近藤芳正vs田中要次、アドリブ・ドラマを制するのはどっち?

昨夜、フジテレビで『役者魂』というドラマがやっていた。出演者は近藤芳正田中要次。冒頭と結末だけ書かれた台本を渡され、間は全てアドリブでつなぐという三幕からなる即興ドラマだ(と言っても、舞台裏も見せてるから半分ドキュメンタリー)。二人が顔を合わせるのは本番だけ。打ち合わせは一切禁止で本番に入る。二人は常に別の場所に隔離され、現場への移動バスも別々。一幕終わる毎に次の台本が渡され、休憩の後、ロケ地へ連れて行かれる。小道具が必要な場合はその場で自ら頼む。

■第一幕■
[冒頭]デパートの屋上。靴を脱ぎフェンスによじのぼる男二人。一人は涙もろいヤクザ、一人はマイナス思考のパイロット。二人、目が合う。
[結末]抱き合って、子供のようにはしゃぐ。
■第二幕■
[冒頭]ラブホテル。男が回転ベッドの上で寝そべっていると、シャワーを浴び終えたもう一人の男が部屋に入ってくる。
[結末]ベッドの上で天井を見上げる男。その男の胸に顔を埋めて泣くもう一人の男。
■第三幕■
[冒頭]廃墟。男が待っていると、そこへもう一人の男がやってくる。その男の目には殺意がみなぎっていた。
[結末]地面に倒れている男二人。一人の男の手がわずかに動き、もう一人の男の手に重なる。


これは面白いね。組み合わせが良かったと思う。舞台の演出も手がける近藤芳正と、映画畑の田中要次近藤芳正の方が有利かと思いきや、主導権を握り全体の流れ、物語を作っていったのは意外にも田中要次の方だった。


まず、第一幕。<涙もろいヤクザ>を田中要次、<マイナス思考のパイロット>を近藤芳正が演じるということだけはあらかじめ決まっていた。それぞれの衣装に着替え現場へ。二人はここで初対面となる。打ち合わせは一切ないため、結末に向け、相手がどんなストーリーを描いてきてるのか全くわからないまま本番が始まる。台本に書かれてあったト書き設定から、どちらも「自殺しようとしていた男二人が、互いの交流によって自殺を思いとどまり、抱き合って終わる」という流れを想定していたにもかかわらず、日頃やり慣れてる相手じゃないだけに、相手のペースがつかめず台詞がうまく噛み合わない。とりあえず、先に仕掛けたのは田中要次だった。喋りながら自分のキャラクターにバックボーンを肉付けをしてゆく。田中も近藤に話を振るが、近藤はどう返したらいいのかわからないようで、なかなか波に乗れない。与えられた<マイナス思考のパイロット>というキャラ設定に肉付けすることができないまま、ヤクザ・田中を中心に話は進んでゆく。喋りながら全体を把握していこうとする田中要次と違い、全体を把握してから喋ろうとする近藤芳正は先が見えないせいか言葉に詰まってしまうことが多く、なすがままだった。そのため、第一幕は、攻めて攻めて攻めまくった田中要次の独壇場となった。


第二幕。自殺を思いとどまった二人が何故かラブホテルに…。物語を何も思いつけないまま本番に挑む二人。第一幕が田中主導だったこともあり、次は近藤主導だろうなあという雰囲気が互いの間に漂い、案の定、近藤が先に仕掛け主導権を握ってきた。仕事の愚痴を言い、他人の温もりに飢えている男という設定で挑んだが、第一幕とキャラが変わってしまい、なんだかまとまりのないよくわからないものになってしまった。


そしてラスト、第三幕。殺意を抱く男の側を演じることで、一幕、二幕と田中に水をあけられてた近藤が起死回生をはかる。ところがまたしても、新たな設定を加えて物語を大きく動かす田中。第一幕でヤクザ・田中は、自殺の原因を「自分のせいでアニキ分を死なせてしまったから」ということにしていた。で、そのアニキによく似た顔をもつパイロット・近藤に諭され自殺を思いとどまったわけだが、第三幕、ただならぬ雰囲気で現れた近藤を目の前にした瞬間、「おまえはパイロットなんかじゃない。アニキの弟だろ。どうりで似てると思った。俺のせいでアニキが死んだから復讐するつもりなんだろ」と<マイナス思考のパイロット>という近藤の基本キャラを全否定してきたのだ。しかし全否定されたことで腹が決まったのか、いまいち乗り切れなかったパイロットというキャラを完全に脱ぎ捨て、田中の考えた<アニキの弟>というキャラに乗り換えた近藤の口からは、次次と台詞が出てくる出てくる(笑)。迫真の演技で、見事に結末までまとめあげた。


終了後、「くそー、殺されちゃったー」と悔しがる田中要次だったが、今回のアドリブ勝負を制したのはまぎれもなく彼だった。全体の物語を作り、パイロットをニセモノだとしたことで、一定しない近藤のキャラの説明もつけることができたし。ただ、所々、近藤芳正の台詞をさえぎり暴走する場面もあったので、かなりテンパってたように思える。


舞台のアドリブと映画のアドリブってのは少し違うのかなと思った。近藤芳正を見てると、「アドリブ芝居」っていうひとつの作品を作ろうと気負いすぎて身動き取れなくなったような気がする。逆に田中要次は1シーンをアドリブでつないだって印象で、とりあえずなんか喋らないと話進まないし、「やりすぎたら監督がカットするだろう」みたいなね、そういうノリを感じた。


単発番組のようだけど、役者募集もしていたので、次やる時も是非、畑の違う役者どうしの組み合わせでお願いしたい。できれば、お笑いの人も混ぜてくれると嬉しいなと。たぶん、その場で勝手に話を作るのってお笑いの人が一番うまいと思うから。

『役者魂』 10/16(日) AM1:15〜2:15 フジテレビ
脚本の一字一句、果てはその行間にまでイマジネーションを働かせ、観客の感想を超えるべく役作りに全神経を集中させる役者たち。


この番組は、史上初! 役者対役者の演技対決、脚本のない演技バトルである!!
二人の役者に与えられるのは、人物設定とシチュエーション、そして結末のみ。
自らの想像力と演技力だけを頼りに、繰り広げられるたくみな心理戦(かけひき)
役者生命をかけた、前代未聞の真剣勝負が今、幕を開ける!


「史上初!」てなってるけど、鶴瓶の「スジナシ」のパクリだと言われてるぞ(笑)。

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