AC公共広告機構「消える砂の像」の暗黒パワー

数年に1度ぐらいの割合で、トラウマになりそうなほどいや〜な空気を漂わせたCMというのが出現する。


私にとって人生初のトラウマCMは覚せい剤止めますか? それとも人間やめますか?」のコピーが一世を風靡した政府広報覚醒剤撲滅キャンペーンCMだった。子供心に「人間やめますか?」という言葉の持つ重みは絶大で、どんなに辛いことがあっても覚せい剤にだけは手を出すまいと、硬く心に誓ったものだ。いくらなんでも人間はやめたくない…。そしてその教えは今も頑なに守っている。



次が、中学(?)の時に流れてたケンミン焼きビーフのCM。当時私はテレビ東京で放映されていたアニメ「ミスター味っこ」を毎週楽しみに見ていた。知らない人に説明すると、天才料理少年・味吉陽一が様々な人物と料理対決を繰り広げるだけのアニメなのだが、料理の味を審査する皆々様方のオーバーアクトがかなりの爆笑とカタルシスを誘う面白アニメ*1。しかし、番組の合間に流れるケンミン焼きビーフンのCMは、それまでの空気を一瞬で凍りつかすほどの暗黒パワーにまみれたものだった。どこかの路地裏にしゃがみ込み視聴者を睨みつけてる小学生の兄妹。実写ではなく、“小学生高学年が図工の時間に書く自画像”みたいな絵柄。顔が不自然にでかく、こちらを睨みつけたまま動かない。不気味だ。静止画なのかと思いきや、画面を「にゃ〜」と猫が通りすぎるので、やつらはただひたすらにこちらをじっと睨みつけてるだけなのだということがわかる。10秒ぐらいその緊迫した状態が続いた後、ようやく口だけ動かしてこう訴えるのだ。


 兄「かあちゃーん、ピーマン入れんといてやー」
 妹「いれんといてや〜」
 兄「なあ、なあって」


直後、高らかに宙を舞う焼きビーフンの実写映像で締めとなるわけだが、過剰に情報を投入するCM作りのセオリーに反し、ぽつねんと放り出された静寂した時の流れが、「ミスター味っこ」や他のCMの騒々しさと対比し、なんだか見てはいけないモノを見ているような居心地の悪さを覚える。環境音以外これといった音もなく、ただじっとこちらをゴーゴンのごとく睨みつける見た目からして不気味な兄妹のインパクトは絶大で、子供が見るアニメの合間に流すには、非常に毒の強いシュールの一言では片づけられない何かを含んだ恐怖CMだった。



そして最近、久々にトラウマCMと呼べる作品が出没した。長きに渡り良作を排出し続けるAC公共広告機構が作った地球温暖化を訴えるCM「消える砂の像」がそれだ。砂で作った親子像が波に洗われ崩れゆく様を延々と映すこのCM。そもそも砂の像が“炭化した人間”にも見え画的に怖いってのもあるんだが、精神的に不安感を与える一番の要因は、やはりあの不気味な音楽だろう。


↓ここで動画が見られるので未見の人はまず一度確認されたし。
http://www.ad-c.or.jp/campaign/all/2002_1.html



放送され始めてからだいぶ経つが、昨日久々に見て「あれ?」とひっかかった。この音楽、聞き覚えがあるのだ。つい最近、これと似た音楽をどこかで聴いた覚えがある。記憶を辿り行き着いたのが、先日見た『土方巽〜夏の嵐〜』だった。


百見は一聞にしかず。まずは予告でその音楽を聞き比べてくだされ。
http://www.imageforum.co.jp/hijikata/ykk.html


CMの音楽を担当した人物が誰なのかはわからないが、土方巽の方は分かっている。打楽器奏者で作曲家のYAS-KAZ氏だ。こちらのサイトでも曲の視聴はできるのだが、以前は公式サイトもあったらしい。何故いまは無いのかというと、今年初めにマジックマッシュルームを食したのがバレて麻薬取締法違反で逮捕、閉鎖されたそうだ(爆)。どこかで見たことある名前だと思ったら…ι。元祖キノコ君*2の時は合法だっただけに、不運といったらいいのか軽率といったらいいのか…。



ちなみにAC公共広告機構作品集(http://www.ad-c.or.jp/data/vol1/vol1.html)では、歴代CMがいくつか視聴できる。「考えたい私たちの資源(軍艦島)」(1981年)もなかなかにいいんですよ(嬉)。著作権の問題で全部の作品を見れないのが残念。



*1:味皇の叫ぶ「うーまーいーぞーーーー!!!」は仲間内で流行りました。

*2:名前はあえて伏せよう。ねえ、みったん?(爆)