鵺的(出張トライアル)『修羅』@吉祥寺シアター

9月に行われる次回作『悪魔を汚せ(再演)』のチケット先行予約が始まったので、4月に行われた前回公演についての感想です。

オフィス上の空・6団体プロデュース『1つの部屋のいくつかの生活』参加作品 
鵺的(出張トライアル)『修羅』

作・演出:高木登 出演:赤猫座ちこ(牡丹茶房)、今里真、奥野亮子(鵺的)、川添美和(Voyantroupe/(株)ワーサル)、小崎愛美理(フロアトポロジー)、小西耕一(Straw&Berry)、杉木隆幸(ECHOES)、堤千穂、ハマカワフミエ、宮原奨伍(大人の麦茶
※青チームにて、かわいいコンビニ店員飯田さん『我がために夜は明けぬ』(脚本・演出:池内風)と同時上演

裕福な旧家に生まれた四姉妹(川添・奧野・堤・小崎)。それぞれ結婚しているがいずれも夫婦関係は破綻しており、長女が旦那たち(今里・宮原・杉木・小西)を呼びつけ四姉妹揃って離婚届けを叩き付ける。離婚したい妻たちVS離婚したくない旦那たちとの間ですったもんだなバトルが繰り広げられる場に、四姉妹の父親が外に作った腹違いの姉妹(ハマカワ・赤猫座)も加わり、最後はケジメという名の壮絶な復讐劇によって幕を閉じるというお話。(舞台風景や出演陣の写真は↓こちらからどうぞ)



今回は単独公演ではなく、6つの団体が同じ舞台セットを使って芝居をするという合同企画への参加で、赤・青・黄と3つのチームに別れ2組ずつ同時上演された。鵺的の出た青チームは鵺的→かわいいコンビニ店員飯田さんの順で上演されたわけだけが、この「同じセットで」というのが後半に上演する劇団には結構な【呪縛】となり、2つの芝居にはなんのつながりもないのに日本家屋を模したセットだったことによって、観てるこちらには2つの異なる芝居が「古い家にこびりついた記憶」「同じ家で起こった異なる出来事」のように感じられ、「鵺的」という前の住人によって血だらけの事故物件になってしまったお家に、何も知らない「かわいいコンビニ店員飯田さん」が呑気に移り住んで来たみたいなことになり、後の芝居が始まってもしばらくの間、前の芝居の余韻が抜けなかった。結局コンビニ店員さんは同じセットを「家」ではなく「宇宙船」に見立てるというウルトラCで鵺的の影響下から早々に離脱したわけだけど、他の劇団の演目だったらどうだったのか。同じことは赤・黄チームでも起こってたはずで、プロデューサーは6団体の上演順や組み合わせを考えるのに苦労したのではないかと思うが、そこがこの企画の面白いところでもあるのだろう。


専属の役者が奧野亮子ただひとりである鵺的は、公演毎に他所から役者を招へいするユニット形式をとっているのだが、今回は別の劇団目当てに来てる客も多数観ている中での公演。いつもの小劇場と比べると、舞台も広く240席と客席数も多い。半分アウェーという雰囲気も相まって、振り付けというほどではないが、舞台上における役者の立ち位置や動き、台詞に対する四姉妹のリアクションの取り方などに、普段は感じない「チーム感」みたいなものがすごく出てる気がした。上手(かみて)に鎮座する長女役、川添美和による場の制圧力がハンパなく、舞台下手(しもて)に座る三女・四女とその旦那たちがわちゃわちゃしようと、上手(かみて)側から一言で制圧してくる。唯一その制圧を受けないのが終盤に父親が外に作った腹違いの姉妹として登場するハマカワフミエで、口では下手(したて)に出ながら、長女の制圧を舞台下手(しもて)から静かに、しかし確実に斬り崩し、二人の制空権争いが静かに激しく繰り広げられる。


鵺的常連の役者陣の中、赤猫座ちこ・宮原奨伍・今里真のお三方は私にとってお初。ハマカワさんと姉妹役を演じた赤猫座ちこさんは顔や背格好があまりにハマカワさんに似ており、登場してしばらく「ハマカワさんてこんな声色も出せるんだ」と素で間違えてた(オフショットの写真を見るとそれほど似てはおらず「メイクの力って凄い」と思った…汗)。長女の旦那を除き、旦那陣が三者三様のクズで、彼らの発する碌でもない言動に対する四姉妹のリアクションが四者四様、とても面白かった。ひとりひとりのリアクションをじっくり堪能したかったが、目が2つしかなくて残念(もしDVD化されるなら画面を5分割し四姉妹全員のリアクションを同時に見比べさせてほしいと思った)。宮原奨伍さん演じる次女の旦那はフェミニストオーラに溢れた爽やかなイケメンで、行動はクズなのにすべての発言に謎の説得力を発揮し、あれ絶対次女勝てない。一番危険な相手。長女の旦那役である今里真さんは、動き回りながら芝居する他の旦那陣とは異なり、客席に正対する長女に向き合っての芝居が多いため、観客からは後ろ姿や横顔ぐらいしか見えないのだが、声にすごく表情があるため、感情がよく伝わり、顔の表情が見えないということが全く苦にならなかった(むしろ旦那の発言を聞いてる長女のリアクションに視線を集中することができたため、こういう視線誘導の方法もあるんだなと思った)。吉祥寺シアターは座席指定でチケットがGETできたため、全体がストレスなく見渡せるとてもいい席が獲れたけど、最後のハマカワさんのシーンだけは最前かぶりつきで体験したかった。60分という尺に対し、ほど良い長さの話だったと思うが、惨劇が起こってから離婚を決断するまでが性急すぎたので、そこは少し強引だったかなと思う。


『荒野1/7』『丘の上、ただひとつの家』など複雑な家族関係をテーマにした会話劇はこれまでにも鵺的でいくつか上演されており、問題を抱えた家族が一堂に会して本音をぶつけ合った後、客観的には物別れに終わるが、その話し合いは決して無駄ではなく、家族の関係が良い方向に再構築される兆しがかいま見えて終わることが多い(正確には、良い方に再構築できそうな材料が会話の中に見いだせるため、物別れのまま「THE END」となっても、「この家族はたぶん大丈夫だろう」という予感みたいなものがこみ上げ、頭の中で反芻してるうちに予感が確信へと変わり、いつもその人物配置に唸らされる)。しかし、今回は違った。いつもと同じように本音をぶつけあったが、忌まわしい家族を解体しその呪縛から解き放たれるという試みはすんでのところで阻止され、不完全な形で終わった結果、いびつに再構築され、自力で解くのは困難なほど、更に複雑にきつく鎖で縛られた扉の向こうに押し込まれてしまった(でも子供は、産むんじゃないかと思う。そして長女の旦那は可愛がると思う)。


カーテンコールで役者が全員壇上に出てきた後、奧野さんだけ一人残ってにっこりと微笑み舞台袖に戻っていったのだが、その姿がとても良かった。今回の芝居が前に出ず控えめに耐えに耐え続ける役だったため、やっと笑顔が見れてホッとしたのと、唯一の「鵺的」所属俳優として、「どうでしたか? これが鵺的です。以後、お見知りおきを」という言葉が聞こえてきそうなほど自信に溢れた笑顔が、舞台上で演じた控えめな役柄とは対照的、且つ、直前まで行われてた舞台の内容とも相まってかえって底知れなさを醸しだし、次はそういう立ち位置の役柄(周囲は皆、巻き込まれた可哀想な被害者だと思って同情していたのに、最後に見せた微笑みから、実は陰で全部狂わせてたのが彼女だとそこはかとなく提示されるみたいな役)で観てみたいなと思った次第。


というわけで鵺的の次回公演は9月。2016年の初演時に大好評だった『悪魔を汚せ』の再演です。7月12日より前売り販売開始。前売りは↓こちらまで。

7月12日~18日先行予約、7月19日一般発売
鵺的第12回公演「悪魔を汚せ(再演)」9月5日(木)~18日(水)東京・サンモールスタジオ
作:高木登 演出:寺十吾
出演:秋澤弥里 秋月三佳 池田ヒトシ 奥野亮子(鵺的) 祁答院雄貴(アクトレインクラブ) 斉藤悠(アクトレインクラブ) 釈八子 杉木隆幸(ECHOES) 高橋恭子(チタキヨ) 福永マリカ 水町レイコ
http://j-stage-i.jp/performance_plan.html


演劇ユニット鵺的 (@NuetekiOfficial) | Twitter / 鵺的 公式サイト / 日日鵺的(新)