富野由悠季による『マインド・ゲーム』講評

マインド・ゲーム』が大賞を受賞した文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の審査講評が発表された。以下、公式サイトより抜粋。

アニメ先進国だからこそ、新たな気持ちで創作への挑戦を
富野 由悠季(アニメーション監督・演出家)


デジタル技術が一般化した現在、予想されたことではあったが、画像主導型の作品が大半であったのは残念である。大賞の候補になった『ハウルの動く城』と『マインド・ゲーム』については、前者の手堅い作りとメジャーの力量を認めるものの、結末について作品テーマとの齟齬を認めざるを得ないという議論があった。後者については、表現のあり方が本芸術祭にふさわしくないのではないかという議論があったものの、物語のテーマと現代の歪みを直截的に表現しているストーリーテリング、そして、アニメでしか描き得ない技法をもって、誤解なく一般的な映画といえる様式を獲得しているので評価できた。他の長編作品については、一部の審査委員の嗜好に合った部分での評価がないではなかったが、基本的には選評の対象にならなかった。アニメが社会的に認知されているという錯誤に基づく製作態度や、もともとアニメなどはレベルの低い仕事であるという潜在的な認識を証明するような現れ方は、当事者として正視することができなかった。上等な媒体でないという認識に立つなら、せめて内向せず公共に楽しさを与えるものであってほしいと思うのである。


(−以下略−)


アニメーションを好きで見てきた人が『マインド・ゲーム』を応援したくなる一番の理由って、この「アニメでしか描き得ない技法をもって」て部分なんじゃないかと思う。少なくとも自分はそうだった。いろいろ溜まってたもんがあったので、初めて観たとき「これぞアニメーション! まさにビバ!アニメーション!」ってスカッとした気持ちになったし、嬉しさがじわじわとこみ上げて、「客が入らない」と落ち込む湯浅監督に激励ファンレターでも送りたい気分になった。


その昔、「実写だとお金がかかりすぎて出来ないことも、アニメだったら出来る」と誇らしげに語られていた時代があった。でも、技術の進歩により、CGを使えば大抵のことが実写でも可能になった今、リアル志向のアニメ作品なんかを見ると「アニメでなくちゃいけない理由ってなんなんだろう」と考えさせられてしまうことがある。決定的だったのは『ファイナル・ファンタジー(2001)』。ハリウッドが3DCGオンリーへと移行する中、手書きアニメの砦となるべき日本のアニメ−ション表現の目指す先が実写の完全なる模倣なのだとしたら、それはあまりに切ない。以来、急速にセルアニメから気持ちが離れ、短編・人形アニメーションの世界に傾倒するようになった。昨年(2004年)は、『アップルシード』のようにモーションキャプチャーを使って実際の人間の動きを取り入れたアニメ−ションが出てきたり、『下妻物語』『キャシャーン』『キューティーハニー』のようにアニメーションの技法を積極的に取り入れた作品が実写の側から登場するなど、実写とアニメの境があいまいになりつつあることを実感させられた年だった。そんな中で、宮崎駿大友克洋押井守といった巨匠の作品が一同に会したこの年に、若い湯浅監督とスタジオ4℃が、「如何にして実写のようなリアル感に近づけるか」といった世間の志向とは真逆の、それこそ「おまえら実写にこれができるか!」と言いたげなほど「アニメでしか表現しえないもの」に拘り、アニメーション讃歌に満ち溢れた作品で勝負をかけてくれたことがとても嬉しかったし、ライバル会社であるマッドハウスが自社サイト内に「マインド・ゲーム」応援団を立ち上げ、「ああ、この想い…応援せずにはいられない」「どっこいアニメは生きていた!」「みんなワクワクして作ったんだろうな」といった数々の言葉で彼らの頑張りに呼応する姿は頼もしかった(追記:このあとマッドハウスは湯浅監督を招へいし『ケモノヅメ(2006)』『カイバ(2008)』『四畳半神話大系(2010)』といったテレビアニメを制作。湯浅監督は『カイバ』でふたたび文化庁メディア芸術祭優秀賞、『四畳半神話大系』でテレビアニメでは初となる大賞を受賞している)。


残念ながら『マインド・ゲーム』は興行的に振るわず、世間的にはほぼ存在しなかったことになってる。でも2004年という年に『MIND GAME』が存在したのは非常に意義深いことであり、こうやって「賞」という形で歴史に刻み付けてもらえることを私はありがたく思う。


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−追記−
森本晃司 VS 湯浅政明〜映画『マインド・ゲーム』に見るアニメーションの原点〜


−追記2−
第16回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞 贈賞理由(公式サイトより抜粋)

高度な技術と高次元のセンスが融合して、セルアニメーションでなければ為し得ない表現の頂点を拓き極めている。また、傑出した作画レベルに引きずられることなく「今」を生きていくことに対して真摯に向き合い答えを導き出そうという姿勢も美しい。もっとも、そこに至るまでには度を超した品のない表現も散見できるが、クライマックスの感動に向けては必要不可欠な要素である、と判断した。莫大な予算が投下され、長い製作期間と複雑な画面処理を経て生まれた濃密なビジュアルが横溢する作品が集中した本年度に、デジタルもアナログも無関係な、一本の力強い描線に宿る生命の放つチカラを再確認できたことは実にうれしい限りである。そもそも「アニメーション」の語源は生を、命を吹き込むことなのだ。