『ドグラ・マグラ』トーク、松田洋治(@イメージフォーラム)

渋谷イメージフォーラムで先日までリバイバル上映されてた映画『ドグラ・マグラ』のトークショーに行ってきました。

ゲストは主役の一人、“呉一郎”を演じた俳優・松田洋治。今年で41歳かそこらだと思うけど、生で見てもあいかわらず若いッスねー。「童顔」と言っても実年齢より若く見える程度で、時の流れに抗ってるといった不自然さがないのがいいです。


Dogura Magura (1988) [Trailer]


撮影から21年経ち、桂枝雀師匠(正木博士役)も室田日出男さん(若林博士役)もあちらの世界に逝かれてしまったいま、当時を語れる貴重な“生き証人”として登壇することとなった松田洋治くん(いやもう「くん」っていう年齢じゃないけど、『小麦色の天使』の頃から見てきてるので80歳になろうともこの敬称でいかせていただきます)。あんな映画だからさぞかし撮影時にもいろいろあっただろうと話しを向けると、「語り出したらこの話だけで一晩呑み明かせるぐらい」と言って、当時のエピソードをいくつか見繕って語ってくれました。


精神病院を舞台にした物語ということもあり、松本俊夫監督と三沢恵里ちゃん(呉モヨ子役)と3人で、撮影前にとある病院に見学に行ったときのこと。見学前にまず院長先生から話を聞くことになり、何事にもがんがん突っ込んでゆくタイプの松本監督は気後れしてる若者二人をよそに院長先生と大盛り上がり。それがいけなかったのか(苦笑)、いざ見学が始まってみると、「一般の見学者は立ち入り禁止」と書かれてる扉の鍵が次々と開けられ、病院の奥へ奥へ、どんどんディープな区域へと案内されるはめに。風呂場の浴槽に釣り糸を垂らし釣りをしてる患者さんに遭遇したときなどは、よせばいいのに松本監督が「釣れますか?」と話しかけて「風呂場で釣れるわけないだろ!」とマジメに返される一幕もあったり(笑)。また、レクリエーションルームでは囲碁をしてる患者さんたちに遭遇。しかしよく見ると盤の上には碁石が白黒1つずつしか置かれておらず、患者さんたちは一度置いた碁石をまたとって別の升目に置くという行為を延々繰り返しているだけだったとか。一見すると囲碁の真似事をして遊んでるようにしか見えないのだが、あるとき看護士がどの升に何色の石が置かれたのか記録してみたところ、意外にも同じ升に石が置かれることはなく、二つの石だけで囲碁がきちんと成立しているという驚きの事実が判明。一度置けば目にその残像が残るらしく、碁石を置いたままにしておかなくても、どこに何が置かれてるのか本人たちには見えているんだそうです。


当時の現場の雰囲気について尋ねると、「こういう作品だけあって、自分以外はスタッフも開放病棟に出演してた人たちもみんなあちら側の世界にいっちゃったような人ばかりでした」と明るく語る松田くん(笑)。また、こういう人たちが集まってると自然と何らかの電波が出るようで、ほとんどセット撮影なんだけど、二日間だけロケに出て撮影したときに起こった不思議なエピソードについて語ってくれました。その日はとある村まで出かけ、撮影のために民家を借り、美術さんが内装の飾り付けをして1日撮影。宿に戻り、翌朝また撮影のために民家を訪れてみると、家の中がめちゃめちゃに荒らされており、庭の真ん中でおじいさんが一人ヘラヘラ笑っていたそうです。あとで聞いた話によると、そのおじいさんは隣村に暮らしてる人で、普段このあたりにいるような人ではないとのこと。松田くん曰わく「撮影隊の出す電波が磁場に乗って隣村まで飛んでいき、おじいさんがそれを受信してここまで呼ばれてやって来てしまったのではないか」ということでした(笑)。


松本監督の演出について尋ねると、こういう映画にもかかわらず「あれ? いまドグラマグラ撮ってるんだよね?」って思ってしまうぐらい非常に論理的かつ明晰な指示を出す人で、役作りや芝居で悩むことは無かったと。ただ非常に拘りの強い人なので、クライマックスに出てくる「赤い部屋のシーン」などは、時間にしたらほんのわずかなシーンにもかかわらず、弁当もその部屋で食べながら28時間ぶっ通しで撮影したとか。普通だったら疲れて顔もぐちゃぐちゃになるんだからいったん休んで仕切り直しした方がいいはずなのに、そういうことがまったく関係のない(むしろ疲れてぐちゃぐちゃになってくれた方が良い)シーンだったことが災いし、このような長時間撮影になってしまった模様。「あれだけかけたのは自分でも最長不倒記録。いまだに破られてない」と語ってました。


怪演を見せた桂枝雀師匠、室田日出男さんの印象について尋ねると、この撮影の時の師匠は静かに狂ってる感じだったと。室田さんは、あるとき長ゼリフがなかなかうまく言えなくて、NGを重ねるたびに自分をどんどん追い込んでいき、しまいには突然叫びだしたか暴れ出したかして撮影中止になったことがあったそうです。


「人から言われることも多いけど、自分でもこの作品は自分の代表作だと思っている」と語る松田くんに、これから観る皆さんにメッセージをと求めると、「あの難解な原作を期待されるとそうでもないように映るかもしれないし、原作を知らずに娯楽映画として楽しみに来た人にとってはこれでも難解な作品に映るかもしれない。そのどちらにも偏らなかったのがこの映画の良さだと思ってる」といったような言葉を残してくれました。


上映前だったこともあり、15分程度でトークは終了。“いい話”がいろいろ聞けて楽しいひとときでした。当時のメイキングは残ってないんですかね?

ドグラ・マグラ [DVD]

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尚、松田洋治くんは今月末より新宿梁山泊の舞台「YEBI大王2009」に出演されるそうです。詳しくはこちらまで。