「シュヴァンクマイエル映画祭」トーク 赤塚若樹×ペトル・ホリー

この日のトークショー・ゲストは評論家の赤塚若樹氏と翻訳家のペトル・ホリー氏。ホリーさんはチェコ人で、赤塚氏によると、98年に来日して以来、チェコ映画ブームの多大なる貢献者とのこと。シュヴァンクマイエルが来日した時は通訳として10日間同行。Hプロでは「ジャバウォッキー」の字幕も担当している。非常に背の高い人で、日本語も流暢。ユーモアもある楽しい人でした。


以下が、二人が語ってくれたシュヴァンクマイエルにまつわるエピソードの数々です。


シュヴァンクマイエル、幽霊たちとホテルで
全然知らなかったんだけど、見えるんだそうです、この人。ホリー氏によると、日本に来た翌日、ホリーさんがホテルに氏を迎えに行くと非常に疲れた顔をして出てきたそうで、「時差ボケで眠れませんでしたか?」と尋ねると、「いや、そうじゃなくて、家具を移動しなければならなかったんだ…」と答えるシュヴァンクマイエル。なんでも泊まった部屋に幽霊が複数出たらしく、ホリーさんは「非常に霊感の強い人なんで」と言うだけで、それ以上詳しいことは語ってくれなかったが、「家具を動かす」って、ポルターガイストでも起こったんだろうか? もしかしてシュヴァンクマイエルの作品で動く家具がよく出てくるのは実体験の反映? 次の新作で来日したら、誰かそこらへんもっと突っ込んでくれい。


■日本で買った“あるモノ”
『自然の歴史』*1という作品を撮ったとき、シュヴァンクマイエルはどうしても本物のアルマジロが使いたかったんだそうだ。しかしどこを探しても見つからず、最終的にプラハの博物館から剥製を借り出して撮影したらしい。日本に来た氏は「骨董屋に行きたい」とせがみ、ホリーさんは東京芸大の側にある骨董屋に連れて行ったんだそうだ。すると店に入るやいなや、普段は無表情の氏の目がきらーんと光った。彼の目線の先を追うと、“あるモノ”*2が置いてあった。氏はすぐさま購入し、帰国の際には手荷物として持ち込むため、衣服で“あるモノ”を包み、無事、チェコまで持ち帰ったとのこと。


■“いけないモノ”を海外から持ち帰るのが好き
赤塚氏によると、89年までのチェコ社会主義国家だったため、自由な発言が容易に出来る状態ではなかった。そのため多くの作家が国外に出て出版活動を行っていた。シュヴァンクマイエルも70年代は仕事を追われ、他の人の作る映画の美術やアニメーションを作るなど不遇の時を過ごしていた経験を持つ。海外の映画祭に呼ばれることの多かった氏は、外国に行くたび、脱出した反体制の作家達の本をいっぱい買い込んでは密かに自国に持ち帰っていたそうだ。しかし普通に持ち込んで税関に見つかれば、即逮捕されてしまう違法行為。そこで、ズボンと腹の間に本を挟んで持ち込んでいたのだが、あるとき、あまりにたくさん詰めすぎたためか、税関の前を通る際に、ポロッ、ポロッと腹から本がこぼれ落ちてしまったんだそうだ。しかし幸運にも、たまたまそのときの税関がシュヴァンクマイエルのファン(?)だったため、見逃してくれたとのこと。


■歌舞伎を鑑賞
「オテサーネク」のプロモーションで来日したとき、是非とも人形浄瑠璃と歌舞伎を見たいということで、歌舞伎座に連れて行ったホリーさん。ちょうどその日は小泉首相が来てたこともあり、マスコミがたくさん押しかけてた。それを見たシュヴァンクマイエルは自分のことかと勘違いしたとかしないとか(笑)。その日の演目は「女殺し 油の地獄」。油が天井からダラダラ滴りおちる前で、男が女を絞め殺すというクライマックスを目の当たりにしたシュヴァンクマイエルは、案の定、目を光らせてたとのこと。シュヴァンクマイエルによれば、歌舞伎の様式美や省略などは自身の作品と共通する部分があるらしい。


■乱歩の「人間椅子」を読む
ホリーさんは江戸川乱歩の「人間椅子」をチェコ語に翻訳したらしく、会った際にシュヴァンクマイエルに翻訳本を渡したとのこと。作品を読んだ氏は「いい話だ」と誉め、いつかこれをやってみたいと言ったそうだ。


■「オテサーネク」、チェコの映画賞“チェスキー・レフ”受賞で
「オテサーネク」はチェコの映画賞“チェスキー・レフ”の2002年グランプリを受賞している“チェスキー・レフ(チェコのライオン)”というだけあって、受賞者にはライオン型のトロフィーが授与されるこの賞は、チェコアカデミー賞とも言うべき最も権威ある賞。実は、その年、『コーリャ 愛のプラハ』のヤン・スヴェラークが監督した『ダーク・ブルー』(ASIN:B00008BDHP)という作品がチェコでは大ヒットしており、他の賞も受賞するなど下馬評はダントツ。実際、主演(?)女優賞以外のほとんどにノミネートを受けている状態で、誰が見ても受賞は間違いないように見えた。ホリーさんもまさか『オテサーネク』が受賞するなんて夢にも思っていなかったそうだ。そんなこともあってか、シュヴァンクマイエルは『オテサーネク』が『ダーク・ブルー』を抑えチェコの批評家賞とも言うべき賞を見事受賞してしまった際に、調子にのって「あんなものはただの数合わせに過ぎない」とかめちゃめちゃなことを言ってチェスキー・レフを批判したそうだ。しかし結果は、下馬評を覆し『オテサーネク』が受賞…。チェコに一時帰国を果たしていたホリーさんはたまたま受賞の翌日に氏の家に伺うことになっており、日本食が好きだという氏のために、日本からのお土産として“みそ汁”を携え伺ったとのこと。家に入ると、受賞トロフィーは無造作に机に置かれており、シュヴァンクマイエルは渡されたみそ汁を、そのまま気にすることなくトロフィーの横にドサッと置いたんだそうだ。その翌週、新聞の三面記事には、氏の受賞コメントと共に、「シュヴァンクマイエルならではのチェスキー・レフの扱われ方」と題し、みそ汁の横に置かれたトロフィーが掲載されてたとのこと。



■新作はマルキ・ド・サドのような狂気の世界*3
赤塚氏によると、新作「Sileni」の脚本の抜粋がチェコのシュールリアリズム機関誌に載ったらしい。チェコ語で書かれた脚本の一部と、その時にシュヴァンクマイエルがイメージとして載せた挿絵をプリントして配ってくれたのだが、絵がねえ、ものすごいことになってます。サドの何かの作品に載ってたものらしいんだが、このイメージで映画創って、日本の映倫通りますか?(笑) 一応、↓一番下に画像載せときますので興味のある方はどうぞ(18歳未満は閲覧禁止)。物語は、母親を亡くして気も狂わんばかりに打ちひしがれた一人の青年が、とある公爵と知り合ってお城に招待され、そこでめくるめく狂気の世界に誘われるというお話だそうで、どういう映像になるのか非常に楽しみ。


今回のトークショーの模様はCinemaTopicsでもレポートされてます。
http://www.cinematopics.com/cinema/c_report/index3.php?number=979


トークショーに参加された赤塚若樹さんのウェブサイトです。
http://www.asahi-net.or.jp/~tt2w-aktk/



あと、来年行われる愛知万博チェコ・パビリオンでは、ホリーさんが中心となりチェコ映画を25本上映する予定とのこと。できれば東京でも上映したいらしく、現在スポンサー募集中だそうです。
   


*1:今回の特集ではFプロで上映されている。

*2:訳あってそれがなんだったかをここに書き記すことはできません。“あるモノ”です。シュヴァンクマイエルが当時あれほど探してもみつからなかった“あるモノ”です。

*3:以前は見出しに“新作はマルキ・ド・サドのようなエログロスカトロ乱交世界”と書いていたんだけど、これはイラスト等から私が抱いた新作イメージ。しかし赤塚氏が言ったと誤解させるような書き方になっていたので今は訂正済みです。赤塚氏の日記「とりとめなく」(8/13付)にて指摘されてて気付きました(遅っ!)。赤塚さん、トークショーについての感想や後日談も書いているので、ここのトークショーレポを読んでる人は必読だよー!