ビデオ『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』を見た

詳しい内容は公式サイトを参照されたし。この写真一枚で勝手に化け猫ものだと思ってたら全然ちがったのね。

これはどうしちゃったんだろう。全体の印象はまんま『呪怨』じゃないですか。こんなに似せるのなら、いっそのことパロディにしちゃって、柳ユーレイに伽椰子ネタのひとつやふたつ語らせれば良かったのに…。歯ぎしり音さえなければもう少し印象が違ったのになあ。あれは一瞬で伽椰子を連想させるからダメですよ。勿体ない。


悪霊に取り憑かれて死んだ黒い少女の霊、その霊に接触した人は呪われ、その人に接触した人もまた呪われる……という物語を11分割し、『メメント』みたいに結末から順番にみせてゆくとこにちょっとした目新しさがあるんだけど、幽霊って映るのも一瞬だし、白塗りにしちゃうと誰が誰だかよくわかんなくて、いま出てる幽霊がどこのエピソードで幽霊になっちゃった人なのかいまいち判然とせず、話自体はちゃんとつながってるのに、呪い自体はぶつ切れてしまい、恐怖が積み重なるというよりはひとつひとつ消化されてゆくといった印象になってる。素朴な疑問なんだけど、そもそもこういう「呪いの犠牲者が次の犠牲者を生み…」って設定は、次々と呪いが連鎖し広がってゆくところに醍醐味があるんじゃなかろうか。それを逆から見せたら、呪いは、広がるどころかどんどん収束してゆくわけで、それって怖いのか? 怖いかな? うーん…。「そうかっ! これはきっと最後にすっごい怨念が待ってるんだ。そこでズゴーンと落とす気だな。そうだそうだ、そうにちがいない!」と途中で勝手に思いこんだんですけど、最終話もこれまでの延長というか、これといってなんてことはなく…。これなら、始めから順番に見せてくれた方が良かったかも。


心霊描写自体は好きです。特に“ぼかし幽霊”。あれは良かったー。本作に出てくる幽霊(全部じゃないけど)は、全体の輪郭が少しぼけてるんですよ。かすれていたり、粒子を粗くした“画像”っぽい質感でもなく、ぼやけてるってとこまでもいかない。ほんのちょびっと身体の輪郭や目鼻立ちがぼかしてある。そのためか、実体感はあるのに距離感がつかみずらく、幽霊と人間が対峙してる状況でも、同じ場所の異なるレイヤーに両者が存在しているというか、目の前に“居る”という実体感はあるのに同じ場に存在してないという感じも同時に受ける、という奇妙な感覚におそわれてとても気持ちよかったです。だから、ぼかし幽霊が大活躍してる<お父さん(小倉一郎)が襲われる回>はすごく好きですね。小倉一郎の驚き方はどうよ?とか、壁を叩く音と幽霊の出現場所がいまいち繋がんないとかあるけど、何度も繰り返し観て楽しみました。個人的に「学校の怪談G/木霊」の“地図の上を這う黒いもやもや”がすごく好きなので、この回の小道具として使われた“黒いしみ”にもワクワク。ただ同じ“ぼかし幽霊”でも、映画館に出た方はいまいち。ぼかし具合が甘いのか、女優さんの骨格ががっしりしてるのがいけないのか、そこらへんの違いはよく分からないけれど…。


他には<おばあちゃんが病院で襲われる回><弟が塾で襲われる回><お姉ちゃん(若槻千夏)が自宅で襲われる回>が好き(逆にそれ以外はいまいち)。


特に<お姉ちゃんが襲われる回>は、怪奇スポットを訪ねる心霊番組を見てるような視聴体験を味わえたのがGOOD。これが「ほん呪」演出*1ってやつなんだろうか。幽霊が出るときって、通常は、観客が見逃さないように、音で知らせてあげるかカメラできっちりとらえてあげるのが定番なんだけど、これに関してはそういったものがあまりない。全ての幽霊描写に対し必ずしも「ほーら出ました!」って教えてくれないのだ。それって、こちらから探しにいかないと見逃す可能性も出てくるということで、いつものような受動的視聴態度は変えざるを得ない。しかもあっちは、画面に無駄な空間を作ってみたり、人物がフレームアウトしてもすぐにはカットを切り替えず、何もない(はずの)部屋の風景を延々と映したりしてくるもんだから、「なんだこの空間は? この場所に何かフレームインしてくるのか?」とか「ここに今なにか映ってるのか?」なんて、その何もない空間や映されている窓の向こう、家具や食器のすきま、柱の陰なんかが非常に気になりだし、画面の隅々を忙しなく探索するようになる。その行為って、心霊番組を観てる時にはよくやるんだけど、心霊ドラマを観てる時にはやらない。だって心霊ドラマは、こちらの視線や注意を幽霊が出る方向にカメラが誘導してくれるから、「何処に出るんだろう?」って自発的に視線をはしらせ居場所を探す必要がないんだもん。でも、心霊番組の場合は、撮ってるカメラマン自身がどこに幽霊が出るか知らないので、視聴者の視線を意図的に幽霊の出る方向に誘導することができない。視聴者もそれを知ってるから、変な音がしたり誰かが叫んだり、「あそこに幽霊がいますよ」なんて霊能者から言われると、幽霊をこの目に捕らえるべく、怪奇スポットにつれていかれた人たちと同じ目線で能動的に視線を動かしまくる。<おねえちゃんが襲われる回>は、主人公である若槻千夏が、自分以外誰もいない自宅で人の気配を感じ、いないはずの人間の携帯電話の呼び出し音が家のどこかから聞こえてくるので、おそるおそる探索するという話なんだ。普通、この手の話の場合、主人公はまだこの先に幽霊が待ち受けてるとは知らないから、人の気配に「誰かいるのか?何かいるのか?」と先の見えないドキドキ感でいっぱいになってるんだけど、観てるこちらはそうじゃない。出るのはもう分かっているので、あとはカメラの向く方や主人公の視線の先にだけ注意を払い、「そろそろくるぞくるぞ」ってその時をドキドキワクワクしながらじっと待ってるだけ。しかし、本作に関しては、カメラが幽霊の出る方へピンポイントに誘導してくれるとは限らないので、「何かいるのか?出るのか?どこだ、どっからでるんだ?」って画面の隅々に注意を払い、「こっちが先に見つけてやるぞ」ぐらいの勢いで気になる箇所へ視線をはしらせながら、主人公に近い目線でドキドキできたのが楽しかった。


そういえば、この映画はテアトル池袋が心霊現象の舞台になってるんだけど、これが上映された映画館もまさにそのテアトル池袋。実際に映画館で観てた人はどんな気分だったんだろう。



ちなみにこれはシリーズものなんだけど、近所のレンタル屋に「呪霊」と名のつくホラービデオはこれしか置いてなかった(残念)。



【関連過去記事】
白石晃士作品






坂本一雪作品




*1:監督の白石晃士、撮影の坂本一雪はOVホラー(「ほんとにあった!呪いのビデオ」他で心霊もののフェイク・ドキュメンタリーを演出してきてる。