エロス番長トーク、西村晋也×吉田良子×佐藤有記×瀬々敬久

現在ユーロスペースでレイトロードショー中のエロス番長シリーズ。8/29(日)『ラブキルキル』上映後に行われたトークショーに行ってきました。ゲストは西村晋也(『ラブキルキル』監督)、吉田良子(『ともしび』監督)、佐藤有記(『ユダ』脚本)、瀬々敬久の4名。司会進行はエロス番長並びに映画番長の宣伝を担当しているイメージリングスのしまだゆきやす氏でした。


瀬々さん曰く、「西村晋也監督は子供みたいな顔してるがこう見えても40歳*1青山真治と同い年。西村が美学校の生徒だったとき、青山真治は既に講師という立場で、そういう居たたまれない環境にいたせいか、当時の彼は暗い作品ばかり書いていた」という。でも、それを見ていた瀬々氏は、本当は違うんじゃないかとずっと思っていて、今回ようやく『ラブキルキル』で自分の読みが間違いじゃなかったことがわかったと言っていた。『ラブキルキル』で愛葉るみ演じる女子の役は、元々デブの中学生男子という設定だったそうで、エロス番長をやるにあたり、吉田良子監督の他にもう一人新人を出せと言われていた瀬々氏は、西村監督が書いてたプロットを持ってプロデューサーであるユーロスペース堀越謙三氏(通称ホリケン)を訪ね、「男子の設定を女子に変えるからこれでエロス番長やらせてくれ」と言って西村監督の参戦を認めさせたという。ところが、エロス番長のパンフレットに載ってる新人座談会を読むと、設定を書き換える経緯について「瀬々さんと“話し合って”決めた」と書かれてあり、どうやらゲラチェックの際に西村監督が書き直したらしい。他にもパンフ上のコメントに関してはいろいろと手直しが加えられてあるらしく、瀬々さんに「そうまでして賢くみせたいか」と突っ込まれる一幕も。『ラブキルキル』の構想というのは、元々一対一の関係ではなく、間に人が入ることによって壊れてゆく関係、例えば、他の人からある人の悪口を聞かされて、そのせいでそのある人との関係がおかしくなってゆくとか、そういうのを描いたら面白いかなと思ってそこから話を膨らませていったそうだ。「暗い話なのに、津田寛治さんのおかげでかなり雰囲気が明るくなった」と語る西村監督。「中学生を女子という設定に変えろと言われたことで、何か自分の中で発見したことはあったか」という問いには、「中学生の男子の時は津田さんが演じる役に影響されてゆく役として書いてたんだけど、女子だとそうもいかず、似たもの同士惹かれ合うみたいな関係に物語が変わっていった」と答えていた。


吉田良子監督の『ともしび』は美学校の高等科のシナリオ課題として書かれたモノで、瀬々さんから「4回カラミを入れろ」と言われて書き直したものだそうだ。ただ、出来上がるまでに、瀬々氏からしょっちゅう「人としてとダメだ」と怒られたそうで、理由はよくわからないままいきなり電話口でキレられたこともあったとのこと。


『ともしび』同様、『ユダ』も、脚本を担当した佐藤有記美学校時代に書いたモノが原型で、元々は『豆腐屋☆幻走』というタイトルがついていたそうだ。内容はロードムービーしながら豆腐屋を次々と襲撃してゆく話で、こういうとコメディなのかと思われるが実に悲しい物語だったらしい。瀬々監督はこれまでタッグを組んできた脚本家の井土紀州と比べて彼女のことを次のように評した。「今ではすっかり“左翼批評家”になられた井土紀州という男がいるんだけど、彼もアテネフランセで映写技師をしていた時に自分がスカウトして脚本家に育て…いや、うっかり“育てた”って言いそうになった。脚本家になられて、彼の場合は箱書きと言って、結末までしっかり構成を組み立ててからじゃないと書けないのだが、彼女の場合は、いきなり頭から書き出して、結末が見えなくてもどんどん書いてゆけるのがスゴイと思った。こないだも、グラビアアイドルのプロモーションビデオの脚本を書かせたり、次に撮るピンク映画の脚本も書かせたりしてるんだけど、自分としては“第二の井土紀州”に育てようかなと思っている」


しまだ氏から「それぞれが考えるエロスとは?」と問われ、「まだよく分からない」と答える女性陣。「女性から見てエロスとは?って最近よく聞かれるんですけど、何かを見て「あ、エロいわ」って思う気持ちは女性も男性も変わらないんじゃないかと」と答える吉田監督。佐藤さんは「自分の場合は何回カラミを入れろとかは言われなかったんだけど、編集をちょっと覗かせて貰ったときに、瀬々さんから『これ、エロいやろ』って言われて、ちょうど女性同士がからんでるシーンだったんだけど、そのシーンがってことじゃなく、女性同士がやってるというシチュエーションがエロいってことらしくて、こういうことがエロスなのかあということは学ばせて頂きました」と答える佐藤さん。「瀬々監督は?」と問うと、「タブーを破る時のドキドキ感というか性的な葛藤みたいなのがエロスに繋がるんじゃないかと思ってる」と答えていた。


「瀬々さんは“ピンク四天王”と呼ばれてずっとピンク映画を撮り続けてきた方なわけですけど、“ピンク映画”ってなんですか?」というしまだ氏からの問いに、「ちょっと難しい」と答えに窮する瀬々監督。「ロマンポルノと比べると?」と再び問い直すと、「ああ、ピンク映画にはロマンなんて欠片もないし、「ロマンなんて必要無いんじゃー」ってとこはあります。もっとギクシャクしてるというか、安いというか」と答える瀬々監督。「昔のピンク映画はセックス=反権力といった単純な図式があったように思うが」という問いには、「昔はそうだったが、今はそれをダイレクトに出すことは難しくなったというか、もうちょっと違った形を考えないととは思う」と答えていた。


最後に、瀬々監督が「こうやって新人がデビューしたわけだけど、10年後、ここにいるやつらがいっぱしの映画人になって、黒沢清さんの立教一派みたいにエロス番長派なんて呼ばれるような新しい価値観をもって映画を作ってくれてることを願います。その頃オレはきっと西村あたりに「最近、瀬々見ないなあ」なんて言われて、オレはメキシコあたりでそこの若い映画作家たちに「番長やらないか」と持ちかけ、カンヌあたりで“メキシコ映画エロス番長”ってのを早々にデビューさせるので、その時が真の対決じゃー!」と語り、この日のトークショーはお開きとなった。



【関連】
エロス番長上映スケジュール→id:eichi44:20040911#p3
『ユダ』『ともしび』詳細→id:eichi44:20040820#p3
『片目だけの恋』『ラブキルキル』詳細→id:eichi44:20040826#p1

*1:実際、40歳には見えません。5歳ぐらいサバ読んでもいいと思う。