『この世界の片隅に』【極上音響上映】試写会トーク、片渕須直監督(@立川シネマシティ)

11/12(土)より公開される片渕須直監督の新作『この世界の片隅に』の試写会が行われるということで、去る10/31(月)に、立川シネマシティの旧館シネマワンの2階、fスタジオに行ってきました。基本“試写会は行かない主義”なんですが(公開前に観ちゃうと初日に向けてテンションあげてかなきゃいけないのにもう終わっちゃた気分になってあんま良くないのよね)、今回は特別というか、設備的には可能なのに極音・極爆上映をやらないできていたfスタがついに極音デビューするということで応募。「応募者多数の場合は抽選」て書いてあるけど200人だしさすがにそこまで応募ないだろうと思ったらほんとに抽選だったようで当選後に焦りました。実は同日同時刻に都心でより大規模な試写会が行われており、劇場スタッフの前説ぐらいで終わるだろうと高を括っていたら、なんと! 「あんな檄文を見せられたらこないわけには行かなくなった」と片渕須直監督が立川くんだりまで駆けつけてくれて、上映前に急遽監督の舞台挨拶が行われることになりました。
※こちらが件の檄文→シネマシティ|ニュース “どうしても、観てほしい映画があります” 『この世界の片隅に』11/12(土)公開【極上音響上映】決定。


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劇場スタッフによると、立川での公開はかなり早い段階で決まっていたそうで、【極音上映】と銘打ってることもあり、音響に関するエピソードを監督にいくつか披露してもらいました。
本作は声入れする際に通常のマイク(口から飛んだツバや息がマイクに直接吹きかかるのを避けるための丸いマスクがついてるやつ)は使わず、言葉を発したときの周りの空気も一緒に録音したかったので、指向性の高いガンマイクを使い、台詞を話す口元を上からピンポイントで狙って録音したそうです。ところがその方法だと録音範囲が狭くなるため、マイクから位置がずれると音が上手く録れない。そのため声優初挑戦ののんちゃん(能年玲奈)から「少し動きをつけながら台詞を喋っても良いですか?」と聞かれたけど、「バミってる範囲から出ないで」と却下せざるをえず、「横の動きがダメなら、上下に動くのは?」と聞かれても「飛び跳ねるのもダメです」と却下せざるをえなかったと。一方の声優さんたちには「そこにいるなんでもない普通の人を演じるように心がけて欲しい」と伝えたそうです。また、空爆や飛行機の音などはできるだけホンモノの音を使い、富士の演習場まで音を録りに行ったり、実際の飛行機の音をアメリカから取り寄せて使ったりしてるとのことでした。(※ちなみに片渕監督は航空ジャーナリスト協会会員になるほどの航空オタクです。)


主人公のすずさんは絵を描くのが好きな女性だけど、監督も実際に絵を描かれるし、そういった点が何か制作する上での共通項になったようなことはあるのかというようなことをスタッフさんが尋ねてみたところ、「僕というより僕の妻もアニメーターで、毎日家事をこなしながら一緒に机を並べてアニメを制作しているのですが、何度かスタジオを訪ねてきてくれていた原作のこうの史代さんに「すずさんてどんな感じの人ですか?」と尋ねたところ、妻を指して「こんな感じの人です。背も同じぐらいだし」と言われたことがある」とのろけてました(笑)。結構、奥さんも口下手な方なようで、そういう人が絵という表現手段をもつことで救われてる部分があるんじゃないか、みたいなことを仰ってました(ちょいうろ覚え)。


ちなみに今回の【極音上映】は、劇場スタッフ曰く、ダビングステージ(編集した映像を見ながらセリフ・音楽・効果音の仕上げ作業を行うスタジオ)の音を目指して調整したそうです。私見ですが、極音・極爆で有名な新館シネマツー(a、b、cスタジオ)の音に比べると、反響音抑えめで高音に丸みがあるため、爆発音もかなりタイト。塚本晋也監督の『野火』をシネマワンとシネマツーで聞き比べた時にも思ったけど、虫や動物の声が四方八方から聞こえてくるジャングルや、地面を揺るがすような大規模な爆発音は、風圧や音の広がりが欲しいからシネマツーの方がいいいんだけど、機銃掃射とか手榴弾の破裂音なんかはタイトなシネマワンの方が聞いた瞬間により“痛み”が走るんですよね。尚、シネマワンで極爆をやらないのは「同じビルにある他のテナントに振動が伝わり多大なご迷惑をおかけするから」だそうです(苦笑)。


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映画自体の感想は、「泣ける泣けるとは聞いていたけど、まさか“笑い泣き”するとは思わなかった(笑)」というのがイチバンの驚きでした(しかも“釣られ笑い”だからね。劇中の登場人物の笑い声に釣られて涙流しながら笑い、その様子をスクリーンの中のチビッコに突っ込まれるというこの“お釈迦様の掌で転がされてる”感たるや)。のんちゃん演じる主役のすずさんがボーッとしたかなりのドジッ子というのがポイントで、ほんと見ていて危なっかしいっていうか、ついついあれこれ言ってやりたくなる子で、彼女がよろける場面では、ついつい咄嗟に受け止めようと観てるこちらの身体が思わず動いてしまい「いやいや、これ映画だからさ」と自分自身をとりなしたり(苦笑)。そんなすずさんをあののんちゃんが“のんちゃん”というか“天野アキちゃん”というかまあ、普段のイメージそのままにふわふわ演じてこれがハマならないわけないだろう!っていう。予告での「のんちゃんで大丈夫かしら」という不安は冒頭すぐに払拭されるし、観に来たお客さんが終始声をたててよく笑う映画なんで、「戦争映画だから重そう」って思ってる人も心配しないで観に来て欲しいです。多少はありますよ、重い場面は(ジョージ秋山かと思うようなワンカットや、お芝居がしたいのにさせてもらえず悶々としていたのんちゃんが長いこと抱えていたであろう闇の部分を引き出して重層的な音響でメンタル攻撃仕掛けてくるとことか)。でもそれが続かないよう、ちょいちょい笑いをはさんでくるように構成されてます。だってツライときにツライことにばかり目を向けていたら人間、生きていけないじゃん。お腹だって空くし。あとNHKの朝ドラ『ごちそうさん』で戦時下の日常生活に興味をもって「こういう戦争ドラマもっと観てみたい!」と思った人にこそ『この世界の片隅に』はオススメです(いけずで恐い義理のお姉さんも出てくるしw。演じてる尾身美詞さんの声色の使い分けがまた上手いのよ)。

私は片渕監督の前作『マイマイ新子』のエンディングでコトリンゴさんが歌う主題歌がかかるたびに感極まって号泣してた人間なんで(苦笑)、今回もコトリンゴさんの歌う主題歌を予告で聞いたときに「きっと映画観終わったらこれ聞くたびに泣けてしょうがないんだろうな」と思ってたけど、予想は見事に外れ、楽しかったシーンを思い浮かべながら鼻歌気分で頭の中をぐるぐる回る唄になってました。できれば今回も『マイマイ新子』の時みたいに「とっておきのおもしろシーンをYoutubeで丸ごと見せます!」とかすればいいのになあと思います。ちなみに予告で「大和がふたつおる」と言ってるちっちゃい女の子・晴美ちゃんを演じているのは『アナと雪の女王』で幼いアナを演じ「雪だるまつくーろ〜♪」と歌ってた稲葉菜月ちゃんです。


ていうか、、、個人的にね、すずさんの旦那さん役をアニメ「ちはやふる」のアラタ役や「ハイキュー!!」の旭先輩役でおなじみ声優の細谷佳正さんが演じてるんだけど、彼のファンが『この世界〜』観た後でちゃんと息してるか心配・・・。それぐらい、すんごいイチャイチャしてます(笑)。予告のキスシーンぐらいで悶絶してたら本編耐えられないと思う(「あ、これが世に言う“リア充爆発しろ”か!」と思わず膝を打ちましたよw)。


↓いろいろ感想上がってるけど、町山さんのこの感想がネタバレを避けつつもできるだけ余すところ無くこの映画を説明してると思うので、興味はあるけどまだちょっと躊躇してるという方は是非一度読んでみてください。コトリンゴさんが主題歌としてカバーした「悲しくてやりきれない」という歌がどういった経緯で作られた歌で、それがどれだけこの映画にマッチしているのかということにも言及しています。
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』で映画『この世界の片隅に』を徹底解説


また、公開劇場のひとつである渋谷ユーロスペースで9月に行われた片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』のリバイバル上映日舞台挨拶において、登壇した片渕監督が『この世界〜』制作を決めた理由や主題歌を決めた経緯、「あまちゃん」好きが高じてよく似たアニメーションを作ってしまったこと等について語っていたので、その時のトークレポも貼っておきます。
『マイマイ新子と千年の魔法』トーク、片渕須直監督×岩瀬智彦プロデューサー(@ユーロスペース)



立川での座席確認等は↓こちらからどうぞ。一週目はfスタ(225席)で一日5回回しです(追記:11/23から上映スタジオが若干かわるのでご注意を)。

『この世界の片隅に』@立川シネマシティ 座席予約
※会員は4日前より、一般は3日前より予約開始(例えば、土曜に行きたいなら4日前=火曜0時=月曜深夜24時、3日前=水曜0時=火曜深夜24時から受付開始です)。
立川シネマシティ公式サイト | 公式Twitter

尚、何度もいいますが、立川は他の劇場と違い“発券前のチケットに限り上映20分前でキャンセル可能です”。「後ろのほうの席とっちゃったけどやっぱ前の方がいいかも」と思い直した時に取り直しができますし、「たぶん行けると思うけど定時で仕事あがれるかわからない」「行きたいけど風邪引いたかも」という方も20分前までならキャンセルきくので気兼ねなく。「中央線・南武線多摩モノレールが止まった!間に合わない!」という方も焦らずキャンセルを。逆に「予約しようと思ったけどいい席埋まってたので諦めた」という方も、当日になったらすんごい良席がぽっかり空くことがあるので諦めないで。また、会員になると平日1000円、土日祝1300円で観れます。1年会費1000円の他に半年会費600円というのもあり、平日に観に来るなら半年会員の600円を払っても一般料金1800円よりお得です!(詳しくはこちら) また会員になると座席予約が1日早くできて、予約手数料もかからず、かつセットものの飲食物がちょっとだけ安くなったりするので、是非ご一考を(頼む際に「会員です」の一言をお忘れ無く)。ちなみに、「映画1本観るのに立川くんだりまでいくのは…」という方は、11/12(土)から『オペラ座の怪人(2004)』の極音上映(座席予約はこちら)、11/19(土)からは公開当時半年以上のロングランとなった『レ・ミゼラブル(2012)』の極音上映も始まりますので併せてどうぞ(どちらも2週間限定です)。

ただし、『この世界〜』は上映後の余韻がすごいので、初見の方は1時間以上は間をあけてはしごした方がいいと思います。


併せて、立川で『この世界〜』を観て、関連書籍が欲しくなった方は、すぐ近くのオリオン書房ノルテ店(ドラマ「重版出来!」で書店員の河さんが務めていた書店です)で関連書籍コーナーが作られておりますので立ち寄ってみてください。


オリオン書房ノルテ店はこの地図でいうところの、シネマツーの隣、パークアベニュービルの3階にあります(2階にHMVがあり、おそらくここでサントラ売り始めると思います。11/12付追記:売ってなかった...orz。HMVさん仕事して! その代わり、シネマシティのfスタ売店でサントラも売ってます。・・・が初日で売り切れちゃったので補充待ちしてください)。


追記(2016.11.11付):
『この世界の片隅に』関連インタビュー&イベントレポートをまとめてみた


追記(2016.11.19付):
HMVさんでめっちゃ入荷されました。



個人的には『この世界〜』がヒットして、片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』が一夜限りでもいいから立川で極音上映されることを願っています(『マイマイ新子』史上最高音質と言われたいまは亡き渋谷シアターTSUTAYA(旧・Q-AXシネマ)のTHX館にどこまで肉薄できるか挑戦してほしい)。
【関連】
今年のベスト映画は『マイマイ新子と千年の魔法』に決めました!(2009.12.4)
『マイマイ新子と千年の魔法』関連過去記事一覧