知られざる精子の世界

先日『世界まる見えテレビ特捜部〜楠田絵里子サヨナラSP〜』で放送されたイギリスCAHNNEL4制作「THE GREAT SPERM RACE 偉大なる精子競争」が面白かったので内容をまとめておくことにします。


番組自体は精子を人間の姿に置き換え受精に至るまでの過程をドラマ化したもので、さわりの部分は↓こちらでみることができます。

精子誕生→精巣→精巣上体への道

男性の生殖器・精巣の中では、心臓が1回脈打つたびに約1千個、1日に約1億個の精子が作られる。その体長はわずか0.06ミリ。姿形は1個ずつ全て異なっている。精巣は身体の外にぶら下がっているため、体温より3度ほど温度が低い。これはより多くの活発な精子を作るためだと言われている。


精子の頭部には遺伝子情報が組み込まれており、Y染色体をもった男性になる精子とX染色体をもった女性になる精子があり、両者は同じ数だけ作られる。男性の精子は素早く動くことが出来、女性の精子は寿命が長いと言われている。


生まれた精子はその後、精巣上体(副睾丸)へと移動。そこでは10億個の精子を蓄えておくことが出来る。暗く曲がりくねったパイプラインに詰め込まれた精子たちは、ここで静かに射精のときを待つ。しかし精子の中には、これから始まる生き残りをかけたレースに参加すらできないものもいる。生殖能力のある一般男性でも、元気で丈夫な形の精子は全体の20%ほど。つまり残りの80%ほどは全く役に立たず、受精のチャンスさえない。妊娠の確率を少しでも上げるためには、新鮮な精子が大量に必要。1ヶ月を通して2,3日起きに性交すれば妊娠の可能性は高くなるといえる(最近の研究では女性のオーガズムも妊娠に深く関与してることがわかってきている)。

射精→膣内(酸による攻撃)→子宮頸部への道

射精の瞬間、精子前立腺と精のうで作られる液体と混ざりあって精液となり、わずか2秒で膣内へ放出。その数、約2億5千万個。彼らの最初の目的地は膣の上部にある子宮頸部と呼ばれる器官。そこはまるで巨大な山脈のよう。素早い男性の精子に必死で追いすがる女性の精子。彼らの目的は卵子と受精すること。しかし精子たちの行く手を阻むのは過酷な環境だけではない。通常、女性の膣内は雑菌などの繁殖を抑えるため酸性に保たれている。ところが精子は酸に弱く、ほとんどがここで力尽きてしまう。膣内に入って30分、99%の精子が死亡。生き残った精子たちは最初の目的地である子宮頸部付近に到着。しかし膣から子宮頸部まではかなりの高さがあり、精子の力だけではたどりつくことができない。これを手助けしてくれるのが頸官粘液。女性は排卵期が近づくと普段は酸性の膣内に頸官粘液と呼ばれるアルカリ性のホルモンが分泌される。この中を泳ぎ、生き残った精子たちは子宮頸部へと進むことができる。

子宮頸部→子宮(白血球からの攻撃、認証システムによる選別)→卵管への道

子宮頸部に到着した精子たちは、次に幾重にも枝分かれした先の見えないトンネルを進み、子宮へと向かう。ところがこのとき、行き止まりのあるトンネルを選ぶと閉じこめられてそのまま死亡。正しい道を進んだ者だけがなんとか子宮に到達。その数、約3千個。この時点で、最初の0.0012%にまで激減。そしれ彼らに更なる試練が。それは広大な子宮の中から、卵管へとつながる小さな入り口を見つけ出すこと。加えて彼らの行く手を遮る最強最悪の敵が出現。おびただしい数の白血球が精子たちを悪者だと認識。排除しようと容赦なく襲いかかる。圧倒的な攻撃力により、ほとんどの精子たちが死亡。そんな中、白血球の攻撃をかいくぐったわずかな精子たちが幸運にも卵管の入り口を発見。ところが卵管には認証識別システムのようなものが働いており、優秀な精子しか通過できない。中に入れなかった精子はやがて白血球の餌食に。白血球から逃れ認証識別システムをクリアした精子だけが、卵管へと到達することができる。

卵管(しばしの休息)→最後の競争→受精への道

卵管に辿り着いた精子はここでしばし休息をとりながら卵子が近づいてくるのを待つ。卵管には精子が必要とする栄養素があり、数日程度なら穏やかに生きていられる。卵子が近づくと一斉に卵子のもとへと向かう精子たち(最近の研究で、精子卵子の存在をある匂い(スズランのような香り)で感知してることがわかっている*1)。精子たちの身体からはたんぱく質の膜が剥がれ落ち受精の準備が整う。匂いをたよりに卵子に一番乗りした精子は、頭部から酵素を出しながら卵子の中へ侵入。精子が中に入ると、卵子は膜を閉じ、他の精子が中に入って来られないようにする。精子卵子の遺伝子情報がまざりあい受精完了。


以上の条件が全て満たされて初めて、精子卵子は受精し妊娠に至るんだそうです。思った以上に障壁は多かった。ていうか白血球って精子も攻撃してたのね。



*1:何故そんなことがわかったかというと、女性生物学者が自ら実験台となり、性行為の直後に精子のたまった卵管を切除する手術を行ったから。