はてなダイアラードラマ百選『サイコメトラーEIJI』

サイコメトラーEIJI』(1997年1〜3月 土曜21時放送 日本テレビ系)


【STAFF】
プロデュース:櫨山裕子蒔田光治
演出:堤幸彦佐藤東弥大谷太郎
脚本:田子明弘・小原信治大石哲也
音楽:寺田創一・吉川忠英DJ KRUSH
主題歌:TOKIO「フラれて元気」
原作:朝基まさし・安童夕馬サイコメトラーEIJI」(講談社週刊少年マガジン」連載)


【CAST】
明日真映児・・・松岡昌宏TOKIO
志摩亮子・・・大塚寧々
田宮章吉・・・井ノ原快彦(V6)
葛西裕介・・・小原裕貴(ジャニーズJr)
明日真恵美 ・・・松本恵(現・松本莉緒
羽根山警部・・・永澤俊矢
沢木晃・・・田辺誠一


【各話タイトル】
CASE1 「殺人鬼メビウス(前後編)」堤幸彦(演出)、小原信治(脚本) ゲスト:田口浩正栗山千明ほか
CASE2 「時計じかけのリンゴ(前後編)」佐藤東弥(演出)、田子明弘(脚本)ゲスト:田中広子、高杢禎彦ほか
CASE3 「ボクを殺さないで」堤幸彦(演出)、小原信治(脚本)  ゲスト:伊藤隆大大場久美子ほか
CASE4 「狙われたアイドル(前後編)」大谷太郎(演出)、田子明弘(脚本) ゲスト:佐藤仁美、田口トモロヲほか
CASE5 「24HOURS・顔のない殺人者」演出・佐藤東弥 脚本・大石哲也  ゲスト:小橋賢児ほか
CASE6 「THE LAST SEVEN DAYS(前後編)」演出・堤幸彦 脚本・小原信治 ゲスト:大平透ほか
amazon:ビデオで探す(DVDは未発売) 

サイコメトリーとは、物や人に触れることで、
そこに刻まれた過去の出来事や記憶の断片を読み取る特殊能力である


タイトル・ナレーション・・・大平透


【あらすじ】
物や人に触れることで過去の出来事や記憶の断片を読みとるサイコメトりー能力を持った高校生・明日真映児は、クラスメイトで親友の章吉や裕介とつるんでは、妹・恵美に呆れられながらも、勉強そっちのけでナンパと金儲けに明け暮れる陽気な高校生活を楽しんでいた。映児がサイコメトラーであることは仲間内だけの秘密だったが、偶然出会った美人刑事・志摩亮子に知られたことで、事件が起こるたび捜査協力を頼まれるはめに…。身近な人間が次々と猟奇事件に巻き込まれる中、不本意ながらもその力を捜査のために使い続ける映児。安易にその力に依存する志摩や彼女のために力を使う映児の姿に、懸念をしめす章吉と裕介。そんな中、以前に捕らえた殺人犯に面会にいった志摩は、そこである罠にかけられる。普段と異なる志摩の行動が、羽根山警部に取り返しのつかない不幸をもたらし、映児と章吉たちとの間にも大きな溝を作ってしまう。映児は、自らの能力を封印することを決意。しかし時同じくして、妹・恵美の身体にも異変が…。そこに、怪物の魔の手が忍び寄る……。


【紹介文】
金田一少年の事件簿』でみせた独特な演出、カメラワークによって、一躍注目を浴びた堤幸彦が、自らの演出表現を更に加速させ、今後の作風までも決めてしまったのが本作。ストーリー設定やテーマのみならず、ここで生み出されたキャラクターの多くが『ケイゾク』や『トリック』といったのちのヒット作に受け継がれ、見直すと既視感で目眩がするぐらい。「後味悪くなきゃ堤じゃねー」と言われるようになったのも、本作のラストエピソードがあってこそだろう。


サイコメトラーEIJI』の魅力は、ストーリーの面白さや斬新な映像表現はもちろんのこと、キャラクターの魅力によるところが大きい。映児・章吉・裕介の3バカトリオをはじめ、マイペースでどこか抜けてる志摩刑事、愛くるしい恵美ちゃん、いつも怒鳴り散らしてる横柄な羽根山警部に脳天気な刑事課の面々、、、誰もがハマリ役でバランスもよかったため、99年に続編が作られた際、様々な諸事情*1でメインの3バカ以外ガラッと入れ替えられたキャスティングに、ガックリきたファンは多かった。扱うのは『羊たちの沈黙』『沙粧妙子 最後の事件』を彷彿とさせるような、壮絶で深刻な猟奇事件ばかりだったが、それほど重い気分を引きずらないのは、愛すべきキャラクターたちのチームワーク溢れるボケとツッコミのおかげだと言える。


ただ、これらの魅力は、程度の差こそあれ『金田一少年の事件簿』にも当てはまること。一線を画すに至ったのは、やはり、ラストエピソード「THE LAST SEVEN DAYS(前後編)」の存在によるところが大きい。


これは当時、衝撃だった。どんなに陰惨な事件でも「明るさだけは失わない」をモットーにしてた作品が、この回だけは違っていた。普段のおちゃらけた雰囲気は影を潜め、冒頭からノリの悪い、居心地の悪い空気が漂う。そして、ある地点を境に、結末へ向けての壮絶な感情の爆発と異常な加速を見せるのだ。これまで小出しにみせてきた登場人物の抱える様々な問題、それが一挙に目の前に投げ出され、重荷を背負わされた超能力者の苦悩、正義や真実を追究する者のエゴイズム、サイコメトリーという異端の力を巡って起こる負の感情、信頼関係の揺らぎといったものを、善と悪、敵と味方といった分かりやすい対立構造の中ではなく、親しい仲間同士の対立という形であからさまに見せつけてくる。ドラマの中で起こってるのは、現実には起こりえない虚構の出来事であるけれど、そのえげつないシチュエーションが、映児と志摩、章吉たちとの間に起こった諍い、感情のやりとりを、現実でも体験しうる非常にリアルなものとして強くこちらに印象づける。


触れられたくない過去の記憶に触れる、真実を暴く、、、それらは本当に正しいことなのか。知ってしまったがために壊れる関係、失う信頼関係もあるんじゃないのか。人間関係なんて、ちょっと疑惑の種を植え付けるだけであっさりと崩れてしまう脆いもの。あなたが追い求める真実は、周りの人間を不幸にするだけかもしれない。それでもあなたは真実を知りたいですか。何が見えても、あなたは自分の大切な友人、家族、仲間を今までと変わらず信じ続けることが出来ますか。。。


きれい事を並べる人間の目前に悲観的な実例をいくつも提示して「それでもあなたは真実が知りたいですか、他人を信じ続けることが出来ますか」と問いかける、、、堤節ともいえるこのえげつない手法は、当時、目から鱗でした。こちらの価値観を揺さぶってくる作品というのはいつだって素晴らしいけど、それを、悩める思春期の子らをメインターゲットとしてる土9枠でやってのけたというのがまた素晴らしかった。



役者についてもちょっと書いておこうかと思う。みーんないいし、みーんな大好きだけど、あえて挙げるならやっぱりこの人だろう。


V6のイノッチこと井ノ原快彦が、CX『コーチ』に引き続き、役者としての世間的な評価をぐぐんと上げたのが本作だと思われる。ジャニーズにいながら決して男前とは言い難い顔立ちの彼が、能力者の映児(松岡昌宏)、優等生の裕介(小原裕貴)に挟まれて担わされた役割は<落ちこぼれ>。勉強はできない、悪さもする、教師の信用もない。事件が起こるとすぐ犯人かと疑いをかけられ、好きになった女の子は何故か次々と殺されゆく。親ともうまくいってないし、精神的にも弱い。そういう人間の劣等感やうしろめたさといった負の部分を、彼はうまく表現していて、「ちょっとした誤解や疑念がもとで友情や信頼関係なんてあっという間に壊れてゆくんだよ」ということを提示してるラストエピソードで抜群のリアリティをみせていた。映児を疑い、仲違いしたまま追試テストを受け、そこで映児の優しさ・思いやりに気付いた時の表情、「マブダチを疑ったバツですから」という台詞は涙を誘う。


実はあの人が出てました!ってことでいえば、「殺人鬼メビウス」の回には、映画『死国』でブレイク前の栗山千明が出演し、その日本人形顔を存分に生かした映像表現の中で、殺人鬼メビウスにトラウマを与える少女を演じている。また同じ回には『トリック』の“大家さん”こと池田ハル役でお馴染み、大島蓉子があいもかわらず訛りの強い口うるさい寮母役で出演していたり、ケラリーノ・サンドロビッチがエロビデオ屋の店員、麿赤兒が屋台ラーメン屋のオヤジ、犬山犬子がファミレスの店員役として出演している。もちろん、ファミレスのテーブルの上にはナポリタンが…。「狙われたアイドル」には、ホリプロタレントスカウトキャラバン出身でありながら、まったくアイドル顔ではない佐藤仁美が、フリフリの衣装を着て歌い踊るアイドルを演じてるのも必見。あとはなんと言っても、殺人的に可愛いかった頃の松本恵(現・松本莉緒)が見れるのが貴重。彼女の無垢な愛らしさがラストエピソードの悲劇性を更に盛り立て、「いやぁぁぁ! おにいちゃん! 見ないでーーーー!」という彼女の絶叫に胸を締め付けられた人も多いだろう。


また、出演者のその後ということでいえば、大塚寧々田辺誠一の結婚を本作の共演がきっかけだと妄想し、「志摩さんと沢木が結婚したー!」と喜ぶファンは多い。裕介役を演じた小原裕貴は、パート2のスペシャルに出演後の2000年10月、芸能界を引退。前年に松本恵が芸能界引退を宣言してただけに、「スペシャルでもいいからパート1のメンツでもう1回『〜EIJI』をやってくれー」と願うファンの夢を決定的に打ち砕くニュースとしてジャニーズファン以外にも衝撃を与えた。もちろん、松本恵はその後、松本莉緒と改名して芸能界に復帰。堤作品『STAND UP!!』でフェロモン出しまくりの大人びた姿を晒し、時の流れを感じさせた。


それから、パート2放送直前に、関東では一度だけ再放送されたことがあるのだが、小学生の大量殺戮を扱った「ボクを殺さないで」の回だけが何故か再放送されなかった。犯人が小学生だったこともあり、小学生が小学生を殺すという内容が問題で放送が見送られたんじゃないかという噂が広まったが、真相は定かではない。。。



というわけで、自分にとっては愛着も強いし、エポック・メイキングな作品としていつまでも記憶に残るのが本作『サイコメトラーEIJI』です。堤さんには悪いけど、おそらくこれから何作作ろうともミステリーものとしてはこれが不動のベストワン。DVDは未発売、セルビデオもほとんど在庫切れなので、レンタル店などでみかけた際は、是非手にとって一度は観て貰えたら嬉しいなあと思います。




次のバトンですが、自分の後なら、もうちょっとリズムの心地よい、読みやすい文体の方がいいだろうなと思ってたところに、グッドタイミングでリファもらったんで、id:mame8さんにお願いしようかなと思います。いつも兼末健次郎こと風間俊介くんの近況を教えてもらっては、「ちゃんと役者続けてるんだ」と嬉しかったり、「舞台の人になってしまったのね」と寂しかったり、「ドラマには全然出てくれないのに」と嫉妬したりと、複雑な感情を抱きつつ、風間君を見守ってらっしゃるid:mame8さんにはいつも感謝の気持ちでいっぱいになっております。



*1:松本恵の芸能界引退、大塚寧々の妊娠・出産など