って言われて、その言葉に『ああそうか、もう折り返し地点なんだ』って思って、『来た道だったら、突っ走って来ちゃった分だけ今度はゆっくり景色を眺めるみたいな感じで折り返してゆきたい』ってなんかで言ってたけれども…」
小泉「そうそう。言ってた。あと、『0(ゼロ)になりたい』って。」
本木「あ、ゴールが0(ゼロ)ってこと?」
小泉「そう。」
香川「フラットだね。」
本木「私はね、40歳すぎてもまだまだ迷いが深まるばかりで…」
香川「若いんだよ、本木さん!」
本木「欲深なんだと思う。」
香川「すごいもん。若いと思うもん。俺はもう自分を「許す」段階に入っちゃってるから…」
小泉「アタシも(笑)。」
香川「だから例えばここで(傍に置いてあるコーヒーのカップを)バーンって倒しても、『大丈夫大丈夫、もう許そう!こういう俺も許そう!』っていうね、なんかそういう“許し”に入っちゃってて、それってやっぱり折り返してる感覚なんだけれど、本木さんはまだそういう自分に厳しいじゃん。」
小泉「(モックンをまじまじと見ながら)きびしいよねー。」
香川「『ばか!ばか!この手がいけない!この手がいけない!』ってバンバン叩く感じじゃない?」
本木「なんかまださ、0(ゼロ)っていうかフラットなところっていうのは見えてるんだけど、いつもどうしても(ゼロの地点から)ダメ元ダメ元ダメ元って(どんどん)自分を下げて…」
小泉「なんでなんだろうねえ。」
本木「ここからのリバウンドがないとスタート地点にいけないみたいな(一同笑)。だからどこかで無理が来てダメ元スタート設定みたいなものでスタートに届く前に…」
小泉「設定が間違えてるんだよ!」
本木「自虐、自滅、自己嫌悪っていうのを繰り返してるうちに、それに耐えうる体力気力も無くなってきて…」
香川「そこのまず体力が無くなるとどうなるんだろね? 自虐、自滅、自己嫌悪ってすごく体力いるじゃん。」
本木「体力いるの。」
小泉「絶対いるね!」
香川「だって粘り強いもん! ほんとに自分を掘り返しているときの本木さんって。『まだなんかこれが足りない、ボクの人生これが足りない』とかって常に。だから、会うたんびにね、『坂の上の雲』の撮影でちょっとインターバルがあるわけよ。2週間とか1ヶ月とか。会うたんびに課題を見つけてこられて、『こういう風に思ったんだけど、この前オリンピックを見てね』って。そういう時事ネタから『如何に私たちがあの人たちから比べてやり直しがきくのに毎日毎日賭けてないかっていう思いにものすごく駆られて、ダメだと思って、(頭抱えながら)また落ち込んじゃったんだ』っていう話をね…」
小泉「(大爆笑)」
本木「意外とわかりやすく私も影響受けちゃう方なんで。」
小泉「(香川に向かって)前からそうなんですよ。ほんとにハンサムで、すっごくキレイな顔してるのに、それにも自信がもてないらしいの(と本木を指差しながら軽くキレ気味に語る)。」
香川「そうなのそうなの。だからそこをさ、みんな『(本木さんは)忘れてるんじゃないの?』て思うぐらい…」
本木「結局たぶんなんか、自分で自分をコントロールできるとか、デザインしたいとか、そんなことをどこかで思っちゃってるところがあるんだね、きっと。でもそんなことは自分じゃどうにもならないんで、他人に映ってるものが自分なんだよってことを言い聞かせるようなつもりで、要するに“自虐”として結婚してしまったみたいな(一同笑)。」
小泉「その「鏡」が欲しかった、ちゃんとした「鏡」みたいなものが欲しかったってこと?」
本木「「鏡」と「足かせ」というか…」
小泉「うんうん。この世にちゃんと置いといてくれるというかね。それはさ、それでいいんじゃない? 言葉が…「自虐」って言うとドッキリしちゃうけど。でもそうでしょ?」
香川「でもその考え方でよく結婚したと思うよ。逆に。しないでさ、ずーっと一生しないでひとりでいますって生き方だったら『ああ、なるほど』って思うけど、よく…」
本木「でもやっぱり実際的には、もちろん結婚することによっていろんな形の人間関係っていうか、家族というものを持ってっていうことでわかったことはたくさんあるけど、でもやっぱりキツイね。向いてないことをしている、とは思う。」
小泉「そう? でも端から見るとなんかとっても“いい家族”。・・・“いい家族”っていうか、バランスがいいけどね。」
本木「まあでも相当必死。でもそういう人間関係というか家族というか、そういうものについては何が一番ポイント? 「いいこと」と「悪いこと」のポイント。」
小泉「ワタシは、一回結婚して離婚したでしょ? で・・・(と宙を見上げて考える)」
香川「でもさ、人間関係ってむずかしいよね。それこそさ、こういう仕事をしてて自分にほんとに近い人ってじゃあ誰なんだって言ったときにさ、やっぱりこう『うーん、いないかも・・・』っていう何かが俺はあるのね。すごく。」
小泉・本木「うんうんうん。」
香川「孤独っていうか…」
小泉「なんかね。孤独っていうのをみんななんとなくぼんやり、こういう仕事をしてる人はまとってるというか。」
本木「抱え込んでる。」
香川「それは家族がいるとかいないとかじゃなくて…」
小泉「じゃなくてね。」
香川「なんとなくその感じっていうのがあってさ。」
小泉「そうそう。」
香川「ひとりが好きなんだけど寂しがり屋みたいな。」
小泉「人が大好きなんだけど大嫌いみたいなところがある。だから、例えば映画の現場とかで“家族”ってものを擬似的に作られた時に、すごく安心するの。」
香川「ああ、わかるわかる!」
小泉「映画って1ヶ月なり2ヶ月なりで必ず撮影が終わるじゃない? ここではワタシ頑張れる! 1ヶ月ぐらいなら…」
本木「リミットがあるからね。」
小泉「そう。なんかここではお母さんの役をずっと演じきれる…演じきれるっていうか、そこでワタシも楽しくちゃんとしていられるっていう安心感がある。」
香川「それ、年齢も関係するよね。もうちょっと若い…例えば20代とかだと、もっと自分の人生をそこにいれようとしたりとかさ…」
小泉「うんうんうん。そうだね。」
香川「なんか『この関係性にこの人と・・・』っとかいろいろとめんどくさくなるんだけど、この年になると『この疑似関係だけを100パーセントやります!』みたいな感じでさ。」
小泉「そういう感じになる。」
香川「なんか『これだと安心できる』っていう感覚がすごい・・・。もっと近いとなんかベッタリなりすぎるし、もっと遠いと寂しいし、このカメラ的な関係がすごいイイみたいね。」


将来、どんなおじいちゃんおばあちゃんになりたいかという話をひとしきりした後で、、、
小泉「(映画『おくりびと』で共演した)山崎(努)さんってどうでした?」
本木「山崎さんはね、ほんとに・・・ずるい!」
小泉「ずるい?」
本木「ずるいねー。」
小泉「すごいでしょ? 台本とかに真っ黒に(と言いながらペンで書き込みをするジェスチャーをする)」
本木「それに加えて、山崎さん自身がものすごい・・・小泉さんと同じ“読書家”でしょ?」
小泉「そうですよね。」
本木「暇さえあれば読んでるっていう。」
小泉「なんか『俳優ノート』っていう、『リア王』だっけ?」
香川「『リア王』やったときの。」
小泉「…をやったときの…」
本木「まだ読んでなーい。」
小泉「それ、すっごい面白いんだけど、(香川の方を見ながら)あれ、最後に帯びっていうか…」
香川「書かしてもらいました、あとがきを。」
小泉「そう。それが面白くって、『(ページめくりながら)なるほど、なるほど〜』って。ワタシにはできなさそうだけど。」
香川「あれはだからね、とても男性的な“俳優”の、“女優”ではなくほんとに“俳優”の作り方。理屈で頭で考えて、でも右(脳)の方に行くっていうプロセスを山崎さんがどうやられてるかっていうのがすごく克明に書かれてる。」
小泉「で、その間に癇癪を起こしてる時もあるわけ(笑)。自分で上手くできなくて。そういうのもちゃんと素直に書いてあって。」
香川「山崎さんとは『刑務所の中』って崔洋一監督の作品でがっつりご一緒させてもらって、その時にいろいろアドバイスとかもらったりしていまだに忘れられないのが、(この番組は)朝なのに申し訳ない話題になってきますが、我々はその「服役員」なわけですよ。いろんな罪を犯して刑務所の中に入っている。で、50人ぐらいの入浴シーンがあるわけ。」
小泉「ああ、あったね。」
香川「で、全員スッポンポンなわけ。で、カメラがいろいろなポジションにいくんだけど、山崎さんが途中で(頭に手ぬぐいで)姉さん被りみたいなのをパッとするの。そうしたら、中に洋服をちゃんと着た刑務員がいるのよ、お風呂の中に。そうらしいのよ。そしたらその人がピーーーッて(笛を吹いて)『貴様ァ、姉さん被り禁止!』って言われて、山崎さんが『お、どうもスイマセン』って言いながら取って、『そんなんで怒られるのか』ってナレーションが入るシーンがあるんだけど、またコレ(※芝居に入り込んで周りが見えない)だからさ、『ちょっとスイマセン』って監督を呼んで、立って、(台本を見せながら)『これがね、こうでこうで』って崔さんとずーっと喋ってるだけど、カメラがこの位置(山崎さんの股間の目の前)にあって、全部モニターに映ってるわけ(一同爆笑)。女性スタッフとか気をつかって全部外に出たのに、みんなモニターとか見ててさ、完全に・・・でも山崎さんコレ(※周りが見えてない)だから、『それでね、監督ね、ここなんだけど・・・。よし分かった!いこう!』ってやってんだよ。もう姉さん被りどころじゃないわけよ。ちょっとそれはってのが約5分に渡ってモニタリングされちゃってたんだよね。」
本木「スーパー無邪気な…」
香川「(首から)上はもう般若みたいな顔して説明してんのよ。」
本木「それをまたみんなはスッポンポンで固唾を飲んで見ているわけですね。」
香川「そう。固唾を飲んで見てるの。50人ぐらいで。『ものすごい映画だな』ってその時思ったね。でも山崎さんはね、丁度その時ボクは『俳優ノート』を読んでる頃だったんで、『この人はスゴイ』って思ったね。こっち(左脳)で考えて出すっていうことの・・・。」

香川「本木さんは、深酒してベロンベロンに酔っぱらっちゃったみたいなことは全然…」
本木「20代の頃はあったよ。」
小泉「若いときはね。」
本木「マヨネーズ被って帰ってくるとか(笑)。」
小泉「もう20年ぐらい呑んでないよね、そんなベロンベロンになるまでは。」
本木「でも同世代っていうことは、ある種、特別な恥ずかしさもあるけれど、ほんとに真面目な話、『おたくどうよ?』ってところの…」
小泉「そう、その確認はずっと(お互いに)してきた感じはするの。」
香川「近い何かはあるわけでしょ?」
本木「厳しさも含めて…」
小泉「そうだね。」
本木「安心感っていうか。やっぱりそういう同志感はあるでしょ?」
香川「あるある。とっても。だからいまここでさ、すごく映画の公開の時期が似てて、共演もこのタイミングですごくポンポンポンってなってて、歴史もお互い合ってて、すごい不思議。」
本木「エネルギーもらったりってことはあるよね。・・・だから、(小泉に向かって)あなたに会えてよかった!っていうこと。」
小泉「(照れながら大笑い)」

あなたに会えてよかった

あなたに会えてよかった

ほんとこの3人のやりとりは聞き心地いいっていうか、バランスがいいんだよね。3人が60歳ぐらいになったらまた対談をセッティングしてください!