『運命人間』『稀人』を観た(@ユーロスペース)

客はどちらも30代中心に7,8割方男性。客は『運命人間』が20〜30人位。『稀人』はトークショー付きということもあり、立ち見も出ました。


映画の詳細は以前の日記を参照。んで、感想です。



『運命人間』(監督・西山洋市、脚本・佐藤佐吉
ワラ番長で不条理な笑いを追求した西山監督だけあって、今回も不条理ホラーで攻めます(といっても、脚本は西山監督ではなく佐藤佐吉)。本作は脚本だけ読んだら怖いと思う。キチガイ夫婦(内木英二、小松みゆき)に翻弄されるペット探偵(豊原功補)…。ギャグや変なダジャレも散りばめられてはいるけれど、作りようによってはすごく怖い作品になったと思う。しかし如何せん、演出自体に怖がらせようという意図があまり感じられない。キャスティングも結構良かったんだけどなあ。中盤、親友の妹との夫婦生活の描写になり、キチガイ夫婦が出なくなってからが少し長いというか、間延びしてちょっと退屈だった。妹役を中村愛美が演じてるんだけど、しばらく見ないうちに随分と印象が変わったんだね。



『稀人』(監督・清水崇、脚本・小中千昭
あの清水崇がこんな作品を撮るなんて!って作品。“笑い”無し。しかも奥さん、ラブ・ストーリーですよ。私、不覚にもウルッときてしまいました。脚本との相性ということで言えば、正直微妙。ラヴクラフトって全然読まないんで、インスマウスとか諸星大二郎程度の馴染みしかないんだけど、本作において地底世界や古代人とかってのがそれほどうまく描写できてるとは思えない。その辺りに関する台詞やナレーションも説明口調に終始していて、清水崇らしくないというか、異物感がある。塚本晋也演じる主人公は<恐怖>を追求するあまり次第に妄想の世界へと入ってゆくんだけど、ネタ晴らしがあっさりしすぎて、かなり衝撃的なオチのはずなのに、聞いてもドーンとこないんだ。だからほんと言うと、全体的にはあんまうまくない。でもね、<異形のラブ・ストーリー>としては、すごく上質に仕上がってる。劇中じゃ、カスパー・ハウザーって言ってるけど(実際そうなんだけど)、これはどちらかといえばカマラとアマラですよ。「ガラかめ」世代に分かりやすく喩えるなら、地底にいた吸血少女F(宮下ともみ)と彼女を飼育する主人公(塚本晋也)の関係は「狼少女ジェーン」と「スチュワート」ですよ。彼女を人間としてしつけ、血しか食さない彼女のために自らの体を切り裂く主人公、それにむさぼりつく無垢な少女ってだけでエロいじゃないですか。Fを演じる宮下ともみちゃんが非常に良かった。台詞がない分、動きの面でかなりの頑張りを見せてる。まだ足下のおぼつかないFを連れて町中を歩くシーンは、挙動不審すぎて警察に捕まるんじゃないかとハラハラした(笑)。
稀人 (角川ホラー文庫)
そういえば小説版の表紙に使われた少女Fの姿。これってイメージ・イラストだと思ってたらほんとにあってちょっとビックリ。


「ホラー」で「ラブ・ストーリー」ってのはやる人が少ない分野なんだけど、その枠に清水崇が入ってくるなんてまさかまさかですよ。ただ、本人はその意識があまりないみたいなんで、プロデューサーが仕掛けてくれないとこれ1本で終わりそうな雰囲気…。非常に勿体ない。『呪怨』ばっか撮らせてないで切ない系もたまにはお願いしますよ、プロデューサーさん!