04年にイラクで起こった日本人人質事件をモデルに、帰国後世間から猛烈なバッシングを受けた女性が再び自らの意思で中東に向かうまでの葛藤の日々を、彼女の生き方を正当化するでなく、ただ静かに、そしてリアルかつリリカルに綴った意欲作『バッシング』が今週末から公開される。本作はカンヌ出品により一躍注目を浴びるが、社会性が強すぎるせいかなかなか公開が決まらずお蔵入りするんじゃないかと多くの映画ファンをヒヤヒヤさせた。しかし、同じ年の秋に行われた第6回東京フィルメックス映画祭において「描かれたテーマの重要性と、それに合った映像スタイル」が評価され最優秀作品賞を獲得。上映を観に来たバイオタイドが配給に名乗りをあげ無事公開が決まった。その後もイラクのお隣り、イランで行われたテヘラン・ファジル国際映画祭にて審査員特別賞を受賞するなど、単なる話題性だけではなく作品の質でも評価を受け明日の公開を迎えることとなった。
本作は日本社会を痛烈に批判した内容なだけに、そのテーマ性からかえって気が重く観に行きづらいという人もいるかもしれない。しかし、公式サイトによれば、テヘランでの受賞はテーマよりむしろ「監督の演出、ストーリー構成、俳優の演技」などが審査員の心を強くひきつけたようで、フィルメックスでも監督の「映像スタイル」が評価の一因になってることを考え合わせると、また違った興味が湧いてくるのではないだろうか。主人公の女性を過剰に擁護する内容ではないかと懸念を示している人もいるようだが、確かに主人公の女性は紛争地帯でボランティアをするような人物であり、当初監督も彼女を「清く正しい人」として描こうとしていたそうだが、どうにもヒロインに感情移入できず、うまく筆が進まなかったそうだ。そんなとき東電OL殺人事件をモチーフにした桐野夏生の小説『グロテスク』に触れ、「世間から阻害された普遍的な女性の話にしよう」と決めたところ、ようやく自分がこの映画で何をやりたいのかが見え、ヒロインが動き始めたとか。本作の撮影は瀬々映画でおなじみ斉藤幸一氏が担当しており、個人的にはロケ地となった苫小牧の風景にも期待したい。そういえばカンヌのとき、『EZ!TV』から小林監督についてのコメントを求められた日経エンタの映画担当者が、こともあろうにカメラの前で「小林監督の名前を今回初めて聞きました」とまるで知ってる方がレアであるかのような発言をして、「自主映画しか撮ってないならまだしも、香川照之や大塚寧々といったメジャーどころが主演した『フリック』がついこの間まで公開されてた監督だよ。それを知らないなんて恥ずかしげもなくよく言えるなあ。もしかしてこの人、いままでメジャー系の邦画しか観たことないんじゃ…(汗)」と一部から失笑を買った事件があったことを、いま、思い出しました。
『バッシング』 6/3(土)〜7/14(金)まで
【監督・脚本】小林政広【撮影】斉藤幸一
【出演】占部房子/田中隆三/香川照之/大塚寧々/加藤隆之/本多菊次郎
82min/2005年
□上映館:渋谷イメージフォーラム
「この国じゃ、皆が怖い顔している。
私も、怖い顔しているんだと思う」
【STORY】 北海道のとある海辺の町で暮らす高井有子(占部房子)は、突然、アルバイト先をクビにされた。有子は中東の戦時国でボランティア活動中、武装グループに拉致・監禁されて、人質となった。無事に解放されて帰国したものの“自己責任”を問われ、世間から激しいバッシングを受けていたのだ。父親の孝二(田中隆三)もまた、勤め先の工場に有子の行動を非難するメールや電話が寄せられ業務に支障を来たしているという理由で、上司から退職を強いられていた……。
6/3(土)17:15の回上映後、19:15の回上映前に初日舞台挨拶あり。ゲストは小林政広監督、占部房子、田中隆三、加藤隆之、本多菊次郎、塩田時敏(司会)を予定。
また、毎週水曜日19:15の回上映前にイベントを予定。詳細は以下のとおり。
6/7(水)
『寒かったころ』発売記念 小林政広ミニライブ
6/14(水)
占部房子トークショー「2005年カンヌ映画祭裏話」
6/21(水)
ハンバート&小林政広ミニライブ
6/29(水)
なぎら健壱×小林政広監督トークショー
なんで監督がCDを?と思ったあなた! なんと監督、70年代にフォークシンガー「林ヒロシ」としてデビューしてたんだそうです。
↓こちらが本作の主題歌。予告でも聴くことができます。かなり本格的ですよ。
- アーティスト: 小林政広,高田渡
- 出版社/メーカー: ミディ
- 発売日: 2006/06/07
- メディア: CD
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ちなみに、公開を記念して監督のブログが本になります。こちらは『バッシング』制作前後までを収録予定だとか。
- 作者: 小林政広
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- 発売日: 2006/06/01
- メディア: 単行本
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