私は『アルジャーノンに花束を』をいつ読んだのか。ダニエル・キイスといえばむしろ・・・

ネットにこんな記事が上がってた。

ダニエル・キイス著『アルジャーノンに花束を』が最近また読まれているらしい。


記事の中で、過去のブームが何をきっかけに始まったのかがざっくり紹介されていたのだが、

アルジャーノンに花束を』はダニエル・キイスによって1959年中編小説として発表された。日本では「SFマガジン」1961年2月号に掲載され、1978年に長編小説版が刊行された。発表当初から大きな反響を呼び、1977年にNHKラジオ第1放送「文芸劇場」枠で、中編版を原作とする1話完結でラジオドラマ化。その後、1995年にはNHKFM青春アドベンチャー枠で長編版がラジオドラマ化され(以下略)

世代的にいうと70年代生まれのアラフィフなので、この1978年に刊行された長編小説版を読んだんだとは思う。95年の「青春アドベンチャー」も覚えてるがこの時はすでに読んでいた。んで、読んだきっかけは何かと問われれば、『アルジャーノン』そのものの話題で手に取ったのは私らよりちょっと上の世代だと思う。私の世代でダニエル・キイスといえば、爆発的にヒットしエンタメ業界にも多大な影響を与えた別の作品があるため、それに付随して『アルジャーノン〜』も読んだという流れの方が大きかった気がする。


その別の作品というのが、↓これ。

1992年8月に日本で刊行されるや衝撃的な内容ゆえに実録犯罪好き以外の一般層にまでリーチし、多重人格に対する世間の解像度を一気に引き上げたのが、ダニエル・キイスが書いたこの『24人のビリー・ミリガン』というノンフィクション本。本はもう手元にないがこの装丁めちゃ覚えてる。2017年に新訳本が出ているので未読の人はそちらを読まれた方がいいかな。



ビリー・ミリガンとは、、、1977年にアメリカのオハイオ州で実際に起こった連続強姦強盗事件の容疑者の名前。捕まったのは二十歳そこそこの青年。犯行は明白だったが、彼には記憶障害があり、犯行時の記憶が一切ない。カウンセリングの結果、なんと彼の内部には主人格ビリー以外に性別・人種・年齢の異なる23もの人格が存在することが発覚。主人格であるビリーに他の人格が行った犯罪の罪を問えるのかといった裁判の行方や、人格解離にいたる彼の生い立ちなどをまとめたのがこの本。二重人格もののベースを作ったのが『ジキルとハイド』だとすれば、今日にもつながるような多重人格もののベースを作ったのは間違いなくこの“ビリー・ミリガン”だと言える(事実は小説より奇なりで、24人はインフレがすぎて小説だったら編集者に止められるレベル)。特に日本では、1989年に起こった東京・埼玉連続幼女殺害事件(いわゆる宮崎勤事件)で、男性である被告が「今田勇子」という名で女性を騙って新聞社に犯行声明文を送りつけていたことから多重人格についての精神鑑定が行われたり、1992年1〜3月期に放送された月9『あなただけ見えない』で三上博史が三重人格の殺人鬼を演じていたこともあり、高まる欲求に応えるべくその決定打として刊行されたのが『24人のビリー・ミリガン』だったように記憶する(30年も前の話なので記憶違ってたらごめんね)。


ダニエル・キイスは『24人のビリー・ミリガン』の前年(日本では1991年5月刊行)に、多重人格の女性を扱った小説『五番目のサリー』を発表しており、読後にこちらも読んだ。

『五番目のサリー』は犯罪小説ではなく、記憶障害に悩んでた女性が、カウンセリングの過程で自分の中に別の人格が存在していることを知り、治療によって分裂した人格がひとつに統合されてゆく様を描くヒューマンドラマ。「人格の統合=主人格以外の死」を描いたことから、本作以降、多重人格が「自立と別れを同時に描く装置」として用いられやすくなったように思う。


「養育期の虐待が別人格を生み出す要因になるという知識のベースを世間一般にまで広めたのが、これらダニエル・キイスの著作である」というのが私の記憶だが、記憶なんてものはあてにならないので、ご自分の記憶と照らし合わせてみてください。





ちなみに、「多重人格障害」という言葉は、1994年頃(Wikipedia調べ)から「解離性同一性障害」という言葉に置き換わっているので、昭和生まれの人はお気をつけて。「多重人格」だと障害の内容を適切に伝えてないからってことなんだと思うが、例えば怪談で「幽霊に出会い恐怖のあまり気を失う」て描写があるじゃない? 目が覚めると朝になっていて無事幽霊から逃れられたというのが定番なので、幽霊から逃れる方法として「気絶する」のが最強じゃないかと思ってるんだけど(気絶しない人はだいたいおかしくなって行方不明になるから)、この自分の精神が耐えられないような現実に直面したときに「気絶する」という行為自体が精神医学的には「解離」と呼ばれる防衛反応の一種で、普通は「気絶(=解離)」してる間は倒れて動かなくなってるんだけど、「解離性同一性障害」の場合、「気絶(=解離)」してる間に別の人格が意識と体のコントロールを担い、同一性が保たれないという障害を起こしてるということで「解離性同一性障害」という名に変更したようです。




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