『穴』を観た(@ユーロスペース)

もう上映終了してますけど、最終日に観に行ってきました。入りは30〜40人で、30代を中心に6:4で女性の方が多し。「ここにいるのって三輪ひとみファンと藤井尚之ファンだけ?」といった雰囲気の客層で、前の方に男性陣、後ろの方に女性陣といった具合に、男女で席がキレイに別れてたのが面白かった。


穴 [DVD]

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映画の詳細は以前の日記を参照。


<穴>をテーマに作られたオムニバス短編集だけど、作品における<穴>の扱いが監督により全く違っていた。山口・本田両監督は、真っ向から<穴>に挑み、<穴>が無ければ話が成立しないというぐらい物語のメインに据えて作品を作ってきたのに対し、佐々木・麻生両監督は、<穴>を持て余し気味で、メインの話と上手く噛み合っていなかった。結果としては、真っ向勝負かけた山口・本田両監督の作品が他2作より圧倒的に面白かった。


※以下、ちょっとネタバレします


『胸に開いた底なしの穴』佐々木浩久監督)
<穴(あな)>がいつの間にか<痣(あざ)>にすり替わってしまった作品。三輪ひとみちゃんは確かに好きです。血だらけになって眉をひそめ、苦悶する表情とか大好きですよ。でも、佐々木監督は一度ひとみちゃんを封印した方がいいと思う。今回ばかりは彼女のビジュアルに頼りすぎ。もっと詰めればなんとかなりそうなのに、ひとみちゃんを映すことに専念しすぎて、話がなおざり。<穴>と<痣>を掛けたいのかなんなのかハッキリしてほしい。


『夢穴』麻生学監督)
元々「夢」っていう作品が作りたかったのに、無理矢理<穴>をねじ込んでみたって感じ。『夢』をテーマにしたオムニバスならこれでもOKだけど、本作における<穴>は完全に蛇足でしかなく、消化不良な感覚が残りまくりだった。


『青春の穴』本田隆一監督)
ギャング一味が、異次元の穴によって、あるべき姿、ありたいと思う姿に戻っていくという話なんだけど、脚本を書いたのは子分役で出演してる山本浩司。突拍子もない発想の小ネタが非常に可笑しく、ギャグ一辺倒かと思いきや、タイトル通りほのかに胸キュンな作品に仕上がってるのが嬉しい。テンポが良くて飽きないし、事前にいろいろとネタフリがあるので、くるかくるかと観てる間中ワクワクする。客のウケは一番良かったんじゃないだろうか。


『怪奇穴人間』(山口雄大監督)
これは是非シリーズ化してほしい。ロケーションのこり方といい、名探偵・一日市肇*1を演じる坂口拓の仕草や絶妙な台詞回しといい、監督インタビューを読むと全てが納得なんだけど、というか、感想は全て監督が語っちゃってるので言うことなくなったよ(爆)。一日市肇が名推理によって“穴人間”を落とすというクライマックスで見せる、二人のシルエットだけを延々と映す演出とか、もう、たまらんです。本作のような、もの悲しくスマートな作風の方が本来持ってる山口監督のテイストに近いなら、もっともっと出して欲しい。『地獄甲子園』より圧倒的に好きです。主役の“穴人間”を板尾創路が演じてるんだけど、動物っぽい純粋さを兼ね備えつつ、泣いてるような諦めてるような、どこか虚無ってるあの“目”に板尾くん独自の希有な魅力があると思うのだけれど、今回の“穴人間”という役、非常に悲しい男なんだが、板尾くんのあの目は実にピタリとはまってた。どこかでこれを長編にする計画があるとかいう記事を読んだ気がするが*2、それはどうだろう? これはこれで完成してるので、蛇足になりはしないかちょっと心配。


ネタバレ終了


オムニバス作品ってこれからもたくさん出てくると思うけど、ある題材を元に作品を作るということが義務づけられているなら、逃げずに真っ向勝負してくれた方が、例えでっかく空振りしても見てるこちらとしては清々しかったりする。心霊ホラーもそうだけど、もしどうしても無理なら、全く無視して独自の道を歩むのも手だと思うんだ。でもそのときは「主旨には反するけど、面白かったから許す!」と言わせるぐらいの作品を作って欲しい。なんというか、究極的には作品に“巴投げ”されたいんです。他人の力で宙を舞って別の世界を見てみたいの。でも、中途半端だったり逃げやごまかしが見えるとキレイに宙を舞えないわけで、ああ、我ながら非常にエゴイスト…。ま、観客なんて皆そんなもんです(たぶん)。

*1:もちろんこれは「じっちゃんの名にかけて!」からパクってますね(笑)。

*2:夢だったらごめんなさい。