『サル』を観た(@テアトル新宿)

昨夜、レイトショー観てきました。客層は20代後半から上、30人ぐらいでしょうか。昨夜は先着30名に特製グッズプレゼントということだったらしく、受付でチケットを見せると”注射器型のマーカー(インクの色はピンク)”と大森南朋が描いた”サルのイラストのシールセット”をくれた。テアトル新宿は地下にあるのだが、早めに行っても開場までの間ロビーでくつろぐことができる。整理券制ではなく、上映が始まる20分ぐらい前に受付前の階段に2列で並ばされるので、良い席で見たい人は階段付近で待機してるのがいいかもしれない。ただ、以前ここで昼間に『呪怨』を見た時は、右側の出入り口付近に並ばされたので、レイトショーと昼間のロードショーでは客の入れ替え手順が異なるのかもしれない。ちなみに、テアトル系の映画館は水曜日なら男女問わず1000円で観られる。詳しくはこちら

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映画の詳細は↓以前の日記を参照。



怖がらせることがメインのサスペンス・ホラーかと思いきや、実際に観てみると少し違っていた。ちらしや宣伝を見た人は、なかば都市伝説化してる新薬投与試験(通称”治験”)のバイトにまつわる怖い話を期待して見に行くのだろうが、実は中盤までほとんど怖くない。思わず笑ってしまうような体験裏話がてんこもりなのだ。また、監督自身が治験のバイトを1年ほどやっていたことがあり、自らこの映画を「治験体験ムービー」と命名してるだけあって、これから治験のバイトをやってみたいなという人にとってはちょっとしたガイド・ムービーにもなっている。自身の体験をベースに脚本を書いてるだけあって治験を受ける過程の描写は詳細でリアルだし、なんといっても治験に参加する被験者のやりとりがちょっとしたサークルの夏合宿的なノリでバカっぽく面白い。特に治験の常連として”横尾”という髭面の怪しげな人物が出てくるのだが、こいつが非常に愛すべきキャラなのである。


この映画の主人公たちは自主映画の資金作りのために治験のバイトに参加したわけだが、実際の治験も小劇団の役者、自主映画製作者、漫画家やミュージシャンの卵といった輩が多かったそうだ。パンフレットにはそこらへんのことが現役体験者のインタビューも交え詳しく書かれているので、治験のバイトに興味がある人は一読の価値あり。


以下、ラストに関する若干のネタばれあり


実は治験の話と平行して、自主映画製作における青年たちの苦悩や挫折も描かれており、話の比重がラストで完全に逆転する仕掛けになっている。この映画の主人公たち(水橋研二大森南朋鳥羽潤、草野康太、鈴木直)は20代半ばの映画学校卒業生。福家(水橋)を監督に自主制作映画を撮ってる最中、資金が底を尽き、映画の主演俳優でもある井藤*1(鳥羽)の提案により、5泊6日で数十万の金が稼げる治験のバイトに皆で参加することを決めた。何故、資金が底をついたのかというと、全ては監督・福家の”画”に対する拘りが原因であった。映画の中の重要なカットで黄金色に実った稲穂のアップを撮らなければならないのだが、福家はどうしても福島まで行って”本物”が撮りたいという(”福島の稲穂”という設定だから)。助監督の磯村(大森)は「そこらの稲穂でいいじゃないか、何故本物に拘る? 重要なのは映画の中でリアルであるかどうかということで、実際に本物かどうかなんて関係ないだろ。そんなこと言ってたらいつまで経っても完成なんかしないよ」と福家を説得する。そんなやりとりが治験の合間に幾度となく繰り返され、頑なに”本物”に拘る監督、資金繰りやスケジュール管理に頭を悩まし愚痴る助監督、「ここまできたんだから監督がやりたいようにやらせようよ」となだめる制作スタッフ(草野)やカメラマン(鈴木)といった、映画青年たちが抱える苦悩や情熱を同時に描き出すことで、恐怖要素になんともいえない青臭さ、切なさ、やるせなさが加味されている(その分、ホラーとしての描き込みは若干浅めになってしまったわけだが…)。彼らの情熱は、一人の仲間の重大な裏切りによって風前の灯火となるわけだが、最後にとった福家の行動が夢をつなぎ未来への希望を残す。


ネタばれ終了


こちらで監督・水橋・鳥羽・大森のインタビューが読めるのだが、ラストに関わるネタバレをしてるので映画観賞後に読むことをオススメする。かなり詳細なインタビューであり一読の価値あり。


ちなみにこの映画での大森南朋は最初どこにいるのかわからない。「なんか、シルバーグレーのおっさんがひとり混じってるぞ」と思って見てると、そいつが大森南朋だった(笑)。また、映画の冒頭のニュース映像で、小泉首相靖国参拝のニュースが流れるのだが、今年の正月、実際に小泉首相靖国参拝を行ったため、正月明けにこの映画を観た人間にとっては非常にタイムリーであった。たまにはこういう神も舞い降りる。


葉山監督は、本作で監督・脚本を兼任してるが、劇場用長編映画を監督したのはこれが初めてとのこと。ホラーとしての比重は、当初の予想より若干低めになってたのだが、これまでに『奇跡体験!アンビリーバボー』の脚本を担当してただけあってストーリー展開は飽きさせない。



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*1:井藤は治験のバイトを何度かしたことがあり、今回の治験の担当看護士たちとも顔なじみであった