セロトニンとドーパミン - 嗚呼、テレ日トシネマ－雑記

先日放送されたCX『サイエンスミステリー４　それは運命か奇跡か〜DNAが解き明かす人間の真実と愛〜』がいろいろと興味深い内容だったのでメモ。

恐怖遺伝子DUP25

　2001年８月、スペイン・バルセロナ近郊で恐怖症が代々続くという家系が見つかった。トラウマによる恐怖症とは別物で、調査してみるとその家系の７５％に何らかの恐怖症が発症していた。バルセロナ大学のX・エスティビル教授は遺伝子の15番染色体上に恐怖症を引き起こす原因遺伝子があることを突き止め、これを『DUP25』と名付けた。DUP25をもつと恐怖や不安感を抑える物質“セロトニン”の働きが弱くなり、高まる恐怖感を抑えることが出来なくなるという。
　恐怖遺伝子を持つスペイン人男性、ラモン・シールは28歳の時に恐怖症を発症。それまでは普通に日常生活を送っていたが、発症後は外の世界が怖くてたまらなくなった。セロトニンの働きを正常にする薬を飲んでるがあまり効果はない。定期的に心理療法士と近くの公園を歩き、外の世界が恐怖の対象ではないことを体感するためのトレーニングを続けている。なぜ外が怖いのか、それは本人もわからない。広ければ広いほど怖いため、海などは特に怖いという。エスティビル教授と共同研究しているA・ブルベナ博士はその理由を次のように語った。「人がまだ洞窟に住んでいたとき、外の世界は自分が狩りをする場であると同時に狩られる場であった。かつての人間にとって、外の世界は“危険な場所”だったのだ。特に、隠れるところのない広い場所は襲われる確率が高くなる分、自分の身を守るため強い恐怖を感じる。つまりラモンの持つ恐怖は、人類がかつて持っていた“外界への恐怖”が甦ったものと考えられる」と。
　現在スペイン人の約１０％がこの恐怖遺伝子を持っているという。適度な恐怖心は防衛のために必要だが、それを抑えるセロトニンの働きが強すぎても弱すぎても問題だという話。ちなみに、現在の日本人も５．３％の人が何らかの恐怖症や強迫神経症に悩まされている。そして世界で最も恐怖症の多い国、それが実はアメリカだった（18.2％）。

過剰書字、止まらない芸術衝動

　芸術など全く縁の無かった男、トミー・マキューが、脳卒中による手術をきっかけに芸術衝動にかられるようになった。寝る間も惜しんで創作活動を続けるトミー。いったい彼の身に何が起こっているのと言うのか。
　芸術と衝動の関係について研究してるA・フラハティ博士によれば「ドーパミンの働きが過剰になってるのではないか」とのこと。“ドーパミン”とは脳の神経伝達物質のひとつで、様々な行動の動機付けや、やる気、衝動に関わる物質。博士もまた、『過剰書字』と呼ばれる衝動に悩まされていた。文字が書きたくて書きたくてたまらなくなり、書く紙がないと、自分の腕や服、壁にまで文字を書き続けることもあったという。きっかけは子どもを流産したことで、深い悲しみが数日続いた後、突然頭の中にアイデアが溢れかえり、感覚がとぎすまされ、目に映るモノ全てが重要に見えてきて、それを書き留めずにはいられなくなったんだとか。書き続けていると、素晴らしい恍惚感を覚えたという。
　同じような経験がトミーにもあった。手術後、以前とは別人のように内気で繊細な男に変わってしまったトミー。周囲はそれを受け入れてくれず、以前のトミーを求めた。ギャップを埋められない彼は、自問自答のような詩を綴り続け、そのうち、どこを向いても人の顔が見えるようになり苦しみ続けた。フラハティ博士によれば、人の脳は苦しみや悲しみといった強い感情に揺さぶられると、周囲に助けを求めようと自己表現の衝動を高めるため、ドーパミンが大量に放出されるという。トミーは周りに助けを求め苦しんでいた・・・それが創作を始める大きな要因になったのではないかと。
　トミーの中で苦悩が出口を求めてた時、妻は彼に絵を描くことをすすめた。やり場のない想いを作品にぶつけていたトミーは、次第にドーパミンの分泌が抑えられなくなり、あふれ出る表現衝動をコントロールできなくなってしまった。「作品作りはまるで麻薬さ」と語るトミー。衝動を引き起こすドーパミンは大きな快感をもたらす。しかし、その快感にはまり繰り返し刺激を与え続けると、脳の構造が変化し、快感だけを追い求める依存症のような状態になることがあるという。トミーの場合、作品づくりが脳に快感を与え、更に快感を求め作品を作るといった循環から抜け出せなくなってしまった可能性がある。彼を検査したＭ・ハーン博士によると、ドーパミンの物質を左右する遺伝子があり、彼が衝動から抜けられないのもそれが原因なのではないかということだった。