『ロスト★マイウェイ』を観た(@ユーロスペース)

5/8(土)に観てきました。この回は松重豊×古澤健×黒沢清トークショーもあるということで、2時間前だというのに、整理番号は20番台。しかも開場直前になるとどこから湧いたのか溢れんばかりの人、人、人で、「いやー、松重人気はすごいなあ」と思っていたら、今回のトークショー、どうもスカパー日本映画専門チャンネルとの合同企画だったようで、そこからの招待客が20人ぐらいいた模様(もっとかも)。最終的には席間の通路も埋まるほどの立ち見大入り満員となりました。客層は20代後半〜30代を中心に男女半々ぐらい。瀬々監督*1の姿もあった。



映画の詳細は↓以前の日記を参照。


松重豊がコメディ映画に“主演する”というのは珍しいんだけど、意外とはまるんですよね。個人的には『SFホイップクリーム』での松重スマイルに胸キュンだったので、のんびりとしたゆるーいほのぼのコメディに再度引き立ててくれたのは嬉しい。


松重豊演じる田宮吾郎は“でくのぼう”とか“図体ばかりでかくて”という揶揄がぴったりなくらい、不器用で消極的、且つうだつのあがらない中年男。不満はいろいろと溜まっているくせに、結局何も言い返せず周りの人間に振り回されっぱなしな毎日。あまりのダメダメぶりに、だんだんと「松重ぇ、はじけてくれぇ」てなイライラ感が募るわけだが、彼を振りまわす2人のオヤジが非常に個性溢れる愛すべきキャラで、放っておくとどんどんあらぬ方向に突っ走っちゃうため、物語が暴走しないよう吾郎が引き留め役に回ったのかなとも思える。でも主役故に、吾郎の醸し出すうだうだした空気が作品全体を覆い、どことなく煮え切らない印象を残した感は否めない。最後にスカッとはじけてくれれば良かったんだが、あれっぽっちじゃ物足りない。うだつのあがらない松重豊って想像以上にストレスなんです。


吾郎を振り回す2人のオヤジ、信平(植田裕一)と亮介(安田尚哉)は、金もなければ女もいない、地方競馬に有り金突っ込んでは借金取りに追い立てられるうだつのあがらない中年男。そのくせ、「やるなら全米デビュー!」とかデカイこと夢見て、バンドを結成。小心者の吾郎と違って、常に強気でマイペースな二人。中古販売店を営んではいるものの寂れまくって客も来ない開店休業状態の吾郎とは違い、定職を持たない(=社会とつながっていない)ことが後先考えないぶっちゃけた性格にしてるのかも(亮介はまだ常識人なんだが、信平はほんとに傍若無人)。


亮介役の安田尚哉はこれが演技初挑戦。本職はミュージシャン。関西人のノリとミュージシャン特有の存在感で、次から次へと災難に見舞われる亮介役を肩の力を抜きつつ飄々と演じている。情けないのにみょうに自信ありげで色気漂うおっちゃん(火野正平をイメージして貰うとわかりやすいかも)。実は監督の飲み友達らしく、その縁で本作への出演が決まったそうだ。


信平役の植田裕一は役者で、清水崇監督の作品やVシネにもちょい役で出てるそうだ。しかし出演が決まるまで、監督はそのことを知らず、初めて見た時に「この“珍獣”をこのまま埋もれさせておくのは惜しい」と思い、キャスティングを決めたとか。しかしそう言うだけあって、確かに“珍獣”(これ以外に評する言葉が思いつかない…笑)。縄文式系の魅力*2とでもいうのか、あの甘えた体型で演じるのがバンドのボーカルって事自体、かなり卑怯。ナルシスティックに歌うな!(笑) 要領がよくお調子もんで喋りの達者な信平。おそらく素のキャラクターからして信平なのだろう。この人、ほんと面白いですよ。埋もれさせておくのは確かに勿体ない。大人計画の舞台にも出たことあるようなんだが、どうだったんだろう。


この精神年齢中学生のおやじたちにつき合うのが、リズムギターとしてスカウトされた現役中学生・翔太(増尾)。何げに松重豊と顔が似ており、翔太が「吾郎!」と呼び捨てにするまで親子役なのかと勘違い。今どきの冷めた中学生で「友情なんて別に」なんて興味ない振りしながらも、3人の腐れ縁を羨ましく思ってるのが言葉の端々に見え隠れ。これがラストの別れのシーンで生きてくるんだな。


捨てられた産業廃棄液に近づいたばっかりに、目から物体消失光線を発するようになった亮介が繰り広げる消失エピソードがどれもなかなかに凝っていて面白い。物体が消失する様を、物陰などをうまく使いほぼワンカットで撮っているんだよね。音楽の付け方もどこか懐かしい感じ。この特殊能力シーンは、感覚的に『奥様は魔女』に近いかも。雰囲気が。昔のアメリカンホームドラマから客の笑い声を消した感じというか(おそらく、これじゃ絶対に通じてない…汗。的確な表現力を私に…)。


もうちょっとだけ人物に厚みが加わると良かったけど、個人的にはとても好きなテイストの作品。おやじたちは生き生きとして魅力的だったし、松重豊がもうちょっとはじけてくれればなあ、、って、よく考えたらこれはまんま翔太の目線じゃん!(爆) だからラストでじーんと来たのか。。。



そういや、劇中で川瀬陽太*3が歌ってたのが、あぶらだこってバンドの歌なのだろうか。それとも、監督がよく知ってるというバンドの歌? おやじバンドが歌ってた「マリリン・モンロー ノー・リターン♪ ノー・リターン♪ ノー・リターン♪」って野坂昭如の歌だったんだね。歌自体は前から知ってたけど、野坂昭如が歌を出していたとは知らなかった。そして映画は、ばちかぶりの「♪ボーイズ・ビー シド・ヴィシャス!」で締めと。



*1:本作に「スペシャル・サンクス」としてクレジットされてる。

*2:小倉久寛皆川猿時、、、

*3:なんかここのところいつ見てもギター弾きながら歌ってる。他にギター弾ける奴っていないの?(笑) ユーロスペースのサイトに載ってるあの“黄色く光った人物”は彼でした。