疑心暗鬼の果てに訪れる最後の・・・・『伊集院光のてれび』

10月から始まったBS12の新番組『伊集院光のてれび』を第6回まで一気見した(と言っても、第1回は録り逃しにつき未見)。これね、すごい面白い。予算も少ないし、伊集院光が仲のいい若手芸人といちゃいちゃするのを愛でるのが主目的の割とぬるい内容なのかと思って見始めたら、のっけからの激しい心理戦にゾクゾクきた。特に前後編で放送された「伊集院光のてれび #3,4 番組女性レギュラー最終オーディション・真剣じゃんけん“カワイコちゃん編”」には、個人的に月間ギャラクシー賞をあげます。おめでとうございます!(パチパチパチ! 本家もあげて!) 


以下、ネタバレにつき既に録画してるがまだ見てない or DVD発売待ちだという人は、絶対結末まで読まないでください。 



かいつまんで説明すると、売れたくてたまらないがまだまだ知名度の低い総勢8名の若手女性タレント(アイドル・グラビア・セクシー女優などのカワイコちゃん)が、番組の女性レギュラーを選ぶ最終オーディションのために熱海某所に呼び出され、全員揃ってジャンケンをさせられるのね。レギュラーになるためにはジャンケンに勝つか、全員おなじ手で引き分ければ合格というルールなんだけど(別の手で引き分けた場合はやりなおし)、いきなりジャンケンしてもすぐ勝負がついてまったく番組にならないので、事前に2時間の猶予が設けられるわけ。「何を出すかはみんなで話し合って決めること」と言って別室のモニタリングルームに移動しようとする伊集院に、「もし一人で勝ったら?」と問うと「その分、出演回数は増えるだろうね」と返されどよめく8人。とはいえ、出演回数よりも何よりもまずはレギュラーになれなきゃ話にならない。「みんなでグーを出して全員でレギュラーになろう」という案が早々に出され、そこで一気に話がまとまるかと思いきや、異を唱える者がひとり。「だって2時間あるんだよ? みんなで仲良くなんてことを話し合うための時間じゃないでしょ?」と言う彼女に「じゃあなんの時間よ?」と問い返すと、「だから〜、誰かが裏切るんでしょ?」と上目づかいでにっこり微笑む彼女を見て、番組が仕掛けた裏の思惑にようやく気づくメンバー。番組の空気は読むがメンバーの空気は一切読まない彼女の発言によって、一気に不穏な空気が漂い始める。


のっけから波乱の空気を呼び込んだこの子は、普段、競馬アイドルとして活動してるだけあって「どうせやるなら勝つか負けるか。どっちかがいい」という根っからの勝負師タイプ。思ったことをそのまま口にするので、女の子に嫌われやすく、伊集院との事前面談でも「同性の友達が出来ないのが悩み」と答えていた。「みんなと仲良くなりたいがうまくいかない。自分では正しいことを言ってるつもりなのにいつも否定されてしまう。それがつらい」と吐露していたが、その言葉を裏付けるかのように、過去に共演経験のある子からは全く信用されておらず、今回も早々に要注意人物としてマークされていた。終始小悪魔的に微笑む彼女の笑顔がかえって人を不安にさせるのか、初対面の子にまで「怖い」と警戒される始末。というわけで猶予時間のほとんどが彼女への説得に費やされる。


「じゃんけんに勝ってたくさん出演したい!」と強気に攻める彼女だったが、「仮に一人で受かっても、企画に合わなかったり、自分にとってNGの企画であれば、当然番組には出れないわけで、みんなで受かって適材適所でつかってもらった方がよいのでは?」といった意見や、「出演回数はレギュラーになってからいくらでも争える。まずはテレビに出る“チャンス”が欲しい!」と言う意見に虚を突かれ、「そういう発想は自分にはなかったけれど、言われてみれば確かにそうかもしれない」と考えを改め同調することを宣言。しかし微妙に挙動不審で、その宣言が本気なのか皆を油断させるためのフェイクなのか、彼女の本心は鉄壁の笑顔の裏に隠され、いまひとつ読み切れない。


そこで更なる意志確認をするのだが、「“2時間”て言われた時点で、この企画は裏切る人が出ることを望んでると思った。その考え自体は変わってないけど、みんなの意見を聞いて納得はした」という彼女。「納得はした」という言葉からにじみ出てくるこの「納得してない感」(笑)。「何パーセントぐらい? 100パーセント?」とたたみかけると、「パーセンテージでは表せない」とにっこり笑い返し、皆「ええーっ!?」と苦笑い。ある意味、とても自分に正直な子である。清々しいくらいに嘘がつけない(笑)。


そんな彼女が自分のフィールドである競馬に喩えて「ジョッキーが勝つためには技術だけじゃだめ。強い馬に乗らないと。でも強い馬には一人しか乗れない。ジョッキーはみんな仲がいいけど、強い馬に乗るためには周りを蹴落とさないとならない。でも“仕事を取る”っていうのはそういうことだと思う」と熱く語り始めると、若いメンバーなどは話に引き込まれ「うんうん」と頷きながら心掴まれてゆく。一方、その揺るぎない信念に触れるほどに「説得はムリかも」と諦めに似た思いを強くするメンバーも出てきたり。


ただね、レギュラーが欲しくて参加してるの他の子らと違い、彼女がオーディションに参加した真の理由ってのが「女の子と仲良くなりたい」なのよ。すんごい矛盾してるけど(苦笑)。女の子と仲良くなりたくてオーディションに参加したのに、のっけから孤立してしまうという悲しい性(さが)・・・。


そして次第に話の中心は「なぜ彼女は女の子とうまく関係を築けないのか」という問題へと踏み込んでゆく。


メンバーの一人が「女の子と付き合うには自分から歩み寄ることも大切だよ?」と言うと「その“歩み寄り”っていうのがよくわからない」と答える彼女。しかし「自分が変わるってことだよ。変わる気ないでしょ?」とたたみかけると、常に強気の笑顔を崩さなかった彼女が迷いの笑顔を見せ始める。実は彼女、ちょっとしたごたつきで中学の時に孤立してしまい、中学3年間は部活に専念してなんとか乗り切ったが、高校に入ってもうまく友達が作れず、孤独な時間を勉強ばかりして乗り切ってきたという。これまで一度も女の子と二人きりで食事に行ったことがなく、「してみたかったけどいつもひとりだった」と語る彼女に、似たような孤独を経験したことのあるメンバーが寄り添い始める。そんな受容的な雰囲気に心が解けてきたのか、はにかんだ笑顔で「みんなと仲良くなりたいから。仲良くなりたいと思ってここに来てるから!」と宣言する彼女に、「うん!うん!」と力強く答えるメンバーたち。モニタリングしてた伊集院も言ってたけど「超いい雰囲気」です(笑)。これなら絶対イケると思うよね! 大丈夫。みんな一緒にグーを出すって、思うよね? 思うんだよ。思ったんだよ!


ところが、、、


ジャンケン直前、伊集院光が一人ずつ別室に呼んで「誰が裏切ると思う?」と聞いてみると、複数の人物から「彼女だけは最後までわからない」という言葉が出てくる。しかも一番熱心に説得にあたっていた子がそれを言うんだよ(汗)。それどころか、緊張しすぎてテンパる子、泣き出す子、「彼女の話を聞いてるうちにとても共感してしまって。裏切るとしたら、私かも」と言い出す子まで現れる始末。しかも番組をもっと面白くしたいと考える本当の悪魔・伊集院光が、特定の子に更なる揺さぶりをかけたせいで「まさか絶対裏切らなそうなこの子が伏兵に?」と出てるメンバーとはまた違った意味で見てるこちらも翻弄され始める。そして問題の彼女ですよ。伊集院がいまの率直な気持ちを訊いてみると、しばしの沈黙の後、「・・・つらいです」と口にした瞬間、堰を切ったようにぽろぽろ泣き始める。「自分の意見を言っただけなのにそれが悪い事のように言われて…。でも、私なんかの意見でもちゃんと聞いて真剣に話し合ってくれて嬉しかったし、もしかしたらこれが“仲間”ってことなのかな?と思えてきて」。そんな彼女に「最後、どうしますか?」と尋ねると、長い時間悩んだ末、ものすごく困った顔でこう言うの。「わからないです」。・・・結局、彼女は一度も「皆と同じ手を出す」とは明言しなかった。それでも最後は相当悩んでる様子だった。ただね、これでもしひとり裏切って勝っても「彼女だったらしょうがないかな」って思える微妙に憎めないキャラであることも確かだったりするんだよね。そこが悩ましい。


そして、ついにやってきた運命の瞬間。事前に「グーを出す」ことは決めてある。


果たして、、、勝負は一瞬で決着した。


それはね、本当に感動の瞬間だったんだ。誰もが「そうであって欲しい」と期待してたことではあったけれど、どうなるかわからないという不安が最後までぬぐえなかったからさ、願った奇跡が実際に起きてみるとまさかこんなに感動するとは思わなくて、出演者も視聴者も、仕掛けた伊集院すらもホッとして泣くっていう(笑)。・・・ナンダカンダ言いつつもみんな最後は信じて賭けたんだよね。彼女に芽生え始めたわずかばかりの“仲間意識”に。そして彼女は、見事その思いに応える方を選んだ。自分が変わるために。こんなの見せられてさあ、泣かないわけがないじゃないか。思わぬ伏兵が出なくてほんとに良かった。みんな、幸せになってほしい。



トゥエルビさん、これねえ、万が一編集が間に合わなくて新作放送できないなって思ったら、最初の方を見逃してた人のために再放送してほしい。キャラクター紹介としても秀逸だしね。ちなみに第1〜2回ではこれの“女芸人編”が前後編で放送され、今回の“女性タレント編”とはまったく別の結果が出ています。こんなにくっきりわかれるとは。芸能界における立ち位置、役割の違いが明暗を分けたのか・・・。



でも、なんていうのかな。こういう状況で言われる「私はあなたを信じています」って、微妙に突き放してる感じが出て、人を説得するための言葉としては弱いなって思った。自分が立場を決めかねて揺れてる時に「あなたなら絶対グーを出すって、私は信じてるから!」って言われるのと、「大丈夫。あなたなら絶対にグーを出す!」って言われるのとじゃ安心感が違うっていうか、どっちで説得されたいかって言われたら、やっぱり後者かなと思う。そこらへんが今回の勝因な気がする。というか、一番熱心に説得にあたってた子って“芸人”だから、本来は“女芸人編”に出てるはずなんだよね。なぜ、伊集院は女芸人をひとりこっちに混ぜた? 本当は番組の空気が読める裏切り要員として混ぜ込んだんじゃないの?


ネタバレ終了


放送時間は以下の通り。毎週金曜深夜2時より放送です。

伊集院光のてれび
BS12 トゥエルビ 毎週金曜26:00~26:30 放送中
“企画・構成・演出・主演・編集・ロケハン
伊集院光全権掌握番組が3年の充電期間を経て遂に始動!
伊集院考案の悪魔的企画が多くの無名若手芸人を限界まで追い込む。”
◇オープニングテーマ:「人間大統領」(電気グルーブ
https://twitter.com/ijyuindvd

ちなみに、私が一番楽しみにしてる、わざわざ『それ妻』の吉野監督に長野まで会いに行き、自撮りマルチアングル撮影の方法をレクチャーしてもらってまでやろうとしてる企画はいつ実現するんだろ。いざやるとなるとなかなか大変そうだけどね。若手にやらせる前に自分でも一度は撮ってみなきゃならんだろうし、おもいのほかハードルが高くて企画自体お蔵入りになったりして(汗)。