↓一部で「ブラタモリ映画」「環境ノイズ映画」として評判の『マイマイ新子と千年の魔法』を再見してきた(橋本で)。
「マイマイ新子と千年の魔法」という「環境ノイズ」映画(@速報ダム日和)
ブラタモリとマイマイ新子(@図書館の海辺)
2回目にして自分がどのあたりに感動してるのかがなんとなくつかめてきた気がする。もちろん、小さい子供が何かを守るために一所懸命頑張ってる姿には心打たれるけど、クライマックス以降の訳もなく涙が溢れてしまうっていうのは、おそらく「安心感」や「安堵感」なんだと思う。自分や周囲や世の中が如何に揺らごうと、千年の先から、そしてこの先何十年何百年経ってもおそらく変わらないであろうものがそこに“在る”という確かさに安堵してるんじゃないかと。なんだかこういうと迷子になって親と再会した子供みたいだが、しょうがない。だって、一番の泣き所が“夜空にかかる天の河を見たとき”なんだから(笑)。あれは何億年前からああしてあそこに在るんだろうなあ。おそらく自分が風景映画が好きな理由もそこにあるんじゃないかと思った。
で、それを担ってるのがこの作品における風景描写なんだが、パンフレットや制作過程を綴ったメイキングブログを読むと、平安時代ならびに昭和30年代当時の防府の文化・風景をできるかぎり忠実に再現するため、平安時代に書かれた書物を読み、発掘調査資料や古地図、年代別の航空写真など大量の資料を取り寄せて劇中の防府の町並みを作り上げてることがわかった。
カントク片渕のメイキング・オブ・マイマイ新子よりロケハン・時代考証関連のみ抜粋 ※写真・画像比較あり
◆千年前の海の上に立つ(古地図に見る埋め立て前の風景)
◆国衙バス停傍の有井商店(劇中は竹本商店)
◆看板いろいろ(グリコ・日の出サイダー・オモロー等)
◆貴伊子の家の庭に咲く花
◆佐波神社の石段、グリコのおまけ
◆佐波神社前の桑畑
◆貴伊子の家(大田区・昭和のくらし博物館)、貴伊子のママの絵
◆貴伊子のイメージ形成に役立った資料(後ろ髪のパーマや服装など)※考証協力・前野秀俊氏
◆塀にさえ花を咲かせたい心〜築地(ついじ)塀〜
◆千年前の国衙
◆昭和31年の防府市街地図に掲載されてた宣伝広告
◆防府市国衙の地面の色、千年前の海岸線
◆ちりめん猫の絵が描かれた鏡台カバー(できるだけ原作に忠実に)
◆童女の衣服〜諾子ちゃんのできるまで(国立歴史民俗博物館)
◆昔の色鉛筆は「朱」「紺」「緑」「紫」「茶色」「黄」の6色だった
◆貴伊子が東京から乗ってきた機関車(C59−164号機)は東京駅13時ちょうど発の急行『雲仙』
◆防府マップを作る
◆一平くん家の映画館のモデルは浅草中映劇場
◆◇◆どこまでも広がる麦畑を探す
◆千年前のこどもを理解する(台詞やエピソードは『枕草紙』『源氏物語』『宇治拾遺物語』『元輔集』からの引用)
◆新子の家(東京・大田区「昭和のくらし博物館」)
◆貴伊子の家(東京・小金井公園内「江戸東京たてもの園」)とガス冷蔵庫
◆勝間神社とイタドリ
◆日本のどこにでもある町ではなくハッキリと特徴のある町を目指す
◆新子たちの制服、木造校舎
◆発掘現場で撮影した柱穴の写真を加工して平面図を割り出し、寝殿造りの国司館設計図を作る
◆諾子の家、発見
◆地形を読むことだけで670年前の道を見つけだす
◆貴伊子の家(埋立地の紡績工場社宅)を探す
◆新子の家、発見(発掘調査の現場記録写真の中に新子の家の外観を発見)
◆防府駅前ロケハン(山陽楼食堂)
◆知らない町の50年前の再現に挑む(山の名前は、北=「多々良山」「矢筈ヶ岳」、東=「大平山」etc...)
まあ、これ読むだけでも片渕監督がどれだけこちら側の人かわかるわけだが(ロケハン楽しそ〜)、パンフレットにはこうも書かれている。
- 片渕監督は航空ジャーナリスト協会に所属
- 新子の帰宅路を忠実に再現
- 山口在住者曰く「東西南北の山の形が実景通りに再現されてるから、映画の中でいま自分が東西南北どの方向を向いてるのか一目でわかった。」
また、パンフレットには「マイマイ新子 防府マップ」なる新子や貴伊子の家、小学校や国廰の碑の場所を書き込んだ地図までついておるわけで、「これだけ資料が揃ってるならもしや・・・」と思い2回目を観に行く前に幾度となく防府マップを眺め、現在の防府市街図(Google Map)と防府マップを見比べ、だいたいの位置関係を頭の中にたたき込んだ上で再見。そしたらすごいことになってて驚いた。
確かにこれは方角がわかる。 そして方角だけじゃなく、山の形や距離感から町のどのあたりにいるのかもわかる。しかも背景制作用に町の全体像をジオラマで作りあげたんじゃないかと思うぐらい風景がつながってるもんで、同じ場所を別のカットで異なる方角から映してもそこから見える背後の風景に矛盾がない。
だから地図を意識しつつ繰り返し本作を見ていれば、徐々に防府市国衙の風景が脳内メモリに蓄積され、次第に町の全体像を“断絶したカット”ではなく空間的に把握できるようになるんじゃないかと。だって防府市なんて行ったこともないのに、2度目にして既に「ああ、知ってる知ってる。この道まっすぐいって左に行くと貴伊子ちゃん家だ」と思いながら見てる人間がここにいるのだから(笑)。
余談。そういや、パンフについてた防府マップだと、発掘現場と諾子の館の地図上の位置が水門の西側にある現・国衙会館のあたりってことになってたけど、発掘現場は水門の東側じゃないのかなあ(ユニクロ防府店の南側あたり)。
大きな地図で見る
劇中では竹本商店(現・有井商店)の十字路を南へまっすぐ走って来て左手(東側)を見たら発掘現場だったような(うろ覚え)。発掘してる学者さんの後ろに見えるのは大平山でしょ? 手前には水路があるし。でも監督がここで見つけた諾子の家は国衙会館の南側っぽいなあ(道路幅や水たまり、家の並びがグーグルマップと似てる)。次見たときもう1回確かめてみようっと。(追記:確認してきた。十字路を南へまっすぐ走って十字路をお堀沿いに右に曲がって直角のお堀をまた右に曲がってたから国衙会館のあたりであってた)
閑話休題。
というわけで本題(遅いよ!)。防府市の地図を眺めていたらなんだか妙な親近感を覚えた。おそらく東京は多摩地区(旧・武蔵国)にお住まいの方には賛同してもらえるのではないかと思うので、ここにその地図を貼ってみる。
なんか見覚えがあるでしょ? え?わからない。じゃあ↓これでどうだ。
ね? ちなみに防府市の西側、少し離れた所には「高尾山」まである(こちら)。これは何?偶然の一致?と思い調べてみると、もともと「防府(ほうふ)市」は奈良時代から平安時代の古代律令国家の時代に「周防国(すおうのくに)」の国府(周防国府)が置かれた場所であり、周防の“防”と国府の“府”をとって「防府」と名付けられたそうな。そして日本中で名前に「府」がついてる地名は平安の昔に「国府(いまの県庁のようなもの)」が置かれていたことに由来するものが多いらしい。
国府 - Wikipedia
東京で「府」がつく地名といえば「府中市」である。東京周辺はその昔、「武蔵国(むさしのくに)」と呼ばれており、「もしや・・・」と思い調べてみると武蔵国の国府(武蔵国府)が置かれていた場所が現在の府中市、大國魂神社のあるあたりとのこと(上図で「A」のピンが立ってる場所が実際に政務を行っていた「国衙」という建物があった場所。防府市も同じ)。そして国府の傍には必ず「国分寺」という社寺を置かなければならない決まりであるそうな。だから府中と国分寺の位置関係が防府市のそれと似てるのは偶然ではなく必然ということになる。
ちなみに地名ではなく社寺としての「武蔵国分寺」がある場所は↓こちら(左:A=武蔵国分寺。右:A=武蔵国分寺、B=武蔵国衙)。
※地図や写真で詳しく説明してるサイトがあるのでつづきはこちらでどうぞ → ここまでわかった武蔵国府
「八王子」の場合は残念ながら「牛頭天皇の子である8人の王子を祀った八王子社の周囲にある村がそういう名で呼ばれ地名として残った」というだけなので、こちらは位置関係も含めたんなる偶然の一致。高尾山もしかりで、国府とは無関係といったところかな。
尚、府中の「武蔵国府跡」は今年の7月にようやく国の史跡に指定されたらしい。大國魂神社に行かれる機会があったら「国府」のことを思いだし、奈良・平安の時代に思いを馳せてみてはいかがでしょうか
武蔵国府跡 [史跡] | 武蔵国衙跡
「うちの地元も“府”がつくんだけど国府と関係があるの?」と興味をもたれた方は、Wikipediaで地名検索かけるか↓こちらのサイトでどうぞ。
国府物語
説明も丁寧で写真も大量に掲載されております。
* * * * * *
というわけで『マイマイ新子〜』、まだまだ上映中です。「まだ見たことない」「もう1回見たくなった」という方は↓こちらの映画館に駆けつけてみてください。
※現在上映中の映画館一覧はこちら。
■東京(まもなく上映終了)
12/17(木)まで
新宿ピカデリー 9:40の回のみ。
12/18(金)まで
ワーナー・マイカル・シネマズ板橋 9:00の回のみ
ワーナー・マイカル・シネマズむさし野ミュー 10:15の回のみ
大阪・広島・福岡(まもなく上映終了)
12/18(金)まで
ワーナー・マイカル・シネマズ茨木 18:55の回のみ
MOVIX堺 9:40の回のみ
広島バルト11 9:20の回のみ
小倉コロナシネマワールド 16:30の回のみ
尚、地元・山口県では至る所で絶賛上映中です。
もし間に合わなかったり「うちの地域じゃ上映しません!」という方は、上映存続に向けての署名活動を行っております。ニックネームでもOK。DVDやメイキング本の販売にも関わってくることなのでよかったらご協力を。署名してくれた方のコメント読んでるだけでも楽しいです。
『マイマイ新子と千年の魔法』上映存続を!
それから現在発売中の「アニメージュ1月号」に片渕須直監督のロングインタビューと本作の映画評が載っております。ページ数は少ないですがすごく充実した内容なので本屋に行かれた際はお手にとってみてください(ちなみに表紙に「マイマイ新子」の文字が見あたらないですけど心配しないでください。ちゃんと載ってます)
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2009/12/10
- メディア: 雑誌
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