ドラマ『禍話(まがばなし)』とは何だったのか(前編〜怪談ツイキャス『禍話』とは)

関西ローカルのABCテレビで7月11日(日)夜11時よりドラマ『禍話(まがばなし)』(以下、ドラマ『禍話』)が放送された。



関東での放送は未定だがYoutubeにも公式動画があがってるのでいまならまだ見ることができる。

【禍話2】 | 【禍話3】 | 【禍話4】 | 【禍話5・終】

【出演】⽔⾕果穂、入野自由 / 加藤小夏、秋山ゆずき大水洋介ラバーガール)、 中山莉子私立恵比寿中学)、小日向流季、清井咲希、希志真ロイ、松原タニシ、若林幸樹、宇江山ゆみこ、ヒロド歩美ABCテレビアナウンサー)、山田竜椰
【原作】FEAR飯(かぁなっき・加藤よしき)【監督】後藤庸介【脚本】酒巻浩史【音楽】南方裕里衣【撮影】貝谷慎一【プロデューサー】矢内達也(ABCテレビ)、山本あづる(東阪企画)【制作協力】東阪企画【制作著作】ABCテレビ
※追記:本作が初プロデュースとなる山本あづるプロデューサーは、本作で「第38回ATP賞」の優秀新人賞を受賞。


最近のホラードラマの中では出色の出来で、非常に面白かった。意味深なわりによくわからない情報が随所に見られることから、考察班も出るなど、久し振りに深掘りしがいのある作品となっている。


ひとつ問題があるとするならば、元ネタである『禍話』を知らない、ということである。スタートから出遅れ感満載だが(汗)、獣道を分け入りながら正解ルートを模索するのも悪くはない。今夏は何処にも出かけられず暇だし(涙)。




本作は、ツイキャスで配信されてる怪談番組『禍話』(以下、『禍話』)をドラマ化したものとされている。つまり、元ネタである『禍話』を知らねば、意味深な要素が元ネタ由来なのか、ドラマオリジナル要素なのか切り分けできず無駄足を踏む事になる。


というわけで、まずは本家から探ってみた。


これがね、地獄の始まり(汗)


怪談ツイキャス「禍話」
https://twitcasting.tv/magabanasi/show/


番組を主催するのは、書店員・かぁなっきと大学の後輩である映画ライター・加藤よしきによる猟奇ユニット・FEAR飯(めし)。番組のルールは、語り手(主にかぁなっき氏)が仕入れた“オリジナルの怖い話”を週1で何本か話すこと。話した内容については著作権フリーとし、好きなように改変(リライト)し使って良いというスタンスをとっているため、既存の怪談番組とはひと味違った楽しみ方を提供している。


番組は2016年にスタートし、アーカイブ270本を超える。正直、膨大だ。「何から手をつけたらいいのやら…」と途方に暮れる数に「これを全部聴いて把握するのはどう考えても無理だ」と頭を切り替え、まとめサイトを探したところ、過去ログにアクセスしやすくするための簡易まとめWikiが存在。バックナンバーには、放送回へのリンクとその日の出演者や話した内容が併記されていたため、なんとか課題完登に向け次のゾーンに進むことが出来た。
https://wikiwiki.jp/magabanasi/ツイキャスを聞いた事がない人へ



語られた怪談のいくつかは、リスナーによって文章化(リライト)され、ネットで読むことができる。
https://note.com/hashtag/禍話リライト


こちらも結構なボリュームなので途方に暮れるが、放送順にまとめられたものも存在した(放送回へのリンク付き)。
https://note.com/perrault2020





ただし、、、
この「リライト」を読んで、またも頭を抱える。


まず第一に、「オリジナル音源の完全なる書き起こし(文字起こし)ではない」ということ。ツイキャスを聞いて貰うとわかりやすいのだが、語り手であるかぁなっき氏は「バカ話がいつの間にか怖い話になっていた」というスタンスを意識的にとっているため、バカ話と禍話(まがばなし)の境がシームレス。時に笑い、軽口を叩きながら語る氏の語り口は、怪談師というより芸人のそれに近く、恐怖と笑いが絶妙なバランスで維持されている。そこから怖い部分だけを抜き出してリライトしようとすると、言葉尻を変える程度でおさまるわけがなく、書き手にとって不要、冗長もしくは禁忌と判断された要素は消されたりぼかされたり、他の言葉に置き換えられたりといった編集が加わるため、一見「書き起こし」に見えるものでも、書き手のフィルター、主観、解釈が介在している。


第二に、禍話リライトは、元の音源を聴いていないと「書き起こし」と「二次創作」の判別が難しい。リスナーにしてみれば何か法則があるのかもしれないが、初心者にはよくわからない。音源と比べた結果「ああこれは書き手の創作が入らない書き起こしだね」と判断しても、『禍話』自体が「書き手が好きなように改変(リライト)して良い」というスタンスをとっているため、書き手の《油断》を誘発しやすい状況にあり、注意深く聞き比べないと、書き手の思い込みや記憶違いによって無意識(あるいは意図的)に書き換え/書き加えられたオリジナル要素が紛れ込んでる可能性を完全には否定できないという感覚がつきまとう。


第三に、ツイキャスに書かれた番組紹介文にはこう書かれている。

土曜日の夜11時から一時間ほど、猟奇ユニット・FEAR飯が発掘してきた怖い話をお届けする怪談ツイキャス。虚実の合間に魔が見え隠れし、気づけばアナタが次の体験者に……?また、当方は青空怪談なので、いかなる二次使用も可能です!ただし、怖くしてくれないと……。

そう、「虚実の合間に魔が見え隠れし」なのである。この「虚実」の「虚」が、リライトにかかっているのか、かぁなっき氏の語るオリジナルにかかっているのかはわからない(笑)。そもそも『禍話』を主催するのが「書店員」と「映画ライター」という、創作物から発信された恐怖が鑑賞者の私生活へと浸食することにより予期せぬ魔が入り込む楽しさを熟知している人種なわけですよ。故に、自分たちが想定していなかったような魔を呼び込むためにいくつかの仕掛けをほどこしているふしがあり、魔を呼び込む装置としての役割をこの「リライト」という作業が担っている可能性が高い。



この「虚実の合間に魔が見え隠れし、気づけばアナタが次の体験者に」を象徴した話が、今回ドラマ化という形で脚本家にリライトされ、新たな「虚実」が加えられた禍話『もうどうでもよくなった家』『例の女』の2本である。

『もうどうでもよくなった家』
(音源)禍話R第七夜 2018年12月10日放送回
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/512210283
1:28:30頃〜Aパート:アイドルの心霊ハウス探訪ロケ
1:38:00頃〜Bパート:自主映画ロケ(〜1:53:25頃まで)
⇒(リライト)禍話「もうどうでもよくなった家」

元ネタとなる禍話『もうどうでもよくなった家』は二部構成になっている。ドラマでかぁなっきによって語られたハウススタジオに纏わる禍話(【禍話1】【禍話2】 参照)は、↑上記オリジナルでいうところのAパート、何のいわくもないただのハウススタジオに一家惨殺という偽の設定を与えてアイドルの心霊ロケを行ったら本当の怪異を呼び寄せてしまったくだりをベースにしている。

続く、葱の回転が送ってきたリライト作品「もうどうでもよくなった家」(【禍話3】参照)は、Bパート、怪異の噂が広まった件(くだん)のハウススタジオで大学の映研が心霊ものの自主映画を撮ろうとカメラを回していたら再び怪異を呼び寄せるくだりがベースとなっている。

元ネタに後日談はないようなので、葱の回転の失踪によって引き起こされる下村家にまつわるパート(【禍話4】【禍話5・終】)はドラマオリジナル要素ということになる。ただし『禍話』には膨大な過去ログが存在するため、元になるネタが混じってないとは言い切れないのが辛いところ(汗)。


元ネタである『もうどうでもよくなった家』という話の肝は「実在する場所にもっともらしい嘘の設定を与えたら、そこに魔が入り込み、設定に似た怪異を引き寄せてしまった」というところにある。ドラマでは、現場となったハウススタジオに過去、設定に似た惨殺事件が実際に起きていたのかどうかはっきりしないまま話が進むのだが、元ネタでは「ことの発端は全部作り話だ」ということを声高に強調した上で、「いったん魔が入り込めばきっかけが嘘とかホントとかそんなのもうどうでもよくなっている」としている。だから設定を作り込むなと。そんなことしたら本当に魔が入り込むぞと忠告している。


設定を作り込むと何故魔が入り込みやすくなるのか。元ネタでは特に言及されていないが、ドラマでは「情景が頭の中に浮かんでくる」という表現がモノクロ映像で繰り返し挿入されており(※元ネタにそういう表現はない)、問いに対するひとつの答えを提示しているように見える。


イメージが魔を呼ぶのか、魔がイメージを呼び起こさせるのか。創作物が魔を呼び込むのか、魔が創作物を書かせるのか。そのあたりを行き来してるのが『例の女』という禍話である。

『例の女』
(音源)燈魂百物語 最終夜(閲覧少々注意) 2017年2月24日放送回
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/350334141
44:50頃~「例の女」に関する注意事項
47:50頃~ 事の起こり(小学生)
51:50頃〜 名前を当てた友人、目撃、決定打(以上、大学時代)
1:05:10頃〜 加藤くんに名前を話す、駅のホーム、Kくんの夢、パソコンを覗かれる、加藤くんの家、後輩2人が名前を当てる、加藤くんの体験
1:19:00頃〜 あったでしょ(〜1:27:00頃まで)
⇒(リライト)禍話「例の女」※概要(事の起こり〜決定打まで)
https://fusetter.com/tw/0Yd2a8Gz#all


【例の女】まとめ(後日談多数あり)

https://wikiwiki.jp/magabanasi/シリーズ物#l387ec91

こちらは語り手であるかぁなっき氏が長きにわたり体験してる怪異である。設定を作り込んだ結果、魔を呼び込んだという点で『もうどうでもよくなった家』にとてもよく似ているのだが、怪異がひとつの家にとどまり1話で完結している『もうどうでもよくなった家』に対し、時や場所を変え出没する『例の女』は発表後にリスナーにも飛び火し、現在進行形で後日談が増え続ける人気シリーズとなっている。

リライトされてない部分もあるのでかいつまんで説明すると【例の女】とは、学生時代からかぁなっき氏につきまとっている女の霊である。小学生の頃、近所の廃屋で友人らが「髪の長いセーラー服を着た女の子の霊」を目撃。そのときに聞いた霊のイメージが頭から離れなかった氏は、大学時代、当時流行っていた『呪怨』に触発され(※リライトでは伏せられているが音源では伏せてない)、【例の女】をモデルにした小説を書こうと家族構成や性格、フルネームまでつけて設定を作り込んだ。その結果、「髪の長いセーラー服を着た女子高生の霊」が身辺に現れるようになり怖くなって一旦封印。しかし、月日が経って当時の恐怖も薄れ再び語り出すと、話題にされそうな兆候をいち早く嗅ぎ取っては、夢の中に現れたり、パソコンをのぞき込んだりと周囲をうろつくようになる(といっても腕を掴まれるような物理接触は未体験なので精神的にはまだ余裕がある)。ドラマでは「友人が霊から直接名前を聞かされた」とされてたが、元ネタではかぁなっき氏が考えて付けた名前。ただの創作である。にもかかわらず大学の友人や後輩など過去に3人の人物がイッパツでその名前をフルネームで当てており、不用意に名前を聞かされ怪異を体験した加藤よしき氏から「絶対ヤバいから二度と言うな」と禁じられ、かぁなっき氏が付けた名前にもかかわらず「決して口にしてはならない名前」とされている。ところが、2017年、百物語の最後にこの話を披露しようと氏が過去の体験をすべて書き出し「もうこれ以上ない。完璧」と思って寝たら、夢の中で【例の女】に「まだあったでしょ?」と繰り返し問いかけられ、目覚めて自問。高校時代に夜道を自転車で走ってたら鳥居からセーラー服の女子が飛び出してきて避けたつもりが家に帰ったら肩がぱっくり割れていたという体験をしていたことを急に思い出す。もしあれが【例の女】だとしたら、当時既に物理接触してただけでなく設定を作り込む前からつきまとわれてたことになり、自ら作りあげた【例の女】に纏わる嘘の設定が、「名前」も含め、【例の女】に書かさたものである疑惑が浮上。そんなこともあり、リライトの際は《要注意》とされ、下手に設定を書き加えるとヤバいことが起こるのではないかと恐れられている(※投稿後に削除されたものもあるらしく、詳しくは↓こちらのまとめnoteを参照されたし。後日談も多数)。
百物語の最後に語られたことから、古いツイキャスでは【100話目のアイツ】と呼ばれることもある。


ちなみに、なんとなくタイトルに惹かれてリライト読んだら映像的で気に入り、音源も聴いてみたところ「あれ?これってひょっとして…」となった禍話がこれ↓

禍話X 第四夜(下) 2020年11月14日配信
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/651267896
9:15頃〜「日記のあった家」(〜26:00まで)
⇒(リライト)禍話リライト「日記のあった家」

肝試しに入った家に残されてた日記に女性らしき名前が書いてあるのを見つけるくだりがあるんだが(※本編では名前は伏せられている)、その名を聞かされた時のかぁなっき氏の反応(※リライトでは省かれているので音源の15:15あたり参照)を見る限り、この名前、、、『例の女』っぽい。おそらくこの家に導いたのが【例の女】で、通常なら『例の女』シリーズのひとつとして話すべきなんだが、かぁなっき氏自身は女の名前を言いたくて言いたくてたまらない。だが言うとみんなからガチで怒られるので言えない。でも言いたい。そこで、それとは知られないようにまったく別の話として語る、というようなことを実はちょこちょこいろんな話に仕込んでいて、記憶の底にちょっとずつ刷り込まれた関連ワードが、ふいに全部つながって「あ、フルネーム分かっちゃったかも」ていう人が、現れ、そして、消えてゆく、、、みたいなね(笑)。そういう事をやっているのではないかなぁと思ったり思わなかったり。


尚、「禍話X 第四夜(下)」をうっかり冒頭から聴いて尋常じゃない雰囲気に何が起こったのか気になる人は↓こちらでどうぞ。
2020年下半期 禍話X - 禍話 簡易まとめ Wiki*
ざっくり説明すると、「禍話X 第四夜」放送中に『みんな死んだって』という話をしていたかぁなっき氏の声がクライマックスにさしかかったあたりで忽然と消える。呼びかけても応じないため、リモートで参加してる加藤よしき氏の声も不安げに。リスナーも「しちゃいけない話だったんじゃ…」とコメント欄でザワつく。復活後、PCが落ちて通信が遮断されただけだと判明するが、あまりにタイミングが良かったので、もしかしたらあの瞬間異世界に吸い込まれたんじゃないかと心配した加藤氏が、戻ってきたかぁなっき氏が別人と入れ替わってないか確認するため、マニアックな映画クイズを出して本人かどうか確認するんだが、ドラマにも「番組放送中にブレーカーが落ちて、リモート出演していた葱の回転が呼びかけに応じなくなり、直後に失踪」「失踪後戻ってきた兄(葱の回転)が写真とは別人に入れ替わってる」という場面があるので、これが元ネタの可能性もなきにしもあらずということで紹介しておく。
(※放送が中断されたため、この回は上・下に分かれて配信されている。「禍話X 第四夜(上)」は↓こちら。)
 禍話X 第四夜(上) - 禍話 (@magabanasi) - TwitCasting
 46:00頃〜『みんな死んだって』


『もうどうでもよくなった家』『例の女』の他にもう1本、ドラマのかぁなっきが電話の相手から提供されてた禍話にも元ネタが存在する。物語には深く関わってこないので紹介のみにとどめておく。

(音源)THE禍話 第1夜 2019年7月24日放送回
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/557606326
17:45頃〜「9人いるゥ……!」導入部
21:22頃〜「9人いるゥ……!」本編(〜30:40まで)
⇒(リライト)「9人いるゥ……!」

こちらも音源とリライトで微妙に違う箇所があるので聞き比べてみてほしい。




本家『禍話』と元ネタについてはまあこんな感じです。
大体把握したので、次からはいよいよドラマの考察に入りたいと思う。


ちなみに、、、
これから登ろうとする山は吹雪に見舞われた八甲田山です。
方向感覚を失いながらぐるぐるぐる回ります(汗)



続きはこちら↓


参考ツイキャス

緊急生放送!禍話って何なのさスペシャル(2020/10/05)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/644471773
7:10〜禍話の概要
14:30〜なぜ二次使用も可の「青空怪談」にしたか
19:30〜だらだらとしたバカ話の合間に急に怖い話をする語りのスタイルについて。
23:00〜多すぎる番組関係者および話の提供者について整理する。※まとめWikiに人物相関図あり
1:25:15〜みんな怖い目にあえばいい…からの【例の女】の名前が当たっちゃったリスナーが現れる
1:28:00〜 まとめ。今後の予定。