『キッチン・ストーリー』を観た(@渋谷Bunkamura)

渋谷のBunkamuraで観てきました。なんかハイソな映画館だね。50代の夫婦はここに観に来てるのか。隣でやってた『トスカーナの休日』しかり、大人の客しかいなかったよ。40-50代を中心に、30人ぐらい。ほとんど女性。夫婦or年の差カップルで男性陣もちらほら。


映画の詳細は以下の通り。


『キッチン・ストーリー』 5/22(土)〜7/23(金)まで*


【監督・脚本】ベント・ハーメル【出演】ヨアヒム・カルメイヤー/トーマス・ノールストローム/レイン・ブリノルフソン
95min/ノルウェー・スウェ−デン/2003年
□上映館:Bunkamuraル・シネマ


【STORY】1950年代初頭の北欧。ノルウェーの田舎に住む、年老いたひとり暮らしの男の元へ、スウェーデンの「家庭研究所」から調査員がやってくる。目的は、“独身男性の台所での行動パターン”を観察するためだ。台所の隅に、男を見下ろす奇妙な監視台が設置され、観察生活は始められた。被験者と調査員の間には、「互いに会話をしてはならない」「いかなる交流をもってはならない」といったルールが決められていた。最初は気を許さないふたりだったが、ふとしたきっかけから密やかな交流が始まる…。

キッチン・ストーリー [DVD]

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独り身のおっさん二人が、不器用ながらも徐々に心を通わせ友情を芽生えさせてゆく様を、ゆったりとした時間の流れで描いた作品。途中、男の嫉妬がからんだり、国籍の違う二人の交流をノルウエーとスウェーデンという国そのものに見立てるなど、人間同士の心の交流のみならず隣り合う二国がいかにして分かり合えるかということをも呈示しているように見えた。


ノルウエーの老人とスウェーデンの中年男。こんな奇妙な出会いがなければ、出会うことも友人になることもなかっただろうおっさん二人は、国籍・年齢がちがうだけで、実は似たもの同士。どちらも独り身、物静かで身寄りも少ない。そんな二人が狭い部屋に四六時中一緒にいて「気にするな、会話するな」と言われても、どだい無理な話である。ノルウェーの爺さんは、近所に友人がひとりいるけれど、心の許せる話し相手というほどの仲ではない*1。そこに訪れた外国からのお客人。ちょっかい出してみるとどことなく気の合いそうな雰囲気。スウェーデンのおっさんも、ノルウェー爺さんのことが気になってたまらんのだが、話しかけることを禁じられてるだけに、段々とストレスが溜まってくる。会話もなく音楽も流れないから、スクリーンには間の持たない気まずい雰囲気が溢れてる。あるとき、タバコをきらした爺さんに思わず自分のタバコを差し出してしまい、お礼に出されたコーヒーを飲んでしまったことから急速に親交を深め合う二人*2。北欧独特の柔らかな家具・食器類に囲まれ実に楽しそうに会話を弾ませる二人。おやじたちの笑顔がほんとにキュートで愛らしい。そんな二人を観てると、お互い寂しかったんだな、心を許して語り合える友が欲しかったんだなというのがビシバシ伝わってきて、しみじみほのぼのとした気分になる。


ただ、ノルウェーの独居老人問題*3とか、スウェーデンノルウェー間の確執*4といったお国柄の事情に疎いことが足枷となり、モヤモヤとした壁が邪魔してどこか話に乗り切れない自分がいたのも事実。予備知識を入れてから観れば良かったと少し後悔。ラストの展開*5はちょっと受け入れがたいかな。きれいにまとめすぎ。


スローライフスローフード映画と言われるだけあって、美味そうな飯が出てくるんですよ。あのソーセージにチーズを挟んだやつとか食いてー。それと、本作では親交を深めるシーンに必ずといっていいほどコーヒーが出てくる。自分がコーヒー党のせいか、観てたら無性にコーヒーが飲みたくなった。劇場を出た後、暑い中ぐいっと飲むアイスコーヒーは実に美味かった。あのヤカン、爺さんが持ってるいつでも美味しいコーヒーが出てくるあのヤカン、欲しいなあ。



追記:『らくだの涙』というドキュメンタリー映画の予告がやってた。子育てを放棄するラクダの母さんに、音楽を聞かせることで子供を受け入れさせるまでを追ったドキュメンタリー。監督は卒業制作としてモンゴルの遊牧民に密着しこのドキュメンタリーを撮りあげたわけだけど、生まれたのが“白いラクダ”ってのがすごい強運。映画の掴みとしては申し分ないビジュアルなだけに、監督はこれで運を使い果たしたんじゃないだろうか(笑)。あと、ロバート・アルトマン監督の新作『バレエ・カンパニー』の予告で、久々に『スクリーム』のネーヴ・キャンベルを見た。彼女ってバレエ・ダンサーだったんだ! ひとりだけ場違いな雰囲気だったので一瞬びっくりしたが、経歴聞いて納得。この映画の原案も彼女らしい。

*1:でも相手は自分こそが一番の友であり理解者だと思ってるので、突然間に割り込んで友人の心をかっさらっていった客人相手に一悶着起こすのだ。

*2:この瞬間から、音楽も流れ出す

*3:高齢者の自殺が多いらしい

*4:映画の中ではそれぞれの国を揶揄する台詞がいくつか織り込まれてる

*5:代わりに住み着いて友達になっちゃうこと