火9『あなたの隣に誰かいる』の想い出ぽろぽろ

「チャランチャランチャ〜ン♪」のイントロを聴くと不敵な笑みを浮かべる北村一輝の顔が浮かぶという現象に悩まされてる人がこの日本に何千人いることだろう(笑)。先日亡くなったいかりや長介がらみでキーワード『あなたの隣に誰かいる』を辿っていったら、やはりほとんどの人が長さんの<声>に触れていましたね。中盤からどんどん痰が絡んだような声になり、最後はほとんど出てなかった。DVDが出る時は、長さんの事、自分の声だけ録り直して出すんだろうと思ってた。それぐらい普通ならOKテイクにはならないようなぎりぎりの声だった。「ここは長さんだろ!」っていう謎解きシーンも、ほとんど佐藤藍子が喋っていたんだけど、ちょっと彼女には荷が重かったね。


実話をベースにしたホラーサスペンス・ドラマという触れ込みで始まった火9『あなたの隣に誰かいる。「夏川結衣、久々の連ドラ。しかもホラー」という一報を聞いた時からわくわくしてました。あんまり好きだって人に出会わないけど、同時上映が『リング2』だったこともあり、私自身は割と好きなんですわ、『死国』。しかもサイコ・ドラマは多くあれど、頭に“ホラー”と銘打ったドラマがゴールデンに“連ドラ”としてやってくるのは久しぶりだ。2時間スペシャル(『学校の怪談』『ほんとにあった怖い話』など)や怪談もの(『怪談百物語』)なんてのはあったけど、もしかして続き物としては岸谷五朗の木10『らせん』*1以来か? 火10『フェイス』*2なんてのもあったけど、これは『らせん』より前だしサイコ・ミステリーになるのか…な? ま、何にせよ制作者サイド自らが「ホラーだ」と言うのだから、これはやる気だなと。しかも予告がどう見ても“新しい家に引っ越したら、そこは幽霊屋敷だった”って作りなんだ、これが*3。これはもう見ないわけにいかない(笑)。


加えて、出演者の顔ぶれがまた良かった。久々の連ドラ主演となる『死国』の夏川結衣を始め、和製モーガン・フリーマンと謳われるいかりや長介*4。水10『夏パパ』の不振*5を吹き飛ばすべく、お得意の役柄に戻って再スタートの北村一輝。それに戸田菜穂火野正平木下ほうか、『キル・ビル』で突如再注目された梶芽衣子が脇を固めるという、ゴールデンの連ドラとは思えない布陣。濃い。濃すぎる…。病気療養中だった柏原崇も、これが初復帰作品だった。


唯一の不安材料は、脚本が坂元裕二だということ。坂元裕二といえば月9『東京ラブストーリー』や『同級生』の脚本家であり、森口瑤子の旦那*6、というイメージしかなく、到底ホラーが書ける人材とは思えない。そんな人に任せて大丈夫なんだろうか…。演出の林徹もホラーの経験は浅い。



期待と不安が入り乱れる中、満を持して始まった初回。オープニング映像はよし! B'zが歌う主題歌「アラクレ」も破壊力抜群なイケイケROCKだ(笑)。しかし本編を観ると、、、これが微妙だったんだな。「やっぱりやっちゃったか?」と思いながら観てたら、ラスト5分、B'zの稲葉が歌う勝手にしやがれのイントロと共に奇蹟が起こった。まじ、奇蹟が起こった(嬉)。もしあの当時HDDレコーダーを持っていたら、間違いなく“しやがれライブラリー”を作っていたことだろう。


そう。このドラマのすごいところは、予想を上回る展開を次々と繰り出し、如何に視聴者を楽しませるか、その一点にのみ心血を注いでるところにある。初回に見せたラスト5分の奇蹟は、次の回も、またその次の回も延々と続く。どんなに「いや、今回はちょっと…」というダレた回でも、ラスト5分を見れば必ずまた来週も見たくなる。その演出手腕はお見事というしかない。バックに流れる「勝手にしやがれ」と映像のリンク率が秀逸なのは第三話。「悪いことばかりじゃないと 想い出かき集め 鞄につめこむ気配がしてる〜♪」の歌詞の部分で、ユースケが浮気相手の部屋に残された自分との思い出の品を鞄に詰め込むという粋な演出には大笑い。


次の第四話で「勝手にしやがれ」ではなくZARD坂井泉水が歌う「異邦人」に代わったのだが、これが不評だった。こちらは前回のシンクロ演出で既に「勝手にしやがれ」を聞かないと終われない身体になっていた。ここで流さないのは印籠を出さないで終わる水戸黄門と同じ。画面で繰り広げられている内容に「異邦人」自体は合っており、演出としては特に失敗ではない。ただ、視聴者が求めているのはあくまでも「勝手にしやがれ」なのだ(苦笑)。これ以降、他の曲が流れることは二度と無かった。



このドラマが変わってるのは、北村、夏川といった一流どころの役者に、異業種からの転向組や再現VTRで活躍してる役者をガチンコで絡ませたり、主役以上にフューチャーするところにあると思う。両者を絡めた時の圧倒的存在感の違いから、時々みょ〜な違和感が画面に漂うのだが、めくるめく怒濤の展開によって誤魔化されたり、ダークホースの出現に圧倒されてるうち、『あな隣』独自の持ち味(“ヘタうま”みたいな、なんかそんな感じ*7)へと変化してゆくのが面白い。また、北村一輝夏川結衣夏川結衣戸田菜穂火野正平夏川結衣といった一流同士のカップリングが繰り広げるシーンになると、途端に画がしまるため、直前に緩い画づらが展開されてもすぐ忘れさせてくれる。


毎回見せ場を用意しなければならないため、フェイクネタが非常に多く、脚本自体はかなりイケイケ。火野正平に振り回された人、手を挙げて!(は〜い) 伏線がすべて回収されるような綿密かつ良質なプロットではないため、立ち止まって考えると疑問点や粗はたくさんみられる。普通はそこで愚痴のひとつでも言いたくなるものなんだが、こうも予想以上の展開をコンスタントに見せられると、なんか“つじつま”とか“整合性”なんてものはどうでもよくなってくるんだな(笑)。大風呂敷広げた企画ほど、後半グダグダになるか、ラストでまとめきれず、視聴者から「糞」扱いされて終わるものだが*8、『あな隣』に限っては「無理に閉じなくていいよ〜。小さくまとまったらぶっ殺すぞ〜。力技で投げ飛ばしてくれ〜い!」、そんな心持ちにさせてくれる。


最終回は、焼かれても串刺しにしても銃弾浴びても死なない北村一輝を、いかりや長介が蟲封じ短剣で突き刺しめでたしめでたしとなるわけだが、ラストシーンで松本家(夏川&ユースケ夫妻)が心機一転引っ越した先のお隣さんを役所広司*9が演じていたり、且つその名前が「稲葉」だったり*10と思わぬ特典や遊び心まで加わり、もうぐうの音も出ない見事な幕引きでした。


ここまで綺麗な<企画勝ち>は珍しかったですねえ、ほんとに。プロデューサーさん、あっぱれですよ。



そして、やはり誉めてあげないといけないのが白石美帆だろう。彼女はほんとにダークホースだった。見くびってましたよ。侮ってましたよ。始まる前までは『愛するために愛されたい』の武田修宏同様、ラズの女王としてどこまで頑張るか生暖かく見守ろうと思っていたのが、彼女の迫真の名演技(決して“迷”演技に非ず)のおかげで『あな隣』でも1,2を争う名シーン「地獄へ落ちろ!」が生まれやがった。
スポーツやってただけあって、ポリタンクを投げつける様もお見事。高笑い、ノーメイク風メイク、全てがすばらしい。しかも最終回直前で夏川の窮地を救いに再び現れるのだ!(あのシーンで助けにくるのはてっきりカッシーだと思ってましたよ) 両親を殺された恨みですかねえ。ものすごい執念です。北村一輝を一番追い詰めてたのが、誰あろう、白石美帆だったという驚愕の事実。いや、ほんとにダークホースでした。この展開を予想できたやつはいないだろ?


個人的には閑話休題な第六話が結構好きです。夏川がユースケに手紙を書き、家を出る回ですね。夏川のナレーションにはほろっときました。せっかく間に合ったのにバスに乗り込む彼女を引き留めない欧ちゃんの不甲斐なさに「何やってんの!なんで引き留めないの!欧ちゃんのばかーーーー!」と心のなかで罵倒したものです(笑)。



で、結局このドラマがホラーサスペンスだったかどうかというと、昔なつかしジェットコースター・ドラマ*11と銘打った方が正解だったような気もしないでもない(苦笑)。ホラーって言っちゃうと「怖いから観ない」て人もいるしね(逆に「ホラーなら観る」て自分みたいなやつもいるわけだけど比率的にはどちらの方が多いのだろう…)。


なんにせよ、フジテレビさん、そのうちまたお願いします。




各話あらすじは↓公式サイトでどうぞ。
あなたの隣に誰かいる バックナンバー一覧 - フジテレビ



*1:映画『らせん』とは違い、全くのオリジナルだったけど、長瀬智也の木10『リング〜最終章〜』よりはこっちの方が何倍も怖かったし面白かったし個人的には好きでした(あまり賛同者はいない…)。

*2:りょうと武田真治が主演のトンデモ系。雰囲気的には月9『あなただけ見えない』に近いが、ラストはある意味衝撃です。母ちゃん、脳みそですよ。脳みそ(笑)。走る武田真治のやたら背筋のピンと伸びた不自然なフォームを見て、楳図かずおの漫画を思い出したのは私だけじゃないはずだ!

*3:うそつき!

*4:復帰後初連ドラ。まさかこれが遺作ドラマになるとは…

*5:視聴率が3%台に突入し打ちきり

*6:いや、これは単なるマメ知識(笑)。

*7:自分で書いてて意味不明。表現力の無さにがっくり。

*8:例えば金10『QUIZ』のように。いまだ思い出すだけで腹立つあの“逃げのラスト”。小説で尻拭いしてもおそいっつーの!(怒)

*9:ユースケとは『ドッペルゲンガー』で共演。夏川とは『油断大敵』で共演。前者は2003年、後者は2004年に公開された映画だ。

*10:もちろん主題歌を歌ってるB'zの稲葉浩志松本孝弘にかけてるわけです。

*11:元祖はもちろん“宇宙を掴む男”吉田栄作山口智子主演の『もう誰も愛さない』。何故吉田栄作が“宇宙を掴む男”なのかというと、この人、アメリカに武者修行の旅に出る前は「俺は将来、宇宙を掴む」と本気で言ってたんです。お塩先生、あなた、まだまだです。