ラッパ屋第46回公演『コメンテーターズ』を観る(@紀伊國屋ホール)

昨年4月に上演される予定だった本作。わざわざチケットぴあの店舗まで行って希望通りの席を手に入れ楽しみにしていたのが、突然のコロナ、緊急事態宣言突入であえなく延期。払い戻しはせず、そのまま劇団に寄付して待つこと1年と3ヶ月、改めて上演となった『コメンテーターズ』(7/22木曜13時の回)を紀伊國屋ホールに観に行ってきました。

ラッパ屋第46回公演『コメンテーターズ』

  • 日程:2021年7月18日(日)~7月25日(日) まで 会場:新宿紀伊國屋ホール
  • 出演:おかやまはじめ 俵木藤汰 木村靖司 弘中麻紀 岩橋道子 大草理乙子 宇納佑 武藤直樹 浦川拓海 中野順一朗 熊川隆一(以上、劇団ラッパ屋) / ともさと衣 谷川清美(演劇集団円) 瓜生和成(小松台東) 青野竜平(新宿公社) 北村岳子 黒須洋嗣 佐山こうた 
  • スタッフ:脚本・演出 鈴木聡/音楽・演奏 佐山こうた/美術 秋山光洋/照明 佐藤公穂/音響 島猛・大久保友紀(ステージオフィス)/振付 黒須洋嗣/衣裳 花谷律子/演出助手 畑田哲大/舞台監督 村岡晋

「劇団ラッパ屋」公式サイト | 劇団ラッパ屋 (@gekidanrappaya) | Twitter


その前に、、、


新宿の地下通路を通り紀伊國屋ビルに入ると、よくランチを食べてた地下の名店街が手前のカレー屋を残しすべて閉店。シャッター通りになっててビックリ。「え?潰れたの?コロナ禍で?」と心拍高まったが「耐震補強工事のため閉店」と書かれたビラを目にしひと安心。ただし、仮店舗というよりは実店舗らしき移転のお知らせを出す店が数件あるので、再開後の顔ぶれは変わってしまうのだろう。

↑今回の公演には出てないラッパ屋・福本さんのTwitter。こんな感じよ。


階段を上って紀伊國屋ホールに着くと、チケットの半券裏に名前と電話番号を書いてほしいと言われ記入。スタッフにチケットを見せ、自分で半券をもぎって所定の場所に入れ奥へ進むと、ホール突き当たりに公演ちらしの入った手提げ袋が「ご自由におとりください」状態で置いてあった。手に取り席へ。「椅子の座り心地が違う…」と思ったら改修してたのか。内装にあまり変化はなく、空調と椅子を交換し配置を変更。できればトイレも改修してほしかった(残念)。中央席は千鳥配置に変わり以前より若干見やすくなったのではないかと思う。


ちょびっとネタバレ。


ラッパ屋の新作、第46回公演『コメンテーターズ』は、妻(弘中麻紀)と35歳の息子(瓜生和成)と暮らすごくフツーの親父(おかやまはじめ)が主人公。定年後の再就職先がコロナで倒産、いきつけのスナックもコロナで潰れ、暇つぶしに観ていたYouTubeでHIKAKINを知り面白半分にYoutubeデビュー。「YouTuberよこちゃん」として世間にウケて、朝のワイドショーのコメンテーターに抜擢。番組では連日、コロナ禍でのオリンピック開催に向け、開催の是非を問う白熱した議論が多彩なコメンテーター陣によって繰り広げられていた。よこちゃんは“町で暮らす普通のおじさんの代弁者”という立ち位置を求められ、ある種の《異物》として予定調和となった番組に新風をもたらすことを期待されて放り込まれる。いろいろやらかしながらも出演者とも徐々に打ち解け、自分の個性を無理なく表現できるようになってくると、ワイドショーというものの構造が、立場の異なる出演者が思い思いに好き勝手なことをぶつけ合う異種格闘技場ではなく、視聴者の動向にあわせ全出演者が持てる経歴・個性を駆使し作りあげるチーム戦で成り立ってることを学ぶ。ところが、、、オリンピック開催に向け日本が大きく動き出したことにより、長らく「中止」に傾いてた世論が変化。スタッフは舵取りに苦悩し、一番下っ端であるよこちゃんが立ち位置の変更を求められる事態に・・・。


久し振りのラッパ屋喜劇に大いに笑ったものの、物語の前半は開催か中止かが議論の中心で、既にオリンピックが始まってしまった《いま》となっては現実をただなぞってるだけのようにも見え主張自体は若干退屈。予定調和な主張のぶつけ合いに「1ヶ月前ならともかくいま描くには少し古いな。どう締めるつもりだろ」と先の展開を危惧したが、話が進むにつれて劇中の時間も徐々に進み始め、7月以降に書いた(注:芝居の稽古は6月に始まってる)、すなわち稽古中にも世間の動向に合わせセリフを書き直してるとしか思えないような空気感が表現され始めると、まさに《いま》が表現されているというそのタイムリー感と、世論の動向を気にするワイドショー関係者の苦悩が、この劇を作りあげている劇作家・鈴木聡の苦悩に重なるという入れ子構造にドキドキした。


立ち位置の変更を求められたよこちゃんが、自分の決断について身近な人に責められるんだが、そのときに語った心情が、話の展開としては意外、でありながらも、安易に炎上路線に走らず人間の心の複雑さを表すことに重きを置く描き方でとても好き。(※炎上路線に走らなかったのには理由があったことが後にわかる)


コロナに纏わる一連の騒動に対するモヤモヤした気持ちを代弁するかのように、いろんな人の立場を思って揺れ動く主張、白黒はっきり切り分けられない人々の心情、さまざまな立場の人が顔色をうかがいながら動いた結果が《いま》であり、だからこそとことんまで話し合う必要があるんだと、そのためのヒントと正確な情報を提供するのがテレビなんじゃないのかと畳みかけられるクライマックス。その最後にとある仕掛けが明かされた瞬間、肩の力がフッと抜け、思わず落涙。感情がどうにも高まって抑えられなかった。そんな中で始まるカーテンコール。高まる拍手の音に「これはもしかして…」と思ったら客電ついても鳴り止まず、ラッパ屋で初めて体験するWコールだった。


紀伊國屋ホールでの公演は7月25日(日)まで。土日はまだ若干チケットが余ってるらしい。気になった方は是非。尚、7月25日(日)13時・17時の公演はイープラスでのStreeming配信も予定(7/31まで見逃し配信あり)。チケット購入方法等、詳しくは↓こちらでどうぞ。


感想まとめ





そういえば、上演前のアナウンスを↑で紹介したラッパ屋の福本伸一さんが担当していた。「あれ? 今日出てないんじゃ」と思いつつ聞いてたら、最後に

以下、ネタバレ
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「アナウンスは福本伸一でした。今回は、、、出ておりません!」と言いだすんで「え?いるんなら出てよ〜」と思わず笑ってしまったが2回目もまったく同じトーンだったので録音なんだろう。調べたら、7月25日までキスマイの宮田君主演舞台『音楽劇 グレートプリテンダー』に出演中とのこと。だから出られなかったのか。


ネタバレ終了



公演は7月18日から始まったが、1ヶ月前には台本が仕上がっていたはず。時系列を書き記し備忘録とする。

  • 6月1日(火)「海外選手団が初入国。合宿開始」と報じられ、「え?オリンピックやるの?」と世間がどよめく。

https://www.asahi.com/articles/ASP612H3JP61UTIL003.html

  • 6月6日(日)yahooニュースに「“五輪反対”色を強めるワイドショースタッフの本音 恐れる“手のひら返し批判”」との記事があがる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f26ce3c3fba34408cd77e77d7809172d91e64ea3

  • 6月15日(火)「東京商工リサーチによる企業アンケートによれば、予定どおり開催と答えた企業は35.9%、中止または延期が64.0%」と報じられる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/af18f8d5764b21655524ab00de5c5c0825fd0b4c
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210615_03.html

  • 6月20日(日)東京などの緊急事態宣言解除。まん延防止に切り替え。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210618/k10013090601000.html

  • 6月20日(日)ラッパ屋『コメンテーターズ』稽古開始。

https://twitter.com/caznary/status/1406478405692887045

  • 7月1日(木)「1日から海外選手団の来日が本格化。選手が続々空港に到着。ピークは12〜18日」との報に、開催は揺るぎない決定事項だと知り、無観客かどうかが議論の中心に。

https://www.news24.jp/articles/2021/07/01/07898780.html

  • 7月8日(木)感染者数再拡大により「無観客開催決定」と報じられる。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210709/k10013130431000.html

  • 7月12日(月)ふたたび緊急事態宣言発令。イベントは収容率50%以下で開催。
  • 7月15日(木)ラッパ屋『コメンテーターズ』最終稽古。

https://twitter.com/caznary/status/1415626289180909568

  • 7月18日(日)ラッパ屋『コメンテーターズ』公演スタート。