『かぞくのひけつ』トーク、行定勲×小林聖太郎(@渋谷ユーロスペース)

1/12(土)に行われたトークショーに行って参りました(いま5月だよ!とか言わなーい)。本日のトークは、小林監督がかつて助監督としてついたことのある行定勲監督をゲストに迎えての師弟対談。関係者らしき人もたくさん見に来てましたねえ。二人の印象は以前に詳しく書いたのでここでは割愛。


デビュー作『かぞくのひけつ』で「日本映画監督協会新人賞」を獲得した小林監督に対し、まずは「この賞をもらうっていうことがどういうことなのか、キミのことだからよーくわかってると思うけど」と何か曰くありげな物言いで叱咤激励のお言葉をかける行定さん。どうやら行定さんにとってこの賞は、岩井俊二利重剛といった諸先輩方が皆もらってきた賞であり、その様子を助監督として傍で見てきた身としては、当然監督デビューしたら自分も欲しいと思っていたのに貰うことができなかったという曰く因縁のある賞で、故に「監督協会にはいまだ籍を置いてない」し、でも「この賞の受賞作品だけは必ず観ることにしている」ので「キミの作品も観ましたよ」といつになくものすごい上から目線でネチネチと語りかける行定監督。「かんとく〜、いつもとキャラが違うよぉ(苦笑)」と思ったら、全ては「ものすごいドM」と自ら公言する小林聖太郎監督に対する愛情表現の一貫であり、最後までずーーーーっとこんな感じで終始楽しそうにいびり倒してゆくわけですが、私の文章力ではその面白さが伝えきれずただの「かわいがり」にしか見えないので行定さんの名誉のためにも細かなやりとりは割愛しておきます(ああ、どうして誰も動画で録らないんだろ。こんな面白いのに勿体ない。次回作のトークショーではよろしく頼むよ!>DVD制作スタッフさん)。



行定さんによれば、小林監督は「落語について語らせると人一倍うるさい」そうで、デビュー作は絶対「落語」についての映画を撮るもんだと思ってたとか。本作で自身の生まれ育った場所、世界を題材に作品を作り上げた小林監督だけれど、こういう作品は自分には絶対撮れないと。何故なら自分の場合「身近であるが故にうまくフィクションに作り替えることができない」からで、故にこれまで「生まれ育った土地や家族を匂わすような作品を1本も撮ってこなかった」と語っており、なんかちょっと意外な感じがしました。


そして話は、小林監督が助監督として行定組に関わった映画『閉じる日』の思い出話へ(「これ以降、全然助監督に来てくれず、井筒監督や根岸監督といった大御所ばかりについて…」とまたチクチク嫌味を言い出す行定さんw)。当時は2週間に渡る撮影期間中、ほとんど寝る時間がとれず、機材のセッティングが終わるとその場でうたた寝どころか廊下に出て本格的に寝入るスタッフが続出するような現場だったという。時間はもちろんスタッフも少なかったので「演出部」兼「車両部」兼…といくつもの業務を掛け持ちしてた小林監督は、朝は誰よりも早く現場に乗り込み撮影の下準備、夜はイチバン最後まで現場にとどまり皆を車で宿へと送り届けるような役割だったこともあってほんとに寝る時間が無く、夜中の撮影が終わって宿に戻りその45分後には次の日の撮影のためまた宿を出るなんてこともあったりしたそうだ。それでもいつもナントカ(名前忘れた)って種類の珈琲を4杯飲むとどんなに眠くても少しスッキリするのでそれでなんとかしのいできたのだが、一度だけ完全に寝坊したことがあったらしい。その日、いつもどおり撮影が終わって宿に戻り洗面所に向かう小林監督。洗面所に立つと突然舌がビリビリビリーッと痺れる感覚に襲われふと我に返ると、何故か腰に手を当てた姿勢で洗面所にあった「薬用ミューズ」を飲んでいたという…w。ところが、ミューズを飲むためにわざわざボトルのキャップまで外してるにもかかわらず、そこに至るまでの過程がまるで思い出せない。時計を見れば既に次の撮影開始時刻をまわってる…。宿に戻り洗面所に来てから舌が痺れて目覚めるまで結構な時間が経っているにもかかわらず、その間自分がそこで何をしていたのかということはもちろん、寝てた記憶も、意識がフェードアウトしてくような感覚もない。洗面所に来てポンっとカットが切り替わるとミューズでビリビリ痺れてた・・・その感覚だけはいまだによく覚えてるという。我に返った小林監督は慌てて部屋に戻ったが、結局その日は行定監督も他のスタッフもみんな寝坊していたそうだ。


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後半は今回のトークテーマでもある「女優・谷村美月を語る」へ突入。一昨年、本作にも出演している谷村美月主演で『ユビサキから世界を』という作品を撮っている行定さん。実はこの二作、ほとんど同時期に撮られていたことがトーク中に判明(『ユビサキ』は2006年の4月撮影。『かぞくのひけつ』は5月撮影)。「『ユビサキ』が終わったら次は大阪で映画の撮影があるって言ってたけど、あれはこのことだったのか」と合点がいった様子の行定さんは、「これ観たら、また谷村美月で撮りたくなった」と語り、彼女がラストに見せる笑顔を特に絶賛。小林監督によれば、あの絶妙な笑顔を引き出した久野クンの台詞は当初台本上にはなかったもので、うまい表情が引き出せず何度かリハーサルを重ねているうちに出てきたものだという。


「彼女は最初に見せる芝居がどうしても深刻になりがちなんだが『この台詞はもうちょっとこう変えて』と指示すればすぐにガラッと変えてきてくれる」と語る小林監督。行定さんも「主役に必要な要素を全て持っており、台詞を言い出すタイミングが巧いので印象に残る」と語り、特に受けの芝居の巧さを指摘すると、小林監督も大いに頷き「彼女は周囲の状況をものすごくよく見ていて、立ち位置や動き、タイミングを合わせてくる」と話していた。


かぞくのひけつ』も『ユビサキ〜』もオーディションによって選ばれた美月チャンだが、当時を振り返り、行定さんは次のようなエピソードを明かしてくれた。実は美月チャン、仕事の関係でメインとなる5人の女子高生を選ぶためのオーディションに大遅刻。オーディションが一通り終了した段階では、主役は別の若手女優*1にほぼ決まっていたとか(行定さん曰く、オーディションを受けた子たちの中では抜きん出ていたし、これから女優として頑張ってゆくぞ!という意気込みも人一倍強かったらしい)。ところが、「大阪から来る予定になってる子が遅れるそうなのでもう少し待っていて欲しい」と言われ1時間ほど遅れて到着したのが谷村美月。『カナリア』未見だった行定監督はそこで初めて彼女と対面し「主役は彼女で」と即決。ほぼ固まっていた女子高生のキャスティングを全て白紙に戻し、当初主役にするつもりだった子だけ残して、他は全て別の子と入れ替えてしまったそうだ(こういう話を聞くと「主役」っていう立場はスゴイなあと思う。当初主役に内定していた女優さんは美月ちゃんとは逆に「陽」のイメージが強いから、もし彼女がそのまま主役をやっていたら共演する女子高生のメンツもがらりとかわり、また違った感じの作品に仕上がっていたんだろうね)。


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その後、小林監督が撮影中に秋野暢子さんから作品テーマを聞かれものすごくドキドキしたエピソードを話すと、行定さんも『GO』で大御所・山崎努さんから演出意図について問われものすごくビビッた時のエピソードを明かし大いに盛り上がる二人。


そして最後に、これからまた小林監督と一緒に仕事をする機会があるとしたら、今度は監督と助監督という立場でなく、プロデューサーとして一緒に仕事をしたいと語る行定さん。たびたび撮影現場に遊びに行っては、撮影中の小林監督の後ろにじーっと立って、「聖太郎“クン”はさあ」とか“クン”付けで話しかけてみたり、意味深な含み笑いを浮かべつつ「ふ〜ん、このシーンはそれでいいんだあ」とちくちく言葉責めして遊びたいんだそうです(笑)。


行定さん、好きなのはわかりましたから、あまりやりすぎて小林監督に本気で嫌われないでネ(苦笑)。


*1:一応オフレコにしておきます。ものまねが特技の私もダイスキなあの子です。