『おろち』トーク、鶴田法男×高橋洋×佐藤現(司会)

下書き眺めてたらこんなの見つけたので今更ながらUPしておきます。なんで当時UPしなかったのかいまひとつ思い出せないんだけど、何かもっと追記するつもりだったのかなあ。まあいいや。2008年9月27日にユーロスペースで行われた『おろち』トークショーレポです。当時書いたのをほぼそのままの状態で載っけてるため、ついこないだ見てきたかのような文章になってますがあくまで2年前のレポです。

おろち [DVD]

おろち [DVD]

* * * * * * * *


ユーロスペースで行われた『おろち』トークショーに行ってきました。登壇者は、鶴田法男監督と脚本を担当した高橋洋氏のお二人。『おろち』プロデューサー・佐藤現氏の司会によって進められました。トークショーは上映後に行われたのですが、お二人が以前に組んだ『リング0』同様、非常に余韻の残る作品だったため、「あれはこうで、これはああいうことだったのか」と内容を反芻しながら聞いてたらすっかり記憶があやふやになってしまったので(汗)、パンフや鶴田監督サイトの制作日誌に載ってるような話は補足程度にとどめておきます。


鶴田法男 web site 「鶴田の制作裏日誌」


尚、ラストのネタバレに絡むので原作を読んでない方は本編をご覧になった後にお読みください。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓



本作は『おろち』に収録された「血」「姉妹」という二つの物語をMIXしたストーリーに仕上がってますが、佐藤プロデューサー曰わく、企画立ち上げ時点では『おろち』の「姉妹」を映画化したいということでスタートし、高橋さんに脚本を依頼したところ「血」を混ぜたいと提案され、いまの形に落ち着いたとか。母親を大女優という設定にしたせいで『洗礼』を意識したように見えるかもしれないが、実はそうじゃないと語る高橋さん。『リング0』でも『女優霊』でもたびたび取り上げているように、元来「女優」というのは高橋さんにとって非常に魅力的な存在であり、今回も自然な流れでそうなったんだけれども、そんなこと言っても絶対信じて貰えないだろうと苦笑いしてました(言われてみればなるほど確かにそうですけど、楳図ファンからはまず間違いなくそうは思われないです。笑)。


連載時に『おろち』を読んでたという高橋さんは、『姉妹』の冒頭に書かれた「これは吐き気をもよおすほどにいやらしい女心の恐ろしさと執念を描いたものがたりである」という巻頭言に強く惹かれ、後に発表された『血』のエピソードを読んだとき、『姉妹』の巻頭言とのつながりを子供ながらに強く感じたんだとか。そんなこともあって、今回楳図先生から「実はこの二作はつながってるんです」という話を聞いた時、「子供の頃の直感は侮れない」と思ったそうです。この巻頭言は脚本にもしっかりと書き記したそうですが、悲しいかな劇中では使って貰えず「キャスト・スタッフがこれを読むことに意義があるんだ」と強がる高橋さん。でも、削除された巻頭言に代わり、脚本にはなかったおろち退場時の縦書きテロップを鶴田監督が独自に入れ込んでくれたのは嬉しかったそうです。根底ではつながってる話とはいえ、実際に『血』と『姉妹』を一つの話にまとめあげる作業はかなり苦労したそうで、「階段に飾られた油彩画でつなげる」というアイデアを思いつくまではだいぶ悩んだとか(※母子像の油彩画は『血』の冒頭に描かれており、油彩画の瞳からおろちが門前家の様子を覗き見るというアイデアは『姉妹』に描かれてます)。


一方、「高橋洋という脚本家と一緒に作業するのは“苦痛”である」と話すのは鶴田監督。拘りがとても強いため、一見理にかなってないと思える場面でも、考えに考えた末に書かれた可能性があり、軽はずみな気持ちでは覆せない。今回も、姉妹が争ってるシーンで、脚本には突如鳴り出したオルゴールを「一草が止める」と書いてあるが、理屈から言えば「止めるのは理沙」。しかし「高橋さんのことだから何か深い考えがあってあえてこうしてるんだろう」と思ったらなかなか「理沙に変えたい」とは言い出せず、ずるずると日にちばかりがすぎてゆき、高橋さんから「やっぱり理沙にしたい」と連絡を受けたときは「実は自分もそう思ってたんですよ」とようやく言えてホッとしたとか。ところがいざ変えてみると「いやもしかしたらやっぱり一草が正しいのではないのか」と逆に心配になってきて、念のため一草役の木村佳乃にも訊いてみたところ、彼女も一草だと言うのでまた悩むことに。答えの出ぬまま撮影してみて「やっぱり理沙の方がしっくりくる」という結論にいたったそうです。ちなみに、音楽を聴かせると凶暴性が静まるというアイデアは高橋さん曰く「『海底原人ラゴン』からもらった」そうで、「そんなこと言っても誰もわからないよ」と鶴田監督から突っ込まれてました(笑)。


本作では、子供時代の一草を佐藤初(うい)ちゃんという演技経験のあまりない新人さんが演じているんだけど、ラストのオチのこともあり、もともとは木村佳乃とは全然似てない別の子役を使う予定だったんだとか。ところが、この初ちゃんがあまりに印象的だったので、結局彼女を起用することに決めたそうです。


ちなみに、高橋さんが漏れ聞いた話によると、おろちが嵐の夜にこの姉妹の家を訪れたのは、楳図先生曰く、「屋敷から『たすけて・・・』というか細い声が聞こえてきたから」で、声の主は「旧いお屋敷に押しつぶされた草花たち」なんだとか。ところが原作を読み返してみると「私がこのお屋敷に住み込むようになったのももとはといえば嵐をさけるため」とハッキリ書かれており、「『おろち』は先生の頭の中で独自の進化をとげているようだ」と語っておられました。まあね、いつか新作マンガで進化した『おろち』を読めればいいのですが、今の楳図さんの状況を考えるとそれはほぼ無理(汗)。いっそのこと高橋さんが楳図先生からネタいっぱいもらって実写劇場版として見せてゆくのが一番確実だと思います。