『CASSHERN』を観た(@シネコン)

近所のシネコンで観てきました。ほぼ満席で、20代を中心に7:3で女性多し。小学生は隣に座ってた8歳ぐらいの少年ただひとりで、「キャシャーン」世代らしい母親がパンフ見せながらいろいろと説明してました。


新造人間キャシャーン」は世代的にちょっと前。頻繁に再放送されたマジンガーZガッチャマンとは異なり、細かい設定やストーリーはもうほとんど覚えてません(故に思い入れも無し)。かといって宇多田ヒカルのファンでも、紀里谷和明のファンでもなく(『travelling』PVは気に入ってる)、家の14インチテレビで観る予告映像はのっぺりとしていて食指動かず、聞こえてくる世間の評価は概ね「クソ!」だし、「ビデオでいいや」とスルー決め込み他人の感想を楽しんでいた訳ですが、度々出没する「唐沢、ミッチー、宮迫がいい!」という意見と、肯定派からの強力な“観に行っとけ”光線、そして「カレル・ゼマンっぽい」「人形アニメがよかった」という約2名の方の貴重なご意見に後押しされ、重い腰を上げ観に行くことを決意した次第であります。


んで、感想。


確かに「○○が気になるからクソ!」という人の気持ちも分からないではない。もしこれが普通の映画なら台詞で全てを説明されるのは私も大嫌いだ。もしこれが心霊映画で、設定や描写が甘ければ、間違いなくクドクドと文句つけていたであろう。しかし、これは普通の映画でも、心霊ホラーでもない・・・。結論から言うと、この作品に関してはほぼ全肯定です(笑…ただし監督コメントは除く。せっかく擁護してんのに背後から撃ってくるのやめて)。決め手は以下の2点。


まずひとつ目は、これが6億かけて作った2時間21分にわたる大長編実写アニメーション(アート・アニメーション*1)だということ。「アニメーションの技法を使った実写映画」というより、「実写素材を使ったアニメーション映画」と表現した方が、実情に即してると思う*2。「この映像をよくぞ6億で撮った」という驚きはもっともで、映像は本当にすごいです。でも、それ以上にアート・アニメーションに「よくぞ6億も出させたな」という驚きの方が私的には大きく、「してやったり!」な気分も。


画はかなり好き。これ観て疲れないんだから、己のアニメーション体力もたいしたモノだなと思いました(笑)。既視感いっぱいの映像、シーンの連続で、背景が模型や書き割りではないにも関わらず、レトロな雰囲気や、「実写」と「作り物の背景」を合成した時の微妙な違和感がそのままに残されてるのがいいです。車窓の向こうに流れる風景*3は、別撮りの映像がはめ込まれているのだけれども、一目でオプティカル合成だと分かるようになっており、クラシックカーのモダンなフォルムとも相まって、50年代60年代のレトロでモダンな雰囲気がうまーく加味され、映像を味わい深いものにさせております。室内シーンにおける、窓の外に映るセピア色の戦闘風景もそうですね。それから背景の中に人を置いたような固定した映像も人形アニメーションを彷彿とさせるし、棺を抱えた葬列が行進する様を真横から映すショットも萌え画ですね。その場足踏みしてるかのようなあの感覚がたまらないです。


実写の色調を背景に合わせる手法や、書き割りちっくな背景との合成を「合成です!」と分かるようにあえて見せるやり方は、カレル・ゼマンが50年代から70年代にかけて作った特撮作品群を彷彿とさせます。もはや直系の子孫といっても過言ではないくらい。実写映画の世界ではとっくの昔に葬り去られた手法を、CG全盛のこの時代にあえてやってしまうやつがいることが私はとても嬉しい(涙)。


ただ、この「合成ちっくなところに萌える」という感覚は分からない人には全く分からないようで、例えばこの方の感想などを読むと、私にとっての萌えポイントがものの見事に全否定されており、あの「合成した背景の解像度の低さ」や「もろわかりの手書き絵」をもう一度観たいがためにDVDを買おうと思ってるのは少数派なんだろう(そこは認めざるをえない)。



役者に関しては、監督自身が「奇跡的なキャスティング」と言うだけあって、いいっすよ。おそらく一番ダメダメなのは主役の伊勢谷くん(爆)。ビジュアルはいいけど大げさな台詞回しは予想通り無理でした。脇を固めるベテラン陣も適材適所だったし、寺尾聡がこういう役柄なのも珍しかった。ミッチーはもう予想通りの名演で、ほんとこの人のキャラとビジュアルは大東亜共栄圏モノによく似合う(笑)。唐沢寿明は舞台で鍛えた仰々しい台詞回しで抜群の存在感を醸し出してました。カッコイイっす! ただ日本人離れしたビジュアルの佐田真由美ちゃんとは異なり、ルックス的には“凡人”なので、もうちょっと画像処理かけても良かったんじゃないかなと(金髪もイマイチ)。前半で見せた全身泥まみれの姿は唐沢寿明のあの「目」が強調されていてボスの登場としては申し分ないビジュアルでした。やはり唐沢寿明と言えば、漫画キャラクターの目をそのままトレースして実写化したようなあの「目」ですよ。彼はよく芝居で「見栄を切る」んですけど、あの目のせいでドラマだと妙に浮いてしまう。しかし今回はアニメなのでバッチリ。「目」と「声」だけはほんとアニメ・キャラとして申し分ないお人です。そして宮迫博之。驚いたのは彼の「動き」ですね。“せむし男”のような姿態でいつも小刻みに揺れてるその姿が、クレイ・アニメの動きにそっくり!(嬉) 背景や画の構図が人形アニメーションに近似してるだけに、引きの画になると時折錯覚してしまう瞬間があるぐらい。ちょっと親指トムに似てるかも(笑)。できれば宮迫モデルの人形を作り映画の全シーンをモデルアニメで再現してほしいです(もちろん宮迫以外は実写で)。




話自体はわかりやすいし、画に集中していても、キーとなる台詞・シーンさえ聞き(観)逃さなければ、ラストで全てつながるようにできているため、あまり頭使わなくていいというか、観ていてとても楽でした。ただ、「難解でわかりにくい」という意見も多いようで、同じ画に心象風景(回想?)と現実の出来事が同レベルで存在してるのが混乱を招いているのかもしれないし、前半に伏線張り巡らせ、後半で一気に種明かしするという構成になれてない人が多いのかもしれません(『メメント』なんか観たら更に訳わかんないぞ)。設定が意味不明なら適当に聞き流せばいいんですよ*4。前半はあえて説明を少なくし、観客に勝手な想像を抱かせ、後半、種明かしによってそれらの全てをひっくり返した上で、伝えたいメッセージ(登場人物の口を借りた紀里谷監督の"熱い説教")を怒濤のごとくぶちまける、というのが『CASSHERN』のやり口。だから前半でネタバレしちゃった人は後半の説明の多さにバランスの悪さを感じるかもしれません。私はまんまと騙されたので楽しめました。物語も後味悪くて好きです*5


本当にビジュアル・イメージは凄いです。しかも最初から最後までやり通してるんだから、ものすごい気力と集中力ですね。もう、アホかと(笑)。



本作を気に入った決めてのもうひとつは、30代半ばにもなる男が、中学生のような青臭い正義感を恥ずかしげもなくぶちまけているところですね(笑)。「俺が言わなきゃ誰が言う」「俺がやらなきゃ誰がやる」精神に突き動かされた匂い立つ情熱、熱き思い。これを見せつけられると、個人的にとても弱いのです。「スポ根アニメ」「週刊少年ジャンプ」「大映テレビ」「角川映画」の四大文明によって長きに渡り刷り込まれた<情熱バカ>精神がうずき、馬鹿にしつつも心のどこかでシンパシーを感じてしまう。例え何もかもがヘタクソで出来上がりがどんなクソでも、どこか嫌いになれず、「罵倒しながらも心惹かれる」という複雑な乙女心が働くのです*6。過剰な情熱によって構築された圧倒的世界観を前にすると、細かな齟齬、矛盾が全くどうでもよくなる(「北斗の拳」のごとく)。説教臭いと言っても、「ドラえもん映画」だってこれぐらい説教臭いし、アニメとは往々にして説教臭いものなのです。


できればもう1回ぐらい大画面で観たいけど、時間的にちょっと無理かなあ。DVDを出す際は絵コンテ集を必ずつけてください。あと、I.TOONが作ったクレイ・アニメシーンのノーカット版も!


尚、7/2(金)〜4(日)、10(土)、11(日)に多摩センター駅のすぐ側にあるパルテノン多摩「幻想の魔術師 カレル・ゼマン特集」と題しゼマンの作品が多数上映されます。『CASSHERN』のあの映像世界に興味を持った人はこの機会に見ておくのも一考ですぞ(…と宣伝)。


−追記−
おそらく紀里谷和明は題材がガンダムでもアトムでもデビルマンでも、キャラ設定が異なるだけの全く同じ映画が撮れたことでしょう。たまたま「キャシャーン」が一番好きだった、それが本作を選んだ一番の理由だと思われます。もしキリキリがガノタだったら・・・



*1:あまりこの呼び名は好きではない…

*2:コマ撮りじゃないんだからアニメーションじゃねーだろ、と言われればそれまでだが、あれだけ画像に処理かけたら感覚的にはやっぱアニメーションだよなあ。つーか、『アップルシード』だって『ファイナルファンタジー』だって人間の動きをキャプって画像処理しただけなんだから、同じ同じ(笑)。

*3:玉山鉄二樋口可南子とりょうを車で連れて行くシーンでの樋口の後ろに流れる風景とか、たまらんです(嬉)。

*4:で、情報が出揃った時に頭の中でくっつけると。

*5:木9『トリック』の高嶋政伸の回のような後味の悪さ。

*6:愛するために愛されたい』のように、電波入りすぎて凡人には理解できない領域に達してる場合も同様