『THREE/臨死』を観た(@シネ・アミューズ)

先日観てきました。客は30代を中心に15人ぐらい。若干男性の方が多かったように思います。前にさわりだけ感想を書きましたが、では改めて。。。



映画の詳細は以前の日記を参照。



韓国・タイ・香港を代表する3人の監督によるオムニバス・ホラーということで、まずはお国柄の違いを比較。韓国・香港はJホラーの流れを汲む現代ホラー、タイはゴシックテイストのオーソドックスな怪談奇譚ものとなっており、お国柄を物語に反映させてきたタイ・香港と比べると、ひたすらショッカーシーンの連続で押してきた韓国が、現在のJホラーの影響をもっとも強く受けてるといえる。作品は、韓国・タイ・香港の順で上映されたのだが、香港モノの出来がずば抜けており、タイ・韓国はその前座といった印象にとどまっているのが残念。他2作と組ませるより、香港単体で売ったほうがよりヒットしたのでは?と本末転倒なことすら考えたくなるぐらい力の差は歴然。


作品毎の感想は以下の通り。
第1話『メモリーズ』(韓国)
『渋谷怪談』以来の反省会ですね(笑)。ショッカーシーンのオンパレードなんだが、ほぼ全てのシーンが鈍くさいというかヘタ。全体的にはいい演出も多いのに、怖がらせるために用意されたシーンがことごとくダメでどうしましょって感じ。そもそも根本的なところを勘違いしてるんだな。「怖がらせる=大きな音でおどかす」ではないのですよ。それは誤った公式で、画的に引っ張れそうな場面ですら音に頼って画で見せることを途中で止めてしまうのはナンセンス。いまどき貞子ダンスの劣化コピーはないでしょ。むやみやたらに気持ち悪いシーンを盛り込めばいいってもんじゃなくて、心霊現象ひとつ起こすにしても、それを目にした本人、もしくはそれを起こした本人と最低限のつながりは必要。あのボタボタ落ちてくるもやぼったいし、本人が鏡観るよりも前に観客に顔の死斑(しかも実際よりかなり薄め)を見せちゃだめでしょ。あれは同時体験するからいいのですよ。旦那の目の前に出てきた幽霊が側頭部に指突っ込んでぐりぐりしたら血がダラダラたれてきたとかいうシーンも、怖がらせる(気持ち悪がらせる)ために用意したにしてはあまりに流れと無関係な行動。せっかくのマンション奇譚も絡み方が中途半端でわかりにくい。例え雰囲気重視だったにせよ、屋上から突き落とされたわけでもないのに、奥さんがあそこに倒れてるのも意味不明。幽霊の行動に意味なんて要らないと思うかもしれないけど、「音の大きさにビビる」のとは異なり「怖い」いう情動はある程度経験によって獲得してきたものであるが故に、そこに矛盾があると「怖い」と感じる前に沸き立つ「疑問」によってせっかくの「怖さ」が打ち消されてしまう。監督したキム・ジウンはこの後『箪笥』というホラー映画の公開が控えているのだが、今回のようなショッカーシーンを多量に投入したホラーなら全く期待できない(ここを読む限りは大丈夫そうだが…)。


第2話『ホイール』(タイ)
正当な後継者以外が使用すると一族に災いが及ぶという“呪いの人形”を手に入れたばかりに、一族の人間が次々と死んでゆくという昔ながらのオーソドックスな怪談奇譚。ラストにちょっとひねりが加えられてるぐらいで、特に目新しさもなく、背筋がぞぞっとするような恐怖演出もないです。中心人物を一人据えて、その人の目線で物語を回していったほうが見やすかったかも。音楽は怪しげでなかなかに良かったです。


第3話ゴーイング・ホーム』(香港)
同じことを2度書くのもなんなんで、大まかな感想は以前の日記を参照してください。
恐怖演出は完全にJホラーの流れをくんでるけれど、自分なりにきちんと消化し、適度な量に抑え効果的に使ってるのが良いですね。その上で、鶴田法男ぐらいしかやらないような切なく物悲しいホラーに挑戦し、見事に成功してるのが素晴らしい。監督は、今回の企画をプロデュースしたピーター・チャン。面目躍如の出来で、実は本人が一番ホッとしてるかも(笑)。パート2*1も作られるというのに、プロデューサーの作品がつまらなかったら、この企画に乗る監督いなくなりますから。撮影にクリストファー・ドイルを据えたのは、『リング』『回路』『仄暗い水の底から』等で撮影監督・林淳一郎の撮ってきた画(色・質感)がP・チャンの頭には鮮明に記憶されてたんだと思います。香港であれに近い雰囲気を出せるのはドイルしかいない。…何から何までよく研究しています。瞬間的な怖さを楽しむというよりは、雰囲気を楽しむ映画。死体となった妻を甦らせようとする生真面目で妄信的な男をレオン・ライが演じてるんだけど、彼の存在が映画全体の雰囲気作りに一役も二役もかっている。パンフレットを読むと、ビール瓶を割るシーンはレオンのアドリブらしい。観客のみならずキャストもスタッフもみんな彼一人に驚かされたのか(笑)。緊張と緩和のバランスが良いので最後まで飽きずに観ることができます(正直前の2作はちょっとつらかったんで…)。物語は後味の悪い結末を迎えるけれど、映像と音楽によってしっとりとした余韻を残しながら幕は閉じてゆく。奥さん役の女優は肉体的にもかなり頑張ってましたねえ。30秒ぐらい瞬き出来ない状態で映され続けるシーンもあるのに、彼女の瞳は微動だにしない。撮影は大変だったと思います。凝ったシーンも多く、鏡に映ってる時は表情豊かに喋ってた奥さんが、カメラをパーンさせると、ずっと以前からそのままだったかのように全くの無表情で鏡の前に座ってたり。『回路』『ドッペルゲンガー』でお馴染みの黒沢清お得意のあのシーンも効果的に使ってます(もちろんCG処理でちゃんと1カットに見せてます)。ちなみにちらしのシーンは本編にはありません。そして予告はネタバレしすぎ(笑)。ネタバレしてない状態であのシーンに遭遇したかった、それが唯一の心残りです(宣伝部のバカ!)。



ピーター・チャンには期待してるので、パート2はもっとバランス良くなるようにお願いします。できれば三池さんは心霊モノじゃない方向で(苦笑)。

*1:今度は日本も参加します。日本代表は三池崇史。主演はハセキョー