ドラマ『禍話(まがばなし)』とは何だったのか(中編〜ドラマオリジナル要素の切り分け)

本家『禍話』と元ネタについては大体理解したので、いよいよドラマとの比較、オリジナル要素の検討・考察に入りたいと思う。


こちらがね、またしても地獄よ。五輪のボルダリング第3課題並みに正解ルートがわからない。これから書く文章を読んで「え?もうちょっと推敲しないの?」て思うかもしれないが、推敲し始めると新たな疑問が湧いて更に文章が追加されていった結果がこの読みにくい長文なので、下手に推敲すると終わりが見えない。UPしてから地味に推敲してゆきます。



ドラマの人物相関図は↓公式サイトを参照。出演者の写真をクリックするとより詳しい人物紹介が出てくる。
キャスト|スペシャルドラマ『禍話(まがばなし)』|朝日放送テレビ



ドラマ自体は、かぁなっきが語る禍話「もうどうでもよくなった家」(の再現映像)、葱の回転によるリライト版「もうどうでもよくなった家」(の再現映像)、葱の回転失踪(妹・下村加奈登場)から始まる下村家のエピソードの3部から成り、合間合間にかぁなっきに取り憑いてる霊(「例の女」)が混線してくるという構成になっている。


特に、最後の下村家にまつわるエピソードは不可解なことしか起こらないので、描写されたすべてに整合性のとれる意味を見い出すことは「ああこれ絶対無理なやつ…」と直感で判断できるレベル。仮にすべての描写を矛盾なく包括できる正解があるとするならば↓これ以外にはきっとありえない。

かぁなっきが知り合いのADから仕入れたハウススタジオに纏わる禍話を番組で披露したところ、その話のリライト作品がリスナーから送られてきた。早速番組内でも紹介し、作者である葱の回転もリモート出演。作品に『もうどうでもよくなった家』というタイトルが付けられた直後、配信が乱れ店のブレイカーが落ちるアクシデントが発生。葱の回転との回線も切れ、リスナーが「演出だったら神」とザワついたまま放送は終了した。その放送を聴いていたリスナーから、今度は『もうどうでもよくなった家』と番組の人気シリーズである『例の女』を魔合体させた新たなリライト作品が送られて来た。それが、葱の回転失踪から始まる下村家のエピソードであり、すべてをひっくるめて再現映像化したのが今回のドラマ版、というのが真相。

例の女の名前を最後に叫ばせたのは、葱の回転が「例の女の本名が知りたいです」と言ってたことを受けてのサービスなので、実際の名前とは違います。


ただこれだと、不可解な点はほぼほぼ全部「リスナーの創作だからね」で終わっちゃうので、数々の描写にどういった意図が付与されているのか、下村家のエピソードも現実に起こった出来事と解釈した上で、元ネタとドラマオリジナル要素を切り分けながら、加筆・改変されたオリジナル要素について深掘りしてみる。

『もうどうでもよくなった家』(かぁなっき版&リライト版)について

このパートについてはベースとなる元ネタが存在するので改めて紹介する。

『もうどうでもよくなった家』

(音源)禍話R第七夜 2018年12月10日放送回
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/512210283
1:28:30頃〜Aパート:アイドルの心霊ハウス探訪ロケ
1:38:00頃〜Bパート:映研の自主映画ロケ(〜1:53:25頃まで)
⇒(リライト)禍話「もうどうでもよくなった家」
https://note.com/etrou/n/nfcfc285ead51

かぁなっきによって語られたハウススタジオに纏わる禍話(↓動画【禍話1】【禍話2】 参照)は元ネタのAパート、

続く葱の回転のリライト作品「もうどうでもよくなった家」(↓動画【禍話3】参照)は元ネタのBパートがベースとなっている。

元ネタBパートで怪異に見舞われるのはAパートとは異なる人物だが、ドラマでは同じ関係者が日を改めて撮影を再開したら再び怪異に見舞われたと改変されている。Bパートの映研部員3名(部長、Aくん、Bさん)の役割はドラマの登場人物3名(監督、AD、アイドル)に概ね引き継がれている。

元ネタ由来の描写

「耳元で人の声がしたので『仕込んでないですよね?』とスタッフに訊ねる」「これ以上細かく設定を作っちゃダメ」「風呂場まで這って逃げて殺された」「殺されたの深夜1時なんだよ。殺された時間に来るとかダメなんだよ」「二階に血糊があり、グルグル回ってみたが消えない」「玄関に大量の靴」「何者かが玄関の外から戸を叩き『そろそろはじまりますよ』と声をかけてくる」「居間に葬式の準備が整えられ、背後から喪服を着た監督が現れ腰を抜かす」「ぎちぎちに人が密集」「ただの作り話でしょ?」「もうそんなことはどうでもよくなってるんだよ」といったあたりは元ネタに存在する。
ただし、「ぎちぎちに人が密集」してる描写については、元ネタが「靴と同じ数だけ玄関に人が立っている」としているのに対し、ドラマでは靴と同じ数の裸の人間を浴槽にぎちぎちに詰め込むことで、元ネタには無い「浴槽を埋め尽くすバラバラ遺体」の暗喩として機能させている。
また、「二階に血糊」という描写は、ドラマでは肉眼では何も見えずスマホを覗くと血糊が見えるように描写されている(すなわち怪異はカメラ越しに起こっている)のに対し、元ネタは逆。肉眼(主観)では血糊が見えるのにカメラで映す(客観的視点を介在させる)と何も映ってないとされている。カメラ越しの映像は下村家のパートでも何度か出てくるので、ここを変えた理由については気になるが、単純に「部屋を汚すのは結構大変なんですよ、復旧が」ていう大人の事情かもしれない(爆)。

元ネタではハウススタジオにお婆さんの霊が現れ様々な怪異を引き起こしているが、ドラマには出てこない。ただし、ハウススタジオ内をよく見ると、高齢者が住んでいたことを匂わせるように廊下や風呂場など至る所に手すりが設置され、手当を受けたアイドルが「こんな細かく設定するからダメなんですよぉ」と老婆のような声色で語り始める描写が入っているので、「老婆の霊が出る家」という設定はそこはかとなく踏襲しているように見える。

元ネタから大きく変更された要素

元ネタとドラマで大きく異なるのが「一家惨殺事件」の内容。元ネタでは「長女のストーカーが一家惨殺。風呂場で長男が殺された」となっており、犯人と被害者は「兄妹の関係」ではないし、殺された長男が「兄」なのか「弟」なのかは明示されてない。一方、ドラマでは最初のかぁなっき版で「おかしくなった長男に妹と両親が殺された。居間で刺された妹は這って逃げた風呂場で首をめった刺し。二階に逃げた両親も追い詰められ刺殺」と描写(※刺殺後の長男がどうなったのかは触れてない)。リライト版では葱の回転によって「長男は妹・美咲の首を風呂場で滅多刺し。二階に逃げた両親を追い、逃げる父の背中を刺し、動けなくなった母の胸と腹を刺して殺害。鉈でバラバラにし、発泡スチロールに詰めて居間に並べたあと、縁側で首を吊って自殺した」といった具合により細かく肉付けされている。遺体をバラバラにしたのは、かぁなっき版にあった「裸のスタッフが浴槽にぎちぎちに詰められてる」という描写からインスピレーションを受けた可能性は高いが、妹に名前をつけたり、妹を特別扱いしたり、兄を自殺させたのは葱の回転によって加筆されたオリジナル要素となる。尚、元ネタには「美咲」という名前の登場人物や、「兄妹」といった関係性の登場人物は一切出てこない。


リライト版における「兄と妹の関係」については、本家かぁなっき氏がドラマ放送直後に配信したツイキャスで、居間に飾られた「姫だるま」や「発泡スチロールに書かれた名前が、“妹”ではなく“美咲”となっている」「発砲スチロールの数が両親は上下2つなのに対し、妹だけ3つあり、中のビニールからしたたり落ちるのがただの血ではない」「腰を抜かした女性に男性が倒れ込んでくるという描写が繰り返し挿入されている」といったことから、妹の妊娠や近親相姦を連想させると考察している。
火曜怪奇スペシャル ドラマ版禍話考察+四次元怪奇劇場GAGOZEパイロット版
http://twitcasting.tv/magabanasi/movie/692087071

また、↓こちらの考察ブログでは、ハウススタジオを貸し出してるのが「探湯(くかたち)村フィルムコミッション」であることも、道ならぬ恋を連想させると考察している。
ツイキャス版「禍話」のリライトとして見るドラマ版「禍話」
https://note.com/kannoke6/n/n897bdd9ee163


この辺りは意味深ながら意図がわからんと悩んだ描写なので、脚本を書いた酒巻浩史氏のWikipediaこちら)を読んでも「ああもうそれしか考えられないわ」って感じの考察なんだが、これはこれで兄はどういった感情で妹を殺したのかってあたりが気になるところ。「兄が妹を殺す」という設定は元からあったので、リライトした葱の回転にしてみれば「オリジナルを踏襲しただけ。他意はない」ということなのかもしれないが、葱の回転にも妹がいることを考えると、妹の妊娠を知った兄が自分たちの行為に戦き無理心中なのか、愛する妹の不貞や裏切りを知り逆上して無理心中したのかでは意味合いが異なる。この辺りは本家かぁなっき氏も語ってる通り、葱の回転の妹に対する感情・願望を反映している可能性が非常に高く、最初の話では無かった「自殺」という描写をリライト版で盛り込んで来たのは何故なのかといったあたりも含めて気になるところ。このあたりは下村家のパートとも絡むドラマオリジナル要素なのでいまは置いておく。

元ネタにはない描写

ドラマで「扉を開けると壁」という描写がある。後半の下村家のパートにも出てくるが、元ネタには存在しないドラマオリジナル要素である。が、特に深掘りする話でもないので割愛(これ以上踏み込むなとか、詮索するな、こっから先は何も設定作ってないといったことが表現されているだけなので)。ただし、奥に得体の知れない部屋(もしくは押し入れ)があると見せかけた場所が実は外へと通じる「縁側」で、庭から屋内を俯瞰でとらえた描写は素晴らしかった(まあ、エアコンが襖の上に設置されてる時点で、襖の向こうは庭だってことに気付けって話なんだけどね。苦笑)。


ドラマでは「頭の中に浮かび上がったイメージ」をモノクロ映像で表現し、夢や幻視とは区別している。元ネタとの比較で言えば、頭の中で鮮明にイメージすることが嘘の設定を現実に引き寄せ、魔が入り込みやすい状況を作り出しているということになるのだが、下村家のパートではまたちょっと違う使われ方をしている。

元ネタには出てこない人物(管理人)

ドラマに出てくるハウススタジオの管理人は、元ネタには出てこない。元ネタにあるいくつかの怪異(「そろそろはじまりますよ」「もうそんなことはどうでもよくなってるんだよ」)は管理人が担っているものの、基本的にドラマオリジナルの存在である。

この管理人がなかなか不可思議な存在。

ドラマではかぁなっき版で、怪異に見舞われ手当を受けたアイドルが、『(台所脇の廊下で)倒れた際に耳元で「お兄ちゃんお兄ちゃん」とつぶやく男の声を聞いた』と発言している。この描写を受けて葱の回転のリライト版では両手を血だらけにした管理人が最初に妹が刺された縁側脇の居間に座り「お兄ちゃんお兄ちゃん」とつぶやくシーンを書き入れてきているのだが、元ネタにも、かぁなっき版にも「お兄ちゃんと呟く男」に該当する人物が存在しないため、リライト版の管理人が誰の役割を担って「お兄ちゃんお兄ちゃん」と呟ていたのかがよくわからない。いや、嘘。兄に襲われた妹の呟きが管理人の口を借りてでてきただけととるのが自然なんだろうが、アイドルが声を聞いたのは管理人が呟く前なので、管理人の声が時間を超え場所を変えてアイドルに届いたようなねじれ現象が起こってしまい時系列的にも位置的にもあんまりよろしくない(耳元で聞こえたならせめて台所脇の廊下で呟いてほしい)。まあ、呪われたハウススタジオでの怪異だし、時空がねじれることで有名な「呪怨の家」オマージュってことにすれば問題はないのだが、気になるのは「犯人=管理人」とされてること。

かぁなっきは葱の回転のリライトを読んで「管理人がお兄さんで、家族殺して自殺」と解釈し、ドラマ公式の人物相関図(こちら)でも「管理人:実は死んでいる…一家殺人の犯人。」と記述されてるため、「犯人=管理人=兄なら、お兄さんである管理人が妹の言葉を発するのはおかしくね?」って話になってしっくりこない。また、ADの前に現れた兄と思われる白い服の首つり男(※足下には血だらけの鉈あり)なんかは管理人とは体格的に別の人間として幻視されてるし、管理人は両手を血だらけにしてる割に刃物を持った描写がひとつもないのも気になる(※下村家パートでも登場して、かぁなっき達を風呂場に追い詰め刃物で自分の腕を切るマネをするんだが、このときも刃物を持っておらず、かぁなっき達に鉈を振り下ろす場面は「モノクロ映像」すなわち頭の中のイメージとして「振り下ろされた鉈」の映像が存在するだけで襲ってくる管理人の振り下ろす手には何も握られていない)。加えて、管理人の左首に何かで刺されたり突かれたりしたような古い傷跡があるのだが、元ネタにはそういった傷を持つ登場人物が出てこず、ドラマ版を見回しても両親が刺されたのは背中や腹、妹が刺されたのは右の首、そして犯人は首を吊って自殺してるので該当する傷跡を持つ人物が存在しない。アイドルが聞いた「お兄ちゃんお兄ちゃん」と呟く男の声とはいったいどこの誰なのか。かぁなっき版に出てきた管理人は何者なのか。葱の回転はリライト版の管理人に何故「お兄ちゃんお兄ちゃん」と呟かせたのか。あのハウススタジオには殺害された家族以外にもうひとり、犯人を「お兄ちゃん」と呼ぶ立場の男でも存在してるんだろか。「お兄ちゃん」については後述する下村家パートで「兄の写真が別人と入れ替わる」という謎の描写も出てきて更に混迷を極めるため、ひとまずここでは放置しておく。

『例の女』パート

まずは改めて元ネタを紹介。

『例の女』

(音源)燈魂百物語 最終夜(閲覧少々注意) 2017年2月24日放送回
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/350334141
44:50頃~「例の女」に関する注意事項
47:50頃~ 事の起こり(小学生)
51:50頃〜 名前を当てた友人、目撃、決定打(以上、大学時代)
1:05:10頃〜 加藤くんに名前を話す、駅のホーム、Kくんの夢、パソコンを覗かれる、加藤くんの家、後輩2人が名前を当てる、加藤くんの体験
1:19:00頃〜 あったでしょ(〜1:27:00頃まで)
⇒(リライト)禍話「例の女」※概要(事の起こり〜決定打まで)
https://fusetter.com/tw/0Yd2a8Gz#all

ドラマ化された『例の女』のうち、小学生のとき友人達が廃墟で幽霊に出逢い(「事の起こり」)、それを元に怖い話のプロットを考えたら大学の後輩が名前を言い当ててしまい(「名前を当てた友人」+「後輩2人が名前を当てる」)、怖くなって書きためたプロットを破棄(「決定打」のラスト)、自宅で「あったでしょ?」と声をかけられ、過去に一度路上でセーラー服の女性から接触を受けてたことを思い出し、古書店の前にセーラー服の子が立っているのを目撃したエピソード(「あったでしょ」)には、多少内容は変われど元ネタが存在する。

ドラマでは名前を当てた大学の後輩が行方不明になっていたが、そこまでの怪異は現実には起きてない。また怪異に触れるたび鼻血が出ることもない(笑)。かぁなっきが相方の加藤よしの(※実際は「よしき」で「男性」だがドラマでは性別変更により名前も変わってる)に【例の女】の名前を教えてしまったのは事実(「加藤くんに名前を話す」)だが、「マヤ」という名前ではないし、もちろんドラマのようなシチュエーションで教えたわけではない。


基本的に、葱の回転の妹・下村加奈が絡まない場面における『例の女』にドラマオリジナル要素はあまり入っていないと考えて差し支えないと思う。

その他の細かなエピソード

ドラマ冒頭の「男がラジオから流れる怖い話を聞きながら車でドライブしていたら、いきなり黒っぽい服を着た(中年?)男性が飛び出してきて接触。ボンネットに乗り上げた映像」や「その様子が怪奇動画として相方の加藤よしのの元にメールで送りつけられた」というくだりの元ネタはあるのかないのか特に調べてません(※偶然見つかったら追記)。

かぁなっきが行方不明になった後輩のスクラップ記事を眺める場面があるが、記事の内容をよく見ると、失踪後に横須賀で衣服が見つかったことや、当時配られた行方不明者捜しのビラの連絡先が神奈川県警になっていることが読み取れる。例のハウススタジオが存在するのも神奈川県であり、リライトを投稿した「葱の回転」は横浜市在住。このドラマは関西のABCテレビによる制作で神奈川とはなんの関係もないのに、特定の場所に怪異を集中させているのには何か理由があるのではと勘ぐりたくなるが、「ロケ地に地名を合わせた」だけだろう。

下村家にまつわるエピソード

というわけで問題の下村家である。『もうどうでもよくなった家』や『例の女』と魔合体した箇所以外はドラマオリジナル要素であり、「考察するぞ」と意気込んだ視聴者をあえて翻弄するかのように、意味深ながら意図の分からない描写が数多く存在する(動画:【禍話4】【禍話5・終】参照)


まずは、葱の回転の妹・下村加奈の登場シーンから。(↓【禍話4】の2:23〜)

「兄(葱の回転)が放送の翌日から行方不明に。何か事件に巻き込まれたのでは。一緒に探してほしい」とかぁなっきの居る古書店を訪ねてきた下村加奈。その姿はまるで一昼夜、山の中を彷徨ってきたかのように汚れ、服のあちこちはボロボロにすり切れている。「警察に相談すれば?」と問われると「警察はちょっと…」と拒否。警察に介入されてあれこれ詮索されるのは困るなにがしかの事情があるのか、内々に解決したいので大事にされるのが嫌なだけかはわからない。「俺には関係ない」というかぁなっきを加藤よしのが叱り飛ばし、下村家へ。


ドラマオリジナル要素と言ったが、「赤い服」を着ていることから、↓こちらが若干元ネタになってる可能性はある。

(音源)「赤い女のビラ」ツイキャスまとめ
https://wikiwiki.jp/magabanasi/シリーズ物#y9b97a86
⇒(リライト)「赤い女のビラ」 ※一部
https://note.com/damekujira/n/n91b58a1cc409

「全身真っ赤な赤い女に気をつけてください。付き合ってた彼氏にむごたらしく殺された女で、殺した彼氏を探しています。訪ねてきてもドアを開けないで。隠し持ってた刃物で殺されます。対処法は霊感のある友達に来て貰って下さい」と書かれたビラがマンションのポストに投函される。しばらくしてビラを投函する赤い女の写真がマンション掲示板に貼り出され、部屋に赤い女が訪ねてきたという話。エピソードがいくつかあるためシリーズ化されている。


仮に『赤い女のビラ』に元ネタ要素があった場合は、下村加奈が探してる兄とは「自分を殺した彼氏」であり、殺されて山にでも捨てられそこから復活して兄を探してるという見方もできる。リライト版を紹介したとき、かぁなっきは「まるでほんとに体験したかのようなリアルさでした」とその筆致を称賛しており、仮に家族を殺した直後にリライト版を書き上げ、「タイトルは葱の回転さんにつけてもらいたい」と言われたときに、家族は皆死んでいまいるこの家は自分にとって『もうどうでもよくなった家』だからそう名付けた、と考えても辻褄は合う。


加奈の案内で下村家を訪れるかぁなっきと加藤。葱の回転の部屋に通されると、入ってすぐ右側の鴨居にウェディングドレスがかかっているのだが誰もそこには触れないどころか見えてるのかどうかも怪しい状態。この後、このドレスは何度も映るが最後まで誰一人触れること無く放置される。


葱の回転が普段使ってる机の上にはスマホが置かれたまま。番組出演時に机の左側に置かれていた創作ノートは座布団の下に隠されており、見つけたかぁなっきが中を開くと血だらけだった。それを見たかぁなっきは加奈にも加藤にも伝えることなく再び元の位置に戻してしまう。「俺には関係の無いこと」とし見て見ぬ振りを貫いただけなのかもしれない。尚、室内には他に血痕や争った後など何もなし。


部屋を出ると、キッチンに飾ってあった写真にかぁなっきが気付く。映ってるのは両親と加奈と青年(兄?)の4人。加奈曰く「墓参りの時の写真」だという(誰の墓参りかは不明)。かぁなっき自身は兄の姿を見たことないので何の疑いもなく家族写真だと受け取ったが、番組に出た葱の回転とは明らかに別人なので、写ってるのが本当に兄なのか別の第三者なのかわからずじまい。加奈も写ってる青年について「兄です」とは言っていないし、「家族写真です」とも言っていない。


リビングには下村家の父母が姿を見せていた(加奈から「父と母です」と紹介される。写真と同じ両親)。ただし、ふたりとも言葉に抑揚がなく、どこか様子がおかしい。まるで『もうどうでもよくなった家』に出てくる管理人のように実在感がない。加奈は兄のことを「友達もおらず、彼女なんているわけない。私がいないと何一つ決められない」と言っていたので、兄・葱の回転は『もうどうでもよくなった家』を番組に投稿することも、番組に出演することも事前に加奈に相談しており、だからこそ加奈はかぁなっきの元に相談に訪れたのであろう。ところが両親は兄のことを「誰からも好かれてる人気者。友達のところにでも行ってるんだろう。心配してない」と言っており、両者の食い違いにかぁなっきと加藤は首を傾げ、加奈は表情を曇らせる。かぁなっき達を見送りながら互いの手を固く握り合う両親に笑顔はなく、そこには何か強い意志が感じられるため、殺されたのは兄の方で、先ほどまでの不自然な態度は兄の失踪の真相を探られまいと必死に嘘をついてた故の態度にも見えてくる。兄の行方を必死で捜しているという加奈自身の態度にも不自然なところは見られないため、仮に加奈の言葉が真実だと受け取るならば、加奈が兄を溺愛してること、その関係に兄も依存していることは事実であり、リライト版で匂わされていた兄と妹の道ならぬ関係、兄の部屋にかかっていたウェディングドレスとその隣にかかってるハンガー(新郎の衣装も掛かっていた?)、創作ノートについてた大量の血痕、などから、結婚間近まで進展したふたりの仲を危惧した両親が加奈不在のあいだに自宅で兄を殺害しどこかに遺棄。居なくなった兄を心配した加奈はかぁなっき達に助けを求めたが、今回の両親の態度から兄の失踪には両親が深く関わっており、探されることを強く拒んでることを悟ったようにも見える。



ここまでの感じだと、「兄と妹の関係を危惧した両親が妹には内緒で兄を殺害」もしくは「兄と妹の関係を危惧した両親が、妹と別の男との婚姻を進め、逆上した兄が一家殺害。リライト版を投稿してどこかで自殺。妹の霊が兄を探してる」に絞り込まれた気もする。「兄と妹の道ならぬ関係」が実際にあったのかどうかは、リライト版で匂わされてるだけなので、兄の妹に対する強い願望の可能性もある。その場合は「兄の妹に対する感情を危惧した両親が」でもかまわない。


ところがこのあと、下村家に【例の女】が介入し、事態は混沌としてくる(汗)。


夢の中で【例の女】に会った直後、かぁなっきの元に加奈のケータイから「あったのか?」と電話がかかってくる。いまどきの女の子なのに加奈が持ってるのはスマホじゃなくガラケー。従ってこの電話をかけてきているのは一昔前の女子高生である【例の女】なのであろう。下村家の自宅玄関から電話をかける加奈。「捜しものはあったのか?」という他人事のような問いに困惑するかぁなっきに、兄が戻ってきたことを告げる加奈。その足下には、黒いスニーカーが脱ぎ捨てられていた(加奈が履いていたのは白いスニーカーなので兄・葱の回転のものなのであろう)。「大丈夫なのか?」と問うと「誰が?」とおかしな返答。「お兄さんですよ。いままでどこにいたのか?」と問うと「もうそんなの、どうだっていいじゃないですか」と言い返す。


すぐさま加藤に連絡し、戻ってきた葱の回転にインタビューにするべく下村家へ。その模様を緊急生配信する。配信は音声のみだが、怪異が起こったときのためにスマホでの撮影を続けるかぁなっき。(↓【禍話5】はリビングからスタート)

リビングに通されると、「葱の回転です」と笑顔で挨拶してきた青年は、放送に出てくれた青年と同じ声。しかしあの日、家族写真に写っていた男とは別人だった。キッチンに置かれてた写真は額のみで、中の写真は抜き取られていた。あからさまな隠蔽工作である。加奈の様子も以前会った時とは別人で様子がおかしいし、葱の回転は加奈に脅されてるかのように終始うつむいてだんまり。表情は硬い。挨拶時は笑顔だったがスマホのカメラ越しの映像だったためほんとに笑顔だったのかはわからない(本作はカメラ越しに怪異が起きており、カメラが切り替わった時には既に真顔だったため信用できない)。葱の回転に「どこに居たのか?」と訊ねても口ごもり、すかさず加奈が「無事だったからいいじゃないか」と制してくる。「疲れちゃったんですよお兄ちゃんは。ね? ちょっと休めばすぐ戻るって言ってました」と語る加奈。言葉の違和感に、「言ってましたって、誰が?」と問い返すと「知ってるでしょ?」と冷たく言い放つ。はぐらかしばかりで意味不明である。加奈が席を立った隙に、葱の回転がテーブルの上に目配せをする。そこには「ぜんぶ うそ きをつ けろ」と書かれたメモが(ここも何故かスマホのカメラ越しの映像)。再び「あったのか?」と訊ねる加奈に「両親は?」と訊ね返すと「ふたりで旅行に行ってる」とのこと。ますますもって怪しい。葱の回転が自室に入り扉を閉める。かぁなっきがその後を追い、加奈の制止を無視して扉を開けると、立ちはだかる壁、スマホのカメラ越しに映る血だまり、玄関にはたくさんの黒い靴、玄関を叩く音、とリライト版と同じ怪異が次々襲いかかってくる。配信を聞いてるリスナーの元にも怪異が。玄関のドアから何者かが入ってこようとしたため、すかさず風呂場に逃げ込むと、何かが入った黒いビニール袋が2つ、血だらけの浴槽に置かれていた(旅行に行ったというのは嘘で、殺された両親の遺体?)。背後から「無責任だなあ」と言いながら血だらけの管理人が近づいてくる。何が無責任なのかというと、実は元ネタBパートで喪服を着た映研の部長が「関わった者の責任として(葬儀に参加する)」というセリフがあり、かつ、かぁなっきの口癖が「リライトは自己責任で」なので、「おまえが引き寄せた怪異なんだから逃げずにちゃんと向き合え」ということを伝えたかったんだろう。それを管理人に言わせてるのが誰かというと、かぁなっきが思わず放り投げたスマホの録画画面に一瞬映った管理人の姿。その背後に映った髪の長い女、すなわち【例の女】が言わせているのである。


となるとだよ、ここから逆算して再度話を組み立て直すと、前回かぁなっき達が下村家を訪れた時、「心配してない。友達のところに行ってるんだろ」との両親の言葉を受け、元から捜索に乗り気じゃ無かったかぁなっきが自分の言葉より両親の言葉を信じて捜索を打ち切るのではないかと落ち込む加奈。その心の隙間に【例の女】が入り込み、実際には会ってるのに「あったでしょ?」と何回言っても「【例の女】には直接会ってない」と言い続けるかぁなっきをこらしめるため、下村家を利用して怪異を引き起こした可能性は否めない。


管理人に襲われ気絶したかぁなっきと加藤。目覚めると、「大丈夫ですか?」と加奈が呼びにきた。笑顔でふたりを出迎える加奈と葱の回転。先ほどと違い葱の回転は完全に加奈に同調している。キッチンにはいまの葱の回転が映った家族写真が飾られている。以前に見た写真の青年はいったい誰だったのか。見間違いだったのか。水を飲んで落ち着いたふたりを見つめる兄と妹。互いの手をギュッと握りしめる。前回両親が同じことをしたときはその顔に笑顔は無く「秘密を隠し通すという意思の表れ」に見えたが、今回はすべてが上手くいったことに対する「勝利の確信の表れ」に見える。


狐につままれたような気分で下村家をあとにするかなっきと加藤。再び【例の女】が現れると、ついに彼女を受け入れたかぁなっきは【例の女】の名前を何度も叫び続ける。。。



ここまで書いておいてなんだが、もうこれ、収拾つかない(汗)。部分的にはいくらでも説明つけられるけど、一本筋の通った真相なんて構築できない。結局、写真に写ってた青年は誰だったのか? 実在したのか? かぁなっきの見間違いなのか? 下村家には写真に写った兄と葱の回転と兄がふたりいて入れ替わったのか? 管理人は襲う時に何故刃物を持ってないのか? 単なる大人の事情なのか?


どんな話にしたってかならず無視しないとならない要素が出てくるわけで、それはつまり、「いろんな要素を散りばめたので、見た人が好きなように掻い摘まんで話を作ればいい」ということになる。それがこの話の真相である。



ちなみに長々と書いた中で、意味深なのにまともに触れてこなかった要素がある。
それが「葱の回転」というペンネーム。私は知らなかったが、ヘンリー・ジェイムズという作家が書いた『ねじの回転』という小説があり(映画『回転』の原作でもある)、どうもそこから取ってつけたものらしい。あらすじを読んだら、幽霊が出てくる怪奇小説で「兄と妹」が出てくる話。ということは内容的にも下村家をはじめとするドラマオリジナル要素はこの小説『ねじの回転』をベースにしてる可能性が非常に高い。


というわけで早速購入し読んでみたのだが、これがまた、更なる地獄の始まりよ(汗)。
買うまでが大変だったし、買って読んでからがまた大変で、結局翻訳本を4冊も買うはめに。なにこれ?


でも、すべては解決した。このドラマがいったい何をしようとしていたのか。『禍話』と『ねじの回転』は何故結びつけられることになったのか。ドラマを読み解くために前書きとしてあんなにも長々と『禍話』についての説明を書いたのも、実はここを読み解くためにどうしても必要なプロセスだった。



次回で最後です。次は短くサクッと書いて終わらせる。ただし予定は未定。



追記:後編書き終わりました。全然サクッといかなかった(汗)。