『心の羽根』を観た(@ユーロスペース)

観てきました。客は20人ぐらい(次の回は30人ぐらい入ってた)。9割方女性で30代〜60代までまんべんなくといったところ。母子ものだけあって女性陣の食いつきがいいですね。

映画の詳細は以下の通り。


『心の羽根』 5/15(土)〜6/25(金)まで*


【監督・脚本】トマ・ドゥティエール【撮影】ヴィルジニー・サンマルタン
【出演】ソフィー・ミュズール/フランシス・ルノー/ユリッス・ドゥスワーフ/アレクシス・デンドンケル/コレット・エマニュエル /ブリ・ラネルス/プレミ・ジュ・ド・フォッス
110min/R-15/ビスタサイズ/ベルギー・フランス/2003年
□上映館:ユーロスペース



【STORY】ベルギーの小さな町に住むブランシュは、夫ジャンピエールと5才になる息子アルチュールとの愛情に満ちた平穏な日々を送っていた。そこにアルチュールの死という悲劇が訪れる。ブランシュは、葬儀が終わっても息子の死を受け入れることができない。彼女は次第に心を病んでいき、いつしか、彼女にしか見えないアルチュールの幻影と時を過ごすようになる…。


おお、なんというか、久々にダメでした。周りの客は結構泣いてたけど、自分は完全に置いてけぼりというか、泣きどころもわからないし、エンドロールが出た瞬間「こんなあっさり終わりかよ!」てつっこんでしまったぐらい。そもそも<子供を亡くした悲しみ>というのが、この作品に関しては「状況として理解できる」って程度にしか受け取れなくて、いまいち主人公である母親の感情を共有しきれなかった。狂ってゆく彼女の姿もそれほど可哀想には見えず、むしろ楽しそうですらある。


※ここから先は少しネタバレ


物語の前半は、息子・アルチュールの可愛さと、母親にとってこの息子が如何にかけがえのない存在なのかということを見せつける役割を担っているため、全体的にはムードも明るくキラキラ輝いてるのだが、頻繁に挿入される風景や水鳥の映像が非常に暗喩めいていて、これから起こる不幸を暗示させてるようでハラハラドキドキさせる。実をいうと、それのおかげで自分は今後の展開を完全にミスリードされた(笑)。


息子・アルトゥールの突然の死により静かに壊れていった母親は、息子が遺体となって見つかった沼地で、水鳥の観察をしてた一人の少年フランソワ*1と出会う。母親は彼との交流によって次第に現実世界へと戻ってくるわけだが、物語の冒頭から頻繁に挿入されていたのが<自然界の弱肉強食>すなわち<強いモノが弱いモノを喰い殺す映像>だっただけに、「息子を沼に沈めたのはこの少年だ!」という驚愕の展開が待ち受けてるもんだとばかり思ってしまった。なんせ息子アルトゥールを最後に目撃したのも、遺体のありかを発見したのも、実はこの少年だったのだ。しかも彼はカップルのセックスを覗き見したり*2、エロ本見ながら自慰にふけったりいろいろとセクシャルな欲望をスクリーン上で見せつけてるから、よもやただの観察者で終わるとは思わなかったんだな。そこらへんが過剰にサスペンス仕立て。観てる間はあれこれと妄想できて面白いが、終わってみれば必要あったのかなと首をかしげてしまう。あの弱肉強食映像だって「幼子の死は悲しいけれどそれだって自然の摂理さ」ってのが言いたかったらしいのだが、あの映像からそこまでのことを読み取ることはできなかった。フランソワが行ってる実験*3も何を目的としてるのかよくわからず、不審な人物と誤解させるだけだった。


後半の要である<母親の再生>に気持ちがノリきれなかったのは、フランソワとの出会いにより変化してゆく彼女の内面を、内側から描写するシーンがほとんどなかったせいかもしれない。彼と出会ってから彼女の内部で何が起こってるのか、私にはよくわからず、終始旦那や少年の視点で外側から彼女の変化を追ってしまったような気がする。そのため、彼女が息子の死を受け入れゆく過程がいまひとつ掴みきれず、心の中で何かがはじける瞬間は捉えたが、気が付けば悟りを開いてた、という感じ。結果として彼女の心の再生を手助けすることになったフランソワはちょっと気の毒。彼にしてみれば、ようやく恋が成就し彼女とセックスできたと思った瞬間、別れの手紙一枚残して「はい、さよなら」と振られるわけだからね。彼女にしたら、息子の死から立ち直ればもう用済みなんだろうけど、なんかその変わり身の早さにもついてゆけなかった。


ネタバレおわり


本筋とは関係ないところで興味をそそられたのが子供の遊び。舞台はベルギーなのだが、「だるまさんがころんだ」「凧あげ」「折り紙」と、日本に通じる遊びがいろいろと出てきた。


作品自体は楽しめたけど、死を受け入れ立ち直るまでの母親の心の流れというのが、いまいち自分には掴みきれなかったです。



−追記−
予告でやってたフランス映画『なぜ彼女は愛しすぎたのか』が面白そうだった。30歳の女性が13歳の少年を愛し翻弄され嫉妬に狂うという凄まじい映画なのだが、女優さんの演技がなんか怖かった。そういえばそんな事件が昔あったよなあ。女性教師が教え子の小学生だか中学生と駆け落ちするって事件。TBS『魔女の条件』はそれが元ネタじゃなかったっけ?、と適当なことを言ってみる。


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*1:少年といっても高校生ぐらい

*2:野鳥の観察ポイントでセックスしてるカップルが悪いんだけど。

*3:全裸で沼地に身を沈める、など。