『FORMA-フォルマ-』を観た(@ベルブホール永山)

何か書き足りなくて長いことお蔵入りにしていたが、久しぶりに読み返したら「別にこれでいいんじゃね?」という気になり、特に映画を見返すこともなく、当時の感想を真空パックのまま放出するシリーズ第何弾かです。今回は2014年に公開された映画『FORMA』。以下、2014年12月頃の気分でお読みください。


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第24回多摩映画祭で上映された『FORMA-フォルマ-』(坂本あゆみ監督)を観てきました。
監督・坂本あゆみができるまで | 第24回映画祭TAMA CINEMA FORUM
人間の多面的で複雑な感情を複雑なまま提示し、頭の中で反芻したときに劇中に点在した台詞や行動が非常によくつながる私の好きなタイプの映画でとても面白かったです。


映画の詳細は↓過去記事参照。


あらすじは↓こんな感じ。

9年ぶりに再会した高校の同級生、綾子と由香里。警備員の仕事をしていた由香里は綾子に誘われ、一緒の会社で働くようになった。しかし、綾子は徐々に奇妙な態度を取り始める。ある思いを確認するため、綾子は由香里を呼び出す。交錯する、それぞれの思い…。憎しみの連鎖は、どのような結末を迎えようとしているのか。圧巻の24分間長回し。張りつめる緊張。衝撃のクライマックス!



事前に読んでた感想では「怖い」という反応が多かったこともあり、圧巻の24分間長回しでどのように壮絶なバトルが待ち構えてるのかとワクワクしながら見ていたんですが、「怖い」というよりはむしろ「微笑ましかった」です。145分というかなり長尺の映画だけれど、ダレ始める中盤で全く予期せぬ方向へと転換させリフレッシュを図る手法には驚きました。いやだって、あんなん誰が想像します?(笑) しばし狐につままれましたもん。クライマックスでは当初の予想どおり女同士の壮絶なバトルへとなだれこむので「おお、やっぱりこうきたか」と身を乗り出すんだけど、何かがおかしい。全然怖くない。むしろ微笑ましい。「どう見てもこれコメディに見えるんだけど…。でも誰もそんなこと言ってなかったなあ。みんなネタバレしないように上手いこと取り繕ってたのか? 人間、イきすぎると滑稽に映るってだけなのか、確信的に笑かしに来てるのか。いったいどっちのつもりで監督は撮ってるんだろう。でもみんなこのシーンが怖いって言ってたしなあ」などとぐるぐる考えてるうちにラストを迎え、それがまったくコメディ・オチではなかったために、エンドロール見ながらまた考え込んでしまった。師匠が塚本晋也、先輩が『さんかく』の吉田恵輔って聞けば「ああ」と納得するところもあり、コメディ撮らせたら「コメディって聞いたのになんか怖いんですけど」っていうタイプの映画を撮りそうな気もするので、次にどんな映画を撮るのか楽しみです。トークショーに来た坂本監督はふんわかおっとりした見た目に反し、蒸気機関車みたいな人でした(笑)。


というわけで以下、ネタバレ。未来の私が『FORMA』を再見した時に「同じ感想の人がいない」とひとり孤独に悩まないよう、ここに書き記しておきます。
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9年ぶりの再会ということは27歳ぐらいの年齢設定なのかな。中学・高校と同じ学校で、同じテニス部、家も近所だった綾子と由香里。綾子は会社勤めで父親と実家で二人暮らし(母親は家を出て離婚)。一方の由香里は工事現場の警備員で生計を立て、アパートに一人ぐらし。会社帰り、偶然警備中の由香里と再会した綾子は、人出が足りないから警備辞めてうちでバイトすればいいじゃんと由香里を誘う。この偶然再会のシーンの芝居が下手で「あらら、もうちょっとなんとか」と思うのだが、後に「偶然出会った」シーンではなく「偶然の出会いを装ったシーン」であることがわかり、監督に見事してやられることになる。


基本的な登場人物は、綾子、由香里、綾子の父、由香里の婚約者、そして中盤から突如姿を現す第三の男・長田の5人。物語はまず綾子の視点に立って進んでゆく。表向き仲よさげに振る舞ってる二人だが、綾子の心の中には高校時代に由香里から受けた心の傷が癒えることなく刻まれており、警備員のバイトで生計を立ててる由香里を蔑むだけじゃ飽きたらず、自分の職場に引き入れ上司と部下という明確な上下関係のもとで自分に敬語を使わせ雑用仕事に従事させることで、高校時代とは逆の立場で仕返しを楽しむという側面を見せてゆく。ただ、この時点の由香里は、端から見てると常に綾子に押され気味でおっとりしていて鈍くさく、「由香里って昔から人に流されるタイプだよね」と言われるそのままの印象。当初綾子が父親に語ってたような「高校時代テニス部のキャプテンで綾子を雑用係としてこきつかってた」ような人物像はいまの彼女の姿からはあまりかいま見えてこない。その後、独り身だと思ってた由香里に婚約者がいることを知った綾子は、内緒で婚約者に会い、高校時代の由香里の男関係に関する悪い噂をそれとなく吹聴し二人の間に亀裂を入れようと試みる。しかし、高校時代の話を由香里が婚約者にしたことにより、綾子の話してきた内容に食い違いがあることが発覚し、「いままで綾子の話を信じ綾子に肩入れして見てたけど、本当に由香里は綾子が言うような人物なのだろうか?」という疑念が見てるこちらにふつふつと湧いてくる。由香里への嫌がらせが上手くいかないことで追い詰められた綾子は精神的に徐々に不安定になり、同居する父親への八つ当たりも日増しに強くなってゆく。綾子の思い込みとコンプレックスが由香里への嫉妬心を生みだし、それが彼女の精神を蝕んで、そのとばっちりを由香里が受けてるだけではないのかという思いに傾いてきたあたりで、綾子が由香里に嫌がらせをしていた本当の理由が明かされる。それはにわかには信じがたい話なんだけど、綾子がこれまで父親にむけてきた態度、何故父親の着た衣類を共に洗濯するのを頑なに嫌がっていたのか、何故鍋パーティで父親と由香里を同席させようと画策したのか、その後に続く、第三の男・長田の視点で物語が再構築されることで露わになる由香里の魔性性により、綾子の憎しみの深さ、孤独、やるせなさ、嫌がらせが上手くいかず追い詰められるさま、全てが腑に落ちてくる。


でもね、、、思い込みだと思うのよ。確かに由香里は綾子に内緒で父親と食事に行った、メールのやりとりもしてた。父親の方は確かに多少の下心があったと思う。でも根っこにある構造は、「彼氏が結婚しようと言ってきたから結婚することにした」「綾子が警備員なんかやめてうちの会社で働きなよと言ってきたから警備員やめた」と一緒で、由香里はなんの警戒心もなく他人の好意にただ甘えただけ。それを相手がどう受け止めるかってことにはあまり気が向かない上に、周囲の人は基本彼女を放っておけないので、「あれしてこれして」と頼まなくても「どうしよう」って悩んでれば勝手に解釈して勝手に行動してくれる。そういうやっかいな人なのよ。犯行の後始末を手伝った見返りに婚約者と別れるという約束を反故にして、ただただ「ごめんなさい」と謝り続ける由香里に対し、結局何もできなかった長田。父親と寝るような由香里だったら、ここでも許しを請うため長田誘惑して寝るぐらいのことはさせると思うんだけど、そういう関係にはしなかった。ってことは父親ともやってないと思う。とにかくこの映画に出てくる男性陣はいまひとつ踏み切らない。綾子から「高校時代に男関係でいろいろあったのよ」て吹聴された婚約者も、結局由香里に問いただすことはできなかったし、長田も「何も出来ない。でもこのままで終わらせたくない」というそのやるせない思いを一本のテープに託して綾子の父親に届けたけれど、結局父親も会いに行ったまではいいけど「ごめんなさい」とただひたすらに謝る彼女を前にしたら何もできず受け入れちゃうんだろうなあ。綾子の気持ちを思うとやるせないけど、相手が由香里なら仕方がないとも思う。ほんとやっかいな女だね。


皆が「怖い」と言ってた24分長回し、綾子と由香里の激しいバトルが何故「微笑ましく」映ったかというと、「ていうかぁ、それって○○じゃん!」といった口調でやり合うさまが女子中高生の口げんか以外の何物でもなく(カメラが遠くて顔がよく見えないから余計にね)、「確かにこれは“腐れ縁”だよ(苦笑)」と感心するほど高校時代に戻って罵り合う二人の女子の横で、所在なげに佇む男ひとり。頼まれてもいないのにナイト気取りで綾子と由香里の対決に立ち合い、綾子から「あんた関係ないから帰ってくれないか」と何度言われても頑なに拒んだ長田くんだったけど、実際に口げんかが始まると、「確かにオレ、関係無かった」ということを瞬時に悟り、「なんでオレここにいるんだろう。忠告聞いて帰れば良かった」という心の声が聞こえてきそうなほどに所在なげな顔でおろおろしてる様がとても滑稽で可笑しかったんですよ。しかも最後の凶行を止めることもなく、「ほんとおめえなんのためにそこにいるんだ。マジでつかえない」の一言で断罪できるほどの無能っぷりで、絶対これ笑わせにきてると思ったんだけど、どうもマジっぽいんだよなあ。ま、師匠の塚本晋也も『鉄男TBM』でたこ八郎ヘアをわざと強調したり、胸のここに一発撃ち込んでほしいという場所にわざわざ×印つけたりしてるんで血筋なんだろうな。血筋なら仕方がない。


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ネタバレ終了。


上映後トークショーによれば、脚本ができあがるのに4年ぐらいかかったそうで、塚本組では主に照明部で働き、監督経験がほとんどなかったこともあり、いまのプロデューサーのもとで1年ぐらい監督修行を行い、2011年に2週間かけて撮影(ケータイがまだガラケーなのはそのため)。ところがその後体調を崩してしまい、熊本の実家で静養。このまま完成せずに終わるんじゃないかと弱気になることもあったけど、塚本監督からも励ましのメールをもらいなんとか復帰。2013年にようやく完成にこぎ着けたそうです。