『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』を観た(@K'sシネマ/シネコン)

数日と間をあけず両作を観てきました。『三月のライオン』は最終日&トークショー付ということもありほぼ満席。『ストロベリーショートケイクス』はシネコン&平日レイトショーで40人ぐらい。20,30代の女性ばかりかと思いきや男性も2割ぐらい。


まずは『三月のライオン』から。矢崎仁司監督の作品を観るのはこれが初めて。作品自体はこの物語のために作られたような街・風景の中で淡々と進んでゆき、ボーッと観てると時折ハッとさせられるような映像でかまいたちのごとく斬りつけられる。ドーンドーンと一定間隔で鳴り響く音、倒れ落ちる建物、首長竜のような雰囲気を漂わせた重機が2台3台と木造家屋を喰いまくり、長い首を二階の窓につっこんで休んでるシーンの醸し出すなんともいえない雰囲気に、いったいここは何処? 《星の王子さま》が住んでる世界? なんだかどう表現したらいいのか今までに観たことないタイプの映画に仕上がってた。近親相姦が題材となっているけれど、このカップルはもう完全に心はひとつで、通じるまでに少し時間かかるけど、始めからそこにブレはない。そして周囲が目に入ると心が押し潰されちゃうからとまっすぐ互いだけを見て、ただただささやかな幸せを求めている。その姿がいじらしくもあり苦しくもあった。観る前のイメージは、リリカルで繊細、儚く痛々しい、そしてちょっと浮遊した感じの映画なのかと思いきや、意外にも「土の匂い」がする映画だった。画面は殺風景で人工的なのにどこからか「土の匂い」がしてくる。しかもそれが段々強くなってきて、いったいこれは何なんだろう、どこから来るんだろうと思ったら、お腹にずしんとのしかかる重み。それと共に、目の前にちっちゃな家族が立ち現れ、嬉しさ反面もう後には戻れないことを悟って泣いてるお母さん、全ての責任を引き受けた男の顔で笑いかけてるお父さんの姿に、ようやく匂いの源を突き止めた気がした。そうか、この人だったんだ…。女性が中心になって動く話なのだからそのまま終わってしかるべきなのだが、本作は最後の最後で男性が中心に置き換わる。それにより作品自体の印象もより骨太なモノへと変容してゆき、そこにとてつもなく惹かれるものがあった。この作品を観てると、全てを男性にゆだねてしまうのも悪くないなと思えてくる。


だがしかし、観終わってすぐさま「まずったな」と思った。どう考えても『ストロベリーショートケイクス』に骨太さ、土臭さなんて醸し出しようがない。匂いの根源だった趙方豪氏はもう亡くなってるし、その代わりをしてくれるような男優陣も見あたらない。矢崎監督は『ストロベリー〜』にリーくん役で出演してる趙たみやす(趙方豪の甥)に彼の面影を見つけ、その後継を託しているようだった。なら、そこに賭けてみるか。


というわけで間髪入れずに公開間もない『ストロベリーショートケイクス』を観に行く。『三月のライオン』を観た直後だけに、冒頭で秋代の部屋がスクリーンに映し出された瞬間強いデジャヴに襲われる。話に聞いてた通り、『三月〜』を想起せずにはいられないシーンが次から次へと出てきて、「ひょっとしたら撮り直しをしてるのではないか?」という思いに駆られる。矢崎監督と趙たみやす君を呼んで行われた『三月のライオン』トークショーでの様子を見る限り、矢崎監督にとって亡くなった趙方豪という役者の占めてた割合たるや尋常ではない。彼を失った喪失感から立ち直り再び歩き出すためのケジメとして彼抜きで『三月〜』を再構築してみたのが監督にとっての『ストベリー〜』なのではないか、いわばこれは《喪の作業》ではないのかといった思いが頭をよぎる。
「ラーメン屋のリーくんは趙さんをイメージした」という監督の話を思い出し、「ああ、確かにその方が土台もしっかりするなあ」と思ったり。“リーくん”を演じる趙たみやす君は、舞台上で見た時、矢崎監督が「鉈」と称するのも頷けるぐらい骨太な雰囲気の青年だったが、スクリーン上で動く彼はその良さがまだまだ出てない気がした。腰が浮いてるというか、彼が本来持ってる貫禄も薄れ、やや軽く丸くなってたのが惜しい。
本作には特別な誰かとのスペシャルな恋を夢見る里子、尽くしすぎて疎まれるOLのちひろ過食症で始終吐き続けるイラストレーターの塔子、一人の男を一途に想うデリヘル嬢の秋代という4人の女性が出てくる。塔子と秋代、二人のエピソードが特に痛々しく、塔子、秋代、塔子、秋代と二人のエピソードが交互に続くと気分がどんより重くなる。そんな中でも唯一里子の存在、彼女の周りで起こるエピソードの数々は心和まされホッとする。複数の人間のエピソードを同時進行で見せてゆく構成の場合、どういう順番で誰のどのエピソードを持ってくるかってのが脚本家の腕の見せ所なんだろうなと思うと、なんだか思惑通りに振り回されてる気がしてムカツク(笑)。ちひろと塔子の腹をわらない距離感がリアルで、当初は「なんでこの二人一緒に暮らしてるんだろう」と疑問に思ったもんだが、二人の関係が見えてくるにつれなんとなく分かる気がしてきた。みんなそれぞれいじらしくかわいらしい。そして『三月〜』ほどではないが『ストロベリー〜』にもしっかり「土の匂い」は存在していた。もともと矢崎監督が持っていたものを趙方豪氏が増幅させていた、それがわかってとりあえずは一安心。


矢崎監督の新作は10/21(土)より渋谷ユーロスペースで公開される短編集『ハヴァ、ナイスデー』の1本「大安吉日」。緒方明村松正浩安里麻里富永まい筧昌也、柿本ケンサク、タナダユキといった監督陣に混じって作品を出品している。この作品にはたみやす君も出演してるとか。↓がその予告編。

おお、ここにもお墓が・・・。