『ラブドガン』トークショー、岸部一徳×新井浩文×渡辺謙作監督×上野昂志

25日18:50の回上映後に岸部一徳新井浩文渡辺謙作監督を迎え、上野昂志の司会でトークショーが催された。トークショーになるととたんにお客さんが2,30人どどっと入ってきて、カメラマンやらなんやら関係者も増え賑わう場内。向かって下手から、上野、岸部、新井、渡辺の順に着席。新井君は黒いラブドガンTシャツを着て登場。


渡辺監督の話によれば、もともとは大和屋竺のような3人の殺し屋による無国籍アクション映画を撮るつもりでいたらしい。女子高生が出る予定もなく、もっと年上の女性を出す設定だったとか。ところが、プロデューサーと話してる内に「女子高生にしたらどうだ」ってことになり、それならハードボイルド志向はやめ、真面目に<感情>について取り組んでみようかってことになって、今のような話になったらしい。上野氏がタイトルについて問うと、「最初は『ラブドガン』ではなく全然別のタイトルがついてた」とのこと*1。監督は、映画のタイトルってのはプロデューサーがつけるもんだと思ってたらしく、「そっちで勝手につけてよ」と放り投げてたのだが、「どうしても」とお願いされ、悩んだ末に、“愛と拳銃”ってのを思いついて、「“愛と拳銃”ときたらやっぱ“旅立ち”だろ」ってことで、『愛と拳銃の旅立ち』ってタイトルにしたら、これが大不評だったとか。「(冗談で言ったのに)最近の人は『愛と青春の旅立ち』を知らないんですよね」とぼやいてた(笑)*2


二人のキャスティング理由について尋ねると、一徳さんに関しては、何かの映画*3に出た時の演技がとても気持ち悪く印象に残ってたからだそうで、新井くんについては、「彼が19歳の頃から知ってるんで、シナリオ書いてる時から頭の片隅にはあったけど、この映画で使うつもりは始めからなかった」と答える監督。新井君も、監督が映画を撮るって聞いた時に「出たい」って連絡とったんだそうだ。しかし「今度のにおまえがやれる役はねーから」ってきっぱり断られそのつもりでいたら、後日事務所に出演依頼がやってきたということらしい。これ以上は上野氏が突っ込まなかったんで、新井君起用の真相は分からずじまいだったが、新井君によると、彼が演じた種田という役は監督に非常に似てるらしく*4、逆に監督自身は「種田は新井そのままだ」と言ってたりもするんで、プライベートでも仲の良い気心知れた新井浩文なら自分の分身をうまく演じてくれるって気持ちがどこかにあったのかも、と勝手なことを言ってみる(真相は監督のみぞ知る…)。


上野氏から出演を決めた理由を訊かれた一徳さんは、「脚本を読んで特に面白いってのはなかったけど、これはあまりたくさんの人が見に来ない映画だなとは思ったんですよね。みんなが面白いっていう映画ではないなと。そういう安全じゃないもの、危険な香りのするものに惹かれるっていうのがあるんで」と前置きした上で、「若い時ならともかく、この年齢になると、自分からそういうのを見つけて入っていかないと、ただ黙って待ってたんじゃ収まりのいい場所に押しやられてしまう。そういうときに声をかけてもらったから乗った」と言っていた。もちろん、渡辺監督や新井くんに対して「どんな人だろう?」っていう興味もあったし、「僕もそうだけど、新井君にしても僕に対して『このおじさん何だろう?』って思ってるところはあるに違いないし…」なんて言ってた。それを聞いて「そんなことないですって!」っとばかりに横で激しく手をふり否定する新井くん。彼自身はこの映画に出たことについて、「今まで同世代の人とばかりやってきたから、大人の俳優さんと組ませて貰えたってのが一番でかかった」と答えていた*5。新井君と共演してみた感想を尋ねられた一徳さんは「撮影は順撮りだったんで、劇中と同じような流れで、新井君のいいところとか、一見怖そうなんだけど、それとは正反対の可愛らしいとこなどを毎日見ることが出来たのが楽しかった」と答え、照れる新井君。そういう眼差しの優しさのみならず、二人の現場での関係性がうまく劇中に反映されてる点について、「圧倒的な力の差があるんで、こっちとしては全力でぶつかるしかなかった。それがうまく空気感として現れたんじゃないか」と語る新井君。劇中の一徳さんは、殺し屋の先輩として、半人前の新井君を調教してゆく役なのだが、役者としても先輩である一徳さんに演技面でのコツみたいなものを上野氏が尋ねると、「僕に演技のことなんて聞かないでくださいよ、演技が出来ないので有名なんだから」と答え笑わせた。


劇中、酒を飲むシーンがたくさん出てくるんだが、なまじっかプライベートの新井浩文を知ってるだけに、「新井に酔っぱらいの演技はムリだ」と思いこんでた監督は、バーのシーンを撮影したとき、朝一の撮影にもかかわらず本物のウォッカを何倍も飲ませたそうだ。その日は、他にも飲みのシーンが続き、バーのシーンでウォッカ(本物)を飲んだ後、焼き肉屋のシーンでマッコリ(本物)、ラーメン屋のシーンでビール(本物)といった具合に、丸1日ヘロヘロになりながら撮影をこなしたとのこと。それについて「慰労の意味も含んでたんだよ」と後付けする監督。


「わかりにくい」と評判の本作だが、演じてる俳優も『ラブドガン』の脚本には、ちょっとわからない“隙間”のような部分があったそうだ*6。これを埋めた方がいいのかは、何を面白いと感じるかによっても違うのだろうが、一徳さんにとってはこの“隙間”が魅力だったらしく、そのことを上野氏が突っ込んでみると、「今回いろいろな人から『この映画はちょっと分からないところがあった。どうだったんですか?』って聞かれるんだけど、そのたびに僕は『すごくいい映画だった』って答える。何故そう思うのかというと、監督にやりたいことがあって、それを基に書かれたシナリオを僕らが読んだ時に『この監督はこういうことがやりたいんだな』と思ったことが、出来上がったときに全くブレてない。やりたいと思ったことが崩壊しそうなときも、じゃあもうちょっとみんなが分かりやすいようにしようと妥協するんじゃなく、やりたいことをやりきった、それがこの作品であり、だからこれは“いい映画”なんだと。その結果、客が入ろうが入らなかろうがそれは関係ない。重要なのは監督がやりたいことをやりきったということで、この先何年か経ったら監督はもうこういう作品は撮れなくなるだろう。この作品がいましか撮れないものなのだとしたら、監督は撮りたいものをいま撮ってしまわなければいけない。そこに僕ら役者はこうやって立ち会わせてもらってるというのかな。新井君にしても、彼は間違いなくこれから何年か後には、日本映画界を背負って立つポジションにいると思うんですよね。そんな彼の出発点にもこの作品はなってるような気がします」と熱く語り、会場からの拍手を受ける一徳さんであった。


とまあ、ここでお開きになれば格好良かったんだが、ちょっと時間があったので、新井君と彼が演じる種田という役の類似性について話は盛り上がる。監督によれば、初対面の時から新井君は『うち、殺しますよ?』とかいうような印象だったらしく、その一方で一徳さんが言うような可愛らしいところもあったりするんで、監督から見れば、種田は普段の新井くんそのもの、とのこと*7。だから演技指導の際にも「普段から『ぶっ飛ばしますよ』とかしょっちゅう言ってるんだし、いつも君がやってるようにやればいいんだよって言ってるのに、『うち出来ないですよ』とか言ちゃって」と愚痴りだす監督。負けじと新井君も「それ*8は自分じゃないですか!?」と言い返すが、「ほんとに『ぶっ殺す』なんて言葉、ひとっことも言ったことないんですよね…」という言葉を最後に微妙な沈黙が流れたところで、時間切れとなってしまった。上野氏から「岸部さんの話で終わらせとけば良かった…」と言われ、シュンとなる新井君の姿が爆笑を誘う中、この日のトークショーは幕を閉じた。


今回のトークショーで一番印象に残ったのは、岸部一徳の役者としてのスタンスが、役のイメージそのままだったなあということ。あと、渡辺謙作監督と新井浩文はめちゃめちゃ仲がいいです(笑)。今回それは十二分に伝わった(ちなみに新井君は監督のことを「謙作さん」と呼んでました)。


*1:ここで隣に座ってた新井浩文が下向いて一人笑いをこらえる。

*2:新井君はこれにウケてたのか。

*3:もっと詳しく言ってたんだけど忘れた。

*4:山本政志監督も劇場で配られてた小冊子「プリクル」の中に掲載された渡辺監督との対談で「新井君のやったキャラは謙作っぽい」と本人に語ってた(監督は「そう?」とごまかしていたが…)。

*5:そういえば舞台挨拶でも「この映画が僕の転機になりました」と答えていたっけ…。

*6:ここらへんのことはパンフレットの岸部一徳インタビューに詳しく載ってる。

*7:新井くんに言わせれば「謙作さんそのもの」なんだが…

*8:「ぶっ殺す」とか「ぶっ飛ばす」とか物騒なことを言う