『THE JUON/呪怨』を観た(@シネコン)

2週間ほど前に近所のシネコンで観てきました。レイトショーの回ということもあり、客は20代中盤から30代前半を中心に30人ぐらい。男女比は7:3。18歳以下はレイトショー入場禁止なため、『呪怨』シリーズでありながら若い子らに囲まれず観るというのは新鮮だった(しかも男客多い)。


映画の詳細は以下の通り。

『THE JUON/呪怨』

 


【監督】清水崇【脚本】スティーブン・サスコ【撮影】山本英夫【音楽】クリストファー・ヤング【美術】斎藤岩男【プロデューサー】サム・ライミ/ロブ・タパート/一瀬隆重
【出演】サラ・ミッシェル・ゲラー/ビル・プルマン/ジェイソン・ベア/テッド・ライミ/石橋凌/真木よう子/藤貴子/尾関優哉/森下能幸
/2004年


【STORY】東京で福祉を学ぶ留学生カレン(サラ・ミシェル・ゲラー)は、介護センターのアレックス(テッド・ライミ)から、連絡の取れなくなったヨーコ(真木よう子)の代わりに、軽度の痴呆を患った老女エマの介護に出かけてほしいと頼まれる。エマが息子夫婦と住む郊外の一戸建てにたどり着いたカレンは、散乱した家の中で倒れてるエマと二階の押入に監禁されてた少年・俊雄(尾関優哉)を発見する……。


呪怨シリーズは『片隅』『4444444444』も含めビデオ・劇場版は鑑賞済み。ただし小説版は未読。んで、感想です。


新作じゃないので、今更怖いかどうかはどうでもいい感じ*1のハリウッド版『呪怨』。アメリカ人向けにリメイクされてるため、これまでのシリーズからどのように焼き直されたかという点に一番興味がいった。心境としては、本作のオリジナルである『劇場版 呪怨』が作られたときに割と近い。ただ、今回の方が心持ち余裕。なんせあの時は「ホームビデオに近い画質で撮られた『呪怨』を一戸建住宅――できれば映画のロケ地になった佐伯邸――の一階で観るのが最も怖い」と思ってる自分にとって、「フィルムになる」「映画館で観る」ということだけであれはもうかなりのハンデを背負っていたのです。世間的に見ればランクアップしてる女優陣(奥菜恵伊藤美咲)も、ビデオ版(三輪姉妹、栗山千明)に比べると、心霊ホラー的には確実にランクダウン。ビデオ版2のように笑かしにくるとも思えないし、単なる劣化コピーに終わるのではと危惧する気持ちの方が強かった。出来上がった作品は、残念ながらやはり初見者向けで、いっそのこと良いシーンを集めたダイジェスト風でも良かったのに、ビデオ版への中途半端な配慮が物足りなく感じさせる。個人的に良かったのは時空を越えて父娘が視認しあうシーンぐらいだろうか。劇場版なら、『〜2』(酒井法子主演)の方がストーリーや演出に新鮮味があって楽しめた。


THE JUON/呪怨』は、清水崇による『劇場版 呪怨』(奥菜恵主演)のセルフリメイク。キャストはアメリカ人だが、舞台は日本だし、伽椰子も俊雄もオリジナルと同じ。ただし想定された観客は日本人ではなく、アメリカ人。


結論から言うと、仕上がりには満足。『劇場版 呪怨』で不満だった点はほぼ解消されてた。ストーリーはオリジナルとほとんど同じ。ただし、女子高生のエピソードは、<伽椰子の妄想日記>*2や<顎無し女>といったビデオ版で人気の高いエピソードに差し替えられてた。また、『劇場版 呪怨2』(酒井法子主演)で好評だった恐怖シーンも追加されるなど、劇場版1のリメイクというよりは、シリーズの集大成、いや、完全版といった趣になってる。だってすごいよ。伽椰子と俊雄が階段で見せる一連の行為、その<意味>がついに明らかにされちゃったんだから。伽椰子が階段を這い降りるのも、白塗りになる前の俊雄君が傷だらけなのにもちゃんと理由があったんだ!(・・・いままで気にもしてなかった。笑)。これがまた幽霊の行動としては非常に理にかなっており、知れば納得、井筒監督もスッキリ。いやー、『呪怨』シリーズもこれで打ち止めかあ、、、と思ったら、思わぬ全米大ヒットでパート2も引き受けてしまったご様子の清水監督。チャレンジャーだなあ。ファースト・シリーズはめでたくオチがついたので、「呪怨」セカンド・シリーズでは宇宙につれてこうがジェイソンと再婚させようが好き勝手に遊べばいいと思う。


幽霊描写については、だいぶアメリカナイズされてたように思う。俊雄君はバタバタとよく駆け回り、「おお! 俊雄君が“ポルターガイスト(騒々しい幽霊)”になってる!」と感動で打ち震えそうになった。やっぱアメリカで幽霊といったらポルターガイストですよ。伽椰子も時おりゴーストのような形態*3に変えられてたし、顔のアップが全くぼかされてないのは向こうの注文?(だって意図が読めないんだもん)。お約束のカップルいちゃつきシーンももちろんあり、清水崇が演出してる姿を想像してなんかちょっと照れた…。最も違いを感じたのは、音楽。恐怖を盛り上げるため、いつでもどこでも鳴り響いていて、前半はちょっと鬱陶しい(たまには無音にしとけよと)。音楽で盛り上げる<ドアのシーン>なんかは、驚くぐらいオーソドックスで古典回帰かと思った。帰りに『劇場版 呪怨』を借りて見比べたけどだいぶ違ってたよ。話はほんと同じなんだけど、日本版の方は、幽霊が出てくる様子をじっくりと見せてる分、丁寧だなと感じた。一方、アメリカ版はテンポが良くて、「なんかうまくつながってないけど別にいいやー!」て思うぐらい勢いがあった。あと改めて感じたのは、日本版は日常のホッとしたシーンが常にベースにあるってこと。何かおかしなことが起こっても、それが必ずしも全て恐怖につながるとは限らない。登場人物の感情が<恐怖>を知覚する手前のグレーゾーンに留まってることが結構ある。だからこそ、本当の恐怖を“知覚”したとき、一瞬にして“血の気が引く”んだよね。兄(津田寛治)が妹(伊藤美咲)のマンションに訪ねてくるシーンはアメリカ版にも出てくるけど、日本版の方が上手いと思う。アメリカ版の登場人物は常に神経過敏なせいか、何か起こるとすぐ恐怖感情に直結させてしまう。リアクションも派手。また常時鳴り響く音楽が、常にこちらを臨戦モードにさせるため、その更に上の恐怖を演出しなければならない監督は、なんか大変だなあと思った。表現が派手な方へと向かうのはある意味必然なのかもしれない。


『劇場版 呪怨』のリメイクなのに、何故かビデオ版『呪怨2』のリメイクを観ているような気分になった。刑事がメインで活躍してたせいだとは思うが、引っ越してきた外国人家庭の雰囲気がフライパン奥さんとこと似ていたのかもしれない(・・・すごい適当なこと言った。今度見返してみます)。藤貴子さんの動きは一段と凄くなってた。無形文化財に指定したいぐらい。伽椰ちゃんのストーカーぶりも笑っちゃうぐらいパワーアップしてた。ビデオ版で小林先生(柳ユーレイ)への妄愛ぶりを観たときはちょっと引いたけど、今回の伽椰ちゃんはあまりに必死すぎてなんだかいじらしい。映画だからいいけど、ストーカーにリアルであの写真攻撃やられたらマジ怖いって。設定にいろいろと無理はあったけど、外国人キャスト自体は日本の風景に馴染んでいたと思う。ディテールが一番自然だったのはおそらく日本建築を学びに来たのであろうカレンの恋人と、商社(?)に勤めるエマの娘(伊藤美咲がやってた役)。異国に来た不安感については、描き方が足りず、うまく機能してるとは思えない。どうせならカレン一人に集中してくれた方が良かったかも。刑事役で出ていた石橋凌の英語が一段と上手くなっており、もはやヒアリングできませぬ。


DVDが出る際には、是非ともオーディオコメンタリーで事細かに解説してほしいね。そしたら買う!


−追記−
というわけで、買いました。『片隅』『44444444444』もついてるーーー!!!(良心的)


*1:いや、良くないか(苦笑)。しかしいまや「伽椰ちゃん来たー! 俊雄くんカワイー!」状態だから無理です。

*2:伽椰子が一方的に好意を寄せ妄想日記を綴る小林先生のエピソードのこと。オリジナルの小林先生(柳ユーレイ)にあたる役をハリウッド版ではビル・プルマンが演じている。

*3:この表現で伝わるかどうかは疑問だけど、日本じゃ滅多に描かれない精霊ちっくな幽霊のこと(あれより実体はあるけど)。