『マイマイ新子と千年の魔法』トーク、上原伸一×片渕須直(@ラピュタ阿佐ヶ谷)

12/21(月)『マイマイ新子〜』上映後舞台挨拶に美術監督の上原伸一さんと片渕須直監督が登壇するということで行ってきました。『マイマイ新子〜』といえば以前にもちらっと書いたとおり防府市国衙の風景の再現率がハンパないことになっており、ロケ地めぐりに行かれたrossetaさんが作ってくれたマイマイGoogleマップでよーく頭の中に地図を入れながら再見すると、周りの風景や背後に見える山の形などからいま新子ちゃんたちがどのあたりの道をどういう方向に向かって走ってるといったことが空間的に把握できて非常に楽しい映画なわけです。そういう楽しみ方をも実現させたお二人がこられるまたとないチャンス!ということで個人的にとても楽しみにしてました。トークの時間は10〜15分ぐらいでしたかね。


「普段こういった場には監督か作画監督が呼ばれるものなんですが…」と不慣れな場所にややおっかなびっくりといった心持ちでやってきたご様子の上原さん。片渕作品にかかわったのは美術スタッフとして参加したTVアニメ『ブラックラグーン』が最初で、今回は劇場映画の美術監督という立場で呼ばれることになり、決まってからはもちろん、制作が始まってもしばらくは「自分に劇場映画の美術監督が務まるんだろか」と心配だったそうです。また自由度の高かった『ブラックラグーン』と比べると、今回は片渕監督からの注文も厳しく、ほとんど“片渕須直・美術総監督”といった感じだったとか。


この日上原さんは『マイマイ新子〜』で描いた多数の美術ボードをクリアブックに入れて持参。先ほど皆がスクリーンで見たばかりの劇中風景を1枚1枚めくって見せながら、「筆を使って画用紙にポスターカラーで背景を描いてゆき、出来上がった絵をスキャナーで取り込んでデジタル化して使ってます」と説明。上原さん自身は昔ながらの筆で描くアナログなやり方が好きなんだそうですが、最近は一(いち)からデジタルで描く人も多くなってきてるので、そういうスタッフには筆で描いたようなタッチで仕上げて欲しいと指示し手書き絵との差が出ないように務めたそうです(片渕監督曰く「作品の中ではデジタルと手書きを交互に使用してる」とのこと。監督の話ぶりだと「意図的に…」というよりは「出来上がってみたら結果的にそうなってた」という感じなのかな?) 
(※「美術ボードって?」という方はこちらを参照。『ゲド戦記』の制作日誌ですが、写真付きで説明されてるのでイメージしやすいと思います)


作品の舞台となった山口県防府市の空は、雲が特徴的で非常に奥行きがあり、この奥行き感を再現するため「風景を広角パースで描く」というのは監督・美術監督ともにロケハンの時点で既に心に決めていたとか。普段見てる東京の空とは違い、空気も澄んでるしロケハンがいつも快晴だったこともあって、とても印象強く残ったようです。ちなみに上原さんは「雲を描くのが好き」らしく、片渕監督自身も山、空、雲のことを「千年前から変わっていないもの」として挙げていたので、『マイマイ新子〜』の美術監督に上原さんが抜擢されたのもそのあたりの感性が大きく関与してるんじゃないかなと思いました(※マッドハウスSTAFFプロフィール見たら、好きな作品に『アルプスの少女ハイジ』を挙げてるんですね。これも何かの縁でしょうか)。


最後に、また観に来る人向けに映画の見所を尋ねると、「諾子の暮らす平安時代の浜辺に生えてた“松の木”を描くのにとても苦労したのでそこを見て欲しい」と語る上原さん。なんでも1週間かけて描いたのに片渕監督からリテイクを受け、描き直してもどうも監督のイメージに合うものが描けず、最終的に『紅の豚』で美術監督を務めた野崎佳津(旧姓・久村)さんに助っ人に来てもらってようやく出来上がった苦心の作とのこと。この松に関してはリテイクを出した片渕監督自身もなかなかイメージが伝わらないので当時の資料を探し上野の博物館(美術館?)にまで足を運んだのに見本になるような松の資料が存在せず、もしかしたら自分のイメージする平安時代の松というのは頭の中で勝手にこさえた空想の産物で、この世に存在しないのではないかと自信喪失気味になるほど追いつめられたらしい。また片渕監督にとってこの作品は、ここにいる上原さんや助っ人に来てくれた野崎佳津さん、他にも山本二三など数名の名前をあげつつ自分がこれまでの仕事で関わってきた人たちに多数手伝ってもらうことになり、はからずも自分のこれまでの仕事を振り返る集大成的な作品となったと語っていました。


尚、制作当時、イメージやタッチを統一させるための見本として上原さんの描いた美術ボードのコピーが背景美術スタッフひとりひとりに配られていたそうですが、作品完成後に返却され会社に山積みになっていたからと、この日に来た観客にお土産として1枚ずつプレゼントしてくれました。実際にスタッフが使ってたものなので角がよれてたりメモ書きがあったりするかもしれませんとのことでしたが、それもまた貴重ということで大喜びでいただきました。


ちなみに私がいただいたのは↓これ。右手に見えるのが国衙バス停。そして防府の空です。

この背景は、物語の前半、新子が貴伊子を連れて国衙の町をあちこち案内するシーンで出てきます。

この道をまっすぐいって右に曲がり直角の水路をもう1回曲がると発掘現場(諾子の住居跡)に着きます。


せっかくなんで感想漁ってるときに見つけた防府市国衙出身の方の感想ブログもご紹介しておきます(コメント欄で盛り上がってます)。
千年の魔法(@じんせい2度なし)
あと、昨年の夏、57歳という若さで亡くなられたアニメーター・金田伊功さんと『マイマイ新子〜』との間に起こった驚くべき偶然についても。
WEBアニメスタイル コラム β運動の岸辺で[片渕須直] 第3回 カシラとマイマイの夏
(関連:アニメーター金田伊功さん 宮崎駿監督が「頭(かしら)」と呼んだ男


ちなみに言い忘れてましたけど、片渕監督は学生時代から宮崎駿監督のもとに出入りしてた人で、『名探偵ホームズ』で脚本・演出助手を務めたり、当初『魔女の宅急便』の監督を任されていた人でもあります(鈴木Pのラジオによればこの『魔女の宅急便』、元々は高畑勲監督にオファーされてた仕事だという…)。『時かけ』『サマーウォーズ』の細田守監督も当初『ハウルの動く城』を任されてた人ですし、ジブリで1回大作作ろうとして途中降板した人がその後マッドハウスと組むとすごいもん作っちゃうっていう法則でもできつつあるんでしょうか。


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8日間という短期上映だったこともあり連日満席札止めとなったラピュタでの上映(通称:大人のためのマイマイナイト)ですが、12/22(火)は「赤毛のアン」「アルプスの少女ハイジ」で知られる高畑勲監督もふらりと見に来られたとか(しかも既にチケット完売で帰りそうになったところをたまたま居合わせた人がチケット譲ってことなきを得たという…汗)。そのときの様子や上映後に高畑監督とどんなやりとりがあったのかは↓こちらの記事後半でどうぞ(筆者は片渕監督です)。
WEBアニメスタイル コラム β運動の岸辺で[片渕須直] 第17回『セロ弾きのゴーシュ』
(追記:今年の夏に渋谷ユーロスペース高畑勲監督の『セロ弾きのゴーシュ('80)』がリバイバル上映されることになりました。片渕監督のコラムを読んで気になった方はこの機会に是非どうぞ!)


また、1/9(土)〜1/29(金)までラピュタ阿佐ヶ谷でのアンコールレイトショーが決まった『マイマイ新子〜』ですが、ラピュタさんといえば毎週木曜日にメルマガを配信してまして、ここ数週間はスタッフ後記にて12/19(土)より8日間限定で行われたマイマイナイトについての舞台裏レポがあがってました。劇場スタッフの皆さんがどれだけこの作品を気に入ってくれてたかというのが伝わってくるレポートなのでよろしかったらご一読を(※メルマガ登録はこちらからどうぞ)。

ラピュタ阿佐ヶ谷 Mail Train [2009/12/10] マイマイナイト決定の報告
ラピュタ阿佐ヶ谷 Mail Train [2009/12/17] 週末からいよいよスタート!
ラピュタ阿佐ヶ谷 Mail Train [2009/12/24] マイマイ旋風で連日てんやわんや
ラピュタ阿佐ヶ谷 Mail Train [2009/12/31] マイマイナイトを終えて


ラピュタ終了翌日となる1/30(土)〜2/12(金)まで大阪・九条シネ・ヌーヴォでの上映も決まりました。席数はラピュタより若干多い69席。基本、20:20〜のレイトショーですが、2/11(木・祝)のみ、12:20の回を設けてくれるそうなので大阪近辺にお住まいの皆さん、この機会に是非どうぞ。上映存続署名もまだまだ募集中です。



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