ほんとに大変だった!浅野・香川らが語る映画『劔岳 点の記』撮影裏話

画作りが“昔ながらの日本映画”って感じだったのもまた良かったのか、山好きの年配層の心をガシッと掴み興行収入も無事20億の大台に乗った映画『劔岳 点の記』。配給した東映はもちろん、協力した山岳・測量業界もひと安心といったところですかね。「日本地図最後の空白地点を埋めるために」って言葉だけでグッとくる身としては、まあ普通に泣きましたけど(え?>いいじゃないかw)、「長げえなあ」って感じでもぞもぞされてる方もいらっしゃったので、「山にも測量にも特に思い入れはない」という方は、それなりの期待で見に行かれるといいかと思います。少なくとも“剣岳”という山の凄さは伝わると思いますので。監督は暑苦しい方ですが、映画自体は涼しげな映像のオンパレードだけに夏の暑い日に観に行かれるとサイコーだと思います。


剣岳 点の記』といえば、「実は本編よりメイキングの方が面白いんじゃね?」「メイキングも同時公開すれば良かったのに」なんて話もちらほら出ており、早くもDVD特典に期待がかかっているわけですが、公開前に木村大作監督をはじめ、浅野忠信香川照之ら出演陣が宣伝のためにいくつかの番組に出演して語ったさまざまな裏話が大変面白かったので、大ヒット記念にメモっておこうかと思います。スタッフの中には実際に怪我をされた方もいるので現場は本当に大変だったと思います。




まずはフジテレビで放送された特番。司会はナンチャン。何故ナンチャンなのかっていうと、木村監督が一時期職にあぶれて、あと2年で貯金もなくなるぞということになり、キャメラマン以外の職を探そうと運転代行業の面接に行っては「キミは生意気そうだから無理だ」って理由で落とされたりしていたときに、鶴瓶とナンチャンが司会するトーク番組「日本の夜ふけ」に出演。そこで仕事がないという話をしたらフジテレビのプロデューサーが「バラエティに出てみるか?」と声をかけてくれて、準レギュラーで出演することになったのがウッチャンナンチャンの「笑う犬の生活」だったそうで、ナンチャンと木村監督とはその頃からのざっくばらんな関係というわけです。

キャスティングの秘密

司会(南原清隆)「もともとどうやって(この監督と一緒に)やろうと思ったんですか?」
浅野「そうですね。まあ、スゴいカメラマンの方がいて、その人が映画を撮るんだって脚本を送って頂いて。でまあ、すごいイイ内容ですし、やるのはいいけどかなり大変な撮影になるなっていうのは想像出来たんですね。で、監督が一度お会いしたいっていうのでお会いして、そのとき僕が聞いたのは『君の映画は観たことない!』って言うんですよ。(一同爆笑) 『ああ、そうですかーーー』って言って。」
司会「なんで(出ることに)決めたんですか?」
浅野「いやいやそれで、『君はモンゴルとか行っていろいろ乗り越えてるらしいから、君だったらこの作品を乗り越えられる!』って言われて。(一同笑) で、僕はそのときに『前向きに考えます』って返事をしたら、監督の中では『やります!』って聞こえたみたいで。(一同爆笑)」
司会「香川さんはどうやって決められたんですか?」
香川「(木村監督がキャメラマンとして参加した)『憑神』っていう映画に僕ちょっと出させて頂いて、初日・・・行った初日ですよ。初日の段階で『ちょっと相談があるんだけど』って言われて、なんかちょっとシーンの説明かなって思ったら、いきなり出してきたのが違う色の台本だったんですよ。『『憑神』の台本じゃねえなあ』って思ったら“剣岳”って書いてあって、スケジュールとかもバアーッて書いてあって、『これで行こうと思ってるんだけど、浅野くんにはもうオッケーもらってるからね。どうなの?』って。(一同爆笑) それで『憑神』の撮影は次の日も、また次の日もあるわけですよ。NOなんて言えないじゃないですか、ずっとあるのに。(一同笑)」
司会「そこでNOって言ったらね」
香川「こっちの目でカメラを覗いてこっちの目で(グッと睨みつけながら)『おまえ断りやがったなあ!』みたいなね。(一同笑)『ふざけんな、映さねえぞこの野郎』みたいな話でね。それはもうYESしかないわけで。そしたらそのうち『香川君、あれかね。仲村トオルさんと親友なんだって? 電話しといて』って、もうどんどんネズミ講みたいな話になっちゃって。(一同爆笑) 恐ろしいですよ!」

雪崩シーン撮影秘話

監督「ダンプでまず雪崩の感じをわーって作って、そん中に(俳優さんに)埋まってもらうって感じですよね。(一同笑)」
浅野香川「(苦笑い)」
監督「いやあのね、よく考えたんですよ。俳優さんに埋まってもらうんだから、横穴を掘ってそっから空気が行って、こういう風に(上から)撮るんだからって。でもやっぱダメなんだよね。」
司会「そんなのカメラの位置で誤魔化せばいいじゃないですか。」
監督「そうすると楽に出てこれちゃうのね。」
浅野香川「(苦笑い)」
司会「すいません。楽じゃなくて命の保証をまずして下さい!」
監督「それでガイドの方に『どうなんですか?』って聞いたら、口元をちょっと開けとけば15分以内だったら大丈夫ですよって言うから。(一同笑)」
司会「また変なアイデアを。15分?!」

雪崩の恐怖を語る

浅野「何しろ雪山は雪崩が怖いんですよ。僕、今までいろんな撮影してきましたけど発信器つけられたの初めてですからね。“ビーコン”って言って、埋まっちゃったときに『ここに埋まってる!』ってわかるように。」
アシスタント「それ、皆さんつけて?」
香川「全員。毎日朝つけるんです。」
監督「どこで発生するかわからないからね。それはガイドにもわからない。」
浅野「それでガイドさんがスゴイ厳しくて、『ビーコンちゃんと出来てますか?』って(音が鳴るかどうか)ビーッて調べるんですよ。で、ある時帰ってきてビーコン外してたら、ガイドさんが静かに自分のビーコン外して『あ、これ壊れてた』って。(一同爆笑) 探してくれてる側の人が一日壊れたビーコンつけてたんですよ。」
監督「で、1回ね。ほら、言ってくださいよ(と浅野・香川を促す)。」
司会「埋もれたんですか?」
監督「(せっかく埋まったのに撮影が)失敗したときがあったの。浅野さんもちょっとキレてたよ。さすがに。」
浅野「いや僕はほんと、埋められて重いし、もう冷たさとかどうでもいいんですよ。重さとか苦しさでパニックになってしまって。」
香川「一番怖かったのがパニックですよ。周りが白くて『これで出られなかったらどうしよう』って思うんですよ。」
司会「(監督が)気の利く人だったらいいけど、(この監督は)妥協のない人だから。(一同笑)」
香川「まるでほぼ忘れられてるかのように。『助けてくれー!』って叫んでも雪が深くてもし聞こえなかったらどうしようとか、雪が重くて背中でガンッて押しても上がんなかったらどうしようとか。それまでもここ(足の付け根)までズボッと(雪に)はまって一人じゃ抜けなかったこととか一杯あたんで、そういうのを考えてるうちに『うわああああ』ってパニックみたいになって。俺と浅野さんがそんとき埋まってたんだよね。」
浅野「そうですね。」
香川「俺の10メートル横ぐらいで埋まってる浅野さんが、まだ一言もパニックになってないから『悔しい!』と思って。(一同笑)『浅野さんが言うまでは耐えよう!』と思って、『でも絶対同じ気持ちのはずだ!』と思って。」
司会「そんとき浅野さんはどう思ったんですか?」
浅野「僕はだから『香川さんなんか言ってくれよ!』ってずっと思ってました。(一同爆笑)」
香川「明らかにおかしい状況で、しかもここ(口元)だけ開ければって…さっきのその山岳ガイドさんに『雪崩にあったときはとにかくこうして(膝をかかえるように丸くなって)、ここ(胸元)の空気を確保してろ』って言われてて、『よしわかった!』って思ったんだけど、(雪崩に)なった瞬間上からガンッって顔ごと雪に押しつぶされて完全に(確保する空気が)ないわけですよ。(一同爆笑) 完全に! 完全にもう!」
浅野「(浅野も同じ状況だったらしく同じジェスチャーをしながら大きく頷く)」
監督「そのときこっちは霧が少し足りなくてスモーク焚いてたんですよ。濃くしようと思って。それが調子よくうまくいかないわけですよ。『馬鹿野郎!この野郎!』って言うてるんだけど…」
司会「その声は聞こえてるんですか?」
浅野「聞こえてます。」
香川「なんとなく遠い世界のことのように聞こえてくるんですよ。(一同笑) 『よーい、スタート!』って言って『カット!』てかかって『やったね』て顔で(浅野くんとお互いに)見返した瞬間、『(スモークが)濃くてなんにも見えねえ!』って。(一同大爆笑)『えーーーーーっ?!』って。」

監督の無茶エピソード(その1)

仲村トオルからのコメント「僕らが“南壁”という剣岳の頂上を極める最大の難所みたいなところを見上げて『こっから登るのは無理だな』って言ってるシーンを撮影したときなんですけど、監督が理想とするフレームの中にいる僕たちの位置が少し左に寄りすぎていたらしく、とにかく『右だよー!もっと右だよー!』って言い続けていて、一番右にいる安藤くんっていう山岳会のメンバーの、彼にとってはもう右は無いっていう、それより右に地面は無いという状況の中で『もっと右だよー!』って怒鳴られ続けていまして、『ここから先は地面がありませーん!』って言っても許してくれずに、結局ガイドさんたちが比較的平らな岩を安藤くんの右足が乗るところに持ってきてくれて、それを自分たちがカメラのフレームに映らないようなところで隠れながら必死に支えてやっと『もっと右だよー!』って言わなくなってくれて撮れた、っていうことがありましたけど。でも、ほぼこの映画の全カットそういうノリで撮ってたと思いますね。」
司会「なんで崖の終わりが見えないんですか? ここ(目の前)だけの世界になっちゃうんですか?」
監督「いや、僕の視野は広いですよ。(一同笑)」
司会「でも、崖が見えないんでしょ? 崖が。」
監督「そういうのをね、『ダメだ』って言われて『ああそうですか』って言ってやって良くなった試しは1回もないね。『無理をしなければこの映画は撮れない!』って言ってたんだから。(一同笑) この映画は“撮影”ではなくて釈迦の教える“苦行”に行くんだと。(一同笑)」
司会「煩悩を払いに行くんだと。これはもう(香川さんも)頷いてらっしゃいますが。」
香川「実感しております。(一同笑) 撮影中常に『登って降りることだけを考えろ!撮影のことは考えるな!』って。(一同大爆笑) そんな映画ないと思うんですけどね。」

監督の無茶エピソード(その2)

香川「僕らが最初に登った“天狗山”ていう山があるんですけど、(両手の指の先をあわせて△を作り)山って普通こんなじゃないですか、でもこの半分がごっそり落ちた、こういう完全に(片側が)絶壁(になってる山)をこっち(崖の反対側)から登っていって、それをこっち(崖側)の方から狙って撮ってるっていうカットを撮ったんですけど、4月に行ったときは雪がこんもり積もっていて、“雪庇(せっぴ)”って言って、下に地面はないんだけど雪が張り出してるところが雪山にはあるんですよ。そこには乗っちゃいけない、なぜならば、地面が下にあるように見えてもただの雪でドーンッって下に落ちちゃうからだていうふうに言われてて、『雪庇は危ないから近づいちゃいけないんだ』って思ってたんですけど、4月に行ったときに、どう見ても秋に行ったときにはなかったはずの空間に雪が張り出してるんですよね。(一同笑) 『うわあ、あそこ雪庇だなあ』と思いながら『大変だなあ』と思ってたら、(木村監督が手招きしながら)『香川さんちょっと。あそこに行ってくれる?』って。(一同大爆笑) 『おおい! そこ、雪庇だろ!?』って。どう見ても雪庇なんですよ。」
司会「ど、ど、どうしたんですか?」
香川「だから行きましたよ。」
司会・アシスタント「ええーーーーっ!?」
香川「だから、ここで測量官の浅野(忠信)さんとか松田(龍平)さんとかが測量してるときに、僕が一人で(しゃがんで)雪を見てるっていう…」
司会「ああ、ありました!ありました!」
香川「またいいとこなんですよ、ここが。撮れればいい画なんですよ。しかし命の保証はゼロです。そこでこうやって(しゃがんで雪を見て)、『カットー!』ってかかった瞬間に『うへぇぇひぃぃいい』ってもう(と言いながら腰が退けた状態で待避したというゼスチャーを見せる香川さん)。ほんと怖かったですね。あれは。」
浅野「香川さんの役は、言ったら“ナンバーワンガイド”の役じゃないですか。当時の。その人が雪庇の上にいるってことはあり得ないですよ。(一同大爆笑)」
司会「ド素人ですよね。」
浅野「ド素人です。」
香川「(監督は自分を)一番危ないところしか歩かしてないですから。際際(きわきわ)。」
司会「画としてはそれが一番いい?」
監督「そりゃあそうですよねえ。(一同笑)」

生活と芝居といいわけ

司会「高い山の上で浅野さんなんて『はあはあ』言っちゃって、これは芝居してる感じじゃねえなあと思ったりもしたんですけど、実際はどうだったんですか?」
浅野「実際は2500メートル以上のところでずっと生活してますから、毎日4時間ぐらいは登りますかね。ということは下りも3時間ぐらいかかるわけで。」
アシスタント「ということはキャンプというかテントなどを張ってそこで…」
浅野「時にはですね。でもだいたいは山小屋にお世話になるんですけど。まあ・・・大変ですよ。」
司会「普段は芝居をきちんと考えて…」
浅野「そうですね。普段はいろいろ考えたりとか自分の想像を膨らませたりしていろいろやるんですけど、想像しなくても十分分かる。(一同笑) 現場着いた頃にはその人の苦労が十分分かってるので。」
司会「香川さんはどうですか? 大きな荷物背負って。」
香川「あれはですね、一応中は空にして頂いてるんですけど、それでも20何キロ…一番最初の浅野さんと二人で登ってるときのシーンではあったんですよ。ほんとにちょっとでもバランスを崩すと完全にもってかれる状態で、(肩ひもをしっかり掴みながら前傾姿勢で)ずーっとこうしてないといけなくて、こんな絶壁のところを監督が向こうから(カメラをのぞき込みながら)『もっと前!もっと前!』って。(一同爆笑) もっと前って完全に1000メートル下なんですけど、『そこでちょっと回転して!』って言うから回転したら、(体制を崩して)そのまま後ろに持って行かれそうになる、そんな毎日で、『これほんと大丈夫なのかな』って。だから山小屋に帰ってくると浅野くんと二人で自然にホッとなって、『今日も生きて帰ってこられました。ありがとう』って、撮影のことは1ミリも考えてませんでしたね。(一同爆笑) もうしわけないですけど。カメラがどこで回ってるとか、台詞がなんだとか、正直最初の頃は全く考えられなかった。とにかく一歩前に出ないための言い訳をどう言うか。(一同爆笑)」
監督「だって、誰も現場行って台本持ってないですよ。」
浅野「(フフフッと笑いだし)自慢できることじゃないですけど。(一同笑)」

台本or水

監督「だから、あの台本1冊の重さをペットボトル1本にした方が自分の生きる力になるんだよ。」
浅野「はい(と大きく頷く)。」
監督「台本は何の役にも立たないんだよ、生きるためには。(一同爆笑)」
司会「映画のためには大事でしょ! みんなが台本を指針として頑張ってるわけでしょ?」
監督「いや、自然がすごすぎて、台本の通りに撮らないんだよね。台詞も違っちゃうし、浅野さんなんか、台詞を一応言うんだけど、嫌な顔で言ってるわけですよ。台詞をね。だから僕がすーっと行って『浅野さん、その台詞言いたくありませんか?』『できれば』って言うんですよ。」
司会「なんで喋りたくなかったんですか?」
浅野「そこに行くと『違うな』って感じになっちゃうんですよね。こんな簡単なことじゃ済まないなっていうような。」
司会「実感として。」
香川「2時間とか歩いていくと、歩いているこの疲れが(台本に書いてある)こんなことではないなっていうのがほんと…」
浅野「はい(と大きく頷く)。」
香川「で、スタッフも全員歩いてるんで、スタッフもそれ全員納得してるわけですよ。こんなことを言う気分じゃないっていうのは。(一同笑) でもどっかで撮影なんで、『ちょっとあの台詞どうですかね?』って俳優と監督で話し出した時があって、『あれ? もともとはどういうんだったっけ?』みたいな話になって監督が『おい!誰か台本持ってねえか?』って言ったら誰も『持ってません!』って。(一同大爆笑) そんな現場ないでしょ? だって監督がね、『誰か台本持ってねぇか』って。」
司会「そして誰も『持ってません!』って。(一同笑)」
香川「後にも先にもこんな現場ないです。」
監督「だって、俳優さんはあの風景を見ながら言ってるわけでしょ。もう(風景が)神々しいよね? そういうものを見てるから、そういうのって心情に全部出てくるよね。表情に。そういうものを撮りたかったの。」

浅野忠信のお気に入りシーン

浅野「こういうほんとに激しい撮影がずーっと続いてましたから、東京戻ったときとかちょっとするとホッとしたりとか、『ああやっぱいろいろ便利だな』って感じるんですよね。で、また山に登るっていうのがわかってて、でまあ、山のぼる前に下界での撮影もあるんですよ。で、ある時明治村で撮影していて宮崎あおいちゃんが僕の奥さん役で来てくれて、『やっぱ宮崎あおいちゃんが来てくれるとこんなに現場が違うんだなあ』と思って。(一同笑) 山は完全に男の世界だったんで、ほんとになんの激しさもなく、ほのぼのとした…」
司会「すごいいい夫婦でしたよね。」
浅野「だから出来上がりを見たときも、非常にいいポイントで入ってきてて、そこは好きですね。」
監督「あおいさんとのくだりはお二人で作ったシーンなんですよ。最初は台本にあるやつ喋ってたんだけど、下界だから一応台本がそばにあるんだよね。(一同笑) 下界は、楽だから。お二人の普段の雰囲気を見ていても非常に信頼しあってるって感じがあるんでね、俳優どうしで。だからちょっと、どちらも(実生活で)妻がいて旦那がいるわけだから『新婚1年ぐらいだよ。どんなかんじなのかね』って言うと、二人がいろいろやってくれるわけだよ。ものすごい自然だし、ふわあっとなるわけだよ。もう『台本なんかどっかに捨てちゃえ!』って。(一同笑)」
司会「いや、一生懸命台本作った人もいるんですから。」
監督「いや、作ったの俺だから。」
司会「アドリブでやったんですか?」
浅野「そうですね、何度か共演させてもらってたんで、ムードはいい形で作れたところはありますねえ。」

香川照之のお気に入りシーン

司会「香川さんはどうですか?」
香川「うってかわって荒んだ話になっちゃいますけど(一同笑)、僕が一番思い出に残ってるのは剣岳(の頂上)に登った前後のシーンなんですよね。どうしてもやっぱり、『剣岳』っていう映画ですから。で、我々俳優としては2度剣岳にアタックしたわけですね。で、2度目でやっと撮れたんです。1度目は結局登った瞬間に雲が出ちゃって、山頂に5時間いたんですけど結局ダメで、泣く泣く敗軍の将で降りたっていうのがあるんですよね。その4日後にアタックしてやっと撮れたんですよ。それで浅野さんとのシーンで、『こっから先は芳太郎さん先に行って下さい』『いや、みんな仲間なんで一緒に…』ってそのクライマックスのシーンが僕一番好きなんですけど、まあそっからの話がこの話のメインなんですが、いいシーンを撮ってるときに急に監督が向こうを向いて、撮影チーフのお腹に激しいボディブローを何発も…(一同笑)。」
司会「ちょっとちょっとー。空気変わっちゃうよー。」
香川「(浅野さんんと僕の)カットバックでいいのを撮ろうとしてるときにガンガンやってるんですよ。それで俳優さんに見せないようにって『ちょっとごめんな』って見せないように(離れた所へ)行くんですけど、山頂なんで丸見えなんですよ。(一同爆笑) それで『なんだ?』って聞いたら『フィルムが足んねぇ!』って。」
司会・アシスタント「ええー!?」
香川「何でかって言うと、2回目にアタックしたときにやっと晴れたんで富士山が見えてるんですよ。だから俳優が上がってくるまでの30分で監督が実景を回しすぎちゃって(一同大爆笑)、これでもかってぐらい実景撮っちゃって、大切な芝居の時に『(ボディブローかましながら)フィルムがねぇぞこの野郎!』って。」
司会「『ねえ』じゃねえ、おめぇだろ!」
香川「で、ちょっと待てよ。片道4時間かかるんですよ。我々4時間かけて小屋から登ってきてるんですよ。つまりフィルムをそっから手に入れるってことは8時間かかるんですよ。こっからがまたエピソード2ですが(一同笑)、山岳ガイドの一人に富山(とみやま)さんっていう190センチぐらいあってターミネーターみたいな人がいるんですね。で、いっつも60キロか70キロぐらいのものを普通に背負ってニコニコ歩いておられるサイコーの人がいるんですよ。その人に、『しょうがない』と。『ここはもう、トミーしかいない』って言って、『トミー行ってくれるか?』『はい、わかりました!』って言って、空荷で飛ぶように行ったら、1時間40分で往復しちゃった。8時間かかるところを。絶対1時間40分はありえないです。」
司会「だから映ってないところの様々なドラマがこの映画を支えているんですね。見ながら『これどうやって待ってたんだろなあ』とかね…」
香川「だから待ってるのが1日のメインで、平気で1時間ぐらい待つんですよ。そうすると山って5秒で雲が変わっちゃうんで『きたきたきたっ!』って感じで5秒で雲が取れるんですよ。そうすると向こうから『ホンバーーーン!』って声がかかって、ただ立ってるだけなんですよ? それで『よーいスタート!・・・カット!70点!待ちます!』で終わりなの。(一同爆笑) 70点って芝居がじゃないですよ。雲が70点。景色が。それでまた20分か30分して、『(空を見上げながら)これはきたなあ』と思うと『はい本番!よーい!スタート!・・・カット!100点!待ちます』って言われて、何点目指してんだっていう。(一同爆笑) もうわけわかんない。」


そしてもう1本。香川さんが『ディア・ドクター』『剱岳 点の記』の番宣で出演した笑福亭鶴瓶が司会を務めるTBS「A-Studio」でのお話。

鶴瓶「あれは何千メートルという・・・中継所はどこなんですか?」
香川「2,700メートル地点の山小屋です(※ちなみに標高は2,999メートル)。剱沢小屋という山小屋で、朝3時半とか4時とかに出発して。」
鶴瓶「どこまで行くんですか?」
香川「長い時は9時間歩いて2カットだけ撮ったりして、2カット撮りながら大作さんが『(カメラ覗きながら)ああ、これあんまり良くねえなあ。使わねえなあ、たぶん』って。(一同笑) 『(目を丸くしながら)はい? 今、使わないっとおっしゃい・・・でも、まあいいや』と思いながら。でもほんと天気待ちとかもすごかったんで、1日に回してる量が30秒ぐらいしかないんですよ。」
鶴瓶「(客席に向かって)それ、200日以上よ!」
香川「毎日8時間とか山に登ったり降りたりして、『今日は2時間です』って言われるとものすごい近いなって思うんですよ。(一同笑) ちょっとそこまで…ぐらいな気分だったんですけど。」
鶴瓶「(木村監督)本人が言うてはったわ。いまこんだけ汗し、そして辛い思いをする映画が日本には段々なくなったと。(監督はキャメラマンとして)『八甲田山』撮ってますからね。」
香川「でも大作さんがずっと現場で怒鳴りながら『『八甲田山』の十倍きついー!』って言ってたんですよ。(一同笑) それが僕のほんと励みで。」
鶴瓶仲村トオルが言ってたもん。(監督は)行くときはものすごい元気やねんて。『今日はいくぞー!』って上がって、撮り終えた後にもう屍みたいに(一同笑)、廃人みたいになって降りてくるって。」
香川「そうです。しかも、撮り終えた画が感動的だった時は、撮れた画のポイントポイントでひと泣きしてから帰ってらっしゃるんですよね。(一同笑) ほんとにそれで時間がかかるんですよ、帰ってくるのに。」

ちなみに、ナンチャンの方の特番で「監督から『仲村トオルさんと親友なんだって? 電話しといて』って頼まれた」というエピソードを披露してくれた香川さんですが、トオルさんは香川さんが芸能界に入って初めて出来た友達で、尊敬する松田優作さんが亡くなったこともトオルさんから電話で知らされ、トオルさんの運転する車で泣きながら一緒に優作さんの家に駆けつけたということを『A-Studio』の方で話してくれました。香川さんは優作さんが亡くなる2ヶ月前に撮影し文字通り遺作となったドラマ『華麗なる追跡』で憧れの優作さんと初共演を果たし、撮影中惚れに惚れて、自分はこれからこの人を芸能界の父として目標にして生きていこうと思った矢先だったとか。しかし実はその役、香川さんは知らなかったのですが当初はトオルさんの方にオファーされていた役で、当時別のドラマを撮ってる最中だったトオルさんは、憧れの優作さんと共演するのに掛け持ちというのは失礼だと思い断っていたんだそうです。それが回り回って香川さんのところに来たら遺作になってしまったという。だからトオルさんと優作さんの話になると「お前は共演できたらからいいじゃないか!」っていう話によくなり「彼には借りがある」と神妙な面持ちで語る香川さんでした。



ちなみに公開中の映画『剱岳 点の記』は大ヒット御礼舞台挨拶が東京丸の内TOEIにて行われるようです(詳細はこちら)。日時は7/30(木)朝10:00の回。登壇者は香川照之松田龍平木村大作監督を予定。チケットは既に販売中ですのでお早めに。


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