『韓国のインディ・アニメーション』D・Eプロを観た(@パルテノン多摩)

'91年から'00年までに制作された韓国のアート・アニメーション48作品をセレクトした初の上映会韓国のインディ・アニメーションに行ってきました。私が観たのはそのうちのD,Eプロ。客は30人弱ぐらいで20代30代中心に年輩の人まで。韓国からのテレビカメラも来てました。また、D,Eプロの間に行われた座談会前に韓国側ゲストの作品も上映され、A〜Cプロを観れなかった身としては得した気分。


今回観た作品は以下の通り。

Dプロ:日常と欲望のランドスケープ (10作品/1h06)
「TV婦人」(1997/5'00") 監督:ユ・ジニ
「IN THE ROOM」(1997/1'15") 監督:イ・サンミ
「雨傘」(1997/14'00") 監督:イ・ソンガン
「BANK」(1998/4'32") 監督:チョ・ジュンヒョン
「あの頃は」(1998/5'43") 監督:ユン・ジェウ
ヒッチコックのある一日」(1998/7'17") 監督:アン・ジェフン、ハン・ヘジン 
「時計」(1998/3'15") 監督:イ・ウンシル他 
「LIKE SEX, THE FISH」(1999/14'00") 監督:キム・ビョンガブ
アリラン」(2000/4'00") 監督:カン・ジュヌォン
「オンニョニ」(2000/7'00") 監督:ユ・ジニ


座談会ゲストの上映(2作品/0h14)
「にわか雨」(1999/9'00") 監督:キム・ホンジュン
「失われた箱」(1996/4'52") 監督:ナ・ギヨン


Eプロ:ノット・ショート、ノット・ロング:長編への夢(3作品/1h14)
「夕立」(1995/30'00") 監督:イ・ヨンベ
「茂みの中の灰」(1998/16'00") 監督:イ・ソンガン、
「純粋な喜び」(2000/27'30") 監督:アン・ジェフン、ハン・ヘジン

アート・アニメーションのみならずセルアニメも混在したバラエティに富むセレクトで、韓国アニメの幅広さを伝えようという意気込みを感じるラインナップ。お目当てはなんといってもイ・ソンガン監督でしたが、他にも素敵な監督が見つかったので非常に有意義な上映会となりました。




まずは何はともあれ、イ・ソンガン監督! 今回「雨傘」「茂みの中の灰」の2作品を観ることができたのですが*1、この人はやはりスゴイですよ。別格。観れば観るほど好きになる。ハートマーク100個つけてもいいぐらい(笑)。「雨傘」は『マリといた夏』のように少年を主人公にした郷愁溢れる柔らかな作品、「茂みの中の灰」は死の臭い漂う公共広告機構系トラウマ作品です(右図参照)。画から伝わる温もりは真逆だけど、輪郭をぼかした絵柄は共通しており、最初のカットが映った瞬間に「あ! イ・ソンガン監督だ!」とわかります。「雨傘」は一昔前のゲーム(「ポートピア連続殺人事件」等)みたいな絵柄でそこはちょっと萎えポイントなんですが、それを補ってあまりあるのが、演出力。『マリといた夏』は絵柄があまりに素敵なのでそちらに目を奪われてしまったけれど、「雨傘」を観ると、この監督は絵の表現力以上に演出の人だという印象に変わりました。音楽や効果音の使い方、間の取り方、余韻の作り方がとてもうまくて、思わず最後まで見入ってしまう。次回作は『Yeu-Woo-Bi』という“萌え画”の長編アニメーションだそうで「え? 萌えでいくの?」となんだかちょっとがっかりでしたが、公式サイトで予告編(こちら)を見たら、めちゃめちゃ観たくなりました(どこか配給してくれー)。ちなみに先の公式サイトで監督の短編作品を観られることが判明(さすがインターネット先進国!)。こちらのページで「TWO ROOMS」「魂」「恋人」「雨傘」「OCEAN」「茂みの中の灰」の6作品が視聴可能(ただし「魂」はファイルにアクセスできないみたい)。左下が「雨傘」、右下が「茂みの中の灰」で、どちらもオススメです。


Dプロはサスペンスあり、コメディあり、スタイリッシュな作品から郷愁をさそうものまで、エンターテイメント性の強い作品が取りそろえられ、とても面白かったです。エンドロールも含めてひとつの作品と捉える傾向が見受けられ、音楽の素敵な作品が多かったのも特徴的。特に印象的だったのが、「BANK」「アリランですかね。「BANK」は薄暗がりに硬貨がたくさん現れ、白く開いた隙間から人の目が覗いたり、そこからカミソリが突っ込まれたりと、何やら不穏な空気が漂う作品。いったい何が起こるんだと緊張しながら観てると、最後に実は貯金箱の中の情景を描いていただけというのが明かされ「なーんだ」となるのですが、音楽も演出も、最初から最後まで延々とサスペンスタッチで盛り上げてくれるため、エンドロールが終わるまで飽きさせない作りになってました。アリランはシンクロナイズドスイミングをアニメーションにしたような作品で、韓国の伝統的な紋様が音楽にあわせ万華鏡のように形を変えてゆくだけなんですが、動きと音楽の合わさり具合が非常に気持ちよく、楽しい気分にさせてくれます。「LIKE SEX, THE FISH」は完全に日本のアニメーションですね。今頃この監督は韓国で『攻殻機動隊』みたいなTVアニメ撮ってるんじゃないでしょうか。「オンニョニ」は作家の子ども時代をアニメにした作品らしく、エンドロールの使い方が効果的で心地良い余韻に浸れました。



Eプロは、セルアニメを主体に個人の日常風景を映した良質な中編作品をセレクトした感じでした。'95年の「夕立」は、'70年代 竜の子アニメ(「てんとう虫の歌」等)風のまだまだ古臭い作画・演出であったのにもかかわらず、'00年の「純粋な喜び」になると技術力の急速な進化を感じます。今年公開された『マリといた夏』が'02年の作品だということを考えると、'05年のいま、作画技術や表現方法はほとんど日本と変わらなくなってるんじゃないでしょうか。


他の人の感想を読むと、初期('91年〜'96年)の作品を集めたA,Bプロには風刺や政治色の強い抽象的実験的な作品が多かったようなので、A〜Eまで通しで観ると韓国アニメの変遷がわかって面白かったんじゃないかと思います。今回は'00年までの作品しか取り上げられてませんでしたが、なんとか第2回も催してもらって、'00年以降の作品にも触れたいです。



個人的な収穫としては、座談会のゲストに来られたキム・ホンジュン監督に出会えたこと。今回上映された「にわか雨」という作品は、子供を主役にしたクレイアニメーションなんですが、「風が吹くとき」のような作品で、題材や全体の雰囲気はもちろん人形や町並みの造形も非常に好みで、是非他の作品も見てみたい。



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*1:Bプロモ観られれば4作品だったのに・・・