『セキ☆ララ』まもなく公開(6/3〜6/23まで)

 在日コリアン3世の松江哲明監督が、AV業界に生きる男女3人(在日二世、三世、中国人留学生)にカメラを向け、彼/彼女たちのアイデンティティに迫ったドキュメンタリー『セキ☆ララ』が明日から公開される。元々本作は、『韓朝中 在日ドキュメント アイデンティティ』というタイトルで制作された正真正銘のアダルトビデオ。昨年、山形国際ドキュメンタリー映画祭で絡みのシーンをいくらか削って再編集した『IDENTITY 特別編(現・セキ☆ララ)』が上映された際には、入場者殺到により急遽倍のキャパを持つホールへ変更を余儀なくされたという逸話を持つ。本作には在日韓国人三世の相川ひろみ、中国人留学生の杏奈、そして在日朝鮮人二世の花岡じったという3人の在日AV俳優が登場し、家族のことや在日としてのアイデンティティについて赤裸々に語ってくれてるのだが、皆「天然系」というか(笑)、非常に魅力溢れる可愛らしい人たちなので、「在日を扱ったドキュメンタリー」といっても暗く重たい雰囲気はまるでなく、笑いに満ちたエンターテイメント作品に仕上がっている(しかもちょっと胸キュン)。
 今回は、普段ドキュメンタリーをあまり見ない人や女性陣にも広く観てもらいたいということで、タイトルも社会派な『IDENTITY』から『セキ☆ララ』へと衣替え。普段ドキュメンタリーは扱わないのだけど、私にしては珍しく先行で観てる作品なので、本作を観た人がどんな感想を抱くのかという興味もあり紹介してみた次第。シネマアートン下北沢で本日まで上映している松江監督『あんにょんキムチ』『カレーライスの女たち』2本立ても、昨日の興行は補助席も出る大入り満員だったそうなので、この波に『セキ☆ララ』も乗れるかどうか楽しみです。公開は3週間。連日豪華ゲストを迎えてのトークショーも行われるのでこちらもお楽しみに(ほんとに豪華です)。

『セキ☆ララ』 6/3(土)〜6/23(金)まで


【監督】松江哲明【撮影】松江哲明/村上賢司
【出演】相川ひろみ/杏奈/花岡じった
83min/R-18指定/2005年
□上映館:シネマアートン下北沢(21:00〜レイトショー)


【STORY】 前作『あんにょんキムチ』で自身の在日としてのルーツを探る旅に出た松江監督が、撮る側のポジションに徹することで、AV女優、AV男優として生きる「在日」の人々の、身も心も裸になった姿を直裁に捉えたのが本作『セキ☆ララ』。2つのパートから成っており、第一部は、在日韓国人三世のAV女優・相川ひろみ(金 紅華)が少女時代を過ごした広島県尾道市へ向かう旅を追った〈ロードムービー編〉。第二部は、中国からの留学生・杏奈と在日朝鮮人二世の人気AV男優・花岡じった(柳 光石)の異色カップルを 追った〈1日デート編〉。



松江哲明監督ブログセキ☆ララ宣伝日記

6/3(土)上映前に初日舞台挨拶あり。ゲストは松江哲明カンパニー松尾を予定。(追記:初日舞台挨拶の模様


連日トークショーor特別上映が予定されています。このメンツがとにかくすごい。

【松江監督&ゲストトーク】 ※上映後
6/4(日) 豊田道倫(ミュージシャン)
6/5(月) 伏見憲明(作家)
6/6(火) 瀬々敬久(映画監督)
6/7(水) 藤井誠二(ノンフィクションライター)
6/8(木) 北小路隆志(映画評論家)
6/9(金) 佐々木敦(音楽評論家)
6/10(土) いまおかしんじ(映画監督)
6/12(月) W杯をぶっとばせ!「童貞。をプロデュース」上映
6/13(火) 綿井健陽(ジャーナリスト/『Little Birds』監督)
6/14(水) 山下敦弘(映画監督)
6/15(木) 宮台真司社会学者)
6/16(金) 園子温(映画監督)
6/17(土) バクシーシ山下(AV監督)
6/18(日) W杯をぶっとばせ!「童貞。をプロデュース」上映
6/19(月) 女池充(映画監督)
6/20(火) 緒方明(映画監督)
6/21(水) サトウトシキ(映画監督)
6/22(木) W杯をぶっとばせ!「童貞。をプロデュース」上映
6/23(金) 松江哲明監督ラストトークショー


※当日14:30より整理券配布。


藤井誠二さんといえば、はてブにも捕獲されてる松江監督との『カミュ〜』対談はかなり面白かった。
ドキュメンタリー監督の松江哲明さんとの対話。映画「カミュなんか知らない」への違和感。
トークショーではこれに関連したことも話すそうなのでこの日に行かれる人は特に要チェック。「ドキュメンタリーを撮れる人が実際の犯罪事件を“フィクション”で撮る意味」というのがここ数年の個人的興味なので、犯罪とフィクションとドキュメンタリーについてこのまま延々と対談続けていってほしいぐらい。過去に『驚き桃の木20世紀』のディレクターをやってた緒方明監督とのトークショーも気になります。そういえば今秋公開される園子温監督『紀子の食卓』はアルゴ・ピクチャーズ配給だけど、これも松江監督が予告作ったりするのだろうか。



ちなみに、映画を観た後で↓にリンクしといた松江監督のインタビュー(特にINTROのやつ)を読むと、撮影の舞台裏とかあのときどうしてこんな言葉が出てきたのかとかが分かるようになってるので、興味をもたれた方は是非!
(追記:そうそう、大事なこと忘れてた。MovieWalker(NIPPON EROTICSの方)のインタビューで「参考にした作品などありますか?」という問いに、松江監督、『水曜どうでしょう』の名前をあげてます! 言われてみればキムチにまつわるやりとりや、そのオチにあの画を見せるあたり、どうでしょうっぽい。下北でスープカレー喰って「セキ☆ララ」観るってのも乙なコースです)



※軽めの感想を書いておくと、観た人は必ず言うと思うが、とにかく杏奈ちゃんがかわいい、かわいい、かわいい、かわ(ry。杏奈ちゃんのお相手をする男優・花岡じったさんも、絡みの前に行われた中華街デートでしょっちゅう「かわいい」を連発するもんだから惚れちゃったらどうしようとドキドキした。マイケル・ジャクソンの日本滞在がえらく長引いているのは『セキ☆ララ』を観にくる予定だからではないかと夢想したり(その理由は劇場で)。特に『パッチギ!』観た人などは、相川ひろみ“姐さん”の発言、必聴です。彼女は自分が在日だと知らずに子供時代を過ごしてたらしく、いまも「異常に家族思い」という所以外は日本人と変わらないんじゃない?と自分では思っているんだけど、学生時代を過ごした京都で想い出話を語り始めたところ、口から出てくるのは真木ようこちゃん演じる朝高の姐さんを彷彿とさせる“武勇伝”ばかり。それら発言と彼女自身が思う自己像との間に生じるギャップが非常に可笑しいのです(あんなおとこまえ発言するお父さんに育てられりゃそんな子にも育ちますって)。まあ、他にも、花岡さんの「好きなもの」の話や面白いところは一杯あるのだが、詳しい話は実際に劇場で観ていただくとして、在日のアイデンティティが主題ではあるけれど、3人それぞれの話を聞いていると、個人的には、アイデンティティの形成に一番影響を与えてるのは「国」より「家族」なのかなと思わされる映画でもありました。また、8mmの映像って映ってるのは“現在”なのになんであんなに過去の郷愁を誘うのだろうと、映画を観た帰り道、自分の家族のことなど思い出してなんだかちょっと涙出てきたというのはここだけの話です*1

あんにょんキムチ

あんにょんキムチ



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*1:でも、これを観たシチュエーションが10時間ぐらいかけて行われた「在日特集」という枠組みだったもんで、在日コリアンを主人公にした映画やトークショーを延々と堪能した最後にこれ観たら、なんだか途方に暮れちゃったんですよ。『セキ☆ララ』で語られる在日コリアンの話がとても身近に伝わってきたせいで、そこから再度『パッチギ!』や『血と骨』の世代を眺め直すと、彼ら上の世代のいる場所がとてつもなく遠くに思えて、この距離を埋めるために私はあと何本、いや何十本在日ドキュメンタリーを観なければならないのだろうと考えたら、、、果てしなかった。喩えるなら、『TAKESHI'S』ポスターに描かれた無数の顔写真のうち、眉頭とか口元あたりのピースを5つぐらい渡されて「残りは自分で探してこのポスターを完成させてね」と言われた感じ。そういった意味では、『セキ☆ララ』をこれ単独で観られる人が羨ましかったりもします。