月10『乱歩R』第1話を見た(「武田鉄矢が乙葉で作る人間椅子」)

悪くはないけど、無理に謎解きものにしてる感じは否めない。乱歩を知らない世代に対する配慮なのかもしれないが、明智の使い方をもうちょっとなんとかしてくれ。藤井隆はあくまで”三代目”であり頭脳明晰な初代・明智小五郎と同じである必要はない。謎解きなら小林老人で十分。金田一少年のマネなんていらない。ほとんどの視聴者が「犯人わかっちゃったんですけど」状態の中、いつまでたっても犯人にたどり着けない明智。小林老人の大大大ヒントにもなかなか気づかない鈍くささに、多くの視聴者が「誰かこいつに犯人教えてやれよ」とイライラしながらツッコミ入れまくって疲れ果てた頃、ようやく「謎は全て解けた!」とばかりに目をキラーンとさせても遅すぎるっちゅーの! この脚本で藤井隆に謎解き役は荷が重いのではなかろうか。せっかく鬱系の匂いを内包してる人材なんだから、乱歩世界の住人たちに翻弄され、こちらとあちらの境界をふらふらするただの狂言回しに徹してた方が、より彼のキャラクターが生かされると思うのだが。


もともと”犯人探し”は乱歩ミステリーの主要な要素ではない。淫靡で悪趣味なエログロ妄想者の”悲しき世界”をどれだけ描けるかがポイントなのである。そこさえきちんと描ければ、新しいファンはいくらでもつく。現に、天知茂明智シリーズは、『乱歩R』同様、原作をぐちゃぐちゃにして脚本を作ったにもかかわらず、何人もの幼気な小学生をあちらの世界に引きずり込んだ。『乱歩R』の制作陣も、「視聴率が低い(=ほとんど誰も観てない)」という現実を逆手にとって、もっともっと、放送コードに引っかかるんじゃないかとこちらがひやひやするぐらいの攻めの姿勢で突っ走って欲しい。今のままじゃ中途半端で、「逆恨みで隣人の主婦を精神的にいたぶり追い込むストーカー未亡人*1」「猟奇殺人犯に同化して彼岸と此岸をふらふらする女刑事*2」「母親を殺して花壇に埋める笑顔の中学生*3」「実父からの性的虐待&親殺しのWトラウマ地獄で男装する女*4」「蜂蜜エロス責めで男を落としのし上がる女医*5」など様々なキワモノ人物の描写に挑んできた月10ドラマの名が廃る。番宣スポットやOP/EDタイトルバックはすこぶる良いのだから、そのままの雰囲気を本編にいかしてください。頼みます。


なんか貶してるみたいだけど、メインの二人(明智筧利夫演じる堀越刑事)以外は気に入ってます。堀越刑事が役としてダメダメに見えるのは、衣装のほかに、明智がいまひとつドラマの中でいきてないからだと思われる。二人のポジションが被りぎみのせいで、堀越刑事の存在意義がみえない。あと、画質にももう少しこだわりが欲しかったかな。ビデオはフィルムと違って、作り物は作り物にしか見えないから。乙葉武田鉄矢のシーンは照明が雰囲気作りに一役買ってるからセットの作り物感も大して気にならないのだが、明智事務所は…。


乙葉はビジュアル・表情は文句無しによかった。思わぬ拾い物である。女性の”白い柔肌”は乱歩世界にかかせない要素だが、切り揃えられた前髪、白い肌、長いまつげ、適度にふくよかな姿態、これらを持ち合わせた彼女はこの世界によく似合う。台詞は長くなるほどに危うくなってくるので、女優としてやってゆくつもりなら今後の課題だろう(ただしキャラクターのせいか『新選組!』の方はあまり気にならなかった)。


武田鉄矢は悪役は初めてらしいが(金八視聴者に配慮してるのか?)、寡黙だったせいもありこれはハマってた。変態性は低いが粘着性は非常に高く、穏やかながらも常に重く頑丈な門で心を閉ざしてる感じ。少しだけ開けた隙間から手を伸ばし、肉欲そそる乙葉の手の上に重ねる。でも、重ねるだけ。決して中には引き入れない。何故なら彼の心の中は既に母親で占められているから。乙葉以外の人間に対するときの武田鉄矢は、怒らせたら怖そうな空気、緊張感をビシバシ漂わせており、藤井を殴るシーンでの表情、凶器を振り下ろす様もリアルで良し。難はやはり最後の長台詞。せっかくここまで”佐藤”というキャラになりきってたのに、朗々と喋り始めた瞬間、すっかり”金八”に戻ってしまった。


ドラマの中で一番エロかったシーンは、好みの違いはあると思うが、切り裂いた椅子の背から人がダラリ、ダラリと次々に腕の中へ倒れ込んでくるシーン。弛緩した肉体というのはいいねえ。乙葉はいうまでもなく、藤井隆ですら色っぽく感じた。



来週はいよいよホラー女優・菅野美穂の登場。公式のインタビューで、藤井隆に会った時に「藤井さんが出演されてる映画の感想を話しました」と語っていたが、まさか『模倣犯*6のことか?(苦笑) 『ロスト・イン・トランスレーション』*7はまだ見れないはずだし、あのダメダメ映画に対し、どんな感想を言ったのか非常に気になる。



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*1:『冷たい月』■出演:中森明菜永作博美的場浩司■演出:唐木昭浩、田中壽一■脚本:瀧川晃代、尾崎将也

*2:『ボーダー』■出演:中森明菜筒井道隆高橋ひとみ、佐藤仁美、根津甚八■演出:上川伸廣、田中 壽一、岡本浩一■脚本:森岡利行江頭美智留

*3:『凍りつく夏』■出演:室井滋佐野史郎藤原竜也、山口沙也加、柏原収史■演出:国本雅広、田中 壽一、白川士■脚本:江頭美智留

*4:永遠の仔』■出演:中谷美紀椎名桔平渡部篤郎石田ゆり子古尾谷雅人■演出:鶴橋康夫花堂純次、白川士■脚本:中島丈博

*5:『女医』■出演:中谷美紀、りょう、大路恵美渡辺いっけい■演出:国本雅広、岡本浩一、白川士■脚本:森下直

*6:はてなのキーワードに書かれてあるレビューに騙されて一度観てみてください。『自殺サークル』か『模倣犯』かっていうぐらいの糞映画です(笑)。宮部みゆきもそりゃ怒るって

*7:ソフィア・コッポラ監督による日本を舞台にしたハリウッド映画。この映画の中で、ビル・マーレイ演じるボブが藤井の番組『Matthew's Best Hit TV』に出演し、マシューにいじられてるシーンが盛り込まれてるのだ