『観音菩薩・母光』を観た(@イメージフォーラム・シネマテーク)

05年に「セルフドキュメンタリーの逆襲」の1本として上映された際に書かれた膳場岳人氏のレビュー(ネタバレあり)を読んで以来ずっと気になっていた村上賢司監督のセルフドキュメンタリー観音菩薩・母光』(1992年/8mm/47min)を観てきました。最近は沖島勲監督『一万年、後....。』や大木裕之監督作品のような私的哲学的映像作品にひどく気持ちが向いてたこともあり、当初期待していた以上のモノが得られてとても満足(2年前に観なくて良かったあ)。それにしても06年に発表された『ファンタスマゴリア/残響』『ドキュ嘘』に立て続けに出てきて妙に気になっていた「墓」「花」という二つのアイテムが、十数年も前に作られたこの作品に既に登場していたという事実には驚かされました。他の作品にも出てくるんだろうか。


明日2/11(月・祝)午後4時よりもう一度上映するので行ける人は是非! 


「告白というエンターテインメント 村上賢司映像個展」シネマテーク


ちなみに何度も言いますが、「シネマテーク」はイメージフォーラムと同じビルにあるんだけど出入口は別で、関係者専用みたいな出入口から入ってすぐの階段を上っていった3階にある〈劇場〉と言うよりは〈イベントスペース〉っていうか〈自主映画の上映会場〉みたいなところです(イメージフォーラム映像制作コースの講義もここで行われてるんだっけ?)。「イメフォよく行くから向かって左側に別の出入口があるのは知ってるけど、あそこって一般の人も入っていいの? 劇場公式サイト見ただけじゃちょっとわかりにくくて気後れするんだけど…」と腰が退けてる人もいるかもしれませんが、おそらく上映時間になると扉が開けっ放しになってるので行けばすぐ分かると思います。もし不安なら1階のイメージフォーラムに入って受付の人に「シネマテークってどこですか?」って訊いてみてください。おそらく「ここを出てすぐ右手にある別の入口から入り、階段を上った3階がシネマテークです」ぐらいのことは教えてくれるはずです。つーかイメージフォーラムさん、あんなとこにシネマテークがあるなんてイメフォの生徒じゃないと知らないですよ*1。一般人向けに出入口の外観写真の一枚でも劇場サイトに載っけといてください(あ、写真撮ってこようと思ってたのにすっかり忘れてた。ま、どーせ夜だから無理だったけど)。


というわけで感想です。


観音菩薩・母光』は、自分を産み育ててくれた「母親」と自分が生まれ育った「高崎」という町への愛憎入り乱れる思いを綴った作品ですが、レビューから予想してた印象とは若干異なり、「ああ、だからホラー業界からお声がかかったのか」と合点がいくぐらい全体的にどこか「禍々しい」雰囲気を感じました。そう思わせるイチバンの要因は冒頭のシーン。姿見を効果的に使い「年のいった母親のお腹を開けてみると、中に成人した息子が収まっていてこちらをじーっと見つめていた(※超意訳)」という、何かの特集上映があったら是非『追悼のざわめき』と同じグループに入れたいぐらいのキモチワルイ演出がなされており、監督が鏡の前に立とうとするたび胸の奥がザワザワして気持ちが落ち着かなくなるのです。しかもよせばいいのに気になって何度も何度もそのシーンを思い出してはまた胸がざわめいてしまい、でも自己規制が働くのか鏡の前に立つ直前で映像はいつもストップ、決して母体に戻ることはない・・・そんな繰り返し。延々と続く監督のモノローグに音楽がつけられることはほとんどなく、冒頭のシーンによってもたらされた胸のざわめきを「それは誤解!思い過ごしだよ!」と否定してくれるモノなど何もないまま映画は進み、何か得たいの知れないモノが突然飛び出してくるんじゃないかという不安感を終始拭うことができないまま、高崎観音を舞台にしたクライマックスへと突入してゆくのですが、高崎観音の内部に入ることで胎内回帰をはかる監督が、市街を見渡せる頂上の天窓、暗闇を照らす唯一のひかりに向かって上へ上へと階段を上りながら、携帯電話の向こうにいる母に向かって繰り返し呼びかけるその声を聞いているうちに、呼びかけに応じた母親が丸窓の外からぬっと顔を出してくるんじゃないかと、それが技術的にありえないことなど頭では充分わかっているにもかかわらず、どこかでそれを期待し妙に恐怖感を煽られたのでした。だから辿り着いた後の展開は、「ああ、冒頭のシーンはここにつなげるためのものなのか」と逆にホッとさせられたし、「演技に徹する監督」と「その呼びかけに素で応える母」のやりとりによって微笑ましく観ることができました(それでも監督が放つ恍惚の一言は実際の母子だけに口にされると怖い)。


途中、不条理ホラーを思わせる奇妙な思い出話が挿入されたり、NHKが60〜70年代に制作したトラウマドキュメンタリー風の演出なども垣間見られ、映画を観ている間中「ファンタスマゴリア~闇に封印された映像コレクション [DVD]」を見返したい気分で一杯になると同時に、いまだ観てない村上監督の初期ホラー作品『呪霊2』『呪霊 THE MOVIE』を「そろそろ一度観とかないといかんかなあ」という気になってきました(といっても近所のTSUTAYAには置いてないのでそう簡単には見れないのですが)。特に『呪霊 THE MOVIE』に関しては、かつて私が『こっくりさん日本版』について悶々としてたときに独自に「侵略SF」との共通点に言及してくれていた非常に希有な方でもある車筆太氏のレビュー「それでも、何も起こりませんか? (@囲の中の蛙)」が面白く非常に興味をそそられたので、一度自分の目で確かめねばとは思ってはいるんですけどね。



*1:友人がアニメーションコースに通ってたことあるんで数年前に卒業制作を観にあの会場に行ったことありますけど、あそこが噂の「シネマテーク」だったなんて去年人から教えられるまで知りませんでした