大駱駝艦・舞踏公演 高桑晶子「ぼたのおかみ」@壺中天

世田谷パブリックシアターで行われる麿さん演出の本公演、天賦典式はここ数年毎回観に行ってるんだけど、本拠地である吉祥寺・壺中天での公演は一度も行ったことがなく、今年は意を決し観に行ってきました。


壺中天は吉祥寺駅から徒歩15分ぐらい行った閑静な住宅街に佇むビルの地下1階にあり、位置的には吉祥寺バウスシアターがあった場所から更に10分ぐらい歩いたところ。19時より整理券配布で19時半開場、20時開演。開場の5分前に着いたら既に30番ぐらいだった。定員はぎゅうぎゅうに詰めて60人ぐらいかな。狭い小劇場だけど、壇上なら前の人の頭も邪魔にならずとても見やすい作りの劇場だった。ただ、開場10分もすると最前(舞台かぶりつき)や端の席ぐらしかなくなるので、壇上中央付近の席を確保したければ開場前に到着しておくのが吉。開演待ちで並んでると、スタッフが手荷持預かりの声かけしてきた。割とリュックがパンパンだったので見せながら「ここにくるの初めてなんですけど、預けた方がいいですかね?」と尋ねたら「できればその方がいいと思います」と言われたので、コンビニで飲み物買ったときのレジ袋に貴重品等入れ替えて預けることに。引換の番号札をもらっていざ中に入ると、確かに預けて正解だと思う狭さだった(コンビニ袋だと音が出るので、次行くときは詰め替え用の布製バック持ってくわ)。飲み物も持ち込めるけど、狭いのでペットボトルじゃないとこぼして危険。上演中に飲みたい人は、炭酸ものは避けた方が吉。たまにしか音楽がかからず、上演中に出る音といえば、足音や踊り出しの合図の声ぐらいなため、蓋開けるときのプシューッて音が結構響き、開けるときに難儀してた(ゆっくり開けて徐々に炭酸逃がそうとしても結局音出ちゃうのよね)。上演前にスタッフが最前席の客に対し「いざというときに使ってください」とビニールシートを渡す。「いざ」ってなんだろ?と思ったが、クライマックスで判明(笑)。飛んでくるのは水ではなく、金粉まじりのほとばしる汗でした。ただし、踊りに見入ってるとついつい使うの忘れるので、最前席になりそうな人は汚れてもいい服で行った方がいいかも。

大駱駝艦・舞踏公演 高桑晶子「ぼたのおかみ」
上演期間:2019年6月17日(月)〜6月23日(日) 会場:壺中天(吉祥寺)
振鋳(振付)・演出・美術:高桑晶子
鋳態(出演):高桑晶子、鉾久奈緒美、伊藤おらん、齋門由奈、谷口舞、古田真奈未、坂詰健太、荒井啓汰


思い切って来て良かった。広い空間で遠くから観る舞踏と、消灯すれば完全なる暗闇が訪れる狭い空間で渾然一体となりながら見る舞踏がこんなにも違うのかと思った。鵺的の時も思うけど、「小劇場」という場所にはそこでしかなし得ない・得られない独特な空間が存在する。


天賦典式で目にしてきた麿さん演出の大駱駝艦は、生命や肉体といった小宇宙が古代から遙か遠い未来まで包括した大宇宙の中で描かれることが多く、ジェフ・ミルズの楽曲とも相まってどこかサイバーな雰囲気も感じられるんだけど、今回観た高桑さん演出の大駱駝艦は、豊穣の神を奉る農耕民族的な世界観というか、能や歌舞伎、浮世絵、鳥獣戯画の絵巻物といった日本の古典芸能とのつながりを深く感じさせるものに仕上がっていた。北斎漫画に描かれた多種多様な人物を思い出すような肉体の動き、筋肉、手や指、顔の造形が多用され、まさに《動く浮世絵》って感じ。白く塗られた顔は能面のような無表情から、歌舞伎役者のように目を大きく見開き、口をへの字に大きくひん曲げて肉体の極限までデフォルメされた形で喜怒哀楽を表現することもあれば、照明の当て方により白塗りの顔に陰影で表情をつけることもあるなど、客席から演者ひとりひとりの顔がよく見えることを意識した演出がつけられており、Eテレの「にほんごであそぼ」スタッフは一回、高桑さんとコラボしてくんないかな(子供泣いちゃうかもしれないけど…笑)と本気で思ったぐらい。極度に少ないまばたきによって赤く充血した白目に、真っ黒な瞳、たまに大きく開かれた口や舌の赤さが、白い顔によく映えて美しい。


ラストに円鏡を顔の前に掲げた白塗り軍団の中央から、ひときわ高身長の全身金粉を塗りたくった高桑さんが登場するんだが、意図的にやってるのかたまたまなのか、場内のクーラーが一時的に止まり、金色の素肌から文字通り玉のように汗が吹き出し、それが照明に照らされきらきらと光る様を観てうわあとなった。半身だけ金粉ていう状態は見たことあったけど、全身金粉見たのは初めてという事実に今更ながら気付く。神々しいまでの踊りに圧倒され、崇め奉りながら、「とにかくいま私は凄いものを見てる」という興奮状態のまま終演。めっちゃ生命力注入された。閑静な住宅街を駅に向かって歩くと、ありふれた日常世界とのギャップに「私はいま何を観てたんだろう」という何かこうふわふわした気持ちがおさまらなかった。同じく家路へと急ぐ他の客たちもとても興奮しているようだった。



↓こちらがラストの写真。


「これはナニ? 何事?!」て思うでしょ(笑)。異空間を体験したい方は是非勇気を出して壺中天に来てみてください。さすればわかります。


やっぱり鉾久さんの「阿修羅」を見逃したことが悔やまれる。再演しないかなあ。
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