大林宣彦監督と映画『HOUSE ハウス』の思い出

『時をかける少女』大林宣彦監督、死去 82歳 最新作の公開予定日に:紀伊民報AGARA
 “尾道三部作”と称される『転校生』(1982年)、『時をかける少女』(83年)、『さびしんぼう』(85年)などで知られる映画作家大林宣彦さんが、4月10日午後7時23分、肺がんのため東京都世田谷区の自宅で亡くなった。82歳。

うら若き中学生の私に多大なる影響を与えた大林宣彦監督がとうとう亡くなってしまった。いくつになってもどんなにCG技術が発達しようとも、合成感バリバリの切り絵風映画を常に撮り続けてくれる希有な映画監督だった。MXテレビさん。大林イズムを刷り込むためにも、小中学生が長い春休みに入ってるいまがチャンスと思って、昼の映画枠で監督デビュー作となる傑作ホラー『HOUSE ハウス』を放送してください!友人やきょうだいと『ハウス』ごっこする子供らを量産するのです!>音楽室のピアノでハウスごっこする人間なんて中学時代のキミぐらいだよ>ハウスごっこは一人じゃ成立しないんだよ。

これが土曜のお昼に放送されてた昭和の東京ってシビれるな。自粛期間が終わったら、シネマシティで『HOUSE ハウス』極音上映して欲しい。そもそもハウスは大林監督曰く「15歳以下の子供をターゲットに作られた映画」だから中学生で見ることができた自分は本当にラッキーだった。


出演者やあらすじ、製作経緯などは↓こちらでどうぞ。詳細に綴られています。
ハウス (映画) - Wikipedia
ぼくたちのトラウマ映画シリーズ! #1 「HOUSE」大林宣彦/1977/東宝 - NAVER まとめ


大林宣彦特集》ガリクンフー【二大守護神】弾(談)Part1-Before the Battle-

神保美喜クンフー)、松原愛(ガリ)がロケ地となったハウス邸を40年ぶりに訪れ、撮影時の思い出話を事細かに語ってくれてます。


大林宣彦特別番組》 HOUSEサントラ談 第一章 『HOUSE in ミッキー吉野



HOUSE (ハウス)

HOUSE (ハウス)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video



せっかくだから、16年前に書いた思い出話を再掲。

  * * * *

私は中学生のある時期、とある映画を観てしまったがために<グランドピアノに突き刺さった血みどろのバラバラ死体>という絵を面白がって描きまくってたことがあった。もしその当時、現場を血の海で染めるような猟奇殺人を犯していたら、絶対この作品の影響だと叩かれたことだろう。


その作品は土曜の昼間にテレビ放映されていた。学校は半日で終わり、たまたま部活もなかったので、まっすぐ家に帰りテレビを付けると、その映画はまさにやってる最中だった。我が家は共働きで昼間親は家にいないから、自分で作ったサッポロ一番塩ラーメンを食しながら、何の気なしにその映画を観ていた。ところがどうもこの映画、おかしい。洋館に女の子たちが集まり、「変なことが起こる」とか言っていろいろ相談してるんだが、女の子は互いを奇妙な名前で呼び合っている。しかも一人また一人と、おっぱいポローン、血がドヒャーってなりながら、次々と家具に喰われバラバラ死美人になってゆくのだ。そして何故か特撮は合成バレバレの<切り絵風>。「こんなの今までに見たこと無い…。なんなんだこれは…」 怒濤の展開にあっけにとられていると、家から何百リットルもの血が噴き出し、主役のコメットさんは服を真っ赤に染め泣き叫びながら、血の海を畳に乗ってプカプカしてる。そこにおっぱいポローンの池上季実子が現れ彼女を慰めるんだ。んで、ラストは外人顔のおばさん*1池上季実子が縁側で微笑みあって終わるという、うら若き中学生の脳みそには理解不能なハイテンション・ストーリー。週明け、学校に着くやいなや友達に「観たか?観たか?」と尋ねるが、何故か誰も観ていない。それが如何にすごい映画だったのかを、女の子がピアノに喰われてバラバラになってるシーンを絵に描き説明するのだが、いまいちその興奮を理解して貰えない。放課後、部活の友達に聞いて回ったがここでも誰も観ていないと言う。「あれを観たのは自分だけなのか…」と諦めかけたその時、神は我を見捨てなかった。一人だけいたんですよ、観てた子が。「土曜にやってた変な映画観た?」と聞いたら、目をキラキラ輝かせ「観た観た! あのメロディ〜ってやつでしょ!」とジェスチャー付きで答えてくれた。もう、二人でひしと抱き合い、毎日のように会えば<ハウスごっこ>ですよ。そう。その映画こそ大林宣彦監督の傑作ホラー『HOUSE ハウス』だったのだ。(※「メロディー」というのはグランドピアノに喰われた女の子の名前で、他に「ファンタ」「オシャレ」「スイート」なんて名前が付いている。)


いまとなってはこのエロ・スプラッター作品が土曜の昼間にやってたこと自体信じられないのだが、amazonの作品レビュー( ASIN:B00005N76F)を読んだらこんなことが書いてあった。

ただただ荒唐無稽な作品だが、当時大林監督は硬直化する日本映画に風穴を開けるべく、15歳以下の観客たちで映画館をあふれんばかりにすることを目論んでいた。


だから昼間に放送できたのか。大らかな時代だったなあ。
 
  * * * *

再掲終わり。おまけ↓。





大林監督の大いなる功績のひとつといえば、映画『さびしんぼう』によって、「ショパンの別れの曲を聴くと無性にノスタルジックな気分にかられる」という刷り込みを盛大に行ったことだと思う(別れの曲に「さ〜よなら〜 あなたに〜 出会えて〜嬉しかった〜」という歌詞をつけたのはこの映画)。



尚、5/10公開予定だった大林宣彦監督の最新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱―』は新型コロナの影響で一旦延期となりました。公開時期については情勢を見ながら調整中です。しばしお待ちを。

82歳末期がん闘病中でこのハイテンションって末恐ろしいわ。映画が公開されるまで冥福を祈るのはお預け。もうちょっととどまってて。


そして毎年言ってるけどNHKさん。今度こそ長岡花火大会生中継の前に映画『この空の花〜長岡花火物語』を放送して、映画→中継への橋渡しを実現させてください。




*1:鰐淵晴子