東日本大震災の翌年に放送された震災ドラマ『それからの海(長尺版)』上映付きトークショーのレポートです

昨夜放送されたBSプレミアム『ドラマ“女川 いのちの坂道”』を見てたら、ふいに思い出したので、中途半端なところで終わらせてたため7年間寝かせていたレポートを蔵出ししておきます。多少手はいれましたが、2012年11月の気分に戻ってお読みください。『女川〜』を観た方なら、どのシーンを見て『それからの海』を思い出したかわかっていただけるかと思います。


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2012年11月17日(土)に『第22回映画祭TAMA CINEMA FORUM』で行われた『それからの海[ロングバージョン]』の先行上映に行ってきました。
www.tamaeiga.org
上映後のトークゲストは高橋陽一郎監督、ボランティアの青年・タモツ役を演じた鍋山晋一、そして当日になり急遽登壇が決まった父親・キイチ役の三浦誠己。


本作は東日本大震災から1年後の2012年3月3日(土)夜7時半より、NHK土曜ドラマスペシャル それからの海」として75分の枠で放送された震災特別ドラマの長尺版です。

『それからの海[ロングバージョン]』(NHK制作)
東日本大震災の被災地である岩手県田野畑村で撮影された被災地の今を見つめるドラマ。仮設住宅で暮らす家族が、都会から来た親子との出会いにより再生の一歩を踏み出す。”
【脚本】櫻井剛 【監督】高橋陽一郎 出演:一青窈,橋本麻由,三浦誠己,運萬治男,鍋山晋一,津波古太輝 【原案】吉村 昭「漁火」(短編集「見えない橋」収蔵)
土曜ドラマスペシャル「それからの海」 | NHKドラマ


高橋監督といえば、この多摩映画祭には何度も作品を携えて来ており、今回出演した鍋山さんとの出会いも実はこの映画祭。2005年、自主映画のコンペ部門である「第6回TAMA NEW WAVE」で鍋山さんが主演した映画「お散歩」がグランプリを受賞。そのとき審査員を務めていたのが高橋監督で、それからのつきあいだという。


ドラマの舞台となった田野畑村で映画を撮る企画がかつてあって、そのとき村の人と親しくなったという高橋監督。結局映画は実現しなかったが、震災から1年ということでNHKの方から作品作りを頼まれたときに田野畑村で何かできればと思い企画したそうだ。


本作はどこまでがドキュメンタリーでどこまでがフィクションか、誰が役者で誰が素人なのかが非常に判別しにくい作りになっており、三浦誠己演じる漁師の娘・一香役の橋本麻由ちゃんも祖父・朝夫役の運萬治男さんも、ロケ地近郊に住んでた一般の人だったという。そのあたりのことを尋ねると「こういう現場は初めてで、台本はちゃんとあったけど、演じるというよりその場に身を委ねていただけ。役を演じたという感覚は最後までなかった」と語る三浦誠己。監督によれば「台本はかなり緻密に作ってあった」そうだが、現場の空気を作品の中に取り込みたかったので、ワンシーンを撮るのにかなり長い間ビデオを回し続けたそうだ。カメラが回ってる間役者はずっとアドリブで会話をつながなければならず、一青窈に出演をオファーするときも「『珈琲時候』でホウ・シャオシェン監督はフィルムが切れるまでカットをかけなかったそうですが、僕はビデオなのでそれよりも更に長く回しますけど大丈夫ですか?」と事前に了承を得ていたらしい。


中でも一番ハードだったのが、ボランティア役で出演した鍋山さん。無口な役の三浦くんと違い、おしゃべりで世話好き且つ一青窈演じる東京から来た女性に村を案内してまわるボランティア役なので、カメラが回ってる間、彼女に何を聞かれてもアドリブでそれなりに答えられるよう、地元の人と積極的に交流して情報を集めにいそしんだらしい。その結果、地元の人たちからはかなりかわいがられるようになり、役柄以上にかわいがられすぎてることを危惧した監督が、鍋山さんに「君が仲良くなるのはいいが、君の役はそうじゃないから」といまいちど念をおし、裏でスタッフに「鍋山をあまりかわいがるな」と指令を出したほどだった(作品の中で、鍋山さん演じる東京からやってきたボランティアの青年は、地元の人たちに貢献したい溶け込みたいという気持ちが強すぎるせいか、なかなか現実と向き合えない三浦誠己演じる漁師に対し、要らぬお節介をやいて余計なプレッシャーを与え続けた結果、両者の間に決定的なことが終盤に起こるという展開になっています)。


143分のロングバージョンと銘打って上映された本作だが、テレビで放送されたときは75分の尺だった。ロングバージョンを作った理由はテレビだと尺の都合で切らなければいけないシーンがたくさんあり(ロングバージョンではたくさん出ていた三浦・鍋山両氏もテレビ版にはほとんど出てない)、もう少し別の視点から素材を貼り直す作業をしておきたかったからとのこと。そうやってやり直した最初のバージョンは4時間以上の大作で、それが一番良いという人もいるそうだ(残念ならそのバージョンは更に編集してつぶしちゃったので残してないとのこと。残念)。


冒頭と中盤に二人の子供(主人公の少女と、エキストラの少年)がカメラを持って家の近くを歩き回り、目に映った風景について解説や思い出話を語るというシーンが挿入されているのだが、質疑応答があったので監督にこのシーンについて「あらかじめどの程度台詞が決まっていたのか、まったくのアドリブなのか、全て台本があるのか」と尋ねたところ、撮影の合間に教室内で子供たちにカメラをもたせ互いを撮影するというワークショップを行っており、冒頭、カメラの前で喋ってた主人公の少女の場合は、厳密には地元の子ではないので(でも周辺の街の子ではある)、事前に演じる役のバックボーンについて説明し、その役になったつもりで語って欲しいと頼んだそうだ。中盤に出てくる少年は地元の子なので、特にこれといった指示はせず、カメラを渡し好きに撮ってきてもらったそうで、「付き添いのスタッフを特につけず、1人でどこかへ出かけ、後で少年の撮ってきた映像をチェックしてみたらああいう内容だったのでみんなビックリした」と語る高橋監督。


テレビ版でも長編版でも使われてるその映像は、少年がカメラ片手に津波に流されてしまった自分の家の近所に赴きひとりで撮ってきた映像だった。周囲の景色を撮影しながらてくてくと歩き、ひとしきり思い出話をしたあと、突然ある場所めがけて走り出し、家の基礎らしきものだけがわずかに残された更地に踏み入ると、ある一画に近づきこう呟いた。「ここにお父さんが倒れていました」。そこはかつて少年の家が建っていた場所。津波に流され、いまは基礎だけになってしまった自宅を歩きまわり、ありし日の家の間取りを解説しながら当時の行動を淡々とただ淡々と実況する少年の静かな映像にとても胸を打たれる。ドラマだと思って観てる視聴者でさえ心揺さぶられる映像なのだから、「好きに撮ってきて」といって渡したカメラにこれが収められてたらそりゃあスタッフもビックリするわなあ。



ドラマ自体は↓NHKアーカイブで3分半ほど映像が見られます(残念ながら少年のそのシーンは入ってないので観たい方はお近くのNHKライブラリーに観に行ってください)。



それ以外の制作裏話(注:2012年の記事です)



原案となる「漁火」の内容
吉村昭らしい重量感溢れる短編 - 見えない橋の感想 | レビューン小説
長尺版の方が原作に近い雰囲気な気はするかな。でも、津波で妻を失い、被災して仮設住宅で暮らす現実をなかなか受け入れられずにいる漁師のキイチと、東京からやってきて何かとお節介を焼くボランティアの青年・タモツの関係性は、『日曜日は終わらない』のリストラされ就職できずにいる水橋研二と、母親の新しい恋人として息子である水橋研二となんとか良好な関係を築こうと何かとかまってくる塚本晋也の関係性に似てるんで長尺版放送してほしい(縮小版ではこの二人のドラマがばっさりカットされてるんで)。高橋陽一郎監督は自分の【居場所】を不用意に侵してくる人と、侵されることで次第に追い詰められてゆく人を描くのがほんとに上手いんだよ。



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蔵出し終わり。『ドラマ“女川 いのちの坂道”』についてはドローン撮影にある種の可能性を見いだしたので後日そのことについて感想書きます。NHKさん、とっとと地上波でも放送してあげて。
故郷と向き合う20歳たちの “ロードムービー” ドローンドラマ「女川 いのちの坂道」 |NHK_PR|NHKオンライン