『少年版私慕情 国東 京都 日田』を観た(新宿K'sCinema)

来る3月11日(木)、新宿K'sCinemaにて5年ぶりに瀬々敬久監督のセルフドキュメンタリー『少年版私慕情 国東 京都 日田』が上映されることになりました。「日田」てあまり聞き慣れない単語ですが、『進撃の巨人』の作者、諫山創の出身地として近年注目されてる大分県日田市のことです(残念ながら本作に件の大山ダムは出てきません。私の記憶が確かなら)。


ソフト化されたならBGVにしてエンドレスで流しておきたいぐらい好きな作品なんですが、8ミリフィルムなのでなかなか上映の機会がない。故に観れる人は観に行って記憶にとどめて欲しい。というわけで上映に先駆け、前回上映時(2015年12月)に書いた感想をUPしておきます。冒頭の文章は当時公開したものですが、「以下、ネタバレ」以降はネタバレしすぎなのと、最後が尻切れでまとめきれなかったこともありお蔵入りにしてました。年をとり記憶が曖昧になってきたのと、フィルムの状態が芳しくない8ミリ上映故に数年に一度しかご開帳されず、あと何回上映できるかもわからないため、備忘録として残しておきます。興味のある方は、震災から10年を迎える3月11日(木)に新宿K'sCinemaで上映されるので、ネタバレ部分は読まずに直接劇場で観てください。劇場に行くほどのモチベーションは無いと言う方は、読んでから観に行くかどうか決めても遅くはないです。

2021年3月6日(土)〜3月12日(金)まで
世直しじゃー!! ーこんな時代に瀬々敬久特集ー(@新宿K'sCinema)
3/6土「ヘヴンズズトーリー」
3/7日「わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です」「菊とギロチン
3/8月「迦楼羅の夢」「トーキョー×エロティカ」「End of The World 」
3/9火「ユダ」「なりゆきな魂、」
3/10水「ヘヴンズズトーリー」
3/11木「石巻市立湊小学校避難所(監督:藤川佳三 ※瀬々敬久プロデュース作品 )」「少年版私慕情 国東 京都 日田」
3/12金「現代群盗伝 」「菊とギロチン
※連日トークイベントあり。ゲストはこちら


以下、感想(注:5年前の2015年12月に書いたものです)。


瀬々監督が22歳の時に撮った8ミリ自主映画『少年版私慕情 国東 京都 日田』を新宿K'sCinemaで観てきました。面白かった。すごい面白かった! 瀬々監督の人となりを多少でも知ってる人は絶対観に行った方がいい! 何故なら本作は劇映画や他人のドキュメンタリーばかり撮ってる瀬々監督が自らの家族について語ったセルフドキュメンタリーであり私小説だからです。プロフィールに書かれてる《大分出身。京都大学文学部哲学科卒。獅子プロダクションに所属し、ピンク映画を撮る》以前の瀬々さんを探れる貴重なフィルム。瀬々監督自ら映写もしてくれます。ちなみに、フィルムの状態が悪く、初日の上映は映写トラブルで15分ぐらい中断しました。しかも観客の目の前でフィルムがみるみる焼けていくというアクシデント付(苦笑)。監督の「これもうダメだ」という声と共に聞こえるブチッ!という謎の音(「か、監督! いまフィルム引きちぎりました!?」的な何か)。無事上映が終わり客電がつくやいなやスクリーンの前に駆け出し「スイマセンでした!!!!!!」と頭を下げる監督に会場から盛大な拍手が送られるという非常にライブ感溢れる上映会となっております。この機会を逃すと次はまた5年後? 10年? いや20年後です。監督の心の回復が早ければまたすぐやってくれるとは思いますが、本年度残るチャンスは1回限り。お見逃し無く! ちなみに監督が高校時代に撮った自主映画は、ピンク映画『わたくしといふ現象〜(禁断の園 制服レズ)』でも数分間使われてますし、『少年版私慕情』の中でも撮影時のエピソード共に少しだけ観ることができます。


以下、ネタバレ。
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1982年京大在学中の瀬々監督が8ミリカメラとともに故郷の国東半島に戻り撮影した映画(※今回は三台の8㎜映写機を使い、82年にやったライブ版音声(語り、歌、ギター、ハーモニカ)を流しての上映)。実家のある国東、大学のある京都、母親(継母)の実家である日田を巡る。前の母親(実母)はいま北海道にいる。父とは二度目の結婚で、前夫との間に男の子がいたが、父と再婚する前に祖母(母の母)にあずけてきた。そのため祖母の家にいた年上の男の子が実は腹違いの兄だったことがあとで判明する。

映像は国東→京都→日田→京都で「幕末太陽傳」の映像で終わる。
京大在学中に実家に帰省して撮った映像(実家の父、母、妹たち(一番下のまだ2,3才の妹が頻繁に映る))→大学のある京都で撮った映像(近所の小学生やバス停にいたおばあちゃん)→今の母の里帰りについていった日田の映像(日田に向かう電車の中で相席になった家族連れ(母親・小学生の娘・息子))→再び京都での映像(近所の小学生とウルトラマンセブンVSバルタン星人の映画を撮る)で構成されている。

今の国東の映像に、高校時代に撮った自主映画『ハローグッドバイ』の映像を重ねながら、撮影時のエピソードを語る監督。雨のシーンを撮りたかったがその年は珍しく空梅雨でまったく雨が降らず、雨が降らないまま傘を差して撮影せざるを得なかったという反省が語られる(自主映画のクライマックスで「主人公が持ってた傘で友人の腹を刺す」という内容になってるのでこだわったのだろう)。風景に身を任せ心の赴くままにカメラを回すが、撮ったものを後で見直したら思ったような映像がとれておらず、そこにある風景に対し何もできなかった自分を延々と反省する瀬々監督。同じようなくだりは京都に戻ってからの映像にもおさめられている。国東から京都に戻り、幼子と一緒にバス停に座ってる二人の老婆にカメラを向ける。ジッとカメラを見据える老婆の眼差しに対し、撮ったものを見返すとやはり小手先の対処しか出来ていないと反省する瀬々監督。途中で出会った小学生男子のグループにカメラを向け、彼らの屈託ない笑顔に癒される瀬々監督。母の実家である日田に向かう電車の中で、ある家族(母と小学生の娘・息子)に出会いカメラを向ける。父に会いに行くという彼ら。特に姉の方に自分自身を重ねながら映す瀬々監督だが、無表情だった姉弟が最後には屈託のない笑顔を見せてくれて安心する。日田に着き、山と田んぼしかない周辺を歩く監督。母の実家が遠くに見える道の上で物思いにふける。京都に戻り、再び、あの老婆と小学生に会いたくなった監督はカメラ片手に現地に向かうが、あのバス停に老婆の姿はなかった。小学校の傍に行くと、あのときの小学生男子グループに会えて、一緒に映画を撮ろうという話になりウルトラマンセブンVSバルタン星人の映画を撮る。ナレーションでは後日小学生たちを自宅に呼んで上映会も開いたことが語られる。「あの日出会った○○小学校の男の子たちや女の子たちに再び会いたくて…」と言ってる割には女の子の映像が全く出て来ない(笑)。ちなみに被写体には必ず許可を得てからカメラを回す瀬々監督。ちゃんとしてる。


国東の実家で、亡くなった祖父の墓参りに行く。かなり古びた墓地。瀬々監督には下に3人の妹がいる。大学に行くため京都に出てから、「実家は一番下の妹を中心に新たな家族を構成しはじめていた。北海道にいる前の母親もおそらく今頃は三度目の結婚をして新たな家族を構成し始めているだろう」と語る瀬々監督。その寂しさを癒すように、京都に戻り小学生男子のグループにカメラを向け、彼らの笑顔に癒される。


詩のボクシング」のように一定のハイテンションを維持しながら熱く前のめり気味に語られるナレーション。担当するのは瀬々監督本人。語り自体はたどたどしく、それがかえって“不器用さ”と“もどかしさ”を演出している。「熱くハイテンションな語り」って瀬々さんの普段のトークからあまりイメージしたことがなかったので(たまに熱くなるけど80分も持続できるほどのテンションは無い)、このナレーションが「ライブ上映時に録られた音源」と聞いて納得(途中、録音会場にかかってきた電話の呼び鈴や音声なども紛れ込んでる)。ナレーションの合間にフォークギターによる歌や演奏が入る。終盤になるほど熱量を増し、瀬々監督自身も歌いブルースハープを奏で出す。若さと熱量がほとばしってる。


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以上、ネタバレ終了


何が驚いたって、瀬々監督といえば、いつトークショーに行っても男優陣とはいじりいじられほんとに仲良さげなのに、主演女優からはたびたび「男性には演技指導するのに私にはしてくれない」と愚痴られては「女性のことは分からないからお任せしてる」と女優さんへの苦手意識を告白することが多く、九州男児だし、きっと男兄弟に囲まれて暮らしてきたのだろうと勝手に思っていたら「妹が3人もいる」という事実にビックリ。そうなのか…。意外。


それと瀬々監督と言えば、私が選ぶ日本三大風景監督のひとりなんだけど(残る二人は『心の中』『松前くんシリーズ』の大木裕之、『日曜日は終わらない』『水の中の八月』の高橋陽一郎)、「風景の瀬々」と称されるぐらい印象的な風景を次々と作品に取り込みながら、それを指摘されると「自分は場所を探してくるだけ。何もしてない。あとは構図もなにも撮影監督に全部お任せ」とはぐらかしてた瀬々監督が、自分でカメラを回してもやっぱり風景を印象的に撮るということがわかり安心した。瀬々さんの撮る風景映像は何時間でも見てられるので、これの4時間長尺版があったら観たい>無いです>無いですかそうですか。



追記(2021年3月7日):
↓こちらがいまの大分県国東市(瀬々監督の出身地)。神仏習合の発祥地なのか。めちゃめちゃいい風景で行きたくなる。一つ目の動画に出てくる海岸線は作品内に出てきたところかな。瀬々作品て「海辺で死ぬ」「木の根元で死ぬ」ってシーンがほんとに多くて、地べたに這いつくばって生きる人々の生の営みを神々が上空から見ているみたいな風景が挿入されることもあり、いままで存在は感じれど姿は見えない、ただ見守るだけだった神がようやく人間の前に姿を現すのが集大成である『ヘブンズストーリー(2010年製作)』ていうのが私の中の位置づけだったりするんだけど、国東市の《海》《樹木》《神仏》の映像見てると、瀬々監督が『ヘヴンズストーリー』まで長々と自問自答してきたテーマ「死と再生」の原点はここ《国東半島》の風景にあるような気がしてならないので、国東市は瀬々さんにご当地映画撮ってもらってください!


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