『パッチギ!』『血と骨』を観た(@パルテノン多摩小ホール)

11/19(土)から多摩市各所で開催されてる「第15回映画祭TAMA CINEMA FORUM」。初日にあたる19日に、在日を主役にした映画4本を集めた特集上映「在日のありようはどう変遷したか」が行われたので観てきました。上映された作品は『フライ,ダディ,フライ』『パッチギ!』『血と骨』『IDENTITY 特別版』。合間に:梁石日李鳳宇松江哲明を迎えてのトークショーもあり、全部観ると10時間以上になる長丁場。さすがにそこまで体力ないっス!ということで映画館で観た『フライ〜』だけパス。


会場となるパルテノン多摩小ホールは300席ぐらいあるところで、前売り1200円(1日通し券)という安さも手伝ってか案の定満席。途中参加の身としては座席探しに一苦労です(しかも最初に好位置をGETしたのに、隣の兄ちゃんの臭さに耐えきれず席を移動…とほほ)。年齢層は下は20代から上は70,80代まで。40代50代ぐらいが一番多かったのでは。


パッチギ!

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今年の1月から6月まで5ヶ月間にわたり上映されてた本作。劇場公開時にまだやってるまだやってると余裕ぶっこいてたら、知らぬうちにレイトショーに。結局観にいけないまま終わってしまったけど、評判が良いので「これは間違いなくTAMA CINEMA FORUMでやるな」と予測。DVDも借りずに待ってました(『のど自慢』『ガキ帝国』『パッチギ!』、トークショー(井筒&李鳳宇)で井筒監督特集組むんじゃないかと予想してたけど、在日特集できたか!)。


結論から言うと、とても面白かったです! まさに笑って泣いての世代を越えた大衆娯楽映画で、こういうおじちゃんおばちゃんも足を運びやすい公民館みたいなとこでやるにはピッタリの映画。布川先生(光石研)の説教が年配の方々に異常にウケてたんだけど、あんなこと喋る先生が実際にいたってことなんだろうか。客の楽しんでる空気がビシバシ伝わってくると、ひとりでDVD鑑賞しなくて良かったなと。300人以上の老若男女とひとつのスクリーンで一緒に観られるっつーのは幸せだなと思った。最後の「イムジン河」熱唱にやられちゃったのか、終わってからもグスグス鼻すすってる人がいっぱい。隣で観てた50過ぎのおっちゃんなんか私以上に泣いてたよ。


井筒さんはこういうバカで一途でどうしようもない若者を撮りまくった方がいい。大人の余裕とかいらない。才能の使い方間違えてる。ライフワークにしろ!(笑) 出てくる兄ちゃんたちの面構えにはひと安心した。今の若者でもまだまだイケるじゃん(嬉)。端の席で観てると、ちょっと視線を動かすだけで瞬時に客の姿が目に入ってくるんだが、不思議なもんで、音楽やセット、衣装といった画作りのせいもあってか、時折ひと昔前にタイムスリップしたような錯覚に陥った。しかしあの楊原京子ちゃんにはビックリ。しばらく本人だと気づかなかった(苦笑)。高岡蒼佑を筆頭に男陣も皆はまってたけど、朝高の姐さんたちがとにかくめちゃめちゃカッコイイ! キョンジャの友人(女優さんの名前分からない)といい、おばパーマの真木ようこちゃんといい、黒チマチョゴリ・スケバン・ルック萌えですよ(笑)。井筒さん、男子ばかりじゃなく女子ケンカ映画も作ってくれ。


場所は京都だし、朝鮮高校VS不良高校の対立で、時代も68年。世代的にも描かれてる内容と被るとこないなあって思ったけど、トークショー聞いて思い出した。非常にローカルな話で申し訳ないけど、私が中学のときに聞かされてた「立○」という町(※ゲッツ板谷さんの出身地)のイメージがまさにコレだった(苦笑)。80年代半ばといえば、東京と言っても三多摩地区じゃ、まだヤンキーが頑張っていた頃。今でこそ○川と言えばバリアフリーで小綺麗な町だけど(ここのシネコンには長年お世話になってます)、再開発前はすごかったのさ。元々治安があまりよろしくない上に、地元の中学生だか高校生が朝鮮学校の子にワルさして、怒った朝鮮学校の生徒らと駅周辺で日々ものすごい抗争を繰り広げてると噂が立ち、「平日に中学生だけで立○駅に降りないように」と脅されてたぐらい。木刀持って線路の上を追いかけ回したりとかね。いま思えば、国士舘VS朝鮮高校の武勇伝が多分に加味されてたように思う(そんなオチかよ)。トークショー梁石日氏が「井筒さんには国士舘VS朝鮮高校の乱闘事件を是非映画化して欲しい」と言ってたけど、同感です。(関連:【伝説】 國士舘 VS朝鮮高 Part 31 【昭和史】



出てる役者はみんなイイんだよ。役柄にドンぴしゃはまってて。一人一人言ってくときりないので、あえて朝高側のチェドキ役を演じた尾上寛之を挙げてみる。


以下、ネタバレ
主人公が仇討ちに行くっていうクライマックスを作るために殺されちゃう役周りの子っているじゃん。仲間の中では一番取り柄が無くて、一人でついつい粋がったら運が無くて死んじゃったっていう。尾上寛之の演じたチェドキって役がまさにソレだったんだけど、この子、不良グループに捕まる前から顔に死相が出てたんだ。アンソン(高岡蒼佑)から学ランもらって表に飛び出したとき、一瞬彼の顔がアップになるんだけど、なんか死んじゃいそうな顔してるんだ。「え?なんで? この後死んじゃうの?」って思ったら、そのすぐ後に不良グループに捕まって、「やばい、やっぱそういう展開かよ!」って思ったらそこでは死ななくて、「おお…」ひと安心した直後にアレですよ(ここら辺の展開は上手すぎ)。「井筒さん、この見せ場のために尾上君を選んだんだなあ」と勝手に一人で納得した。まあ、でも伏線みたいなもんはあったんだよね。アンソン(高岡蒼佑)が祖国に帰ることになって、康介(塩谷瞬)に「音楽教えてくれよ」って頼むときの頼りなげな寂しげな表情とか。今までそんな顔見せたこと無かったのですごく意外だった。ケンカばかりしてた奴が音楽?って思ったけど、康介にOKしてもらったときの照れたような嬉しそうな表情観てると、仲間が離ればなれになってくのが寂しくて連める相手が居ればなんでも良かったのかなと。そういう一面があるんだなあ、と知った矢先の出来事だったから、余計にあの表情を観たとき「死相が出てる」って受け取ってしまったのかもしれない。尾上君には今後も頑張りが空回りする運のない子をじゃんじゃん演じて欲しい。
ネタバレ終了


40代50代ぐらいの人が一番ツボど真ん中だったんじゃないかって考えると、渋谷だけじゃなく、郊外のシネコンでも公開されれば良かったのになと。それだけが残念。

血と骨

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これは《金俊平》という一人の男をいいとこも悪いとこも含め全て描ききった!という作品。すんごい不器用な人ですよね。そしてものすごくヒドイやつです。でも、一家の長として力も才もあり、彼を中心にあれだけの人数がまとまり、商いを営み、日々の生活の糧を得ているという歴然とした事実がそこにあるのが凄い。なんだかんだ言っても、商売がうまくいってるときはみんな活気にあふれてるしね。そういうのを見せつけられると、人格的には問題ある人物だけど認めざるを得ないというか、必ずしもそこにあるのは憎悪と恐怖だけじゃないんだなと思ったり。


作品としては、『パッチギ!』の後だけにセットや人物の作り物な感じが気になった。金俊平(ビートたけし)の妻を鈴木京香が演じてるんだけど、彼女はミス・キャストだったかなと。優しすぎる。殴るシーンでもどこかためらいがあって、旦那に対しての敵意が見えない。原作読んでないけど、このオモニ(お母さん)にはもっとしたたかで力強くあって欲しかった。「あてつけに食堂を開いた」と言われても、仏壇に向かって長々と呪詛の言葉を吐いていても、嫌味な感じがしなくて、ここらのやりとりはもっとコミカルに見えないといけなかったんじゃないかと思うんだけど、考えすぎだろうか。。。



トークショーと『IDENTITY』についてはまた後日。トークは地名とか人物名とかいっぱい出てきて覚えられなかったのであんまり期待しないで。『血と骨』『月はどっちに出ている』の原作者である梁石日氏が、非常にお茶目で可愛らしい人でした(笑)。数十年後にはかなりいい感じの好々爺になりそう。『IDENTITY』は、『パッチギ!』観た後だと、出演してる在日の彼女の発言が朝高の姐さんといちいちダブっておかしかった(笑)。