『土方巽 夏の嵐』トーク、石井輝男×荒井美三雄

トークショー石井輝男と本作の監督・荒井美三雄の二人によって行われた。石井監督が荒井監督に「よく映像を残してくれた」と何度もお礼を言ってたのが印象的。この京都で行われた舞踏公演「夏の嵐 燔犧大踏鑑」は、当時石井輝男の助監督を務めていた荒井美三雄自身が企画・興行した公演であり、「舞踏の公演で黒字にしたのは荒井さんだけだよ」と言われたほどの大盛況だったそうだ。


公演の運営は京都大学の学生が行っていたが、土方巽が繰り出す「来た客全員に甘酒振舞え」「客席に並べられたこたつの上を座敷童子が踊るという演出をしたいから、人数分こたつを揃えろ」といった無理な注文をいちいち間に受け*1、彼の要求を満たすべく奔走してるうちに、用意してた準備資金はあっという間に底をつき、学生達は荒井監督のもとに助けを求めてきたとのこと*2。荒井監督自身は、当時の土方と学生の関係を振り返り、全共闘運動にはまってた学生たちにとって、運動が終焉を迎え、さあ次に何をするかって悶々としてた時期に、土方巽という人物がうまくはまったんじゃないかと推察していた。


この公演は、当時京都の撮影所で頻繁に映画を撮っていた石井監督が、自作品に出演して貰うため土方巽を京都に呼び寄せたことから実現した企画だという。石井監督が呼び寄せてなかったら、彼が京都に来ることはなかったし、もちろん京都撮影所で助監督をしてた荒井監督と出会って「せっかく来たんだから京都で公演をやってみないか」なんて話にもならず、それを映像として収めることもなかった、ということで石井監督も本作を語る上では欠かせない人物となる。


石井監督と土方巽の出会いのきっかけは、土方の写真を見た石井監督の一目惚れから始まったという。なんとか手を尽くし会ってみると、これが実に気持ちと気持ちがピタッと合い、ウマがあったそうだ。荒井監督の話によると、土方巽というのはクシャクシャクシャと秋田訛りで訳のわからないことを話すそうで、しかも、それを聞いた相手がわからないってな顔をすると、更にクシャクシャクシャと聞き取れないように話し、困惑する人々の顔を見ては本能的に嬉しがるという困った人らしい(笑)。そのため、土方と話の通じる人、会話の出来る人というのは必然的に限られてしまい、石井監督もプロデューサーから「僕は土方君とは1分以上話してられないんだけど、監督はいったいいつも何を話してるんだ?」と問われるし、助監督を務めた荒井監督などは、土方を交えたスタッフ・ミーティングの際に意志疎通のとれない土方とスタッフの間をとりもち通訳代わりをしなきゃならなかったそうだ。


京都の撮影所に初めて土方を連れて行った時、なんと彼は女物の着物を裏返し(しかも左前)に着て現れ、古い感覚やしきたりを重んじる京都の撮影所はその非常識な姿に大騒ぎになったらしい。その時撮影したのが『元禄女系図』('69年)のタイトルバック*3なんだが、撮影する時も大変で、踊りは全て土方任せだったから、スタッフはどこにカメラを据えてどう撮ったらいいかもわからないし、土方はあんな人だし、多くのスタッフがお手上げ状態でそっぽ向く中、荒井監督だけはこまごまと動き回り仲を取り持ち、石井監督を手伝って最後まで付いてきてくれたという。


石井監督によると、土方巽というのはやたらと監督を触発する男で、彼の踊りを見てるといつまでもいつまでもフィルムを回していたくなるそうだ。当時は予定以上にフィルムを使うと始末書を書かなきゃいけなかったんだけども、4回5回と書いてもまだ撮り続けたとか。また、『恐怖奇形人間』を撮った時、共演の小池朝雄なども彼に魅了され、土方が出番の時は必ずカメラの横にいて、じーっと凝視し続けては「おもしろい…」と呟いてたそうだ。『元禄女系図』の音楽を担当した八木正生なども、土方の踊りを見て一発で虜になり、彼の踊りに触発されたと言ってタイトルバックの音楽を書き直してきたほど。荒井監督はよその仕事があったため『恐怖奇形人間』の助監督を出来なかったのが悔しくてしょうがなかったらしく、本当はそれに続き石井監督は『地獄』を作る予定でいたこともぽろっと明かしていた(結局『地獄』を作るのはずっと後になってしまったわけだが…)。



とにかく石井監督は今回この場に来るのが初めてと言うこともあり、立ち見が出るほど大勢の人間が土方巽を見に来てくれたことに感激しまくりで、何度も何度もお礼を言っていた。ほんとに今尚土方巽のことが大好きらしい。


帰り際、関連本が何冊か売ってたのでそのうちの一冊「土方巽を読む」(ISBN:488629667X)を買って帰ろうかと思ったが、ものすごい厚さで重たそうだったのでやめちった。GWにでも買ってくるか。


ちなみに5/1(土)にまたトークショーが催される。ゲストは石井達朗(舞踊・演劇・映画評論)。



−追記−
イメージフォーラムには何度も足を運んでるのに、この時までスターバックスの3軒隣にセルフサービスの讃岐うどんの店があるなんて知らなかった。時間がない時、10分で飯が食えるというのは非常にありがたい。今後重宝させてもらうです。


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*1:「間に受け」っていうのは荒井監督の言い回し(笑)。

*2:詳しくは話していなかったのであれなんだけど、当初監督自身は公演の企画・撮影だけで、運営は全て学生に任せていたのかもしれない。

*3:トークショー前に上映された。