上映前に瀬々敬久監督と三浦誠己、そして前作『ユダ』に主演した岡元夕紀子を迎えてのトークショーが行われた。瀬々、三浦、岡元の順に登場し、左から順に着席。
まずは、岡元夕紀子がトークショーに呼ばれた経緯について。『肌の隙間』出演者である三浦誠己とトークショーをやるにあたり、瀬々監督はまず共通の知り合いである千原Jrを呼ぼうと提案したそうだ。しかし「吉本はギャラ高いっすよー!」と三浦君に却下され、じゃあ誰がいいんだ?と聞くと、別れ際にボソッと出た名前が「岡元さん」。というわけで「三浦君の“熱望”により岡元さんに来てもらうことになりました」と監督から振られ、本人を横に「いや、『ユダ』はDVDも発売されるし岡元さんなら『ユダ』の話も出来るかなと思って。熊切さんはあの人飲んべえだから、絶対飲んでくるんでしょ? Jrはほんとにギャラ高いんでユーロスペースさんが大変・・・ウソです」と照れ笑いしきりだった。Jrとのトークショーが実現しなかったのは惜しいがまたチャンスはあるだろうし、『ユダ』公開時、出演者によるトークが実現しなかったので、時期はズレたがこのメンツでのトーク開催は嬉しい限り。
初共演どうしということで、岡元さんの印象を問われた三浦君。瀬々監督は役者としての印象を訊いたつもりだったのに、「『ユダ』の撮影中、普通の民家を控え室として使わせてもらってたんですけど、こたつで二人して待ってたら、年末だったもんでその家の親戚の人たちがやってきて、僕らの周りで親戚の誰それが死んだとか、誰それとはウマが合わんとかやり出して、しまいには「飴ちゃん食べぇ」なんて渡されたり。そしたら岡元さんがトイレにでも行く感じでしれーっと出てって、帰ってこないなと思ったらそのまま別のとこで待ってたらしく、ADさんが呼びにくるまで僕一人で待たされたときの恨みは忘れません!」と答えるので、そんなこと訊いてないだろ?とばかりに“女優”としての印象を改めて問い直す監督。ようやく質問の意味に気づき、「ハードな役なのにずっとモチベーションが下がらずスゴイなと思った」と答え直した。岡元さんにも三浦君の印象を尋ねてみると、「いつも現場を和ませてくれた」とやはり人柄について答えるため、役者として言及するところはないのか?とばかりに再度役者としての印象を問い直すと、照れ笑いののち「アドリブがたくさん出てくるのでスゴイと思った」と答え直してくれた。なかなかにマイペースな二人である(笑)。
三浦君によれば、『ユダ』の撮影はほんとにハードだったらしく、制作部の人の運転で瀬々さんと岡元さんと3人で高速にのったら、運転してた制作部の人が途中から眠気でぐらんぐらんしてきちゃって、危ないからと瀬々さんが運転を代わった瞬間ものすごい早さで飛ばすんで「瀬々さんもよっぽど早く帰りたかったんだなあと思った」なんてことを語っていた。
『肌の隙間』の感想を問われ「痛い映画だった」と答える岡元さん。監督と三浦君は、初めて観たとき「どえらいことになってる」と思ったそうで、「試写が終わった後、三浦君がやってきて「遺作ですか?」と訊かれた」と瀬々さんが言うので場内大爆笑。三浦君によれば「公開初日に瀬々さん自殺するんじゃないかと思った」とのこと。好き嫌いの別れる作品だが、三浦君自身は『肌の隙間』を大層気に入ったらしく、「自分に子供が出来て、その子が成人したら観せたい」とマジに語り、怪訝そうな顔をする瀬々監督。試しに岡元さんにも「人に勧めます?」と尋ねてみたが、「もちろん勧めますよ」と答えたため、一人納得いってない様子だった。
これまでにも普通じゃない役を度々オファーされてきた岡元さんだが、司会者からの「不二子さんの役をオファーされたらどうしますか?」という問いには「私には無理です。『ユダ』が精一杯」と即答。『こぼれる月 [DVD]』で“引きこもり”の役を演じていたが「そのときの役作りはどうしてたんですか?」と瀬々監督に問われると、「役で着てるパジャマを家でも着て、役を自分に引き寄せてました」と答えていた。
司会者から「『肌の隙間』が遺作にならなかったら、次はどんな役で瀬々作品に参加したいですか?」と問われた二人は、揃って「普通の役がいい(笑)」と即答。「何も背負ってない、何の障害もない、こいつ生きてて何が面白いんやろというような何でもない男の役をやりたいです」と三浦君がつけ加えると、「自分の存在のみで勝負しようということか!(笑)」とすかさず監督から突っ込まれてた。
監督から「『肌の隙間』で勝手に台詞を変えたんですよ」と暴露された三浦君。「撮り直すのもめんどくさいのでそのまま使った。しょーもないこと言ってるので是非本編で確認してください」と監督が嬉しそうに話すと、『ユダ』撮影時のエピソードを出し弁解する三浦君。曰く、『ユダ』の中で自分と岡元さんと本多さんの3人で遊ぶシーンがあるのだが、現場に行ったらいきなりアドリブでやれと指示されたと。しかも相談する暇もなくすぐ「本番!」の声がかかり、役としての言葉が出てくるまで何度もやり直しさせられたとかで、そのときの経験がトラウマとなり、瀬々作品にきたらアドリブでなんかやらなきゃいけないと思い、つい台詞を変えてしまったらしい。
先日行われた『肌の隙間』舞台挨拶で、出演者一同から「何を言ってるのかよくわからなかった」と言われ「本気で悩んでる」と語る瀬々監督(詳しくはこちらを参照)。「そんなに俺の言ってる事ってわからないか?」と事の真偽を確認された三浦君は、舞台挨拶のしゃべりのことかと勘違いし、「前回は確かに何言ってるのかわかりませんでしたが、今日はよくわかりますよ!」と励ますも、意図せず飛び出した三浦君の本音に監督もガッカリ。「演出のことだよ…」と泣きそうな監督をあわててフォロー。「大丈夫です。僕はわかりました。真冬の撮影にもかかわらず、監督はTシャツ1枚で汗だくになりながら、(手のひらを目の前にもってきて)ここまで顔を近づけて熱心に指導してくれました」と改めて励ました。しかし岡元さんへの演出は真逆だったようで、「私はほっとかれてました」と恨めしげに語る岡元さん。大変な役だったのに役作りを一任されあまり監督から助言してもらえなかったらしい。そんな彼女の恨めしげな視線に居たたまれなくなったのか、「所詮、俺らみたいな乞食には女の人のことなんて分かりませんから」と卑屈になってゆく監督を、「もう自虐はよしましょうよー」と三浦君が制す様に場内爆笑だった。
最後に今後の予定ということで、三浦君がSKIIのCMでナレーションをやったこと、岡元さんが『乱歩地獄』で佐藤寿保監督の作品に出てることを話し、それを聞いた瀬々監督が佐藤寿保監督の助監督をやってたときに飲み屋でやった時効エピソードをちらっと明かして、本日のトークショーはお開きとなった。
強面の見た目に反し、一生懸命なんだけどどこか抜けてる三浦誠己と、そんな彼を「元・芸人のくせにしゃべりがいけてない」と嬉しそうにいじり倒す瀬々監督の関係は微笑ましかった。しかしその一方で質問に答えるたび瀬々監督が微妙な顔をするものだから「あれ? 私ヘンなこと言ったか・し・・ら???」と幾度となく首をかしげる岡元夕紀子の姿に、数日前に行われた瀬々監督×不二子×夏野苺トークショーはうまくいったのだろうかと、他人事ながら心配になった。エロス番長トークショーでも、女性陣と話すより、『ラブキルキル』の西村晋也監督や助っ人で現れた村上賢司監督をいじってるときが一番楽しそうだった瀬々監督。舞台挨拶では不二子から「何を言ってるのかよくわからない」「本番以外では目を合わせてくれない」とか言われてるし、一度、女性出演者を集めて瀬々監督“出席”裁判ショーでも企画してくれんかな〜。