子供の頃に描いたホラーな絵

件の女の子の事件について。最近、彼女の描いた絵があちこちのテレビ番組で紹介されてるけど、我が身を振り返ると、当時の担任教師にどんな印象を持たれていたのかちょっと心配になってきた(汗)。

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自分で言うのもなんだが、小学校の頃は絵を描くのがうまかったんです(今は聞かないで…)。絵といってもガンダムとかビッケとかまことちゃんといったアニメや漫画のキャラクター限定。授業中、ノートの端に描いて友達に見せたり、お気に入りのキャラがあれば描いてあげたり…。


ある時、友達が「家に置いておくのは怖いから」という理由で、楳図かずお『紅グモ』ISBN:4257910690)という漫画を学校に持ってきたことがある。友達は「もう要らないから誰かにあげる」というのだが皆「怖いので要らない」と拒否したため、仕方なくクラスの<隠し文庫>*1に寄贈されることとなった。小学生の時はホラー漫画に限らず心霊写真集とかいろいろと学校に持ってきてはみんなで見るのが流行ったわけだが、『紅グモ』は、これまでクラスメイトが持ってきた中でも1,2を争うほどの作品で、あまりのインパクトに女子の間では<紅グモごっこ>なるものまで流行ったほど。もちろん私も描きまくりましたよ。紅蜘蛛が体内からうじゃうじゃ出てくるお母さんの絵を(笑)。友人たちにも「怖い」と評判で、そう言われると更に怖いシーンを描きたくなるのが“怖いもの好き”の性ですな。

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中学ぐらいになると描く題材が少し進化し、実写作品にも手を出すようになった。


80年代と言えばアメリカン・ホラーまっさかり。テレビでもゴールデン洋画劇場や金曜ロードショーなんかで『オーメン』『バタリアン』『13日の金曜日』なんかをばんばん流してるわけだ。で、クラスの子はみんな見てるから、学校に行けばその話題で持ちきり。「あそこが怖かった」とか「あれが気持ち悪い」なんてそのシーンのイラスト描きながら友達と恐怖談義に花咲かすわけだが、当時、クラスの子にもっとも衝撃を走らせた作品にジョン・カーペンター監督『遊星からの物体X』ASIN:B000062VR5)というのがあった。有名な“熱した針金をあてたら、もの凄い悲鳴を上げながらシャーレから血の塊が飛び出すシーン”では、あまりにビックリしすぎて「お茶こぼした」とか「おしっこちびった」とか「思わず悲鳴上げて一緒に見てた親に「脅かすな、バカ!」と怒られた」とか、我も我もと様々なエピソードを披露し盛り上がる。もちろん私もそのシーンは一番のお気に入り。特にその後に続くシーンが強烈に印象に残ってたんで忘れないようにすぐさま絵にしたけど、これが自分の中では改心の出来だったんだな。描いたのは<物体Xに乗っ取られ、蜘蛛のような足をはやし天井を歩き回るオヤジの頭部>。映画自体、クラスで大ウケだったこともあり、友達にも描いてあげたりしたわけだが、調子にのって学級日誌にも描いてしまったん…。よく考えれば、あれって先生も見るわけで、何も言われなかったが、実際どう思われていたのだろう…(ちなみに先生はかの映画を観てないので、そのイラストのネタ元を知らないです)。

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でもまあ、『物体X』はまだかわいいもんですよ。これ以上にまずかったなと思うのがひとつある。


私は中学生のある時期、とある映画を観てしまったがために<グランドピアノに突き刺さった血みどろのバラバラ死体>という絵を面白がって描きまくってたことがあるのだ。もしその当時、現場を血の海で染めるような猟奇殺人を犯していたら、絶対この作品の影響だと叩かれたことだろう。


その作品は土曜の昼間にテレビ放映されていた。学校は半日で終わり、たまたま部活もなかったので、まっすぐ家に帰りテレビを付けると、その映画はまさにやってる最中だった。うちは共働きで昼間親は家にいないから、自分で作ったサッポロ一番塩ラーメンを食いながら、何の気なしに観てたわけです。ところがどうもこの映画、おかしい。洋館に女の子たちが集まり、「変なことが起こる」とか言っていろいろ相談してるんだが、女の子はお互いを奇妙な名前で呼び合っている。しかも一人また一人と、おっぱいポローン、血がドヒャーってなりながら、次々と家具に喰われバラバラ死美人になってゆくのだ。そして何故か特撮は合成バレバレの<切り絵風>。「こんなの今までに見たこと無い…。なんなんだこれは…」 怒濤の展開にあっけにとられていると、家から何百リットルもの血が噴き出し、主役のコメットさんは服を真っ赤に染め泣き叫びながら、血の海を畳に乗ってプカプカしてる。そこにおっぱいポローンの池上季実子が現れ彼女を慰めるんだ。んで、ラストは外人顔のおばさん*2池上季実子が縁側で微笑みあって終わるという、うら若き中学生の脳みそには理解不能なハイテンション・ストーリー。週明け、学校に着くやいなや友達に「観たか?観たか?」と尋ねるが、何故か誰も観ていない。それが如何にすごい映画だったのかを、女の子がピアノに喰われてバラバラになってるシーンを絵に描き説明するのだが、いまいちその興奮を理解して貰えない。放課後、部活の友達に聞いて回ったがここでも誰も観ていないと言う。「あれを観たのは自分だけなのか…」と諦めかけたその時、神は我を見捨てなかった。一人だけいたんですよ、観てた子が。「土曜にやってた変な映画観た?」と聞いたら、目をキラキラ輝かせ「観た観た! あのメロディ〜ってやつでしょ!」とジェスチャー付きで答えてくれた。もう、二人でひしと抱き合い、毎日のように会えば<ハウスごっこ>ですよ。そう。その映画こそ大林宣彦監督の傑作ホラー『HOUSE ハウス』だったのだ。(※「メロディー」というのはグランドピアノに喰われた女の子の名前で、他に「ファンタ」「オシャレ」「スイート」なんて名前が付いている。)


いまとなってはこのエロ・スプラッター作品が土曜の昼間にやってたこと自体信じられないのだが、amazonの作品レビュー( ASIN:B00005N76F)を読んだらこんなことが書いてあった。

ただただ荒唐無稽な作品だが、当時大林監督は硬直化する日本映画に風穴を開けるべく、15歳以下の観客たちで映画館をあふれんばかりにすることを目論んでいた。


だから昼間に放送できたのか。大らかな時代だったなあ。
(追記:よく考えたら大林監督、ヘンだよ。あんたやっぱりヘンだよ。)


当時の私は、スマステに出て香取慎吾の「チャ〜ラ〜 ヘッチャラ〜♪」の歌声をバックに嬉々としてベジータを描く副長・山本耕史(しかもかなり上手い)と同じノリで学級日誌にこのバラバラ死体を描いてたわけだが、何の予備知識もなくこの絵を見たうちの担任は、いったい何を思っただろう…。センセー、まだ人の道は外れてないからー!

HOUSE [DVD]

HOUSE [DVD]

  • 発売日: 2001/09/21
  • メディア: DVD

*1:うちのクラスでは読まなくなった本を持ってきては教室の隅にある先生のロッカーに入れておくという風習があって、基本は小説しかもってきちゃいけなんだけど、奥の方に何冊か漫画も隠してあって、先生がいない時にこっそりみんなで読んでました。置いてあったのはほぼホラー漫画(笑)。一人で読むのは怖いけど、みんなと一緒なら読めるっていうのがあったわけです。

*2:鰐淵晴子